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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■
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祈り

 ミノスの大迷宮を彷徨い続け、数多のモンスターたち、番犬ケルベロスを倒し、やっとの思いで手に入れた破壊神の封神石。しかしそれは、どのような手段であれ、破壊神を解放しようとすると発動するトラップが仕掛けられていた。

 トラップの種類まではわからないけれど、悪寒が凄まじいので碌なモノじゃないだろう。普通にわたしは死ぬんじゃないだろうか。わたしが死ぬのは当然嫌だし、死んだ挙句に破壊神の解放すら出来なかったら目も当てられない。


「……落ち着け、わたし」


 破壊神の封神石を入手しておきながら封印を解く手段がない。

 わざわざ異界アザーワールドまで遥々やって来た目的が達成出来ると喜んだのも束の間、最後の最後の関門に焦燥感に駆られるが、焦ったところで好転するわけでもない。無理矢理にでも心を落ち着かせようと深呼吸する。

 手の震えはわずかに残るけれど、やや冷静になった頭で他に手段が存在しないか考えながら、祭壇裏の隠し通路を通ってワープ装置から外へと出る。残念ながら太陽の光は浴びられないけれど、星空がわたしを迎えてくれた。

 吸い込まれそうになる深さに一瞬頭がクラリとする。再度深呼吸を繰り返し、新鮮な空気を肺に入れることでなんとか気分は落ち着いた。ずっと迷宮の中だったから、息苦しい気持ちもあったのかもしれない。


「この封神石って……自然に存在していたわけじゃなく、ラグナが作成した物で合っている、よね」


 神様を封印する石。

 そんな大それた物を本当に作れるのか――というのは、こうして目の前にあるのだから考えるまでもないだろう。六柱まとめてならともかく、一柱ずつであれば黒幕ラグナの方が強いという話であるし。ラグナより強いであろう破壊神は、六柱を(ひと)質に取られたから封印に甘んじたとの予想らしいけど。ふむ、つまり破壊神の力を利用すれば封神石は壊せると見るべきか?


 そして……この封神石を作るのに使用された力は創造の力なのだろう。ラグナは創造神の神子から力を奪ったという話だし、モノ作りにはどうしたって創造の力が伴う。神を封じるなどという絶大な効果を誇るならなおさら神子としての力が要ることだろう。以前、封神石に分離セパレーションスキルが使用出来たことからも察せられる。やはり、創造の力より強い破壊の力を使えばいいか?


 ただそれにも、わたしの力がラグナの力を上回っているか、という点が問題になる。

 壊してばかりのラグナが創造神の神子として適正があるとは思えない。思えないのだけれども、年月というやつはバカにならない。微々たる成長であっても長年続ければそれはとても大きなモノになる。現に封神石が存在していることから、かなりの能力だと想定する方が自然だ。わたしはゲーム時代を合わせても神子歴十年にも見たないし、破壊神の神子という意味であればもっと短くなる。

 加えてラグナは終末の獣の力も喰らっている。わたしも得ているが、この力はそれこそ得たばかりだ。異界で奈落の底のアレと遭遇してから急速に馴染んできてはいるけれど、足りないだろう。更に付け加えると、ラグナは冥界の王の力すら奪っている。

 冥界の王。ラグナに力を奪われて落ち目になりながらも世界を虎視眈々と狙うその執念。神様たちへの恨みも大いにありそうだ。ゲーム風にいうなら神特攻とか乗っていそうなヤツ。この力があれば封神石が作れてもおかしくはないのかもしれない。……他の神様たちの封神石にこれと同じトラップがあったら解放出来ずに詰んでいたなぁ。設置条件があるのか、それだけ破壊神が嫌いなのか……両方かな。

 創造神の神子の力、終末の獣の力、冥界の王の力を持つラグナ。創造神の神子の力、終末の獣の力、破壊神の神子の力を持つわたし。字面だけで判断すれば互角に感じるけど……。


「わたしがあいつに勝てる部分があるとすれば……」


 手のひらを見つめる。

 おそらくラグナはそれぞれの力を別の物として使っている。無理矢理に従えさせることはあっても融和させようとする意志すらないだろうし、そんな意志があるならひたすら敵を排除するようなことをしていない。世界はこんな状態になっていない。

 わたしは、それぞれの力を一つの力として使うことがある。創造と破壊は相反する性質なので下手をすればマイナスになるけれど、上手く使えば何倍もの力へとなるのはこれまでのことから判明している。


「創造の力、破壊の力、終末の獣の力……」


 その内、終末の獣の力は、終末を引き起こす力ではなく終末を防ぐための力であり、特に性質があるわけじゃないけれど、どちらかといえば破壊寄りだろう。……いや、守るための力と考えれば、創造寄りとも言えるのか……?

 それに、破壊神とて世界を壊すために破壊神をやっているわけではないのだ。創造のために破壊して素材を得る必要がある。ヒトには正の想念だけでなく負の想念もある。光と影が表裏一体のように、どうしても創造とは切っても切れない関係。破壊神が憎まれ役を引き受けていることも考慮すると、むしろ等しく世界を守る(・・・・・)ためと考えてもいいかもしれない。

 創造神はいうに及ばす、破壊神も、終末の獣も、誰もが世界を守ることを基本行動にしている。……まぁジズーは場合によっては世界のために住人を犠牲にすることもあるようだけど、最終手段ということは不本意な行動なのだろう。破壊神も世界のためなんかじゃなく創造神のためだろうけど、思考はともかく結果がそう出ているからね。こほん。


 皆の想い(ちから)を託されたわたしが……独りよがりなラグナなんかに負けたくない。

 気合いで力量差をどうこうできるなんて、そんな都合の良い話はないだろう。

 けれども、『神様たちの力が合わさればラグナに負けるわけがないでしょう?』と考えを変えてみればどうだ。俄然出来る気がしてきた。

 創造は、願いは、力になるのだ。


 この世界に訪れてから、創造神と共にわたしを導いてくれた破壊神を。

 世界なんてどうでもよくて面倒くさがりでありながら、意外と有情な破壊神を。

 封印から解放したい。そんな祈りを籠めて。


 封神石を両手で包み込むように持ち、三つの力を籠めていくと、手の内に光が生まれる。

 三つの力を混ぜて、一つにする。相乗効果を、創造する(うみだす)

 ラグナよりも、強い力を。

 破壊ではなく……創造(まもるちから)で――

 封神石に仕掛けられたトラップが強烈な反発力を生み出すけれど、力尽くで押さえ付けるのではなく、いなすように逸らしていく。手のひらがズタズタになった感覚がしたけどそれだけだ。わたしを殺すには至らなかった。


「……さぁ、破壊神様。お目覚めの時間ですよ――」


 呟きと共に手の内の光が膨らんだ。光に合わせて手を広げる。

 段々と光量が増していき、太陽が生まれたかのように一瞬だけ一際強く輝き、消えていく。

 眩しさに閉じていた目を開くと、そこには。

 直前まで影も形もなかったはずの、女性の姿があった。


 女性にしては背が高めなのに、地に付くほどの長い黒髪。艶やかではあるけれど……寝癖なのかあちこちが跳ねていた。両側頭部には赤くて大きな角が生えている。

 黒の貫頭衣を身に着け、衣服から覗く肌は白いが、顔以外は大半が黒い鱗に覆われており、ヒトに似た形をしていながら異形で。

 金色の瞳。縦に裂けた瞳孔。口元から覗く牙。

 見慣れているようで、ちょっと違うその姿は。


「……こうして現実世界でお会いするのは初めてですね。破壊神様」


 間違いなく、何度か精神世界ゆめで会った……破壊神そのひとで。


「……そうであるな。ひよっ子」


 破壊神はわたしの呼びかけに牙を剥くようにニヤリと笑い、懐かしい呼び方でわたしに答えるのだった。

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