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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■
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最後の障害

 わたしが心臓むねの疼きに従って辿り着いた場所は、案の定というか、ミノスの大迷宮の最奥部だった。……まともに攻略しようとしてたらどれだけ時間がかかったことやら。ショートカットが出来なければ最悪間に合わなかったぞ……! 教えてくれてありがとう破壊神。

 最奥部はこれまでとは異なり、三十メートル四方くらいの大きな空間をしている。その一番奥の中央にこれ見よがしに設置された、石(っぽい材質)造りではあるけれども凝った装飾が施された台座。ゲーム時代はあの台座を動かすと下に階段があり、その先には出口へと飛ばしてくれるワープ装置が設置されている。

 そして、その台座を守るモンスター。


「……何かしらガーディアンとして配置されているだろうとは思ってたけど……ケルベロスか……」


 ケルベロス。三つの首を持つ巨大な黒犬。

 冥界の番犬であり、ゲーム内では冥界アンダーワールドのフィールドボスの一体だった。その冥界に居るはずのケルベロスがなぜ異界アザーワールドに居るのか。……考えるまでもなく、黒幕ラグナの手で破壊神の封印を守る番犬として連れてこられたのだろう。傍迷惑なヤツだ。

 そう、破壊神の封神石はここにある。

 ……正確には、このケルベロスの体内に。わたしの心臓むねの疼きがそう示している。

 つまり、ケルベロスを倒さないと得られない。運良く封神石を抉り出すことも出来るかもしれないけど……この最奥部の部屋はモンスターハウス同様にモンスターを倒さないと出られない仕組みになっている。現に背後の入口も塞がれたし、おそらく台座も動かせないだろう。


 グルルルルル――


 ケルベロスの体長は七メートルほどか。いつぞや冥界で遭遇した似たようなモンスター、双頭のオルトロスに比べれば一回り小さいけれど、小さいからといって弱いとは限らない。むしろアレより何倍も強い気配が漂っているし、纏う瘴気で体が大きく見える。言うまでもなく見かけ倒しなどではなく、力も増していることだろう。

 神経質そうに前足で床を掻きむしり、尻尾が不機嫌そうに垂れ下がっている。二つの頭がゆらゆらと揺れ、一つの頭がじっとわたしを睨みつけている。どの頭にも鉄すら砕きそうな鋭い牙が生えており、隙間から溢れ出す涎と呼気は瘴気だけでなく毒も帯びていて酷い臭いがする。

 ケルベロスはそれぞれの頭ごとに属性が分かれており、それは目の色で判別出来る。大きな特徴として口から吐き出すブレスの種類が異なり、一つは炎、一つは氷、一つは雷。どれも強力であり、まともに喰らいたくない。

 牙だけでなく爪も大きく鋭いし、毛皮も硬質で下手な剣では通らない天然の鎧だ。もちろんその下の肉体も強度があるくせにしなやかで速い。尻尾は鞭のようでこれも強烈な武器になる。まぁつまりは強敵ということだ。

 それでも、創造神の神子としてだけでなく、破壊神と終末の獣の力を得たわたしならまず勝てる……と思いたかったのに、ケルベロスの気配の強大さから察するにそう簡単にはいかなさそうだ。簡単にいきそうに見えてもミノタウロスの時の二の舞になってはいけないので、気を引き締める必要はある。

 瘴気による強化はよくあることとして(聖属性が効きやすくなるのでわたし相手には諸刃の剣だとは思うけど)、それ以外の強化もされていそうだ。他にモンスターが居ないので、ミノタウロスの時みたいに後から強化されなさそうなのが唯一の良い点か。


 アオオオオオオオオオオオオオォン!!!


「くっ!」


 三つの頭から、天に向けて同時に発せられる咆哮。

 その音量に、圧力に、思わず顔をしかめる。恐怖、呪い、痺れのバッドステータスを付与する効果が乗っているけれど、わたしの耐性を抜くほどではなくてよかった。

 この程度は小手調べ、わたしが抵抗することもあり得ると踏んでいたのだろう。ケルベロスはわたしを一瞥してから、左の頭が頬を膨らませ――直後、炎のブレスを放ってくる。

 当然ながら喰らいたくないわたしは横へ跳んで避ける。その回避行動を追いかけるように右の頭が氷のブレスを放つ。普通であれば着地せずに方向転換は出来ないのだが、ジェットブーツを装備したわたしであれば可能だ。今度は上に跳び――予想通り、真ん中の頭が雷のブレスを放ってくる。それも更にジェットブーツをふかして避け、ケルベロスの背後へと着地しながら聖剣を振り下ろす。が、その刃は尻尾により防がれる。


 グルルル……ッ!


 尻尾も瘴気を纏っていたので聖剣である程度ダメージを与えることは出来たのだけれども、思ったより深く入らなかった。瘴気に対する聖属性ブーストがあるはずなのだけど……それ以上にケルベロスの肉体が強靭ということだろうか。……それだけではない気がする。

 考察する間など与えてくれるはずもなく、ケルベロスは素早く転回して今度は突進してきた。速い!

 噛みつき攻撃三連を寸でのところで避け、お返しとばかりに真ん中の頭の顔面に向けて聖剣を振る。しかしそれは左の頭が刃に喰らい付くことで受け止められた。ジュウ、と聖剣の聖属性で焼かれてもお構いなしだ。

 剣を奪われてはまずい。咄嗟に引き抜こうとしたその時、右の頭が頭突きをしてきてわたしは聖剣の柄から手を離してしまった。ケルベロスがニヤリと嗤った気がした。


「――なーんて、わたしが予備を持っていないと思ったか!」


 もう一本聖剣をアイテムボックスから取り出し(わたしのアイテムボックスの中には十本以上在庫があるのだ。質にこだわっているので、これでも少ない方なのである)、目を剥くケルベロスの右の頭に振り下ろしてやった。


 ギャンッ!


 クリーンヒット……いや、これも浅い。額を斬られ血を滴らせているが右の頭は闘志を失っておらず、逆に憎しみという燃料がくべられて燃え盛る。

 追撃をしたくてもすぐに別の頭からフォローが入るので一旦引く。ヒットアンドアウェイを繰り返すべきか。もしくは……三つ同時に攻撃するべきか。なお、ゲーム時代は首ごとにLPライフポイントと弱点属性が設定されていたので、一つずつ削っていくのが主流だった。さて、どうするかな。


「まぁまずは単体で……いけ、セイクリッドアイスランス!」


 わたしは聖なる氷の槍をスクロールで作り出し、炎属性の左の頭に向けて射出する。しかし氷の槍は右の頭の氷のブレスで撃ち落とされる。


「……じゃあこれならどうだ!!」


 今度は聖なる氷の槍、炎の槍、岩の槍の三種類を作り出し、それぞれ左の頭、右の頭、真ん中の頭に向けて射出。別の頭で防いでくるなら、フォローをさせないよう全部の頭に撃ってやればいいんだという脳筋戦法。


 ゴアアアアアアッ!!!


「うえっ!?」


 しかし三本の槍は、後ろに一跳びした後、三つの頭から一斉に放たれる三属性の極太ブレスで散らされてしまった。そんな手も使うのか……!

 だったら……フォローも回避も間に合わない近距離からお見舞いしてやる!

 わたしは退いたケルベロスの懐へとジェットブーツをふかして瞬時に潜りこみ、聖なる氷の槍を作成。ケルベロスは即座に反応するが、わたしは槍を隠れ蓑にして聖剣に氷属性を付与エンチャント、左の頭の付け根目掛けて切り上げる。


 ギャインッ!?


 さっきよりは斬れたけど、これも想定より浅い。一体何が減衰の要因なんだ……って、あっつ! くそ、炎属性の首だからか返り血が熱い! またこのパターンか!

 最近は耐性が抜かれてばかりで自信なくすぞもう……いや、ちょっと待って。この感覚は――


 ――わずかだけれど滲んでいる……破壊神の、気配。


 何度も浴びせられ、そしてわたし自身にも宿っているので、間違いない。


「……まさかこいつ、破壊神の封印の番犬ってだけじゃなく、その力を利用してるってことなのか……!?」

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