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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第九章:金環の新たなる■■
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ラビリンス

「うへぁ……まさかのここかぁ……」


 【導きの杖】に従い進んだ先にて、わたしは無意識に顔をしかめて情けないうめき声をあげてしまった。

 何故なら、破壊神の封印があると示されている場所がダンジョンだったからだ。それもただのダンジョンではない……ミノスの大迷宮。その名が示す通り迷宮型のダンジョン。迷宮型は地上ならまだしも、異界の物となると更に難易度が変わってきてしまう。もちろん難しくなる方に。

 まず単純に広い。とても広い。見えている入口部分はただのこぢんまりとした豆腐建築しかくでそう広くも見えないが、この手のモノは地下に広がっているし、そもそも空間がねじ曲がっているので見た目より遥かに広い。

 その上でここにもランダムワープが存在する。地の底へと誘う塔のようにいつの間にか地の底に飛ばされて即死、という悪辣さはないのだけれど、厄介なことに変わりはない。

 更に、同じく壁が不壊属性なので壊して突き進むことも出来ないし、回帰属性というかなんというか、目印としてブロックを置いたら消えるし、壁に矢印を描いても消える。足跡だって残らない。完全に自分がどこを歩いているのかわからなくしてくるタイプで、ランダムワープゆえに攻略方法もない。

 ……異界では瘴気の有無に関わらず帰還石が使用出来ない。創造神の力がほとんど及ばない場所だからだろう。つまりこの迷宮から出られるのは、最奥まで進んだ時(親切にも外に出られる一方通行のワープ装置が設置してある。これは固定であり変な所に飛ばされることはない)、偶然入口まで戻った時、そして……死んだ時の三択となる。ゲームにおいても沼にハマったプレイヤーがやさぐれた目で自死をしていたものだ。もちろん今のわたしにそんなことは出来ない。

 食料も水も回復アイテムも十分にある。多少迷ったところで早々に死にはしない。それでもどれくらい自分が彷徨うのかと思うと胃が重たくもなる。時間がない状態では尚更だ。


「ほんっと、嫌がらせにもほどがあるなぁ……!」


 わたしはこんなことをやらかしてくれた黒幕ラグナへと悪態を吐く。ただでさえ異界アザーワールドに行くだけでも多大な労力を必要とするのに、その異界の中でも運が悪いとひたすらに時間が掛かるミノスの大迷宮に隠すなんてさぁ! ……いやまぁ、わたしも似たような立場であれば解放させないように立ち回るので、正しいと言えば正しいのかもしれないけども。わざわざこんなところにまで訪れて隠す手間を掛けたことに敵ながらあっぱれと褒めるべきか? 褒めたくないけど。

 むしろ封神石を常に所持されていないだけマシなのかもしれない。ラグナは神出鬼没でどこを根城にしているのかもわからないのだから。……ん? 今、何かが引っ掛かった気がしたけど……わからない。切っ掛けがあればまたひょろっと出てくるだろうから放置だ。


「……愚痴ったところで進展するわけでもないよね。行こう」


 わたしは深呼吸をしてから、意を決してぽっかりと口を開ける迷宮の門をくぐり建物の中へと入る。『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』とか書いてあるわけではない。けれど闇に飲み込まれるような錯覚を起こしながら、寒気をねじ伏せて進む。

 入ってすぐに下への大階段が現れる。ちまちま歩くのも面倒なのでぴょんと飛び越えると、早速、前・右・左への分かれ道が目に入った。

 ここでは導きの杖も効果を発揮しない。ついでに言えばアリアドネの糸のような物も存在しない。つまり考えるだけ時間の無駄なので勘で右を選択する。……アステリオスを連れてこれば道がわかったりするだろうか?なんて思ったけど、彼は元ベヒーモスであってミノタウロスではない。というか迷宮を踏破したのはテセウスの方だ。

 高さ、横幅ともに四メートルほど、直線の通路が続く極々シンプルな構造だが、ランダムワープという時点でもう迷うことは確定している。しかもワープしたという明確な感覚もないので、ワープしたと悟られないように逆に特徴を排しているのだろう。

 床を見ても、小石が落ちているとか苔が生えているとか全くない。壁に汚れもない。とにかく目印になりそうな物もなく無機質だ。ただ一種、異物のように天井に等間隔にほんのり光る石が埋め込まれている。おかげで視界には困らないものの、真っ暗だとしても明かりを持ち込めばいいだけの話なので『だからどうした』という感覚である。


「しっかし、一体どんな素材なんだろう?」


 壁・天井・床、全てが磨かれた石のように見え、触るとツルリとした質感だ。しかし不壊属性なのでちょっと壊してみて調べることも出来ず、実際どのような素材なのか不明なのである。気になって仕方がない。地上でも冥界アンダーワールドでも不壊属性はレアなのに、異界だと(主にダンジョンとして)しょっちゅう出てくるのは何なんだろう。

 ……この迷宮に籠もってしまえば、地の底のアレに喰われることもないだろうか、なんてことがふと脳裏を過る。数秒したところで不壊属性すら壊されてしまいそうだ、という思いで塗りつぶされた。もしかすると破壊神より強いのでは?と思わされるような、それほどの力を持ったヤツなのだ。考えたところで怖くなってくるだけなので、頭を振って思考から追い出す。


「――っと」


 目の前に唐突にモンスター、レヴナントが現れた。頭を振っていて出現を見逃したのではなく、おそらくわたしかこいつがワープで転移したのだろう。マジで音も前兆もなくてわからないな……ウルだったら野性の勘で察知出来たりするのだろうか。まぁワープで近道になる可能性もあるから、ワープさせられることが一概に悪いとも言えないのだけれども。むしろワープしないと入れない場所とかもありそうだ。検証不可能だけどね。

 レヴナントは人型でアンデッドモンスターのカテゴリーに入っているけど、(少なくともこの迷宮内においては)実際にヒトがアンデッド化したわけではなく、元よりそのような存在として生みだされる者だ。この迷宮内で放置したアイテムは消える。それは死体でも同じなので、生者から死者に成りようがないのだ。なお、生者プレイヤーが丸一日、一か所で動かずじっとしていたことがあったが、アイテムのように消されることはなかった。多少なりとも身じろぎしていたからか、生者は消えない判定があるのかまではわからない。

 この迷宮で死した誰かではない――わたしは憐憫を抱くこともなく、聖剣を一振りしてレヴナントを塵に還した。……破壊こうげき力だけでなく、聖属性の効果も強くなっているな。三種の力が馴染む感覚はしながらも、こうして創造の力が弱くならず強くなっていることが実感出来てちょっとホッとする。

 ……今、全力でモノ作りをすれば、どれほどの物が作れるようになっているのだろうか。日課で寝る前に少しだけ作成メイキングはしているものの、設備もないし十分ではない。帰ってからのお楽しみだ、と湧き上がる欲求をなんとか抑え込み、進行を再開する。



 この迷宮にはワープ以外にもトラップは存在する。古典的な落とし穴(落ちた先には毒槍が生えている)、壁から矢、天井から痺れガス、道いっぱいの大きさの岩が転がってくるなどなど。まぁぶっちゃけ今のわたしでなくとも、この異界まで来たプレイヤーであれば、手強い物でもなんでもない。状態異常のレベルは上がっていても、対策も余裕で出来る段階だからだ。よほどのうっかりさんでなければ問題ない。余計な時間を掛けさせられる、という点では痛いけどもね。

 その中でも一番イヤなトラップがモンスターハウスだろう。偶に通路じゃなく小部屋のような空間も存在しているのだが、その内のいくつかは入った途端にブザーが鳴り響き、大量のモンスターがポップするのだ。小部屋そのものはいくつもあるので全部避けるのは現実的ではないし、中には宝箱もあったりするのでついつい引き寄せられてしまう。……はい、宝箱に釣られて入ったらモンスターハウスでした。こんちくしょう。

???「破壊神の封神石なんて持ち歩きたくないし、傍にも置いておきたくないに決まっているだろう?」

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[気になる点] >壁・天井・床、全てが磨かれた石のように見え、触るとツルリとした質感だ。しかし不壊属性なのでちょっと壊してみて調べることも出来ず  コレはゲームの話では?  つまり今なら破壊の力でそ…
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