能力の開花
機能を破壊……?
えぇと、あいつの炎は魔力を消費してとかではなく、そういう器官が備わっているからこその能力で、それを壊すという意味かな? わたしには感知出来なかったけど、ウルがいうからにはそうなんだろう。
「我は考えておった。この破壊の力を、単に殴る蹴る以外にも使えないだろうかと」
ウルの場合はその殴る蹴るがめちゃくちゃすごい破壊力持ってるんだけどね? とは突っ込まずにおいた。特に終末の獣の力を取り入れ始めた辺りから、破壊の力をどう使いこなすかで悩んでいたのだから。
漫然と使うだけでなく、使いこなす。その両者は似ているようでも隔たりがある。
ウルは自覚がなかったとはいえ、破壊神の神子だ。それもわたし同様特別製の。創造神が体を用意して、破壊神が力を注いだ。一般の破壊神の神子とは異なる、いうなれば生粋の破壊神の神子。ついでにいえば、セレネみたいに保護目的ではない、おそらく戦闘目的の。
初め――わたしと出会った時から、いやそれこそ生まれた直後から、とても大きなポテンシャルを秘めていた。けれど自覚がなかったことも含め、力を使いこなせていなかった。本能的に、無意識に使っていた部分もあるだろうけれど、漏れ出る力を使っていただけの状態、ともいえる。
それだけでも十分に強いのだから、自覚的に、十全に力を使えるようになったら、ウルはどれほど強くなるのだろうか? しかも終末の獣の力をプラスされている。
破壊神の力を注がれ、破壊神と同じように終末の獣の力を手に入れて。
……彼女は、まるで――
「ゴァ……ッ!」
ウルが巨人の頭を手で鷲掴みにする。巨人がもがいても解けない、炎を噴き上げても離れない。自由なままの腕で馬乗りになっているウルを殴りつけるが、ビクともしない。
距離があるのに、ミシミシと頭蓋骨が悲鳴をあげているような音すら聞こえてきそうだ。……器官を壊すんじゃなく、普通に巨人を倒そうとしていない? むしろ倒せるんじゃない?
「そしてリオンのおかげで思いついたこと。――貴様で、試させてもらうとしよう」
呟いた直後、バキンッと大きな音が鳴った、気がした。
一瞬、巨人の頭が砕けたのかと思った。しかし無事なままで、依然としてウルが掴んだままである。
……ただし、それは『頭は』という意味だったようだ。
「ゴアアアアアッ!?」
巨人が叫ぶ。
それは痛みが原因――ではなく、戸惑いを含んだもので。
現に、巨人がいくら叫んでも……炎が噴出されない。むしろだんだんと萎んでいる。
ウルは、宣言通りに破壊に成功したらしい。何処が壊れたのかは見た目からは全くわからないけど、内部に何かしら浸透させたのかな。
わたしの感心は、ウルの次の言葉で驚愕へと変わる。
「ふむ。リオンの属性破壊を参考にやってみたが……案外出来るものなのだな。機能……いや、この場合は能力の破壊という方が正しいか?」
は? 器官じゃなく……能力の破壊?
例えば、体内に流れている血管、それらをズタズタにするのではなく、血管の存在ごと抹消した……みたいな?
その能力を磨き上げたら……もしかして。
「……ウルって、わたしの中の創造の力すらも破壊出来るようになったり……?」
「いや無理じゃろ。この巨人は瘴気で弱っておった。そして相性最悪の環境で更に弱っておった。弱体化していたから出来たこと、という感覚がある。それにそんなことをする理由がないのである」
即時の否定でホッとした自分が居る。そして……ホッとしてしまった自分を恥じる。
『そんなことをする理由がない』といった、ウルからわたしへの信頼を信じていなかったとも取れてしまうから。
わたしがおかしなことをしなければいいのだし、そもそもわたしが暴走したら止めてくれとも伝えてある。何を今更焦るのか。
……ただ死ぬよりも……創造の力を失うことの方がよっぽど怖いのだろうか? などと頭を過り、追い出すように首を横に振る。
「ゴ……」
「む。こやつ、まだやる気か」
己の拠り所である炎の力を失った巨人がしばし呆けていたけれど、復活しかけている。
厄介な炎が使えなくなり、防御が落ちて火傷の心配がなくなったのだとしても、巨人のパワーは健在だ。ウルはともかく、わたしが迂闊に攻撃を喰らってはいけないのは同じである。
「ゴアアアアアアアアアアアッ!!」
「「――っ!?」」
巨人の全身からまたも炎が噴き上がった。危険を察知したのか、ウルは飛び退いてわたしの元まで戻ってくる。
ウルの力は一時的に機能停止させていただけで、完全破壊には至らなかったってことか?
……いや、違う!
「アア……ア……ッ」
炎の色が、黒くなっていた。
……それ以前に、あれは炎ではない。
瘴気だ。
巨人の全身が、瘴気に包まれていた。
赤い肉体が、黒く染まっていった。
「……もしかしてあの巨人、炎による防御がなくなったから、瘴気に浸食されるようになっちゃったってことかな……?」
「……であろうなぁ……少しばかり悪いことをした気になってきたのである……」
しかもあの急激な浸食具合、ひょっとしてめちゃくちゃ瘴気に弱かったか、逆に相性が良すぎて集まっている? ノーガードになってその反動がいっぺんに? この結果を引き起こしたウルでなくとも『あちゃあ……』みたいな気分になるね、これは……。
巨人に集まった瘴気は、それこそ炎の代わりを果たすように蠢いていた。その代償とばかりに肌は黒く染まるだけでなく、腐蝕し始めている。ボタボタと肉片を零している。
「オ゛オ゛オ゛オ゛ォ――」
巨人の口からは、炎ではない怨嗟が溢れ。
巨人の目に、闇よりなお深い、酷く暗いモノが揺らめいた。
「……『せめてお前たちだけでも道連れにしてやる!』……みたいな?」
「……ハ。せめてもの情けに、とっとと引導を渡してやるのである」
炎ガードが瘴気ガードへと変更された。おそらく攻撃力はかなり増加して、逆に耐久力はかなり減少していることだろう。
これが吉と出るか凶と出るか。
「ウル、いつも通り瘴気には気を付けてね」
「……いや。さっきので何となくであるが、コツを掴んだような気がするのである」
『え?』と聞き返す前に。
「アアアアアアアアアッ!!」
理性が剥がれ落ちた呪いの咆哮と共に、巨人が突っ込んできた。
――速い!
炎によるダッシュが失われているのに、それを上回る速さだ!
ただ巨人とて無事ではない。ただでさえ体が腐蝕しているのだ。足から夥しい黒い血を流し、もう折れたのか骨を露出させながらの突進だ。それでもまるで痛みなど感じないように、痛みを感じる器官すら浸食されたかのように走る。
とはいえこれも何とか避けられるレベルだ。わたしは横に跳びながら、いつものように聖属性攻撃で対抗するか、もしくは巨人は走るだけでも体力が削れているようであるし、巨人には悪いけど体力が尽きるまで避け続ける手もあるか、などと考えていたのだが。
「ウル!?」
ウルは、巨人の突進の進路に残ったままだった。
あの攻撃に真っ向から殴り合うつもりなの? さっき『とっとと引導を渡してやる』と言っていたし、律儀に相対して速攻で片を付けるということか。
ウルなら大丈夫だろうけど……さすがに少しばかり肝が冷える。何にせよきちんと戦う気なら、むしろわたしが主力にならなければ、と聖水を取り出す。
しかしこの予想も外れる。真っ向から、という点では当たっているけど、その対応の仕方が、だ。
ドガガガッ!!
衝突。
巨人の腕も砕け、黒血が迸る。それでも構わず、ウルを潰そうと、筋肉に力を籠めてはち切れんばかりに(実際にいくつかの血管が切れていた)盛り上げる。瘴気でもウルを絡めとる。
瘴気に纏わりつかれたウルは、冷静なままで。
「――破壊してやるのである」




