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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄
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世界が焼かれる

「ゴロロロロロオッ!!」


 巨人が炎を噴き上げさせながら突進してくる。今度は『速くなっている』と事前に認識出来ていたため、慌てることはない。

 その代わりに、ヤツが近付けば近付くほど身がジリジリと焼かれていく。火山でもないのに暑いのは勘弁してほしいが、今回はあの時と違って火神の加護を得ている。こいつとあの火山で遭遇しなかったことを幸運と思おう。火神の加護がなければ、あの時のわたしの力だったら、あっという間に丸焦げだったことだろう。


「フンッ!」

「ゴッ!」


 速くなった巨人の攻撃にもウルは問題なく合わせる。巨人の重量が減っていることもあり、ウルは吹っ飛ぶことなく地に線状の足跡を刻みながら少し後退するだけで済んだ。


「――ぬ。思ったより硬いのであるな……っ」


 岩石の鎧がなくなった巨人であるが、拳がぶつかり合う感触はあまり変わらなかったようだ。ウルに殴られて砕けないどころか痛がる素振りも見せないのはかなりの耐久があると思っていいだろう。……ますますわたしの攻撃が通るか怪しくなってきたけど、わたしの攻撃手段は物理攻撃だけではない。

 わたしは槍に聖属性と氷属性を付与し、更にアイスランスのスクロールを複数使用して、より鋭く強固な氷の大槍を作成する。


「喰らえ……!」

「ゴロァ!」


 わたしの攻撃のタイミングで巨人が炎を噴く。氷の大半が溶けてしまったが、溶けきる前に槍の先端が巨人の肉体へと到達した。刺さる衝撃を感じると同時に、破壊神の力と終末の獣の力を流し込むように強く意識する。


「ゴッ……ァアアアッ!」


 一瞬ビクと身を跳ねさせた巨人であるが、傷口から炎の血を溢れさせ、槍を焼きながら伝って持ち主のわたしも焼こうと迫りくる。一撃で使い物にならなくなってしまった槍を破棄し後退するも、炎は蛇のように鞭のように伸びてなおわたしを狙う。ウルと殴り合いしながらこれって、オートカウンターの性能がいいな……!


「――ふっ!」


 咄嗟に腕に聖水を振り掛け、炎を殴り飛ばす。なんとか火傷を負うことなく炎を散らすことに成功した。

 ウルほどの攻撃力はなくとも、一点突破してチクチクとダメージを与えることは出来そうだ。武器が一回しか使用出来なくたって、在庫はいくらでもあるぞぅ! 巨人の体力はめちゃくちゃ高そうだけど、消耗もバカにならないはずだ。LPたいりょく切れは狙えなくてもMPまりょくが切れればヤツの生存にも影響を与えられることだろう。


「ゴロ……ッ!」

「ほらほら、余所見をするでないぞ!」


 巨人は鬱陶しそうにわたしを見る。けれどわたしに意識を割くことをウルが許しはしない。ウルの拳打をまともに喰らっては巨人とてただでは済まないと警戒していることの証なので、この点でも光明はある。体力を削るのはウル、魔力を削るのはわたしと分担するのが良いか。

 そしてこちらはどれだけ魔力を消費したところでポーションでいくらでも回復出来るのだからな……! っと、調子に乗るのは油断に繋がる。気を付けよう。

 しかし巨人とてバカではない。知能があるかどうかは不明でも、闘争に関することであれば本能に刻まれている。


「ゴアアアアッ」

「だから我を無視するなと――っ」

「ゴラァ!!」

「――チィッ!」


 ウルを炎の爆発で吹き飛ばし、その間にわたしの方へと突進してくる。ウルは巨人を止めようとしても業火に遮られ捕らえることが出来ない。ウルに物理、わたしに炎の方針を逆にして、ウルに炎、わたしに物理と流れを変えようとしているのだ。

 ……たしかにわたしはウルに比べれば弱い。肉体のスペック、戦闘の勘所、どちらも遠く及ばない。

 けれどそれは、わたしが弱いってことを意味しないぞ……!


「ゴロロロッ!」


 昔のわたしであれば、この巨体から殺意を向けられては恐怖で怯え、逃げ惑う……いや、逃げるどころか足がすくんで何も出来ずぺちゃんこにされたことだろう。

 けれど今は違う!


「ここ……っ!」


 巨人の拳をギリギリで避ける。纏う炎で頬が焼かれるけど尻込みせず、更に懐に潜り込んでから巨人の胸先で、巨人が反応出来ないだろうタイミングで大量のアイスランスを出現させる。突進した勢いを殺すことも出来ず、巨人は氷の槍衾に自分から突っ込む形となった。


 ドガンッッ!


 炎と氷がぶつかる。急速に気化した水分は軽い水蒸気爆発を引き起こした。

 巨人の巨体はのけぞり、巨人より遥かに軽いわたしは後ろに吹き飛ばされる。爆風は装備で軽減されたし、受け身を取ることに成功しポーションですぐに治る程度の傷で済んだ。

 ……あっぶな! さっきは大丈夫だったから油断してた……!


「はあああっ!」

「ゴ――ッ」


 爆風で巨人の炎が半分くらい散らされて勢いが弱まったところに、復帰したウルが高く跳躍してから頭部へと痛撃を放つ。巨人と戦い始めてからの初のクリーンヒット。巨人の体が大きく傾ぐ。

 ウルは宙に浮いた状態のまま巨人の延髄に蹴りを放ち、くるりと一回転して着地。更にうつ伏せに倒れた背中に拳を突き入れる。巨人の体が衝撃でえびぞりになった。

 そのままラッシュを仕掛けようとして――炎が復活したことにより残念そうに距離を取る。


「……そういえば、ウルの攻撃、瘴気でもあまり減衰していないっぽい?」

「そのようであるな。あやつは瘴気と相性がよくないのではないか?」


 瘴気と相性が良い存在なんて居るのだろうか、などと思いつつ。巨人は瘴気に適応したわけではなく単に瘴気に耐えているだけ、ってことなのかな? ……弱化してあの炎の熱量なのだとしたら、万全の状態だったらどれほどだったのだろう、と震えが走る。ゼピュロスの時も瘴気がデバフのようになっていたし、時折瘴気はわたしたちにとって有利な展開を運んでくれる。それ以外は圧倒的に邪魔な代物だけどね!

 わたしたちがコソっと会話をしている間に巨人は立ち上がる。隙だらけに見えるけど、炎の勢いがより強くなっているので手出しがし辛いのだ。足取りはしっかりしているし、それほどダメージを喰らっていない可能性もある。なんてタフなんだ。

 一応牽制として氷属性アイテムを何度か投げつけてみたけど、やっぱりダメだ。むしろ蒸発する範囲が大きくなっている。また温度が上がったのだろうか。あれでは消費も早いだろうに、短期決戦を狙うつもりなのか?


「――……ゼ……」

「……ん?」


 それが何の音だったのか、考える前に巨人の目が爛々とし、口から怨嗟のように炎が漏れる。

 ビキリ、ビキリと全身に血管が浮き上がっては弾け、血の代わりに炎が零れる。

 腰を落とし、手を地面に付け、力を溜めているのか更に筋肉が膨れ上がる。

 注意深く巨人の様子を見るわたしたちに、想定外の言葉・・が降ってきた。


「貴様ラ、ヨクモ俺ノ邪魔ヲシオッテ――!!」

「「!?」」


 きょ、巨人がしゃべった!? それも邪魔って何の話だ!?

 にわかに混乱するわたしたちを他所に、巨人は更に手足に力を籠める。

 すると地面が震え、巨人が触れている部分を中心にボコリと隆起する。なんだ、土魔法か……!?

 ――いや、あれは違う。


「……リオンよ、我の気のせいでなければ、何やら力のようなものが巨人の奴に向けて流れているように感じるのだが……」

「それ、勘違いじゃないと思うよ……」


 巨人は……地面から魔力いのちを吸い取っている――

 代わりとばかりに、ただでさえ焼け焦げた地が、灰というか、カラカラの抜け殻というか、最早何の使い道にも(・・・・・・・)ならない(・・・・)死んだ物質と成り果てている。


『遥かな過去、世界を焼き尽くそうと試みた――』


 今一度、脳裏に伝承フレーバーテキストが流れる。……あれは正しくもあり、間違ってもいた。

 冗談じゃない、焼かれるよりもっと酷いことになろうとしているぞ……!?

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