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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び

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垣間見える歪み

 翌朝。

 食事の席でザギに皮肉げな顔で「昨夜はよくお休みになられましたか?」と聞かれたので、満面の笑顔(自称)で「はい、とてもグッスリ眠れました」と答えておいた。

 そしたら何故かザギは面を食らったようにほんの少し目を丸くして。フリッカにそっと目配せをして、頷かれたことで事実なのだと確認をしたようだ。

 ……いや確認しないでよ、セクハラじゃないですかね……。


 そのフリッカは朝のお祈りをするために別行動となった。

 だからと言ってわたしはダラダラしているわけにも行かず、別のお供を連れて調査を続けることに。

 今日は昨日の男性エルフたちではなく、また別の男性エルフが一人と……女性エルフが一人だった。……意図はあるんですかね……。


「神子様、今日はどちらに?」

「ひとまず川を調べようと思います」


 川はかなり近くにあった。村から普通に歩いて五分くらいだ。そう、普通に歩けば。

 ……たった五分のはずがあれこれアピールされることで歩みは遅くなり軽く十分は超えていたので、調査前から疲れそうだよ……きみたちわたしに仕事させない気なの……?

 清々しいまでにスルーされてるウルがいっそ羨ましくなってくるよ……。


 気を取り直して水を採取して見るも……ただの【水】で、これも原因ではないようである。

 どうしたものかと頭を掻いていると、女性エルフから声が掛けられた。


「あの……神子様はフリッカのどこを気に入られたので?」


 えー、今それ聞く?という感情を表に出さずにいるのに苦労した。少しばかり失敗して口の端が引きつったかもしれない。

 しかし、どこを、か。

 これが男性エルフ相手なら『可愛いから』とかふざけた回答も出来るけど、女性相手に言ったら比較してるみたいで意地が悪いからねぇ。

 ……あぁ、確実なことが一つあったわ。


「フリッカはウルにも普通に対応してくれるからね」

「……っ」

「それ、は……」


 ウルの方を見て言うわたしに、エルフ二人は気色ばんだ。

 エルフはリザードと敵対しているのかもだけど、だからってわたしの友達があからさまに塩対応されて気分が良いわけがないんだけど……まさかわからないものなの?

 わたしに気に入られたいなら、腹の中でどう思っていようとわたしに気付かれないよう取り繕いなさいよって感じ。

 しかもおそらくフリッカは、わたしに気に入られようとするためでなく、素でウルの相手をしてくれてるからね。ポイント高い。

 ……んん? なるほど、わたしは結構フリッカのことが気に入っているようだ。嫁の話はまた別として!


 黙り込んでしまった二人を無理矢理引き戻すために、わたしはパンッと大きく手を打った。

 そして川の上流――東の方を指して尋ねる。


「この話はお終い。調査隊が行方不明になったのはあっちの方で合っているのかな?」

「……は、はい」


 じーっと目を凝らしてみるも見える範囲で特別不審な所はないが、丁度そのタイミングで木の枝が流されてくるのが見えた。

 何となく気になって手に取り……表示されたアイテム名に思わず顔をしかめる。


「……また瘴気対策が必要かな……」


 アイテム名は【汚染された古木の枝】だった。



 瘴気が発生しているのだとすれば今すぐ踏み込むわけにもいかない。

 準備するために一度村に戻ると、何やら子どもが騒ぐ声が聞こえてきた。

 何だろ?と近付いてみる。……何故かお供エルフ二人が「些事ですのでお気になさらずに」と思い留めさせようとしたけど、無視して進んだ。


「おねがいです、くすりをください!」

「ならぬ。薬は貴重なのだ。配給した以上の物は渡せぬ」


 子どもが薬を欲しがって、大人が突っぱねてるのか。

 うーん、確かフリッカもわたしのLPポーションを貴重だと言ってたな。異常事態だし、薬が不足してるんだろうなぁ。

 ここはわたしが一肌脱ぎますか。


「そこのきみ、何の薬が欲しいの?」

「……えっ?」

「……み、神子様?」


 大人エルフがわたしに気付いて直立不動になる。……のはまぁいいとして、何で顔を青ざめさせているのかな?

 何か怖がられることしたっけ? それとも後ろについてるウルのせい?

 とりあえずそっちは放っておこう。それよりも子どもエルフの方だ。

 視線の高さを合わせるようにしゃがみ込むと、子ども……男の子はキョトンと瞬いた。その際に涙が零れたので拭ってあげる。


「……おねえさん、くすりもってるんですか?」

「いくつか持ってるよ。どの種類が欲しいのかな?」

「わ、わからない、です。でも、おかあさんが、くるしそうで……っ」

「よし、じゃあお母さんの所に一緒に行こうか」


 ポンポンと頭を撫でて男の子を抱き上げた。ちょっとビックリされてしまったが、歩くよりは抱きかかえて行く方が早いだろうし。


「神子様、お待ちください……!」

「このようなことは長老に許可を……」


 慌ててお供エルフが止めて来たけど……その言葉にわたしはカチンと来てしまい、キッと睨みつける。


「許可だって? この村では人を助けるのに許可が要るんだ? へぇ?」

「……っ」


 片方はわたしの言葉に怯み、もう片方は……あろうことか杖を手に取ろうとしていた。

 が、ウルがすかさず割り込み、わたしよりも苛烈に威嚇することで動きを止めさせる。


「き、貴様……っ」

「ウル、放っておいていいよ。行こう」


 純粋な怒りか羞恥か、顔を真っ赤にさせたエルフをその場に放置してわたしたちは男の子の家へと向かうのだった。



「おかあさん……!」


 男の子はベッドに寝ている母親へと飛びつこうとして、一歩手前で踏みとどまる。負担を掛けまいとしたのだろう。えらいえらい。

 母親は寝ている、もしくは起き上がれない状態なのか、男の子に反応せず苦しそうに目を瞑ったままであった。

 わたしは「ちょっと失礼するよ」と毛布をめくり……想定外の事態に眉根を寄せる。

 御神木が衰弱していたのだ。この村で倒れている人たちも衰弱関連かと目星を付けていたのだけれども……。


「衰弱と……瘴気……?」


 そう、母親はバッドステータスを併発していたのだ。顔、首元、手……見えている広範囲で衰弱を示す青紫に加えて赤黒い斑点が浮かび上がっている。

 確かに先程拾った枝は汚染されていた。でも村の中は聖水のおかげか汚染アイテムは見当たらないし、仮にこの人が川で洗濯やら水浴びやらしていたのだとしても、あんな枝程度では発症しない、はず。

 それとも、先に衰弱していたから掛かりやすかった……?


「……おねえさん。おかあさん、なおりますか……?」


 男の子の懇願にわたしはハッと意識を戻す。考えるのは後、まずはこの人を治さないと。

 衰弱対策には強壮ポーション、瘴気対策は……多分ライザさんの時のように聖水で何とかなると思う。駄目だった場合は虎の子の聖蜜水を出すしかない。

 聖花はキマイラ戦の後からせっせと増産しているが、まだ数が少ないので大放出出来ないのが歯痒い。……そう言えばあの祭壇でも結構咲いていたな。後で少しもらえないかフリッカに聞いてみよう。


 わたしは『これで治りますように』と願いながら、そっと二種類のポーションを振り掛けた。


「……わあぁ……っ」


 男の子の声に呼応するかのように、完全に、とは行かないまでも明らかに症状が薄くなっていった。同時に呼吸も穏やかになっていく。

 良かった。これなら強いのを用意しなくても複数回の使用で何とかなるだろう。


「神子様はここか!!」


 ホッとしたのも束の間、騒々しい声と共に扉が大きな音を立てて開け放たれる。……ここに病人が居るとわかっててやってるのかしら……?

 ゾロゾロと長老を先頭に複数人のエルフが遠慮の欠片もなく上がり込んで来る。最後尾にフリッカが居るのもちらりと見えた。

 そして長老はわたしを見つけて何か言おうとしたかと思えば、寝台のエルフの病気が治っていることに気付いて驚愕をする。

 そこには……喜びなど、含まれていなかった。


「神子様……困ります」

「困るって、何がですか?」


 治ったら何か不都合なことでもあったのか?

 ここに来る前に止められたことと言い、わたしはこの村のエルフたちへの不信感がむくむくと沸き上がってきていた。怒鳴り散らさないようにするだけで精一杯である。


「ふ、不公平だから、です。その、薬は足りないのですから、誰から使うか、順番を決めて――」

「なら、全員助ける」

「……は?」


 ドンッ


 わたしは最後までその勝手な言い草を聞かず、アイテムボックスに置いてあるそれらを大量に取り出した。

 LP、MP、解毒、緩和、解呪、強壮、鎮静……わたしが今作成出来る全てのポーション+聖水を各百個ずつ。……まだランクが低いから効かない場合も出てくるかもだけど、それはその時に考える。

 ただでさえ唐突に大量のアイテムを取り出されて唖然としている所に、わたしは更に畳みかけた。


「出したのはほんの一部。わたしのアイテムボックスの中にはこの五倍は入ってるし、もっと作ることだって出来る」

「……!??」


 理解出来ていないのか、出来ているからこそなのか、パクパクと酸素を求める魚のように喘いでいる。

 ……はっきり言わなきゃ、動かないのか。


「これだけあれば足りるでしょう? 順番なんて考えなくていいでしょう?

 ……さぁ、わたしを病人の所へ連れて行け」


「い、今すぐ準備します!!」


 わたしの静かな怒気に、エルフたちは蜘蛛の子を散らすように走って行った。



 ポカンとする男の子にささくれた心を癒されつつ、取り出したアイテムを収納しようとする。

 その間、一人だけ残っていたエルフ……フリッカが、目に入った。


 彼女は、ただでさえ白い顔をさらに白くさせて。


 魂が抜けたように、ポーションを虚ろな目で見つめていた。

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