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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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巨人との攻防

「ゴルァッ!!」

「ふんっ!」


 ウルと巨人の拳が何度もぶつかり合う。体重差のおかげでウルの方が速さは圧倒していても、体重差のせいで巨人の方が威力は大きく、打ち合わされるたびにウルが体ごと弾かれて巨人の隙を付けないでいる。


「ゴロ……ッ!」


 そしていくらウルが岩を砕いても、すぐさま地面から補給されてしまう。おかげで地面は凸凹だ。うっかり躓かないようにしないと。


「ゴロロロッ!」


 毎度毎度、ウルが吹き飛ばされながらも無傷で舞い戻ってくることに業を煮やしたのか、巨人は上からの打ち下ろしに変更する。

 ウルは横に跳んで避けることも出来ただろうけど、真っ向から受け止めることを選択した。


 ゴバッ!


 巨人の拳の威力に耐えられず、激しく砕けた。……地面が。ウルは五体満足だ。口元には獰猛に笑みすら浮かべている。

 あれがバトルマンガとかでもたまに見る、地面に衝撃を逃がしているというやつだろうか。無手での訓練もしているけれど、わたしにはさっぱりわからない分野だ。


「ゴ……?」


 ウルがニヤリと笑みを深め、巨人の拳を受け止めていた手のひらにグッと力を籠めた。バキリと音を立てて指が岩に埋まりながらも力強く掴む。巨人の戸惑いを他所に、わたしはその隙に聖水を振り掛けた槍を背後から全力で突き刺す。岩の隙間を狙ったつもりだったけれど、巨人がわずかに身をよじったことで狙いが逸れ、岩をいくらか砕くだけに留まり、カウンターとして炎を浴びせかけられる。ウル並のパワーか、リーゼ並の技量があればいけたかもだけど、わたしの力量じゃ一瞬で貫通までは無理か。残念。

 ウルはウルでそのまま巨人の拳が握り潰せないか試していたようだったけど、振り払われた。小さく舌打ちをしながらまた巨人と激しく打ち合う。


 わたしの行動は無意味に終わった……わけでもない。巨人の纏う岩の鎧はただの岩、ということが当たった時の感触でわかった。

 纏うことで特に強化されるわけでもなく、普通の岩としての強度しか持たない。巨人から剥がれ落ちた岩を調べてもみたけどただの岩だったのだ。内心で『ちぇっ、つまんないの』と呟きつつ。隕石みたいに素材そのものに強度がある物でなければ、わたしですら砕ける程度の代物。わたしの場合はさすがに素手じゃ無理だけどね。

 ということで、わたしもひとまず岩砕きから始めることにした。これを何とかしないとわたしの攻撃ではまともに通らない。


「石材にはこれだよね……!」


 わたしは武器をしまい、ピッケルを取り出した。それで戦闘はおかしくないかって? わたしは神子ですからね!

 あれだけ岩の鎧にこだわるのであれば、素の体はそこまで頑丈ではないのだろう。……いや、ウルの攻撃の衝撃からは逃れられていないのだし、それでも痛がっている様子はないのだからやっぱり丈夫なのかもしれない。でも防御力を下げることは大事だ。

 ピッケルに聖水を振り掛け、ウルと打ち合い、巨人も動けないタイミングで後ろから肩の岩石に向けて振り下ろす! 相も変わらず炎が噴出されるけどわたしのピッケルが刺さる方が早い!


 ガゴンッッ!


「ゴァッ!?」


 掠っただけのピッケルでもガッツリと岩が砕け、広範囲で剥がれ落ちる。フハハ、ただの岩ごときがわたしの鍛えた採掘スキルに敵うものか! 後は爆発物でも砕けるだろうけど、火が燃え盛っているところにやるのは怖すぎる。


「リ、リオン、大丈夫か?」

「だいじょーぶ!」


 炎に吹っ飛ばされたけど耐火の効果で軽傷だし、きちんと受け身も取った。光神アイティ、火神との訓練でもかなり飛ばされてるからバッチリよ……いやうん、胸を張るには悲しいけど、これも積み重ねだ。

 それにここまで耐火が効いてるならもっとガンガンに攻めてもいいだろう。心配事が一つ消えたのも大きい。


「ウル! わたしがどんどん砕いていくからそいつの引き付けをよろしく! 隙あらばやっちゃってもいいよ!」

「心得た!」


 対する巨人はわたしのことを気にしつつも、未だウルの方により意識を裂いている。岩の鎧はそこまで重要ではないということか。……やはり素の体も頑丈と見るべきか。

 ウルのおかげで、二度目、三度目も上手く当たり岩を砕くことが出来た。補充もさせていないので、露出部分は増えている。しかし巨人もただではやられない。四度目でまた異なる行動を取ってくる。


 ガキンッ!


「いったぁ……!」


 背後からピッケルを振り回すわたしに対し、今回巨人は背を向けたままで、しかしほんの少しだけ体の位置をズラした。……わたしのピッケルが隕石部分に当たるように、だ。隕石はただピッケルを突き刺すだけでは砕くことが出来ず、特殊な工程を踏む必要がある。わたしの攻撃(?)は跳ね返され、またその硬さに手がジィンと痺れた。

 そして巨人は、わたしに更なる攻撃を計る。


「ゴアアアアッ!」

「――っ!?」


 体中から炎を吹き上げさせ、その勢いで体に纏わりついていた岩を射出してきた。今まで何度も補充していたのに、逆にパージもする、攻防どちらも可能の鎧ということか。炎は何とか対処出来ていたけど、いきなりの質量攻撃に一瞬頭を真っ白にしながらも、半ば無意識にジェットブーツにMPまりょくを流して回避に成功する。

 しかし巨人の攻撃はそれだけに留まらない。わたしに向けて突進してくる。


「ゴロロロロロラッ!」

「はや――」


 岩の鎧を取り外したことで、身軽になった巨人の速度が上がっていた。この程度であれば普段なら追えない速度ではないのだが、遅い方に目が慣らされていたのでギャップに脳が追いつけないでいる。これも半ば無意識に石壁を設置して進行速度を遅らせようとしたが、巨人は体当たりで難なく石を砕いてわたしへと手を伸ばし――


「我を忘れないでもらえるかのぅ!」

「ゴバッ!?」


 追跡していたウルが巨人の足をふん掴み、引きずり倒す。

 わたしはギリギリで手から逃れられたことに冷や汗をかきながら、すかさず倒れた巨人の後頭部に向けてピッケルを(まだ頭部には岩が残っていたので)振り下ろす!


 バキンッ!


「ゴガ――ッ!?」


 岩は砕け、巨人の頭に刃がぶち当たる。刺さりはせずとも衝撃が届いたのか、たまらず巨人も苦鳴の声を上げた。

 この大きな隙を逃してはいけない、とわたしもウルも攻撃を加えたかったのだが……巨人からかつてないほどの高温の炎が噴出された。炎の色が赤黒い色から青黒い色へと変化をしているので、見るからに変化していることがわかる。強化された炎は一部耐火を貫通してダメージを与えてきたのでやむなく退避をする。


「あちちちち……ウルは大丈夫?」

「うむ、問題ないのである」


 さすが鉄壁ウルさん。わたしも鱗が増えたり終末の獣の力を取り入れたりでただの人間ヒューマンよりずっと耐久は高いはずなんだけど、ウルレベルにはほど遠い。


「うーん……よかれと思って岩を剥がしていたけど、素の方が強いパターンだったりしたかな……?」

「さて。とはいえ、最初からあぁではなかったからには、何かしら制限があるのだろうて」


 たしかに。

 この地は凍土だ。炎の巨人からすれば相性はかなり悪いはず。もしあの炎も魔力とか消費して発生させているのなら、そう長くは続かないはずだ。あの岩も、防御力を高めるというよりは、寒さから身を守る防寒具だったと考えられそうだ。


「しかし……隕石とやらは頑丈だの?」

「……まぁね」


 ウルの呟きの通り、巨人の背に埋まっている隕石に変化はない。たかが高温の炎程度でどうにかなるなら加工に苦労はしないのだ。……さっきの岩爆弾でも隕石はきっちり残している辺り、計算しているのか偶然なのか。むしろやつにも想定外で埋まっていたりするのだろうか。

 何にせよ倒さなければいけないことには変わりない。わたしたちは気を引き締め直し、巨人へと相対した。

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― 新着の感想 ―
[一言] >この大きな隙を逃してはいけない、とわたしのウルも フリッカ「私も“わたしのフリッカ”とリオン様に言って頂きたいです」(ヤバい目つき)  フリッカは独占欲は強い方ではないと言われましたので…
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