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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄
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もう一つの決着

 ラスア村に戻った時は最初に訪れた時と同様に夕方前だった。二日ほどダンジョンの中に居たことになる。久々の日光が目に眩しい。

 まず、わたしたちが早々に(帰り道をまるっとショートカットしたのでその分も短縮されている)ダンジョン攻略してきたことに驚かれた。疑われたというほどでもないけど、浄化済ダンジョン核を見せたことで疑う余地のないことだった。村人さんたちから歓声が上がり、達成感に頬が緩む。

 そして、ジルヴァとベオルグさんが大量のモンスター素材を抱えていたことにも驚かれた。ジルヴァが半ば無理矢理付いてきたことに関しては、彼が大人しくなったことも加味してあえて言うまい。

 魔石は様々な動力源になり、クモの糸は布になり、目は薬になり、刃状になった足は刃物に転用出来る。どの素材もあって困ることはない。村人さんたちは少し複雑そうにしながらも、お礼を言って受け取っていた。渋々ではなくきちんとお礼を口に出来るのなら今後もやっていける、そう思いたいものだ。


 その日の夜は宣言通り、わたしが腕によりをかけて夕食を提供した。村人さんたちに見られて羨ましがられても困るので、ロッジの中でこぢんまりとしたお疲れ様会だ。料理を全部手作りするほどの時間はなかったので作成メイキングスキルでサッと作ったら、わたしの行動に慣れないジルヴァとベオルグさんにはまたも目を丸くされたりもした。

 ウルたちはもちろん、ジルヴァもうめぇうめぇと叫びながらガッついている。ベオルグさんはお酒が好きらしいのでそっと提供してみた。チビチビと静かに飲む様が、やかましいお酒狂いたちに囲まれていた身としては新鮮に映る。やはりこれが大人のあるべき姿ですよ。

 大量に用意した料理はあっという間になくなり(大半がウルの胃袋に収まったことは言うまでもないだろう)、二次会に突入――することはなく、全員疲労が溜まっていたので解散することに。ガーディアン戦なんてずっと戦っていたからね。わたしもさすがに休みたいよ。

 ジルヴァとベオルグさんは当然彼らの家に帰るのだが、レグルスが男一人でこちら側に居ることにジルヴァが目を剥いていた。……きみと違ってレグルスはその辺りも信用出来るんですよ、と残酷?な真実は告げずに、ラスア村に戻ってきた時のように一瞬で拠点うちに帰れることを伝えたら納得した。「俺も行ってみたい!」などと言われずに内心でホッとした。



 拠点に帰り、眠気を我慢しながらお風呂に入り、泥のように眠る。翌朝、拠点の皆に戻っていたことを驚かれながら朝食。もう数日留守にします、とラスア村にとんぼ返り。


「神子様、ダンジョン核の浄化をしていただいたこと、改めてお礼を申し上げます」


 祭壇に居た長老さん(と他の村人さんたち)に昨日に続き今日も頭を下げられた。ダンジョンに行く前と比べると、顔の陰が薄くなっている気がする。懸念の一つが解消されて肩の荷が軽くなったからだろう。わたしとしても良質な魔石と大量素材ゲットで嬉しいし、Win-Winである。


「どういたしまして。あ、モンスターの残党は居るかもしれないので、そこは気を付けてくださいね」

「はい、心得ております」


 内部がクモの巣ならぬアリの巣みたいになっていたから、全部は周りきれていないのよね。支道にモンスターが残っている可能性は十分に高い。

 お礼がてらとしばしの滞在を求められたけど、北の地の調査が残っているので、とやんわり断る。正直、拠点で休む方がゆっくり出来るのだ。……このラスア村の創造神の像と混信させないために、数日移動してからでないと帰れないのが難点だけど。いい加減この点も改良したいけどなかなか上手くいっていないのが現状だ。

 惜しまれつつも別れを述べ、ラスア村を出発しようとしたところで。


「待ってくれ!」


 息せききって、ジルヴァが駆けてきた。後ろにベオルグさんも居る。

 もしかして「旅についていく!」とでも言われるのかと身構えたけど、装備を身に着けていない。単に彼らも別れを言いに来ただけだろうか。

 が、続けられた言葉で、わたしとウルは別の意味で警戒レベルを引き上げる。


「お嬢さん……フリッカと話をさせてくれ」


 しかし、初めて会った時とは全然違う真面目な顔で言われ、問答無用で突っぱねるという気勢は削がれた。さてどうしたものか、とウルと顔を見合わせる。

 悩むわたしたちの肩をフリッカが叩き、前に出た。彼女の方が先に決心したらしい。表情は冷静で、混乱している様子もないので大丈夫、かな。

 いつでもジルヴァをぶん殴れるよう心構えをしながら、ひとまずフリッカに任せることを示すよう一歩下がった。

 フリッカと向き合ったジルヴァは……予想通りの言葉を放つ。


「俺はあんたに惚れた! 顔だけじゃなく、ダンジョン探索中のキリっとした行動も含めて全部だ!」

「……」

「だから、俺の番になってくれ!」


 初回とは大きく異なる、真摯な目。初めからこうだったらあぁも嫌われなかっただろうに、と思えるくらいの。

 レグルスとリーゼが後ろでギョッとした気配がうっすら伝わってくる。別に暴れたりしないので慌てなくていいですよ? ……まぁ暴れた後なんだけど。こらレグルス、「リオンの前で二度も言うとは勇気あるな……」とか呟いてるんじゃないよ。こんな勇気あってもどうなのよ?

 フリッカも初回とは大きく異なり、ゆっくり数呼吸してから、はっきりした声で答える。


「私の全てはリオン様のものです。貴方に差し上げるものは何一つありません」


 ……照れるな。

 などというわたしの感想はさておき。一度地の底まで落ちた印象からすれば考えられないくらいに温情のある、けれども明確な拒絶。

 真正面からぶつけられたジルヴァは……ごねることなく、困ったように笑うのだった。


「だよな、知ってた。すまん、俺の自己満足に付き合わせて。後、初対面の時のアレも、本当にすまなかった」

「……その謝罪、受け取りましょう」


 フリッカの中で『絶対に関わりたくない相手』から多少なりとも格上げされたようだ。声の険が取れている。

 どうやらこの件も一件落着したようだ。フリッカのトラウマが更に抉られる事態にならなくて一安心だよ。


「リオンも、すまなかった。あんたはすげぇヤツだった」

「ん? ありがとう?」


 おっと、こっちにもきたか。まぁフリッカが問題ないのなら、わたしにも問題はありませんよ。

 いやしかし、本当に印象が変わったな。後ろで見守っていたベオルグさんをチラと見ると、彼からも頭を下げられた。……ジルヴァが成長するきっかけになってくれてありがとう、ってところかな?

 ジルヴァはともかく、ベオルグさんにはお世話になった。わたしからも何かお礼を……と考えて、ふと思いつく。


「そうだ、ベオルグさん」

「……なんだ?」

「このお酒、もう少し差し上げますね。たくさんありますので」


 昨夜のお疲れ様会で何種類か飲んでいたお酒のうち、一番好んでいたように見えたお酒を差し出す。ベオルグさんは不思議そうに目を瞬いた。


「よければ……他の村人さんたちと飲んでみてください」

「……そうか。ありがたく受け取ろう」


 ベオルグさんと村人さんたちのわだかまりが少しでもとけるように、と言外の願いを察してくれたようだ。丁重な仕草で酒瓶を受け取る。

 お酒はトラブルの元にもなるけど、胸の内を話し合う取っ掛かりにもなりうるからね。ベオルグさんならよい感じに取り扱ってくれるでしょう。

 ……まともな酒飲みだったのでつい、という感想はやや無粋なので心の中にしまっておく。



「レグルスもまたな! 次会う時はお前より強くなってやるからな!」

「はは、オレだってもっともっと強くなってやるさ! 元気でな、ジルヴァ!」


 すっかり仲良くなったレグルスとジルヴァがとても男の子らしい別れの挨拶をする。ジルヴァを避ける理由はなくなったのだし、落ち着いたらまたここに来てみてもいいかもね。

 そうしてわたしたちはジルヴァとベオルグさん、村人さんたちに手を振られながら、今度こそラスア村から旅立つのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ジルヴァはともかく、ベオルグさんにはお世話になった。わたしからも何かお礼を……と考えて、ふと思いつく  一応でも手伝ってくれたお礼を、ベオルグにだけ渡すその姿よ。 3人((美味い食い…
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