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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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ただ今調査中

 しゃがみ込み、土を一つまみ手に取り指でこすってみるが、ダメージやら状態異常やら受ける様子もない。

 神のシャベルを取り出し、ブロック(アイテム)化してみる。アイテム名もただの【土】で『汚染された』などくっ付いていたりしない。

 後ろから「何だ今のは……」と呟きが聞こえてきたけど、とりあえず放置。

 同じく草をアイテム化してみたけれど、これもアイテム名はただの【草】。でも耐久値――ゼロになると完全に枯れて素材としての価値がほぼ無くなる――が結構減っているね?


「ねぇフリッカ、御神木の枝、ちょっとだけもらっていい?」

「え? ……えぇ、少しでしたら構いません」


 わたしが頭上をくるくる指しながら聞いてみると戸惑いながらも了承してくれたので、足元に石ブロックを積んで高い位置にある枝まで辿り着く。

 木登り? 出来ませんよ。いや、やってみれば出来るかもしれないけれど、挑戦する理由もないしね。

 神のアックスで先端部分を切り落とし、石ブロックを収納しながら地面へと戻る。


●トーレの木の枝(御神木)

 アルネスの地一帯に生育している木の枝。杖との親和性が高く、樹齢が高ければ高い程魔法にプラス補正が掛かる。

 御神木として祀られているため、わずかに聖属性を帯びている。

 【!衰弱状態につき、耐久値が時間経過で減少】


「衰弱状態……?」


 葉っぱの方も調べてみたけど、普通の色をしているのはただの【葉】、枯れた色をしているのは耐久値の減った【葉】、変な色をしているのは……衰弱状態の【葉】だった。

 うーん、枯れた葉と変な色の葉の違いはなんだろう? 衰弱のエフェクト? 素材が衰弱状態になっているのは初めて見たからこういうもの、なのかな。そもそも食べ物以外のアイテムの耐久値……使用期限が減るなんてほとんど無かったし。

 ちなみに衰弱とは、プレイヤーが掛かると体がだるくなりLPライフポイントMPメンタルポイントSPストマックポイントの減少速度が倍になるものだ。プレイヤーの他はNPCか、(プレイヤーの手によって状態異常にさせられた)モンスターだけが掛かるものだった。

 とりあえず色違いは衰弱と仮定したとして……じゃあ一体何が原因で衰弱してるの?って話だよね。


「……そう言えば聖水で少し抑えられるんだっけ?」


 試しに変色した草の所に振り撒いてみる。

 カッと光を放つがそれは通常の聖水と同じような聖域化のエフェクトで、それ以外に劇的な変化は見られない。

 ……いや、すでに聖水が撒かれてる状態のはずだから検証しようがないか。


「神子様……今のは一体……?」


 おずおずと男性エルフが尋ねてくる。んん?


「聖水で聖域化しただけですよ?」

「……我々が撒く時よりも強い光を放ったように見えましたが……」


 あぁ、神子わたしが使うとブーストが掛かるようになってたんだっけ。

 スキルレベルによって作成される聖水の質も変わってくるとは思うけれども、それを言うと『フリッカの信仰心が足りないせいでは?』とか出そうなのでそこはお口にチャック。

 そもそも神子はアイテム作成のスペシャリストなので、比べちゃアカンものだし。


「なるほど……」

「さすが神子様ですね!」


 ……こうやって能力を見せることでこの村で動きやすくなるとは思うけれども、視線を微妙に熱くするのは背筋に寒気が走るのでやめてほしい……。肉食獣に狙われた草食動物ってこんな気分……ではないよね、さすがに。命の危険があるわけでもなし。……ないよね?

 話を逸らすためにも次に行こう。


「この村で水はどうやって補充してます?」

「……あ、はい、村内に複数個所設置されている井戸か、村のすぐ東にある小川から採取しています」

「んー、川はまた今度にしてひとまず井戸を見ます」

「かしこまりました、案内しましょう」


 そうして井戸へと辿り着き、水を汲む。

 ……「俺がやる」「いやここは俺が」と男性エルフたちの間で一悶着あったので二人とも黙らせてウルにやってもらうことに。ぶすくれているけど自業自得ですよ……。

 その直後、ウルがすさまじい早さで汲み上げたことに目を丸くしていたのが何だか笑えてきたので、こらえるためにもウルの頭を撫でておいた。お礼も兼ねてね。


 しかしせっかく汲んでもらったものの、ただの【水】表記であった。

 少なくとも飲み水が汚染されてないのは喜ばしいことだけれども、土でも水でもないとなると……空気……はさすがに違う、と思う。

 他に何が考えられるかな、と唸っていたら。


「お姉ちゃん!」


 と子どもの声が聞こえた。

 声のした方へ振り向いてみると、若草色の髪と目をした十歳くらいの女の子が息せき切ってこちらへ向かって走って来ているのが見える。

 それと同時に「フィン」とフリッカの呟きが聞こえた。

 あー、似てる、かも?


「フリッカの妹さん?」

「はい。……正確には異父妹ですけれども」


 フリッカは「失礼します」と一言断りを入れてから妹さんの方へと向かっていった。

 駆け寄ってきた妹さんがフリッカの胸へと飛び込む。仲は良さそうだね。


「お姉ちゃん、村に帰って来てるならどうしてお家に帰ってこないの!?」

「ごめんなさい、まだお勤めの途中なの」

「えっ……まだあるの?」

「えぇ、神子様のお供をしているのですよ」


 フリッカがちらりとわたしに視線を向けてきたと思ったら、妹さんの方は『ギロッ!!』って感じに睨みつけて来たので、思わずビクっとしてしまった。こ、コワイ……!

 あまりに圧力が強いもので冷や汗が流れそうであったのだが、やがて困惑と共に弱まっていったのでそこまでは行かなかった。……ふぅ。

 ウルから『何をしておるのだ……』とでも言いたげな気配が漂ってくるけど、子どもが相手でも怖いものは怖いんですよ……?

 わたしの様子はさておき、姉妹の会話は続けられる。しかしフリッカは妹さんが相手でもですます口調なのね。


「あのヒトが神子様……? 女の人だよ……?」

「そうですね」

「じゃあお姉ちゃん、お嫁さんにならなくて済むの?」


 ……つまりこれはアレかな? 大好きなお姉ちゃんが神子様わたしに取られそうだと思ったのかな……?

 今の所取る予定は全くないので安心してほしい、などと言えるはずもなく、言う間もなく。


「……それは私が決めることではありません」

「……そんなぁ……」


 フリッカ自身が嫁入りの可能性がまだ残っていることを示唆してしまったので、妹さんは目に見えて肩を落としていた。

 宥めながらもいくつか会話をし「また後で」と妹さんを帰らせることで終了した。


「失礼いたしました」

「いや、いいよ。……家に帰っても大丈夫だよ?」

「いえ、先程あの子にも言いましたが、貴女のお供をするのもお勤めの内ですので」


 と、そっけないフリをしつつも、男性エルフ二人にわからないように目配せをしたので、わたしに気を遣ってくれたのだと言うことがわかる。

 うん……この場にフリッカが居なくなるとやっぱり困るかもしれない。


「そっか、ありがとう。きみが居てくれて助かるよ」

「……どういたしまして」


 感謝の気持ちを込めてへらっと笑ったら微妙に視線を逸らされた。

 ……そんなに締まりのない顔でしたかね……。



 その後、案内を兼ねて村をぐるっと回ったけれども特にそれらしい原因は見つけられないまま夕刻を迎え、今日の調査は終了となるのだった。

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