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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄

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いつかの焼き直し

 お世話になったヒトが死ぬかもしれない、などと聞かされては平静ではいられないだろう。

 長老さんをチラと見る。困った顔をしているので、マナが原因かもしれないとはおそらく本人に告げていない。どこから聞いていたかはわからないけれど、原因を知ってしまえば……なおさら辛くなる。


『ニフ、げんきになったんじゃ、ないの?』

『……うん、確実に治したから、元気になるよ』

『じゃあなんで、しんじゃうの……?』


 このセリフが出てくるなら聞いていないってことか。さて、どう説明したものか……。

 そもそも本当にマナが原因かどうかは現時点では不明だ。しかし、マナが原因だと思っている、思い込んでいるヒトはそれなりに居るのだろう。そうでなければ長老さんも『預かってくれ』なんて、いくら神子だからって初対面であるわたしに願うまい。とはいえ、ここでわたしが調査をして『実は他に原因がありました』という事態になったとして、皆素直に受け入れてくれるのだろうか。

 などと考えている間に――鋭い声が、響く。


『それは、貴女のせいですよ。マナ』

『……っ!?』


 倉庫を探しに行っていたお付きの男性が帰ってくるなり、マナに言い放つ。それはとても冷たく……まるで断罪の刃のようであった。

 いや、彼からすれば正に断罪なのかもしれない。丁寧な言葉遣いであっても、にじむ悪意は隠せない。


『ニフだけじゃない。サーゴも、アジルも、ダイも、オッカも、神子様がいらっしゃらなければ死ぬところでした。貴女のせいで』

『……マナの、せい……?』


 察するにその名前は、先ほど病室に居たニフさんを除く四人のことだろう。衰弱レベル二で死ぬなんて早々にないけれど、当然悪化することもあるわけで。死ぬところだった、というのは否定はしきれない。

 けれどそれは仮定の話だ。結果は出ていないのに、それでもマナのせいだと、明確な根拠なしに幼く抵抗の出来ない少女に押し付けるのは正しいのか?


『……やめるのじゃグマロ。まだそうと決まったわけではないのじゃ』

『トリト様、いつまでも甘いことを仰っては状況が悪化するばかりです!』


 長老さんとお付きの男性、グマロさんが言い合いを始めてしまった。いや、一方的にグマロさんがまくし立てているだけか。どうやら彼は以前から鬱憤が溜まっていたらしい。長老が苦い顔をしようと、お構いなしに続けた。

 溢れる悪意にどんどんマナの顔色が悪くなり、膝から崩れ落ちそうになる――寸前でフリッカが支える。しかしマナの目は虚ろで、支えてくれたフリッカに気付いた様子もなく、自分の体勢にすら気付いていないかもしれない。

 ……ここまできていい加減、わたしも我慢しきれなくなってきたので口を挟む。


『待ってくださいグマロさん。皆さんが衰弱した理由がマナであるとのことですが、その理由をお聞かせくださいませんか』

『マナが来るまで誰も症状はなかった。マナが来てから症状が出始めた。マナは何も持ち込んではいないので、マナ本人に問題があるということでしょう』

『それだとマナの来訪と同時に発生しただけで、マナのせいという証拠はないのでは? 他に原因があるかもしれないと探しましたか?』

『マナの一番近くに居たニフの症状が一番重いというのに?』


 確かに理由を聞かされればマナに原因があると思ってしまってもおかしくない。けれど、他に調べもせずに決めつけるのは早計にもほどがある。

 つい最近のセレネと神子ルーエの諍いが脳裏によみがえる。ただあの時の神子ルーエは洗脳状態にあった。実態は破壊神の神子(セレネ)の存在が気に食わないやつが冤罪を吹っ掛けていたのだけれども……この件はどうだろう。

 グマロさんは……操られているようには見えない。おかしな気配もない。長老さんも同じだ。黒幕ラグナの手が伸びているわけではないし、マナだって破壊神に関係していない。素でこれなのだとしたら……余計に腹が立ってきた気がする。


『それに、マナは我々と同じ食事を食べません』

『……それが何か?』

『だというのに、マナは生きている。つまりマナは、我々の命か何かを食べて生きているのでは?』

『……マナはわたしの作った料理を食べています』

『ほぅ……? だとしても、マナが我々の命を食べていないとは限りませんね』


 ……ダメだ。思い込みが強固で説得出来る気がしない。自説が絶対で、聞き入れる気は一切ないのがわかる。

 沸々と沸き上がる怒りを必死に呑み込む。そうでないと爆発してしまいそうだ。しかし抑えきれず、嫌味がポロっと出てしまう。


『仮に本当にマナが原因だったとして、小さな子どもを追い出して得られる平和を享受すると?』

『……神子様は何か勘違いをしていませんか? マナは余所者です。余所者一人より、大勢の住人を優先するのは当たり前のことでしょう?』


 確かに、言っていることは正しい。

 たった一人のために全てを犠牲にするのではなく、一人を切り捨ててでも全体を守るのは間違っているとはいえない。

 間違っていなくても……納得が出来ない。

 拳を握りしめるわたしにグマロさんは呆れたような溜息を吐き、僅かにわたしへの侮蔑を籠める。


『子どもだからと確率の高い原因を排除しないまま、他にあるかどうかもわからない原因を一生懸命に探して、その間に誰かが死んだ時に『努力したから仕方がないよね』とでも仰るつもりですか? 誰かが死んでからでは遅いのですよ、神子様』


 あぁくそ、ここまで洗脳神子ルーエと被るんじゃない。わたしは終末の獣の力の影響で、アレに関することには苛立ちが先だってしまうのだ。

 死んでからでは遅い。それも正しいけど、イライラ抜きにしても……わたしの感覚では到底受け入れられない。

 しかしこの感覚は、わたしが神子だからだろうか。

 何とか出来る力を持っているからだろうか。

 ここではレベル二すら治療出来ないような状態だ。力がなければそうするしかない、ともいえる。


 けれど……努力を諦めるのは、間違っている。

 マナがあのダンジョンに居た理由は、シーランタン(くすり)を探すためだ。

 つまり現在ここには薬やそのための素材がない。

 そして他に誰かが探しているなら、マナが一人で探すこともなかっただろう。

 作り方を知らなかった? どうせ作れないと思っていた? 今が絶好の機会だと神子わたしに作り方を請わず、ただマナを切り捨てることを強く望んで。

 創造せず(つくらず)破壊する(すてる)だけなのは……いずれ破綻すると、わからないのだろうか。


 今回は余所者だったから切り捨てたけど、原因が住人の一員だったとしたら、同じくあっさり切り捨てるのか?

 ……その原因が自分だった時、グマロさんは大人しく一人で去るのか?

 そのようなことが思い浮かんだけど、口にするのは辞めておいた。言ってもどうしようもないからだ。

 長老さんはマナに対し申し訳なさそうにしていたけど、グマロさんを止めない時点で、積極的反対派だけでなく消極的反対派もそれなりに居るということなのだろう。

 わたしは、諦めた。


『……わかりました。マナはわたしが引き取ります』

『……全く甘いことですね。どうぞご自由に』


 めちゃくちゃ不満そうだ。

 ここに居るのも嫌。わたしが引き取るのも嫌。もしかしてこの男はマナに死んでほしいのだろうか?

 殴りたくなる衝動を抑え、もはや隠していないその侮蔑に気付かないフリをして話を逸らす。


『ところで、ディメンションストーンはありましたか?』

『……えぇ、ありましたよ。どうぞ。神子様には貴重な薬をいただきましたからね』


 ディメンションストーンを投げるように渡される。どうやらわたしはこの男から失格の烙印を押されたらしい。

 ……まぁ、二度と会うことはないからいいけどね。


『ありがとうございます。これでもう用はありません。なので、わたしは二度とここを訪れることもなく、二度と貴方たちを助けることもないでしょう』


 わたしは、彼らにこれ以上、何かを期待するのを諦めた。

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