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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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森の現状

 長老エルフ、ザギを先頭に、わたしたちはエルフに囲まれて村の中を歩く。

 ……警戒が外側でなく内側に向けられていて、わたしたちが守られているというより、わたしたちから守ろうとしているようで、どうにも心がざわめく。

 初対面だから仕方ないよね、落ち着こう。と心の中で唱えていると、隣に居たフリッカから小さく耳打ちされた。


「……フリで構いませんので、人目のある間は私を気に入ってるアピールした方が良いかと思います」

「……何で?」

「……男性エルフから言い寄られたいなら別ですけれども」


 うえっ!?

 わたしはギョっとして周囲に視線を走らせた。

 神子なんて珍しいと興味津々で見ているエルフ、逆隣のウルを見ているのか眉をひそめている人。

 ……そして、野望に燃える目をした男の人。目が合った途端爽やかスマイルを見せてきたので、つい目を逸らしてしまった。


「神子様は女性ですので……」

「……つまり、フリッカだと不適格だから、じぶんにもチャンスが――ってこと……?」


 その通りです、とでも言いたげにフリッカは頷いた。

 うえぇ……マジですか……そんなモテ期(?)は要らなかったよ……。


 まるで珍獣のような気分を味わいながら、わたしは大人しく進むのであった。



 長老宅はさすがに一番大きかった。わたしのような客人を持て成す所でもあるのだろう。

 一階部分は軽く4LDKを越えそうな大きさであるし、二階三階があり、更には枝の上にテラスのような物まであった。

 装飾も煌びやかだ。石の彫刻や壺等の芸術品が飾られ、森で採れるのか少量ながらも宝石があちらこちらに散りばめられていた。……落ち着いたら近辺を採掘してみよう。

 ふかふかな絨毯の上を内心おっかなびっくりで歩き、応接間らしき部屋へと案内される。ソファも革張りだなこれ……落ち着かない。


 少しだけ席を外します、とザギが去り、部屋にはわたしとウルとフリッカ、そしてメイドらしき女性エルフが残される。

 わたしとウルがソファに座り、フリッカとメイドさんは後ろで立って待機していた。……お、落ち着かない。

 待っている間にお茶を勧められ、間をもたせるように一口飲む。


「……?」


 不味くはない。どちらかと言えば美味しい。

 でも何だろう……変な感じがする。

 ……などと神子わたしが正直に言ってしまえば淹れたメイドさんに罰が下されそうなので、黙って飲み込んだ。

 同じくお茶を出されたウルにちらりと目配せしてみるが、「?」としか返ってこなかったので、わたしだけが感じた違和か、ただの気のせいか……。


「お待たせ致しました」


 それ以上考える前にザギが他の何人か連れて戻ってきた。

 皆お年寄りだ。そして皆顔が良いあたりさすがエルフだな。


「まずは紹介を。一応儂が最年長として代表格を務めておりますが、この五人でアルネスを治めております。何かありましたら我らにご相談下さい」


 意思決定機関、と言った所かな?

 ……彼らの内の誰かが、もしくは全員がフリッカをけしかけてきたのかと思うと、何やらモニョるものがある。

 順繰りに軽く挨拶をしてくるけれど……一人だけいかにも温和なお爺ちゃんっぽい感じで、後は……ザギ程でなくても似たような印象を受けて、まぁ、うん。

 この様子だと、温和お爺ちゃんにも気を許さない方がいいかもな……。


 なお、ウルはほぼ居ないような扱いをされている。彼らから『座らせているだけでも上等だ』という気配が漂ってくるので、印象が更に悪くなったよ。

 突っ込みたい気持ちがないでもなかったけれど、ウルにそっと服をつままれてしまったのでこれも黙って飲み込んだ。

 種族問題は一朝一夕で何とかなるものでもないし、下手にこじらせるよりはさっさとこの話し合いを終わらせた方がいいか……。

 フリッカも俯きがちに置物のようにわたしの後ろに立っている。その表情からは何も読み取ることは出来なかった。


「……さて、神子様をお待ちしていた理由は他でもありません。この森の異変について調査を、そして出来れば解決をしていただきたいのです」

「えぇ、創造神様にもお願いされていることですし、構いませんよ」

「おぉ……創造神様に……」

「やはり我らを見捨ててなどいなかったのですな……」


 ……創造神も大変そうだしね……ここまで手が回らなかったんだろうね……。

 助けが来たことに感極まったように拝まれてしまうと、さすがにあんまり好ましいと思ってない相手とは言え、複雑な気分だ……。


 彼らが把握している事態はこうだ。

 一番最初に事態に気付いたのは昨年のこと。気付いていなかっただけで、ひょっとしたらもっと以前から起こっていたかもしれない、という前置きから始まる。

 厳しい冬を終え、春になって緑が芽吹き始めたものの、色が例年に比べてくすんでいる。

 たまにはこんな年もあるだろう、時間が経てばいつも通りになるだろう、と軽く思っていたのだが……今年になって悪化、おかしな色になったり枯れたりする始末。

 同時に、謎の体調不良に見舞われ倒れる者が出てきて、まだ少数であるが死人も出たとのこと。

 ……この話がされた時にフリッカがほんの少し身じろぎしたと後にウルから聞いたが、わたしは前を向いていたため気付けなかった。


 村やその近辺を調査したが土や水に変わりがあるようには見えず、遠くまで調査をしようにも行方不明者が出て進まず。

 辛うじて聖水を振り掛けることで草木は生気を取り戻すことがわかったが、焼け石に水状態で解決には至らず。

 おそらく、異変の中心地は北東――わたしがあの広間で見たのと同じ方向かな――だろうと目星を付けることが出来たという程度。

 村の象徴である御神木すら枯れてきて、村の空気が暗くなってきた所にわたしがやって来た、と。


 うむ……期待が重いですなぁ……わたしに解決出来るレベルならいいんだけども……。



 一通り話を聞いた後に軽食をいただいてから、今日はもう遠出出来そうにないしまずは村の中を見て回ることにした。

 お供はフリッカはわたしが指名したのでそのままで、他には若いエルフ男性が二人だ。さすがにゾロゾロついて来られては動きにくいので数を減らしてもらったけど……長老の血縁なので好きに使って下さい、と紹介時のセリフに何やら含みがあったのがね……。監視も兼ねてるんだろうけどもさ。

 雑談自体は嫌いではないのだけれども……やたら(うさんくささ含む)キラキラした顔で話しかけてくるものだから正直居心地が悪い。それでも質問すれば彼らの知る範囲できちんと回答をしてくれるのだから、邪険にするわけにもいかない。


 深く気にしないようにしつつ、まずは御神木を見せてもらうことにした。

 間近で見てみれば、それがどれだけ巨大なのかがよくわかる。幹の太さは大人が十人くらいでやっと囲めるかと言った所だろうか。高さは見上げても見上げても先が見えず首が痛くなってしまった。

 大きく張り出した根はわたしの腰くらいまでの太さがある。びっしりと苔が生えており、乗り越えようとしたらフリッカでなくても滑って転んでしまいそうだ。

 そして所々に見られる枯れた樹皮。樹齢が高ければ一部が腐ってるなんてよくありそうだけれども……。


「確かに元よりあちらこちらに見られましたが、去年から明らかに増えてきました」


 とのことで、影響を受けていることは間違いないようだ。

 うーん……ひとまず、わたしの手で土から調べてみるか。

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