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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第八章:凍土の彷徨える炎獄
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北を目指す

 寒さ対策を整えてから、わたしたちは北の捜索を始めることにした。まずは到達するところからなので装備の出番はもう少し後だけど。

 ショートカットとしてカミルさんのアイロ村の創造神像を使用させてもらった。今回はゼファーも居るので、カミルさんに事前許可をもらいつつ夜中にひっそりと訪れては出立する。いくらヒトを襲わないモンスターと聞かされても、普段のゼファーを知らないヒトからすれば怖いものは怖いだろう。騒ぎを起こしたいわけではないのだ。


 出かけ間際にセレネに羨ましそうに見られてしまったので、後でその対応も考えておきたい。新規開拓は危なくてムリでも、既知の、そんなに遠くない場所であれば外に連れ出してもいいだろう。古城の頃と全然生活環境は違うけれど、ずっと拠点うちに引きこもらせるのもメンタル的によくないと思うからね。フィンみたいにゼファーに慣れれば彼女らだけで周辺巡りをさせるのもよいかもしれない。グロッソ村のちびっ子たちは良い子ばかりだから彼らと遊ばせるのもよいかもしれない。それともウルみたいにどうすればいいのかわからず戸惑うかな?


 まずアイロ村から北へと飛び、海が見えたら海岸線に沿って東へ移動をする。この辺りの陸地は『ノ』の字みたいな形をしているので、しばらくしたら北東に進路が変わることになるだろう。

 海風が冷たい。空で風を遮る物がないから尚更だ。今からこんなんでもっと先は大丈夫なのだろうか、と憂鬱になる気持ちを押し込めるようにローブの襟元を手繰り寄せる。


「ふむ、やはり空からというのは便利だのう」

「そうですね。少々冷えますが、陸路の不便さに比べれば全然我慢出来ますね」


 背後のウルとフリッカがしみじみと呟いた。なお並び順はわたし、フリッカ、ウルの順だ。転落防止にベルトはしていても安全の観点からフリッカは真ん中である必要があり、ウルは尻尾の都合で一番後ろだ。

 彼女らは冥界アンダーワールドに落ちたわたしを迎えるために、転送門トランスポーターの素材を集めるべく、この砂漠を陸路で踏破したのだとか。カミルさんたちの協力を得ていたとはいえ、今みたいに足元の悪い砂漠を進まなくて済む点も楽だけど、いざとなればいつでも帰れる――のはフリッカに持たせている帰還石でも出来るけど、戻って同じ地点から再開出来るというのは非常ににありがたかったとか。他のヒトからすれば『甘え』と言われそうな話だ。でもわたしは有るモノは使う派である。


「便利ではあるが……どこにでも邪魔者は沸くものだな」


 嫌そうな溜息を漏らしながらウルが立ち上がる気配がした。これがフリッカであれば大慌てだけれども、ウルであればまず大丈夫だろう。

 そこでやっとわたしも近付いてくる飛行モンスターの存在に気付き、ゼファーもキューと鳴き声で知らせてくる。

 飛んでくるのはシーイーグルの群れだ。七……いや、八体だろうか。多いな。ディメンションストーンのために鉱石探知機を使用しているから反応してしまったか。


「まぁここは我に任せるがよい。槍だけくれ」


 しかしウルが気負いも何もなくあっさりそう言うので、ならば何も問題はないなと安心して任せるようにした。きっかり八本、投擲用の使い捨ての槍を取り出してサッと渡せるようにする。


 ――キュオオオオオッ!


 風に乗ってシーイーグルたちの鳴き声が響き渡る。ドラゴン(ゼファー)相手に怯える様子もなく、殺る気マンマンのようだ。ゼファーに威厳がないからか、群れの連携はドラゴンをも打倒する自信があるのか……後者な気がする。

 が、今回は相手が悪すぎた。

 ドラゴン以上の強者が、背に乗っていたのだから。


「フンッ!」


 パァンッ!!


 ドラゴンの背の上、更には空を飛行中であるというのに、地上と同じように槍を投擲するウル。

 風を切りながら突き進むそれは、一体のシーイーグルを射貫いた。


「……ギュウ……」

「む、すまぬ」


 どうやら踏み込みの足がちょっと痛かったらしい。ゼファーが小さく鳴いた。

 以降は遠慮気味に踏み込んでいたものの、それでも変わらずに二体のシーイーグルを串刺しにし、発生した衝撃波で更に一体巻き込む。……シーイーグルはそんなに弱いモンスターではなかったはずなのに、ものすごい雑魚に見えてしまう……さすがウルさんですわぁ。いくら訓練を重ねても、純粋な戦闘能力では全然敵う気がしない。


 ――ギュアアアアアアアアッ!!


 あっという間に群れが半数に減らされたのに、シーイーグルたちに退く気はないようだ。雄叫びを上げ、風魔法トルネードを放ってくる。タイミングを合わせて放たれたそれは、相乗効果でより強力になり――


「セイッ!!」


 ゴウッ!


 ――グワアアアッ!??


 魔法の中心点とでもいうのだろうか、核となっている部分にウルが正確に槍を放つことで風向きが変わり、逆にシーイーグルたちを巻き込む暴風となった。空のモンスターであっても竜巻には乗れなかったようだ。シーイーグルたちは羽を切り裂かれ、呆気なく落ちていく。……少しでも狙いがズレていたらこのような結果にはならなかっただろう。ウルの戦いに関するセンスには脱帽するばかりだ。落下していく素材がもったいないという気持ちは忘れる。忘れるんだ、わたし。


「八本も必要なかったのであるな」

「お疲れ。ありがとうね」

「お疲れ様です、ウルさん」

「キュー」


 戦いの結末に満足した風もなく拍子抜けしたように〆るウルに、宣言通り出る幕のなかったわたしたちはそれぞれ労いの言葉を掛けるのだった。



 平穏を取り戻し、ゆったりと景色を眺めながら引き続き東へ進む。初飛行に比べれば感動も薄れてしまったけれど、知らない地を見ていくのはまだワクワクするものだ。

 北を見れば水平線。海と空が交わり、どこまでも続いているような感嘆と、飲み込まれるような畏怖と。ゲームでは海の先には小島が点在するくらいだったけど、この世界(アステリア)では何があるのだろうか。陸地はなくても海底には何かがあるかもしれないし、海産物だって豊富な素材の宝庫。この季節に水泳は耐寒装備があってもしたいとは思えないけど、夏になったら遊びも兼ねて入ってみたいものだ。季節のない(あったとしても全く楽しむ余裕のない)冥界に居る間に過ぎ去ってしまったのが悔やまれる。

 一方、南は見渡す限りの砂だ。岩山だったり荒地だったり、稀にオアシスっぽい緑も見えるけれど、とにかく砂だ。時折顔を覗かせている遺跡っぽい建物を訪れてみたり、砂漠特有の素材を集めたい気持ちはあっても、あんまり長居したいとは思えない過酷な環境。もちろん海は海で過酷だけどね。

 そのような場所でも、ヒトの営みはあるもので。


「ところで、この先に村があるんだっけ?」

「はい。陸路では数日掛かりましたが……この分だともうすぐでしょう」


 ウルとフリッカは前述の素材探しの時に、いくつか村に立ち寄ったらしい。以前からアイロ村と細々と交流を続けているのだとか。細々というのは距離の問題で、ゼファーの件がなかったとしても帰還石一つでポンポン移動するわたしが特殊すぎる。

 カミルさんから道中の村について特に何も言われておらず、細々ではあっても神子との交流があるならそこまで困ってもいないだろう。帰還石のことはあまり公にしたくないからここで作る予定はないし、わざわざわたしが立ち寄る必要もないかな、と思ったのだけど。


「念のため、隕石について尋ねてみてはどうですか?」


 フリッカに提案され「それもそうだね」と頷く。闇神の領域にある(かも)とは聞かされたけど、他の場所にもないとは限らないのだから。

 こうしてわたしたちは情報収集のために海沿いの村の近くへと降り立つのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  もう誤用が定着してるっぽいですが、今更系の指摘を失礼。  全然 の後には否定する言葉が入るのです。 それが大前提だから、 「待った?」「ううん、全然」  が成立するのです。 全然の…
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