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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒
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破壊と浄化

「――」


 闇神が絶句をした。わたしから無意識に放たれた雷光が頬を掠っていったからだ。右の頬に一条の線が走り、ブスブスと煙のように瘴気を吐き出している。

 ……そうか、黙らせたければこうすればいいのか。

 さっきまで体の中でグルグルと熱いモノが駆け巡っていたのに、急に冷えた気がした。でも大丈夫、怒りの一線は越えても呑みこまれているわけではない。ふむ、もしかしてウルのレイジモードはこんな感覚なのだろうか。理性が飛んでないからちょっと違うか?

 手をグーパーと動かし、調子を確かめる。


「キサマ、話を聞いて――」

「うるさいしゃべるな。耳が腐る」


 今度は意識的に雷光を発生させ、左の頬に同じ線を作ってやる。出来るような気はしていたけど、それも無詠唱で本当に出来るとは自分でもビックリだ。

 でもこれはわたしの自力だけじゃないような……破壊神のおかげだけでもなく、他にも何かが混じっているような……なんだろう。わたしにとってプラスになるなら今はそれでいいか。落ち着いたら考えよう。

 またも一歩も動けなかったことに闇神が驚愕しつつ、同じ傷を作られたことを侮辱と捉えたのか(もちろんその通りです)、徐々に顔を赤黒く、醜く変化させていった。端正な闇神の顔が見る影もない。


「……よかろう。あくまでも、キサマが歯向かう気なら、サッサト人質を、殺してやる――」

「何で出来ると思ったの?」


 二度もわたしの攻撃に反応出来なかったくせに、どうしてわたしに邪魔されないまま人質に手を出せると思ったの? 状況把握が出来ない馬鹿なの?

 「ウル、お願い」と一言呟いてから、三度目の雷光。それは闇神から逸れ――


「ハハ、どこを狙って――……なっ?」


 フリッカたちを戒めていた瘴気を散らした。

 吊り上げられたままの三人は唐突な解放に落下することになるが、フリッカはギリギリのところでウルにヘッドスライディングキャッチされ、レグルスとリーゼは持ち前の運動神経でふらつきながらも着地に成功する。……ちょっとタイミングが危なかった。ありがとうウル。

 フリッカの怪我の具合が気になるけど、折られたぐらいならポーションで治せる。わたしも駆け寄りたい気持ちをグッとこらえ、闇神から視線を逸らさない。


「……ナゼ、だ?」


 闇神は人質が解放されても取り返すでもなく、ただ呆然と散っていった瘴気を見た。隙だらけだし、このまま攻撃してしまおうか?


「ナゼ、聖属性の浄化ではなく、雷属性で、消えたノダ……?」

「何故って……壊しただけですけど?」

「……ハ?」

「おまえ自身が言ったんじゃないか。わたしから破壊神の臭いがするって。ひょっとしてただの香りづけだとでも思ってた?」


 実際のところ破壊神の神子としては新米も新米で、力が使いこなせているとは言えやしない。けれどそんな説明をする義理も義務もない。

 そもそも不壊属性でもあるまいし、より強い力をぶつけられれば瘴気とて消えるに決まっているじゃないか。ただ聖属性が一番効率が良いというだけの話だ。……一番得意でもある聖属性で浄化しようとしない辺り、自覚がないだけで頭がおかしくなっている可能性はあるな?

 まぁどちらでもいい。


 あいつさえ、コロせれば。


 視界の端で皆が離れたのが見える。ウルなら巻き込まれても大丈夫ではあるけど、フリッカの護衛として一緒にそちらに居てくれるのだろう。もう一度人質に取られたら、取ろうとするだけでもキレる自信はある……いやすでにキレているか。こうして思考が出来ないほどに理性が壊れる自信があるのでその判断は助かる。

 さて、と。さっきみたいに雷の遠距離攻撃を続けても倒せそうだけど……やはり、ブン殴りたい気持ちが非常に強い。むしろ殴らなければ気が済まない。腹の虫がおさまらない。

 乗っ取られてる闇神には悪いけど、不壊属性の心臓かくを持つ神を、わたしごときに倒すことは出来ないのだからいいよね。解放されたら治療を手伝うので許してくださいね。


 わたしは雷を全身に流す。肉体機能を強化するためだ。

 未熟ゆえにきちんと雷を扱えず各所で火傷が発生、皮膚が弾けているけれど、構わない。

 自分が壊れる前に壊せばいい。

 その力を足元でも爆発させ――一気に詰める!


 ドゴンッ!!


「がっ――!?」


 わたしは、真正面から闇神の顔面を殴りつけた。

 メキリと鼻の骨が折れた感触を拳に伝えてから、闇神は受け身を取ることすら出来ずにぶっ飛んでいく。やはりあいつは魔法だけで戦闘センスはからっきしだ。光神アイティと火神に比べれば攻略は容易い。あぁ、闇神のせいではなく、乗っ取っているヤツ自体の性能がその程度なのかもな。

 壁にぶつかってようやく止まる。……あそこなら、いちいち追いかける必要もなくなるな。


「まだまだ! 喰らえええええっ!!」

「ごぶっ――がハっ――――げう……っ――」


 拳に雷を纏わせ、闇神を壁に押し付けるように幾度も殴りつける。

 殴るたびに雷が弾け、合わせて瘴気も弾けて消えていく。繰り返せば闇神の体からクソヤロウを排除出来そうだ。

 闇神は壊れないからといって、やりすぎはよくないかもしれないな。などと頭を過り、少し手を緩めたのが悪かった。


「フザケ、るなああアアっ!!」

「――ちっ」


 闇神が力を振り絞り、瘴気が爆発した。

 多少なりともパワーアップはしても、丈夫さはそこまで上がってないようだ。そこそこの傷を負ってしまった。そこそこで済んだだけでマシか。状態異常が悪化する気配もなかったけれど、単純な圧力に体が押され距離が離れてしまう。

 そしてその隙に、最初のトラップで空いたままの天井の大穴から、闇神は上空へと飛んでいく。


「ハハ……! 地を這う、蛆虫どもメ! そこで指を咥えて、悔ヤミながら、死を受け入レロ……!」


 遥か上空で手を大きく広げる闇神。

 それに呼応して周囲の瘴気が蠢き始めた。まさか島中の瘴気をかき集める気だろうか。四方八方から瘴気が集い、粘つく闇がどんどんと濃くなっていく。局地的な夜が訪れたようにすら見える。

 勝利を確信したのか、闇神の厭らしい哄笑が止まらない。

 けれど――甘い。甘すぎる。


「空を飛べるのがオマエだけだと、誰が言った?」

「――は?」


 スカイウイングを装着したわたしが目の前に現れたことで、哄笑がピタリと止まった。

 わたしは雷を纏わせた両手を組んで掲げ――闇神の脳天に思いっきり振り下ろす。

 避けるという思考すら出来なかった闇神はモロに喰らい、地上へと落下していった。衝撃で気絶でもしたのか、大の字のまま動かない。


「やはり瘴気に対して雷属性は効率が悪いな。もう散々殴ったし、都合よく動かなくなったことだし、聖属性による浄化に切り替えよう」


 というか私怨を優先している場合ではない。急速に集まってきた瘴気のせいで皆が体調を悪くする前に浄化をしなければ。

 念のため足で闇神を蹴ってみても反応はない。今のうちにやってしまおう。

 神子ルーエの時と同じように、倒れた闇神をぐるっと囲むようにわたしの血液を撒いていく。聖水やら聖石やら聖油やら様々な聖属性アイテムを重ねていく。光属性アイテムも忘れず、太っ腹にアイティの羽根も大量につぎ込み、おまけにアルバの鱗も追加していく。出血大サービスだ、ハハハ。


「……ん?」


 闇神の、ヒトであれば心臓のある位置……から少しズレた位置に嫌な反応があるな。これが蛇の核だろうか?

 聖剣の狙いをそこに定める。


「……闇神を、島を蝕む醜悪で卑劣で矮小な蛇よ。お前こそこれまでの行為を悔やみながら、滅びを受け入れろ……!」


 呪いのような詠唱でも効果は発揮し、聖剣を刺すと同時に聖なる光が溢れる。

 島に二度目の光の柱が立った。

 光の柱の中に、微かに、黒い紐のような影が見えたが、末期の悲鳴すら上げることなく光に呑まれて消えていくのだった。

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[一言] >「……闇神を、島を蝕む醜悪で卑劣で矮小な蛇よ。お前こそこれまでの行為を悔やみながら、滅びを受け入れろ……!」 フリッカ(?)「あぁ……っ! ちょっと悪い命令口調なリオン様も良いっ!! …
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