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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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エルフの村へ

 ぐだぐだな嫁話はお終いということにして。お終いったらお終い。


「あー、フリッカ。何か神子わたしに用があったんじゃないの?」


 待っていた、という話だけど……まさか嫁の話だけじゃないよね? それだけだったらスルーしちゃうよ?

 ……だって話を聞けば聞く程闇が掘り起こされそうなんですもの……。


「……そうでしたね。嫁とは関係の無い話ですのでご安心ください」

「ならいいけど……」

「あ、申し訳ありません。本日のお勤めを先に終わらせてしまいたいので、少しだけ待っていただけますか?」


 そう言えばお祈りしてたところだったね。

 わたしが「横入りしまったのはこっちなので、どうぞ」と促すと、フリッカは一礼をしてから創造神の像の前へ戻っていった。

 そして、アイテムボックスから取り出したであろう水を聖水に変えて、この広場を聖域化するように撒き始めた。


「あれ? まだ日も高いのに撒くの?」

「後ほどご説明させていただくことに関係しますが……撒いておかないと花が枯れてしまいますので」


 おや? つまりモンスター除けのためじゃなく、浄化そのものが目的でやっている……?


「んー……近くに川があるならだけど、自動聖水散布装置を作ろうか? 補充と点検は必要になるけど、毎日自力で撒く必要はなくなるよ?」

「……川もありますし私としても大変ありがたいことでありますが、一存では決められないのでまたの機会にお願いいたします」


 まぁ祭壇って住人にとっての聖域だから、勝手に作り変えるのもそりゃ問題が出てくるかもか。


 広場と言ってもそこまで広くはなく、フリッカはものの五分程で撒き終えて戻ってきた。

 そして、わたし……ではなく、ウルの方を見て。


「ところで、今更ではありますが……そちらの黒髪の、ウルさん、でしたか。もしかして貴女は……」


 少しばかり眉が下がり、警戒……と言うよりは、どこか怯えたような目。

 あー、これはアレか。種族問題。

 エルフは潔癖――なはずだけど、さっきのアレコレを聞いた後だとどうにも疑問が……まぁそう種族で、いわゆる『穢れ』に良く言えば敏感、悪く言えば神経質な所がある。

 そのせいでモンスターが人一倍大嫌いで、リザードを仲間にした時に友好度が下がってしまう種族の一つがエルフなのだ。

 普通に会話してたから大丈夫だと思ったんだけど、そうでもなかったかぁ……と内心で溜息を吐くが表には出さず、極力平穏になるように祈りながらフォローを入れる。


「大丈夫。ウルはわたしの大事な友達だよ」


 ウルの頭を撫でながら、フリッカの目を見つめて、『疚しいことなど何一つない』と胸を張る。

 突然頭を撫でられてビックリしたのかウルが少し身をよじったけれども、嫌がるでもなく逆に嬉しそうに大人しく撫でられていた。

 とても良く懐いた猫のような反応だったのが証拠となったのか、緊張していたフリッカの表情が少し和らいだのでわたしとしてもホッとした。


「……そう、ですか、わかりました。いえ、そもそもこの祭壇まで来られるという時点で問題は無いようなものでしたね。気を悪くされたようでしたら申し訳ありません」

「む? 何ともないぞ」


 フリッカはウルの方へ頭を下げるが、ウルは本当に何も気にしていないようだった。

 ……ウルさんのことだから、今のやりとりに何の意味があったのかも気付いてない可能性がありますね……アハハー。

 まぁきみはちょっと鈍感でもいいから、真っ直ぐな子でいてください。


「村の方へと歩きながらの説明でも構いませんか?」

「いいけど、村って近い?」

「あそこですよ」


 フリッカに指で示された先には――


「……でっか……え、もしかして世界樹……?」


 辺り一面の木々より何倍も高く太い大樹が、どーんと飛び出していた。

 ずっと頭上が枝葉で覆われてたから全然気付かなかったよ……。


「いえ、御神木ではありますが、そこまで大層な代物ではありません」


 ……あの大きさで大層な代物じゃないのか……。

 ゲーム時代の世界樹はあれくらいだった気がするけれども、だとしたらアステリアではどれだけ巨大なんだろう?

 ん? でもあの御神木……。


「何か、色が悪くない?」

「……おっしゃる通りです」


 葉の色はツヤを失っているように見えるし、所々に茶や紫の葉も混じっている。

 枝も遠目ではっきりとわかるほどに色が褪せているし、折れている部分もちらほら見受けられる。

 そしてそれは御神木だけでなく、北東に向かうにつれて色が悪かったり、そもそも葉が落ちているのか枝だけで揺れている木が増えている。

 ……創造神が報せたかったのはこれだろうか……村に行けば詳しく教えてもらえるってことかな?

 しかし、村か。行くしかないのはわかってるんだけども……。

 フリッカに頭を寄せて、小声で尋ねる。


「ところで……他のエルフの人たちも気にしそう……?」

「……かなり、気にするかもしれませんね」


 あちゃー……やっぱりかー。

 気にする、と言うのはもちろんリザードウルのことだ。

 フリッカは穏健な反応だったけれども、エルフ全員がそうとは限らないし、この回答からするとむしろフリッカみたいなのが少数派なのだろう。

 ……トラブルの臭いがするぞぅー……。



 フリッカは道すがらポツポツと話し始めた。

 これから向かうエルフの村はアルネスと言う名前らしい。

 人口は四百人弱だけど、半数はお年寄りだとか。子どもの出生率がそんなに高くない……のはまぁ長命種族によくあることだね。それにしたって老人が半数は多い気がするけど。

 ちなみに、平均で人間ヒューマンの五倍程の三百歳まで生きるらしい。なお現在の一番の長生きさんは三五〇歳を越えたとか。


「フリッカはいくつなの?」

「三十五……人間換算であれば二十手前くらいですね。幼年期は人間と成長がそこまで変わりませんので」


 そこまで変わらないと言いつつも倍くらいはあるのか。見た目は同年代でもわたしより遥かに落ち着いているわけだ。

 ……ただ落ち着きと運動神経は比例しないようで。


「いたっ?」


 さっきから木の根に躓いていたり、蔓に引っ掛けたりしている。


「あの……この辺りは毎日歩いているんじゃ……? 最低でも祭壇と往復してるよね……?」

「その、普段は足元を見ながらゆっくり歩いているもので……」

「……それで頭に枝ぶつけたりしてない?」

「……何故それを……?」


 わたしの予想がズバり当たって慄いていたけど、わからいでか。

 やだ何このギャップ、ちょっと可愛いとか思っちゃう……。


 まだ少ししか話してないから全然判断は出来ないんだけども、フリッカはウルとは違うパターンで素直な人っぽい感じがするのよねー。

 そういう風に育てられたのか、元々の本人の素質なのか。これまでに漏れ出てきたエルフ事情に因ると後者な気がする。

 何にせよ、こういう人は嫌いではない。……だからと言って早々惚れたりしませんよ?


 フリッカの印象は今はさておき、話は続けられる。

 詳しくは長老から、と言うことだけれども、現在の状況をさっくりまとめるとこうなる。

 『森が枯れ始めた』と。

 季節は初夏。爆発的に色付き、萌え広がる時期であるのだが……やはりどう見た所で色が悪い。

 さてはて、何が起こっているのやら……。


 そうしてしばらく森を歩いた後。


「着きましたよ」

「「おー……」」


 目の前に、木で作られた柵に囲まれた、かなり大きな村が見えてきた。

二話前のフリッカの役職を神官から司祭に修正しました。

この作品においては宗派とか関係なく「神に仕える者」という認識でお願いします。

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