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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第二章:森奥の餓えた叫び
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エルフ少女との邂逅

「む……」

「ウル、何かあった?」


 先導していたウルが唐突に声を出して足を止めた。またサイレントキラーの巣でも発見したのだろうか。

 けれどもそうではなかったようで、自分でも不思議そうに首を傾げながら腕をさすり始めた。


「何やら少し寒気が走ったような気がして……」

「えっ、大丈夫? ひょっとして風邪?」


 森が深く日が差し込みにくくなっているせいかやや気温が低くなっており、湿気を多く含むから空気がひんやりとしている。

 ウルは袖なしの服で歩いていたから体調を悪くしてしまったのかもしれない。


「いや……それ程ではないな。先に進もう」

「ウルがそう言うなら……もし体調が悪くなったらガマンせずに言うんだよ?」

「うむ」


 と言うような遣り取りが発生してから十分程度歩いた位置に、森の中であるのに不自然にぽっかりと開けた空間があった。

 広さは直径五十メートルくらいか。草花は方々に生えてはいるけれど木は切り株すら存在しておらず、明らかに人の手が入っている場所だ。

 その最たる証拠が……中央部分。


 創造神の像を祭る祭壇があった。


 円形に敷かれた石畳。円の端に等間隔に建てられた飾り彫りのある円柱。

 中央部分が高く作ってあり、外側が階段状でどこからでも上がれるようになっている。

 もちろん中央に安置されているのは、創造神の……あれは石像かな。


 そして、その前に、一人。

 お祈りの姿勢をしたヒトが、居た。



「――何方でしょうか」



「……おっと」


 わたしがほへーっと眺めていると、高めだけれど落ち着いた、涼やかな声が耳にすっと入ってきた。

 お祈りが終わったのか、立ち上がって振り返ったことでわたしたちに気付いたようだ。落ち着き具合からもっと前に気付いていたかもしれない。

 その人が振り返ったことで、当然わたしたちにも顔が見えるようになったわけで。


 ……エルフだ! それもすんごい美少女だ!


 ウルとどっちが美少女かって? タイプが違って甲乙付け難いので好みによるかなー。

 ……こほん、それはさておいて。


 わたし(の見た目)より少しだけ年上くらいだろうか。エルフは例に漏れず長生きらしいので実年齢は不明だけれども。

 リーフグリーンの腰まで伸びた髪と同色の瞳。そして大きな特徴であるツンと尖った長い耳。

 全体的に肌は白く線は細く、不健康一歩手前にすら見えるけれども、エルフからすればそれが標準。ついでに言えば美形なのも標準。

 ゆったりとした衣服に身を包み、植物で作ったと思われるアクセサリをいくつか身に付けていた。


 そんな観察をしながらも敵意が無いことを示すように、わたしは極力にこやかに返答をした。……大丈夫だよね? 逆に胡散臭いとかないよね?


「初めまして。お祈りの邪魔をしてしまったのならごめんなさい。わたしはリオン。隣の子はウルです」


 わたしの紹介に合わせてウルがぺこりとお辞儀をする。この子はこういう時は大体静かだ。苦手なのかしらん。

 「どなた?」と聞かれて素直に名乗ったのが功を奏したのか、警戒……は元からそんなにしてなかった気がするな。ともかくそう言う感じのものを見せず、少女はこちらへ向かって歩いてくる。


「これはどうもご丁寧に……? 私は……きゃあっ?」

「「あっ――」」


 そして……階段でコケた。



 神秘的な美少女が、コントのように転げ落ちる様についついポカンとしてしまったが、聞こえてきた呻き声で我に返って慌てて駆け寄った。


「だ、大丈夫……!?」

「いたい……です……」


 で、ですよねー。一回転してましたもんねー……どうしてそうなった。


「えっと、ポーション掛けますよー」


 わたしは一言断ってから、涙目のエルフの少女にLPポーションを振り掛けた。

 どうでもいい余談ですが、ポーションは容器に入っている間は液体で、使用してふりかけて効果を発揮した途端に揮発するようになっています。濡れ美少女とか出来上がりません。

 あと、飲んでも無害だけれど薬の味で美味しいわけではない。甘み付けとか出来るのかな?と思ったこともあるけど、そもそも飲む必要がないので結局手を付けていない。


「あ、あの、そのような貴重な物を……」

「百個以上持ってるんで大丈夫ですよ?」

「……えっ」


 あれ、フリーズしてしまった。

 確かに百個以上と言うのは多いかもしれないけれど、所詮は初級だしなぁ。

 それに、エルフは植物の扱いに長けているので、草系が素材となってるポーションはお手の物だと思ってたんだけどな。ゲーム中でもエルフたちと取引可能なアイテムに必ずと言っていい程ポーションがラインナップされていたし。

 ……ひょっとして技術が途絶えた……? でも「貴重な」と言うくらいなら、モノ自体はあるはずだよねぇ。うーん?


 疑問は置いておいて、わたしは未だに止まったままの少女に手を差し出した。


「その……傷は治ったはずですけど……どうですか? 立てます?」

「……あっ、はい……治って、ます。ありがとうございます」


 体のあちこちに触れ、本当に痛みが引いていたことに目を瞠る少女。

 それから、恐る恐ると言った体で、わたしの差し出した手にその細い手を乗せてきた。

 と言うのに、少女は立ち上がるでもなく首を傾げ……ハっとしたように、目を見開く。


「これは……創造神様の……? ……まさか?」

「ヒエッ?」


 何かとゆったりだった少女の動きが一転して素早くなり、手をがっしり掴まれて引っ張られ、顔を至近距離で覗き込まれたりぺたぺたと触られたりする。

 この子睫毛なっが! ……じゃなくて、近い、近いって!

 思わず側で大人しくしていたウルの方に「助けてぇ」と視線を向けるが、「??」という感じの反応しかなかった。うぐぐ、これくらいはアステリアの人たちは普通なのかしら……。


「……やはり、創造神様の気配がします……もしかして……神子様、なのでしょうか?」

「は、はい、そうです、けど」


 な、何か以前ウルにも言われたことあるけど、そう言う気配ってわかる人にはわかるもの、なのかな?

 自分ではサッパリとわからんのですけどねぇ……実家に漂う匂いは嗅ぎ慣れていて鈍感であるようなものなのかしら……。

 わたしが内心であたふたしているのを知ってか知らずか、少女はやっと体を離してくれた。そのことにこっそりと息を吐いて、心の中で掻いてもない汗を拭う。


「申し訳ありませんが……神子様であるという証を、見せていただくことは出来ますでしょうか?」


 あー、そうだね。言葉だけだと何とでも言えるもんね。だからそこまで本当に申し訳なさそうにしなくてもいいんですよー。


「いいですよ。何を作りましょうか?」

「……?」

「適当に出された物を、『作成メイキングしました!』と主張されても納得し辛いでしょう?」

「なるほど……では、小さくても構いませんので、創造神様の像をお願いします」


 はいはーい、神子にとっては定番かもしれませんね。

 作業台と石ブロックを一つ取り出し、いつものように作成メイキングスキルを発動する。

 わたしにとって見慣れた光景であるしウルもいい加減慣れたみたいなんだけれども、大体の人はこの様子を見てびっくりするんだよねぇ。エルフ少女もめっちゃ凝視してるし。

 まぁ固そうな石が光りだしてグネグネと形を変えれば、そうなるのも無理はないのかな。


「さて、出来ました。検分します?」


 いつもより小さめの四十センチくらいの創造神の石像を指して問うたけれども、エルフ少女は首を横に振った。


「いいえ、十分です。あなた様は紛うことなく神子様でしょう」


 そして、胸に手を当て、跪く。


「申し遅れましたが、私は司祭を務めているフリッカと申します。

 エルフの地に、ようこそいらっしゃいました。私たちは、あなたの訪れを待ち望んでいました」


 う、うーん、ここからまた固い展開が続くのかな? と心の中で嘆息していたりするのだけれども。

 エルフ少女フリッカさんは……この直後に少々、いやかなりぶっ飛んだことを言い始めるのだった。


「ところで……不躾な質問かとは思いますが、どうかお許しください。……あなたは、女性、ですか?」

「はい? そうですけど……まさか見えない?」


 髪は短めだし女の子らしい恰好ではないけれども、そんな質問は初めてだなぁ!

 それとも、エルフの間では神子=男という話が先祖代々伝わっていたりするのだろうか? ニセモノとか糾弾されちゃうのかしら?? でもさっき認められたばかりだし……。



「いえ、女性に見えます。と言いますのも……私、長老たちから幼少の頃よりずっと

 『おまえは神子様の嫁となり、陰になり日向になりお支えするのだぞ』

 と育てられましたので……この場合は女性の所に嫁入りするのでしょうか、と思いまして」


「………………………ハイ?」

ヒロインその2……多分。

皆様(作品内容のせいで)お忘れかもしれませんが、この作品にはGLタグが付いております。

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