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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第七章:廃地の穢された闇黒
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前哨戦

 音の発生源は、想像通りにウルとディジーズグリズリーの戦闘からだった。

 ウルの小さな拳とディジーズグリズリーの大きな拳が、衝撃波でも放ちそうな勢いでぶつかり合っている。わかっていたことではあるけれど、ウルのいっそ華奢にすら見える体でディジーズグリズリーの巨躯と真正面から一歩も引かずに戦っていられるのは脳がバグりそうである。

 ディジーズグリズリーも力だけかと思いきや速度もかなりある。わたしも何とか目で追えるレベルではあるけれど、そこに重さも加わると捌けるかは怪しい。大きいのに速さも兼ね備えているのはそれだけで凶器だ。

 その長身を活かして高所から叩きつけるように何度も腕を振り下ろし、ウルは難なく受け止めてはいるもののただでさえ脆い足元がバッキバキに粉砕され、足首まで埋まってしまっていた。


「む」


 そうして身動きが取れなくなったウルに対しディジーズグリズリーは後ろに跳んで距離を取り、四つ足の姿勢になり突進をする。


「この程度で我をどうにか出来ると思うなよ!」


 ウルは足をめり込ませたまま構え、ディジーズグリズリーと衝突した。

 これはトラックが突っ込んでくるようなものだ。普通であれば掠っただけでも大ダメージで、まともに喰らったらバラバラになって死んでしまいそうなものである、が。

 ディジーズグリズリーはウルを轢くどころか、ウルの手によって宙に弾き飛ばされていた。

 そのまま頭から地面へと落下し、大地を大きく揺らす。


「さぁ起きるがよい。貴様もその程度ではどうにもならぬであろう。弱者らしく死んだふりをして隙でも窺うか?」


 グルル……ッ!


 挑発に乗せられたのか、どことなく怒りの滲んだ唸り声を上げながらディジーズグリズリーは起き上がり、ウルを睨みつける。

 ……とりあえず、ウルの方は全然大丈夫そうだ。他のモンスターの相手をしよう。



 地道にながら、モンスターの数は減らせている。

 こちらの損傷は軽微だ。怪我をしたところでわたしのポーションでいくらでも治せるし、ストックも十分にある。即死すらアイテムで防ぐことが出来る。

 ……まぁ、即死級の攻撃を繰り出してくるディジーズグリズリーの相手をウルがしてくれているから余裕なのであって、あの神子たちが対応出来たかは微妙なところだ。この点では世界樹の解放が出来ていなくても仕方がない。……のだが、全然関係ないあの古城を攻略し、セレネを害そうとしていた理由は未だにわからない。それとも持っていかれたアイテムの中に重要な物でもあったのだろうか。ダンジョン核なんて有用なリソースだしなぁ。


「リ、リオン様」

「……うわぁ……」


 戸惑うフリッカの視線の先を見てみれば、世界樹の根っこがウネウネと動いており……わたしたちの方へと殺到する。

 さすがに世界樹がイビルトレント化しているわけではなさそうだ。寄生キノコが操っているのだろう。ここまで出来るのはビックリであるけれど、対処出来ないほどではない。聖剣で斬り払う。

 斬られた根がそれでもわたしたちを狙わんと蠢くが、聖域内に入ったところで急激に力を失い動かなくなる。……聖水を足しておくか。


「もう支配されててどうしようもないから、フリッカも遠慮なく切っちゃって」

「……わかりました」


 世界樹に傷を付けるのは森で育ったエルフとしては更に心情的にやり辛いだろうけど、放置したところであの根が回復するわけではないのだ。

 いくら切除したところで、寄生キノコが取り除けるわけではないのだけれども……んー……聖水を染みわたらせれば排除出来るのだろうか? けれどこの大きな大きな世界樹全体に行き渡るほどの聖水を用意するのはわたしでも骨だし、そもそもほとんど腐っているので排除出来たとしても復活しないかもしれない。無事な枝を探して、挿し木とかするしかないか……?


「うわわわわわっ!?」

「もう、レグルス兄ってば……!」


 頭上から降り注ぐ叫び声に仰ぎ見てみれば、レグルスが枝に掴まって宙づりになっていた。リーゼが解放しようと槍を構えているが、自前なのかレグルスが暴れているせいかクネクネと狙いを定められない。


「世話が焼ける! ……あっ」

「いってえっ!?」


 わたしはあえてレグルスの頭を目掛けて聖水を投げつけた。

 ……いや確かに頭を狙ったけど、なんでこんな時ばかり動かずに静止してるんだよ! 本当に頭に当たったじゃないか!

 レグルスにも多少のダメージは入ったが、聖水で根の締め付ける力が弱まり、内側からフン!と腕を広げてレグルスは脱出を果たした。再度絡めとろうと伸びる枝はリーゼの槍でバッサバッサと斬り払われていたのでひとまず大丈夫だろう。


「しかし、困ったな……根も枝もモンスターの支配下となると、ウルの手助けに行き辛い……」


 なお、当のウルも根に襲われているようだが。


「ほらほらほらどうしたあっ!」

 グルォアアアアアアアアッ!!


 纏わりつかれる側から引きちぎりながらディジーズグリズリーの相手をしている。さすが……。

 どうしたものかと悩むわたしに、皆が声をかけてくる。


「リオン、ここまで数が減ればオレたちだけでも大丈夫だ!」

「レグルス?」

「聖域もあるし問題ないよ。フリッカさんはあたしたちが責任を持って守るから、ウルさんの方をお願い」

「リーゼ」

「……はい、私も平気です」

「フリッカ……。うん、わかった。皆、お願いね」


 わたしは念のためまた聖水を追加してからウルの方へと駆け出す。

 破壊神の力で強化済みでよかった。前までのわたしだったら到底ウルの力になれなかったことだろう。それくらいにディジーズグリズリーは強大なモンスターであった。

 ウルでは瘴気に阻まれて倒せなくても、わたしでは力が足りなくて倒せなくても……二人でやればどうとでも出来る!


「ウル!」

「む、来たか。リオン」


 詳細まで言わずとも、ウルはディジーズグリズリーの腕を掴んで動けなくする。ただのデカい的となったそれに、わたしは聖剣を力いっぱい振り下ろす。

 わずかに燐光を帯びたような軌跡を残しながら、剣閃はディジーズグリズリーが纏う瘴気と肉を斬った。

 しかしわたしは、思ったほどと言うか、思った通りと言うか、大きな手ごたえを感じることが出来なかった。水の中で剣を振り回したような感触。聖属性の剣と言えど、この濃さの瘴気を容易くは斬り裂けなかったようだ。


 グアアアアアッ!?

「ちっ」


 痛みと怒りゆえの馬鹿力か、ウルの拘束が無理矢理解かれディジーズグリズリーは後退する。その際に血が撒き散らされ、塗れた根が焼ける音がする。ウルにも降りかかったが、少し皮膚が赤くなった程度で影響はなさそうだ。


「ごめん、硬くて表面しか斬れてない!」

「なぁに、ダメージが入るのであれば十分であろう。奴め、あんなに浅い傷であるのに随分とリオンを気にしているようだぞ?」


 ウルの言った通り、ディジーズグリズリーは歯を剥き出しにし、涎を垂らしながら、先ほどまで互角の戦いを繰り広げていたウルにではなく、しっかりとわたしに視線を向けていた。


「……おなか減ってるんですかねぇ」

「ならば、たらふく攻撃を喰らわせてやればよいさ」


 対抗しているわけではないだろうけど、ウルも獰猛に歯を見せて笑う。見た目は可愛らしくとも、発せられる戦意にわたしの肌がピリッとした。思わずわたしも釣られて笑みが零れる。


 ディジーズグリズリーと正対する。

 やはり相手はとてつもなく大きい。威圧感から察するに、強さはストーリー終盤のボス並だろう。ひょっとしたらそれ以上かもしれないし、これが実戦・・となるとゲームでは比較対象にはなりえない。

 これまでのわたしであれば、情けなくも震えていたに違いない。けれど今は、大して怖くない。

 それはわたしが強くなったと言うのもあるのだけれど……この隣に立つわたしの相棒が頼りになるから――いや、信じられるからだ。


「リオン、ゆくぞ」

「おっけー!」


 ウルの声と共に、わたしは地を蹴った。

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