破壊神とウルとの関係
ウロボロスドラゴン。
そして破壊神。
ゲームにおいてウロボロスドラゴンは『邪竜』と冠せられていたけれど、ラスボスである破壊神とは違う存在だった。でも破壊神より遥かに強かったので、実は陰の支配者でした!と言われてもまぁ頷けはする。
その破壊神の力がわたしに宿った。ウロボロスリングを素材としてわたしの心臓を作ったことで。
……驚いたには驚いたけれども……ショックを受けたと言うわけではない。創造神の神子であるのに、だ。
それは……多分、知っていたから、だろう。
「……地神様。ウロボロスドラゴンって、人型に変身出来たりします?」
「出来る」
「……人型の時って、とても長い黒髪の、背の高い女性です?」
「あぁ」
「……角が生えてて、金色の瞳で……」
わたしはここで一区切りして、別の人物を見て。
続ける。
「……そう、ウルが大人になったみたいな、見た目してます?」
「その通りさね」
……やっぱりか。
わたしが、どこともしれない場所で出会っていた黒の女性。
あのヒトが……破壊神だったのか。
今でも記憶が朧気で夢だと思っていたのが、実際には夢ではなかったようだ。
じゃあどこで会っていたんだ、って話になるけど……恐らくはウロボロスリングを通じて何かしら繋がっていたのだろう。もうアイテムがないので確認しようもないけれどもね。
あの女性が破壊神なのはひとまず置いておくとして。
それでは、よく似たウルは一体何者なのか?
真っ先に考えられるのが……子ども? いやでも神に血縁と言う意味での子どもって作れるの?
「えぇと……ウルの種族って、ウロボロスドラゴンなんです?」
「変身能力はない……はずなので、厳密には違う」
「……曖昧なのが気になりますが……正確には?」
「リオン、アンタと一緒で、アンタと正反対の存在さね」
「はい?」
わたしと一緒で、正反対?
何そのナゾナゾみたいな言い方。
「ウルは……竜人をベースにしたドールであり、破壊神の神子だ」
「……えっ」
わたしとフリッカの視線がウルへと向けられる。
ウル当人も目を丸くしていた。
神造人間だって? いや竜人って言ってるから神造竜人……ややこしいし文字はどうでもいいか。
竜人って言葉も初めて聞いたけど、文字面通り竜の特徴が見た目に現れたヒトってことだろう。
そして破壊神の神子……確かに、わたしと一緒で、正反対、だね?
「プロメーティア曰く、ウルの体はプロメーティアが用意して、ノクスが力を注いだらしい」
「ノクス?」
「……本神から聞いてないのかい。……まぁらしいと言えばらしいが。ノクスは破壊神の名前さね」
名前あったのか。……あってもおかしくないか。
しかし、創造神と破壊神、両者が関わっているのか。
「……何とも豪華なコラボですね?」
「何だいその妙な感想は……。あと、今のアンタも似たような状態さね」
「……そうでしたね」
ちなみに、地神はウルが破壊神の神子だと言うのは一目見てわかったけれども、創造神の仕業と聞かされたのはしばらく後らしい。まぁ封印中に誕生したのであれば知る由もない。なまじ破壊神に似た見た目をしているせいで『破壊神がそんなことをするはずがない。誰の企みだ?』と疑ってかかっていたとか。そしてそんな見た目にした理由は創造神の趣味だとか。あっはい。
ずっと不明だった自分の出自を知ったウルが、ポツリと呟く。
「……だからあの時、『全くの間違いではない』と言ったのか……」
ウルは自分と似た容姿の女性相手に親なのかどうか聞いて、そんな答えが返ってきたらしい。
出自に関わっているのだから親と言えば親……あれ、その理屈だと創造神もウルの親みたいなものじゃない……?
……そう言えば創造神は最初からウルに好意的だった気がするな。
過去を思い出しながら云々唸っていると、フリッカが一言漏らす。
「……つまり、リオン様とウルさんは姉妹……?」
「えっ」
「なぬ?」
思わずウルと顔を見合わせる。
わたしの体も創造神が用意したものだし、今は破壊神の力も宿っているわけだし、条件的には同じ……だね?
「そう言う話はネフティーがうるさくなるので後でアンタたちだけでしておくれ」
「ちょっとレーちゃん、私は何も言ってないのだけれども?」
「……えっと、ウルも妹扱いするんです?」
「しないわよぉ。だってメーちゃんが用意した体ってだけで、メーちゃんの力自体はほとんどないんだもの」
わたしの現在の力の配分が創造神が五、破壊神が五の半々であるけれど、ウルの場合は破壊神が十近いとのことで、それは水神基準だと妹ではないらしい。あっはい。……ウルから微妙に安心したような気配が漂ってきた気がする。ハハハ。
なるほどなぁ。振り返るまでもなく、初めからずっとウルは装備とか道具とか壊してばかりだった。それは破壊神の神子だからであり、創造側の力がないってことの証明か。
……それでもきっと、『モノ作りにチャレンジする』と言う点で、創造神の力は残っているのかもしれない。
ん? 初めから……?
ここで一つ、わたしの中にもぞりと不安がもたげてくる。
「……ひょっとして、ウルとわたしが出会ったのも創造神様の仕込み……?」
「そうだろうね」
出会いが仕込みなのであれば……一体どこからどこまでが、仕込みなのだろう、と。
「……ウルの記憶がなくて、わたしに懐いてくれたのも?」
わたしの言葉に、ウルがギョッとした。
いやだって、出会いはともかく記憶を失っているだなんて都合が良すぎる。まるで雛鳥の刷り込みみたいな――
ぐるぐると渦巻く嫌な思考がわたしの脳裏を埋め尽くす前に。
「リオン様」
静かな。
それでいて、わずかに怒りの籠もったフリッカの声に。
「リオン様、それはウルさんに失礼です」
「――っ」
ガツンと、頭を殴られたような気がした。
……そうだ、わたしはなんてバカなことを。
あれではまるでウルに自分の意志がないと言っているようなものだ。
わたしはわたしの意志で動いている。であればウルはウルの意志で動いているに決まっているじゃないか……。
「……ウル。その……ごめん」
「……うむ、気にしてないのである。あと一応言っておくが、記憶については知らぬが、我がリオンを好きな理由は、最初からずっと主が親切だったからであるぞ。主はもうちょっと自分がやってきたことに自信を持つがよい」
「はい、ほんとごめんなさい。フリッカも言ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
反省するわたしに、地神が溜息を吐きながら補足する。
「記憶がないのはプロメーティアも想像していなかったらしいさね。考えられる原因に、リオンと違い一度死んだ魂を使ったからではないかと言っていたが」
「……一度、死んだ?」
「なんでも、かつての破壊神の神子であり、幼くして亡くなった娘の魂を使ったとか。プロメーティアとて魂は作れないからねぇ」
「なる、ほど?」
仕組みは全くわからないけど、元の世界のわたしは普通に生きているらしいし、分割元が生きてるか死んでるかの違い、ってことかな。
……んん? 何かが引っ掛かった気がするけど……何だろ?
それを引っ張り上げる前に、次の話に移ったことでどこかへ落っこちて行ってしまった。
「聞きたいことはこれで全部か?」
「え? いえいえ、わたしの体のこともウルの話も十分に重要ですけど、まだ肝心なことを聞いてませんよ」
創造神の神子であるわたしに破壊神の力。
創造神の神子の側に、破壊神の神子が居ることもだ。
そんなの……誰もが『おかしい』と考えるだろう。
モンスターは敵だ。
……モンスターを生み出している破壊神は敵なのだ、と。
けれども。
その認識が……間違っていたのだろう。
「破壊神ノクスは……創造神様の敵では、ありませんね?」