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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間六
341/515

平和な光景

「よーっす、リオン! 元気そうだな! 招待してくれてありがとな!」

「いやいや、こちらこそわざわざ冥界まで助けに来てくれてありがとう」

「あたしたちはいつもリオンさんに助けてもらってばっかりだし、お返しのようなものだよ」


 拠点の皆を対象とした宴会の日。普段はグロッソ村に住んでいるレグルスとリーゼがやってきたので出迎える。

 二人ともわたしの無事を喜んでくれて、わたしとしても面映ゆいものである。

 しかしそれにしても……わたしは気絶してたから現世に帰還後初の対面なのだけれども……。


「レグルス、背伸びたね……」


 そう、レグルスの身長が拳一つ分は高くなっているのだ。さすが成長期の男子と言ったところか。わたしは体型の変化が良くも悪くもないから、プラスの変化が羨ましい気持ちがないでもない。


「へへっ。ちょい節々が痛ぇけど、リーチが伸びたんだぜ」

「あたしも少し伸びたけど……やっぱりもうちょっと欲しいなぁ」

「美味いリオンの飯をガンガン食えば伸びるかもな!」

「まぁ栄養はあるけど……」


 幼少期からバランス良く栄養を摂取しているならともかく、リーゼの年齢でそこまで劇的に変わることはあるのだろうか……?

 いや神子が全力で力を籠めれば……それはそれでなんだか怖いな。やめておこう。


「しっかし、リオンのとこまた神様増えてんのな」

「……モンスターも増えてるのがリオンさんって感じだね」


 後者には『どういう意味?』と問い質したい気分になったけど、アルバとジズー(小鳥)が増えたのは事実なので何も言えない! でもジズーはわたしのせいとも言えな……わたしのせいだっけ……。


「後で顔合わせすると思うけど、ざっくり神様たちを紹介するよ。金髪の女神様が光神アイティ。常識(じん)で苦労(にん)だから、労わってあげてね」

「お、おう」

「『敬う』じゃなくて、『労わる』なんだね……」


 なんか呆れられた気がするけど、残念ながら事実なんだよ……。フリーダムな神様たちの中でマジ普通?の神様なんだよ……。いや地神もお酒が絡まらなければ比較的普通だけどさ。


「赤髪の男神様が火神ヘファイスト。まだあんまり話してないけど、すごくやかまし……もとい元気な神様、かな」

「……お、おう……」

「内心が漏れてるよ……?」


 ハハハ。ツッコミもスルーだ。


「鍛錬好きみたいだからレグルスと気が合うかもね?」

「おっ? へへ、いつか手合わせをお願いしてみたいもんだな」

「でもお酒にうるさいみたいで、もしお酒関連で無茶振りされたらわたしかアイティに言ってね。対処するから」

「……そう。わかったよ……」


 レグルスは純粋に喜んでいる。神様相手に手合わせと言えるのは彼が豪胆だからか、わたしの影響を受けてしまったのか。彼には頑張ってもらってウルへの(精神的)負担を減らしてほしいものである。

 そしてリーゼには『ヤバイ』ことが伝わったようだ。口の端をひくつかせている。まぁ神様に要求されたら普通のヒトは断りにくいしね……彼女らが被害に遭わないことを願おう。


 積もる話は後にして、とりあえず席に移動してもらい背を見送る。

 ……おや? 去年の記憶に比べて、レグルスとリーゼの距離が微妙に近いような?

 いやつつくのはやめておこう。気のせいかもしれないし、余計な言動するとリーゼが怖いから……。



 他の参加者は皆拠点住まいだ。二人が席に着いたところでカップを手に軽く挨拶をする。


「えーと、このたびは、冥界まで助けに来てくれてありがとうございました。直接来てくれたヒトだけでなく、残ったヒトも色々手伝ってくれたと聞いています。おかげでわたしだけではなく、光神アイティも現世に帰還することが出来ました。皆さんには感謝の念が尽きません」


 ガッツリ話し始めると時間がかかる以前にまた情緒不安定になりそうなのでさっさと済ませる。これ以上皆の手をわずらわせたくないからね。


「つきましては、お礼と言うことで、わたしが全力で料理させていただきました。おっと、ここは労力を心配するところじゃありません。久々に豊富な食材で料理モノづくりが出来て大変楽しかったです」


 『リオンらしい』とそこかしこから囁かれる。ははは、皆わたしをわかってくれているようで何よりです。

 とは言え、量が多かったので大半は手作りじゃなく作成メイキングスキル頼りだけどね。


「今日は心ゆくまで食べてってください。それでは、かんぱーい!」

「「「カンパーイ!!」」」


 わたしの掛け声とともに、大人組が飲み、子ども組が料理へと駆け出す。今回はバイキングとバーベキューを足したような形式だ。用意した料理を取り分けて食べてもらい、時にはその場で焼いていく。今日のわたしは饗する側なので(ジュースを)飲みながら焼いていくよー。


「うっめ! なんだこれ!」


 開始早々に大きな声を出したのはレグルスだ。あれもこれもと山のように皿に盛り付けてガツガツと食べている。リーゼもレグルスより少し低い山を作り上げてから、一口食べて目を見開き、黙々と食べ始める。うんうん、その反応は作り手冥利に尽きるね。


「もぐもぐ……フリッカの料理も美味いが……もぐ……やはりリオンの料理が一番だのう……もぐもぐ」

「……冥界には食材があまりないと聞いていたのに、何故こんなに腕があがっているのでしょう……?」

「なんだかんだでほぼ毎日モノ作りしてたからかな……?」


 串に刺した肉を焼きウルのお皿に追加したり、焼き野菜をフリッカにあーんしてあげたりされたりしながら答える。

 「ちょーだいちょーだい!」とお皿を出してくるルーグくんにも肉を焼いてあげると、笑顔でフィン、イージャ、ゼファーの元へ駆けていった。仲が良いのはいいことなんだけど、多分ドワーフ夫婦(りょうしん)が早々に飲んだくれてるのも理由の一つだろうなぁ……。

 酒飲み組の方にチラと目線をやると、火神が酒瓶を片手に立ち上がるところだった。


「うむ! これがリオンの新作なのだな! いただこう!!」


 火神が酒瓶に直接口を付け、ゴクゴクと豪快に飲んでいく。

 あっ。

 と、警告する間もなく――火神はいつかのようにそのままバタリと後ろに倒れるのだった。

 目の前で目撃してしまったドワーフ夫婦はさすがに慌てるが、それ以外は落ち着いたものだ。予想出来たことだったのだろう。

 なお、火神が一気飲みした酒はいわゆるスピリタスである。成分がほぼアルコールのアレだ。いやほら、とびきり強いお酒が欲しいって言ってたしね……?

 わたしが「あーあ」と後悔も反省もなくその光景を眺めていると、地神と目が合った。


「……地神様も挑戦します?」

「……アタシをこのバカと一緒にしないでおくれ……」

「でもさすがにご飯がこれだけだとかわいそうよねぇ。リッちゃん、後で包んでくれるかしらぁ?」

「はぁい」


 ご飯は食べてほしいので否はない。水神のお願いに素直に頷いておいた。

 もぐもぐ魚介をつまんでいると「ちょっとぉ!?」と大きな声が上がるので今度はそちらに目をやる。

 そこには、頭の上に乗っているジズーに憤っている風神が居た。


「どうして僕のお皿から取っていくかなぁ!? 自分で取っておいでよ!」

『むぐむぐ……うまいな、これは』


 ジズーは意に介さずに口を動かす。……しかし、小鳥ジズーが鶏の唐揚げを食べている光景は妙な違和感があるな……。あ、バートル村の駐在員さんたち(せっかく拠点うちに居るので呼んでおいた)が慌てつつも甲斐甲斐しく風神に新たな唐揚げを運んでいる。

 その隣でアステリオスが牛肉ステーキを食べてるのもなんというか……うん、突っ込むのはやめておこう……。


「リオン」

「ギュ」


 アイティとアルバがそろってやってくる。周辺にぶつからないようにゆっくりトコトコ歩くアルバの口の中に焼きたての肉を放り込んでやると、美味しそうに目を細めた。


「私にももらえるか」

「もちろん。どうぞどうぞ」


 アイティの皿にも肉野菜魚介麺と満遍なく盛り付ける。たかが焼いただけと侮るなかれ、下ごしらえをきっちり行い、ぴったりのソースを作り、火加減もしっかり見極めながらベストな焼き加減になるように、更には神子わたしの力を籠めながら焼いているのだ。格が違うのだよ。もちろんその他の料理も全力なので引けを取らないけどね!


「……うん、美味しいな。とても」

「ギュ!」

「へへーん。わたしが本気を出せばこんなものですよぉ」

「リオンはいつも本気で作っていただろう」

「……えぇと、材料的な意味でもね……?」


 真顔で言われてしまったので一瞬返答に詰まった。まったく真面目な神様ですね……!

 ――はっ。隣から妙に生温かい視線を感じる……。

 気恥ずかしさを誤魔化すようにヘラっと笑ってから、その後もレグルスを始めやってくるヒトたちにあれこれと焼き続けるのだった。


 うーん、平和だねぇ……。

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