ダンジョントライアル・下
「……あっぶな! あっぶなかったああああああ!!」
「あ、あれ……? 何も、ない?」
キョトンとするウルに押し倒されたままの姿勢で、わたしは今にも飛び出しそうになる心臓の鼓動につられるまま大声を上げた。
何もなかった……わけがない。
状況が飲み込めず、ゆるゆると身を起こしたウルが目にしたのは。
「……石の壁?」
そう、咄嗟に石ブロックを積み上げることで、わたしたちが土砂に埋もれないよう即席のシェルターとしたのだ。
……ゲーム時代の、うっかり砂地の下にあった石を掘り抜いて、砂に何度も埋もれてしまった経験がここで生きるとは……。ちなみに、長時間埋もれていると窒息で死亡扱いになる。
良い子の皆は真上掘りと真下掘りは絶対にやっちゃダメだぞ☆
なお、真下を掘ってはいけない理由は、下が空洞だったりすると落下してダメージを食らうことがあるからだ。火山地帯だとマグマ溜まりに落ちて焼け死ぬこともある。装備も焼けて良くて耐久度がガタ落ち、悪くてロストして直すことも出来ないから、貴重品を装備してたらすんごい泣くことになるのよね……。
命が助かったことにわたしは素直に安堵の息を吐き、ウルは……自分の仕出かしたことが、頭に浸透したようで。
「……リオン、すまぬ……すまぬ……」
ボロボロと大粒の涙を零すウルに、わたしはどう反応をするべきかしばし迷った。
わたしが対応出来たのは『過去に死んだ』経験があるからだ。つまり、過去に失敗をやらかしたからだ。
やり直しの効くゲームの話とは言え、失敗したことのあるわたしが、同じく失敗したウルをただ叱り飛ばすのは、どうにも躊躇われる。
けれども、わたしでなければ取り返しの付かない事態になったことは確実なので、叱らないのも駄目な気がしてくる。
……色々と考えてから、わたしが選んだ行動は。
「……ウル」
わたしは座ったまま静かにウルと向かい合い……手を、振り上げた。
ウルは何をされるかわかったのか、ギュッと目を固く瞑る。
ペチン。
「……えっ?」
思いっ切り引っ叩かれると思っていたのに、やってきた衝撃はせいぜい蚊が倒せるかどうかというくらいに弱いもので。
ウルは小さく、間の抜けた声を出した。
そんなウルの反対の頬をまたペチンと叩き、挟み込むようにして視線を合わさせる。
「……こればっかりは、二度目は、無しにしてね」
「お、怒らないのか……?」
「……自分が何をしたかちゃんと理解していて、反省している子を相手にガミガミ怒れるほど……わたしはきちんとした人間じゃないよ」
ウルの目に溜まった涙を拭いながら、わたしはそう答えた。
……わたしは完璧な人間ではないのだ。死亡が笑って許せる環境で、それを繰り返して学び、進んで来たのだ。そんなわたしが、偉そうに何を言えるのだろう。
むしろそういう失敗経験があるのに今日の洞窟での活動制限に結びつかなくて、忠告が出来なかったわたしの落ち度とも言えるかもしれないのだし。
社会人経験とか積んでいれば、もっと良い方法で慰めるやら説教やらが出来たのかな。色々と難しいものだよ……。
「ただ、二度目は怒るから。……怒れる状態なら、だけども」
今回は行動が間に合ったけれども、戦闘中で手が離せなかったり、気絶していてそもそも何も出来ない可能性だって十分に出てくる。
そんな時は……怒る所ではないだろう。
わたしが考える最悪の事態をウルも想像出来たのか、顔を青ざめさせた。
「そ、そのような怖いことを言うでない……! ちゃんと、気を付けるから……」
それならいいよ、とわたしは苦笑してポンポンと頭を撫でた。
しかし今後、洞窟系のダンジョンでウルが全力で戦わなければいけなくなるような強敵が出てくる未来だって十分ありうるんだよなぁ……対策を考えておこう。
「しかし……この状態からどうするのだ?」
しばらくして落ち着きを見せ、改めて周囲を見回したウルからそんな質問が出てくる。
ウルさんや、わたしが何なのか忘れてないかね?
「どうするって、掘るだけだよ」
「う?」
わたしは立ち上がり、神のシャベル、ピッケル、アックスをQAボックスに用意してから、斜め上の石ブロックを一つ回収した。
ドザーっと土砂が流れてくる。
ウルがビクリと肩を震わせるけど、慌てることじゃないよー。
「よいせーっと」
この空間が土砂に埋もれる前に、わたしはそれにシャベルを刺して、即座にブロック化してQAボックスに突っ込んだ。
石が落ちてくればピッケルに切り替えて、根っこが落ちてくればアックスに切り替えて、落ちてくる諸々をひたすらアイテム化して突っ込んでいく。
落ちてこなくなったら更に上を回収して……の繰り返しで地上まで穴を空けて登るという寸法だ。
ちなみにであるが、入り組んだダンジョンで迷子になって出られなくなってしまった時によくやった方法である。ハハハ。
亜種として、森などの野外で迷子になった時、足元にひたすらブロックを積んで遥か上空から辺りを眺め回すことも多々でした。あれは高所恐怖症の人だと辛いだろうな。
あれこれ懐かしいゲーム時代に思いを馳せながら、ウルが後ろで目を丸くしてポカンとしているのに気付かないまま、わたしはせっせと掘り続けるのであった。
そんな中。
ガチンッ
「あれ? 神のピッケルが弾かれた?」
ちょっとしたアクシデントにもわたしは騒がず焦らず、神のピッケルよりちょっと威力の高いクローピッケルを取り出した。ツールのランクが低いと採取出来ないことはよくあることだ。資材が無限ではないので節約して使う癖が付いてしまって、ついつい神シリーズを優先使用してしまうんだよね。
もう一度石?にクローピッケルの刃を突き立てると、今度は無事にアイテム化出来た。
そして……そのアイテム名に目を剥いた。
「て……鉄鉱石……!!」
わたしは、求めてやまなかった上位――今の持ち物と比較して――素材に状況も忘れて歓喜した。
どれくらい喜んだかって……ただ外に出るだけのつもりが、辺り一帯の土砂を全部掘り返す程に。
SPが切れかかって我に返って回収を終了したのは、かなり時間が経って日暮れが近くなってきた頃だった。ひょっとしなくてもダンジョン探索よりも時間が掛かっている。
でもいくつか鉄鉱石が追加で採れたし、埋もれてたガーディアンたちのちょっと良い素材もゲット出来てホクホクでした。
ウルは途中から顔が引きつっていたものの先ほどの失敗が気まずくて突っ込むに突っ込めず「ただただ眺めているしか出来なかったわ……」と後に語る。ご、ごめん。
拠点に帰還石で戻ってからダンジョン探索(採掘)の疲れも何のその、すぐにアイテム作成……しようとしたのだけれども、遅い時間なので仕方なく翌日回しに。鉄鉱石のままでは何も作れないので、鉄を取り出すために簡易炉に突っ込む所だけやってからその日は寝た。
翌朝、毎朝のルーチンがあるのだけれども、待ちきれずにお祈りと朝食だけ済ませてすぐに作成へ。
「よーしよしよし……」
簡易炉を確認したら、きちんと鉄が出来上がっていた。この重厚さと鈍く光る様がたまらないウヘヘ……いやこれはノリで実際はそこまでは思ってないけれども。
何せ出来た鉄の質が最低レベルだからね……。鍛冶のスキルレベルが上がると鉄の質も良くなるんだけど、今はまだ何も出来てないから一のままなのだ。
鉄を持って最近作った作業棟に移動し、さぁ鍛冶の出番だ、と行きたいがそうは問屋が卸さない。鍛冶に必要な金槌、金床、溶鉱炉を先にこの鉄で作る必要がある。
これは素直に作成で済ませてしまう。……手作業しようにもやり方がわからないからね……。
そして。
「……わかってたけど、わかってたけど……!」
最初から気付いてはいたのだけれども、実際に直面して凹んでしまい、がくりと床に手を付く。
そう、鉄の数が全然足りないのだ。鍛冶の準備が整ったところでほとんど消費してしまったのである。
……作りたいものは山ほどあったというのに……! はぁ、装備の更新はまた今度かぁ……いつになるんだろうな。
しかしこのまま鉄を余らせておくのもやや勿体ない。
わたしはちらりと後ろ――ずっと黙って作業を見学しているウルを見て、少し考えた結果、手っ取り早いQOL向上策として、料理用品のフライパンと鍋と包丁を作成することにした。
料理の幅も広がって、終始しょんぼりしっぱなしだったウルもやっと喜んでくれましたとさ。
やっぱ笑ってくれてる方が断然いいよね。




