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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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ドラゴンゾンビとの攻防

『ガアアアアアアッ!』

「うわっ……ととと」


 ドラゴンゾンビは簡単にわたしの挑発に乗って突っ込んでくる。怒りゆえか腐っているゆえか思考能力の欠如した何の工夫もないただの突進であるけれども、勢いと殺意が激しい巨体が迫ってくるのは怖すぎる。ついさっきまでわたしが立っていた位置は大きく抉れて、掠っただけでもぶっ飛ばされそうな怪力に背中がゾッとした。

 ついで、全身に刺さっていた骨が射出された。いつもの癖で石ブロックガードしたくなる衝動をグッと抑え、わたしの体に当たりそうな物だけを何とか剣で弾き飛ばす。


『カアッ!!』

「ひえっ!?」


 ホッとしたのも束の間、毒ブレスが吐かれた。これはさすがに剣ではどうしようもないので素直に石ブロックガードをする。死角となった石ブロックの向こう側からの追撃を警戒して後ろに跳んだのは正解だった。直後にドラゴンゾンビの体当たりで石ブロックがぶち壊されたからだ。腐っているくせに動きが早すぎじゃないですかねぇ!?


『アアアアチョコマカト腹立タシイ! 逃ゲルナ!!』

「いや逃げるに決まってるでしょ!?」


 わたしはウルじゃないんだから、パワー勝負なんてするわけがない! 加護は残っているけどアレを受け止められるかどうか試す気には一切ならないし、試すまでもなく受け止められないっての!


『クソ! ――グアッ!?』


 追いかけてこようとしたドラゴンゾンビの動きが止まる。どうやら避雷針の一本目が背に刺さったようだ。

 苛立たし気に犯神アイティの居る後方へと振り向き――


「へいへいへーい! わたしから目を逸らして無事でいられると思っているのかなぁ!?」

『ガハッ!? キ、貴様アアアッ!』


 聖火の矢を放った。それは無防備になったドラゴンゾンビにきっちりと刺さり、周辺を浄化の炎で焼いていく。アンデッドゆえに効果てきめんではあるけど……じわじわとだが再生していく。やはり再生力の源となる核を壊すか奪うかしなければ倒すのは厳しい。

 それでも聖属性の炎はドラゴンゾンビの神経(……あるのか?)を逆撫でするには十分だった。攻撃対象はわたしへと絞られる。

 追いかけてくるドラゴンゾンビと逃げるわたし。しばし単調な攻防(ただしわたしからすれば超必死)が続いた後、ドラゴンゾンビの攻撃パターンに変化が生まれる。


『オノレ……ダッタラ逃ゲラレナイヨウニスルマデダ!!』

「っ!?」


 ドラゴンゾンビの咆哮と共に周囲の血の海が盛り上がり、赤い水の槍となって襲い掛かってきたのだ。

 慌てて横に跳んで避ける。しかし変幻自在の水は槍ではなく鞭だったらしい。避けた瞬間にしなり、わたしに巻きつくように取り囲んでくる。


「水を操るってこう言う……!」


 わたしはその場に石ブロックを取り出してから上に跳んで、石ブロックを蹴って更に上に跳ぶ。水の鞭はわたしの代わりに石ブロックを粉砕して飛び散った。

 ……かに思われたけれども、飛び散ったそれらがまた集結して鞭となり、わたしに向かって伸びてくる。

 咄嗟にまた石ブロックを空中に放り投げるように出し、盾兼即席の足場として蹴って跳ぶ。鞭はまたも石ブロックを同じように壊しても勢いは収まらず、わたしへと追いすがる。

 しかしわたしの体勢は普段の身体能力では行うことの出来ない、慣れない空中アクションで崩れていた。これ以上跳ぶことは出来ない。


「こんのっ……!」


 最後の抵抗としてストームボールを炸裂させて自分の体を吹っ飛ばす。

 自分の身を切りながらも避けられたのは一瞬、なお水の鞭は迫り――


『――全く、世話が焼ける』


 貫かれる寸前、ウェルシュの手に掴まれて逃れることが出来た。鞭はウェルシュの雷撃により今度こそ霧散する。


「あ、ありがとう……っ」

『フン。飛べない奴は難儀だな』


 面倒くさげに呟いてからウェルシュはわたしを放り投げる。下ではなく上に。

 ウェルシュの背に乗る形になったわたしは、しばし呆けてから状況を把握して背中にしがみ付く。ゼファーと違いツルツルした鱗ではなくフサフサの羽毛に覆われているため掴みやすく、騎乗用の鞍がなくても何とかなりそうだ。


『……強く引っ張りすぎて抜くなよ?』

「……抜いても素材にするから、無駄にはならないね」

『おいコラ』


 冗談で言ったのだけど、冗談と思ってもらえなくて声のトーンが低くなった。……うん、日頃の行いが悪いからですね。

 冥界の空は赤雷を纏う雲に覆われており、飛ぶことは自殺行為である。しかしウェルシュであれば別だ。むしろ雷を利用する立場である。

 すぐ側で雷音が響くたびにビビッて首をすくめるが、一度としてこちらへは向かってこない。それどころか雷が不思議な軌道を描いてドラゴンゾンビへと落ちていく。もしかしなくてもウェルシュの能力のおかげだろう。


 ……ウェルシュに乗せてもらえば、この赤雲の彼方へと辿り着けるのだろうか。

 果てには、何があるのだろうか?


 そのようなことがふと頭を過ったが、怒声で思考が掻き消される。


『コノ……ッ、俺ノ獲物ヲ奪ウ気カ……!』

『誰が貴様の獲物だ!』


 わたしは九死に一生を得たが、当然ながらドラゴンゾンビは気に食わない。わたし共々ウェルシュに向けて毒ブレスを吐き、何本もの水の鞭を放ってくる。自慢の怪力を活かした体当たりが届かない位置なので、かなりイライラしているように見える。

 水の鞭の何本かは雷で消し飛ばし、毒ブレスと残る何本かは巧みに軌道を変えて飛ぶことですり抜ける。背に乗っている身としてはいつ当たるか冷や冷やしてならない。


『グワァアアッ!?』


 落雷と同時にアイティが避雷針をもう一本刺さした。上手く見計らったことでドラゴンゾンビはそれをウェルシュのせいだと思ったようだ。変わらずこちらへと憎悪を向け続けている。

 残りは一本。順調かな。


「ウェルシュ、もうちょっと頑張って」

『フン、これくらいなら余裕だ――ッ?』


 頼もしいな、と思わず背を撫でたらビクりとされた。……くすぐったさか気持ち悪さを感じたかな。ごめんて。

 囮になると啖呵を切ったもののこの体たらくであるし、これ以上ウェルシュの気力を削がないよう、余計なことは慎もう。

 とは言え、ここからでも矢を放つくらいは出来る。ウェルシュの攻撃を邪魔しない、雷に消し飛ばされないタイミングを狙って……射る!


『オノレオノレオノレエエエエエッ!』


 ドラゴンゾンビは巨体に似合わず俊敏であるが、怒りで思考が散漫になっており矢を避けることが出来ないでいる。そして矢よりもっと速い雷であればなおさら避けることは出来ない。面白いように当たっていく。

 それでも倒せない、驚愕すべきその再生能力。通常のモンスターであれば一体何回死んだだろうか。これだけ多くの攻撃を喰らってもなお生きて(いや死んでるけど)いるなんて。アンデッドの弱点である聖属性も混じっているというのに、恐ろしいにもほどがある。


 しかし……その攻防も、これでおしまいにしたい。

 ついに、三本目の避雷針が刺さったのだ。

 アイティが大きく離れたのを見てから号令をする。


「ウェルシュ! ババーンとやっちゃって!!」

『言われずとも!』


 バチバチバチと周囲で雷が弾ける。ウェルシュを中心に雷が集まっているのだ。

 いつものわたしであれば怯えていただろうけど、この時のわたしはハイになっていた。

 右手を天に掲げ、余波を喰らって腕から血が流れていることにも気付かずに。かみなりを帯びていることにも気付かずに。


 ――勢いよく、振り下ろす!


「いっっっけえええええええ!!」

『オオオオオオオオオッ!!』


 わたしの掛け声とウェルシュの方向が重なる。

 刹那。


 ドガガガガガガガガガガガッ!!!


 荒々しい雷が、ドラゴンゾンビの身を貫いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ウェルシュ、もうちょっと頑張って」 >頼もしいな、と思わず背を撫でたらビクりとされた。……くすぐったさか気持ち悪さを感じたかな。ごめんて  うむ。  犬(全般)の背中を撫でるときは、あ…
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