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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍
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グリムリーパー再び

「……グ、グリムリーパーだって……!?」


 ガーディアンのドラゴンゾンビだけでなくグリムリーパーまで出現するなんて……! だからなんでこんなところに、それも最悪のタイミングで格上ばかり現れるんだっての!

 グリムリーパーは以前ウルと二対一で戦っても勝てなかった相手。当時よりわたしが強くなっていてもウルには遠く及ばず、アルバが居てもその不足分を補えるほどでもなく。地上の月蝕と違ってタイムリミットがない分、絶体絶命の危機とも言える。

 あのグリムリーパーはわたしのことを覚えているのだろうか。表情が乏しいはずの髑髏がニヤリと嗤ったようにも見えた。あの時の雑魚で取るに足らない存在だからと無視してくれればよかったのに、もちろんそのような都合の良い話はなく。しっかりとわたしを見据えて、グリムリーパーは大鎌を構えた。

 地上と違って帰還石を使うことも出来ず、逃げたくても逃げられない。だから覚悟を決めるしかない。


「アルバ。わたしがあいつと戦っている間、周りのモンスターを倒してくれる?」

「……キュウ……」

「お願い。わたしをあいつに集中させて」

「……ギュ」


 風属性ゆえか空を飛ぶのが上手いゼファーですらグリムリーパーの攻撃を避けきれなかったのだ。まだ空を飛ぶのが覚束ないアルバでは機動力に欠けて標的になるだけである。

 庇われていることを察したアルバは少し悔しそうな声を出しつつも、周りのモンスターを何とかしてほしいのも事実なので納得してくれた。通り道を浄化してきたので、そこを上手く使えばアルバでも生き残れる……と信じたい。信じるしかない。


「――シッ」


 アルバの移動と共に弓矢を取り出して上空のグリムリーパーに向けて放つ。矢はあっさりと振り払われた。……蚊に刺されるようなものだと無視せずに回避する動作をする辺り、警戒されているのか。慢心していてほしかった。

 グリムリーパーは矢の届かなくなる位置まで上昇し、大鎌を振り上げて一方的に攻撃を仕掛けて――


 バヂィ!


 ……こようとして、雷に遮られて出鼻をくじかれていた。もしや冥界の空の雷はグリムリーパーにも効く……? いやオマエなんで冥界来たん……? この前地上で見たから、ドラゴンゾンビみたいに誰かに落とされたわけじゃなく、何らかの方法で移動出来るってことだよね……? まぁ、一種の弱体化だからわたしとしてはありがたいことではあるけども。

 更に直後、横合いから槍のように雷が走り、グリムリーパーは大きく回避行動を取る。しかし不意打ちの雷を避けることはグリムリーパーをもってしても不可能だったようで、ダメージを受けるのだった。

 これには思わず怒りを抱いたのかグリムリーパーはギロリと雷の発生源へと体ごと向き直り――そんな大きな隙を見逃すものかとわたしは槍を投擲する。残念ながらこれも大鎌に遮られたけど、横を気にすることで最初の矢を回避した時の優雅さは失われていた。心なしか苛立っているようにも見える。

 わたしはグリムリーパーから意識を逸らさないままチラと横を確認すると一瞬ウェルシュと視線が合った。心の中で『援護射撃ありがとう!』とお礼を述べる。残念ながらこちらに来られるほどドラゴンゾンビが弱いわけではなさそうだけど、グリムリーパーがウェルシュを警戒してわたしへの対応が甘くなるのと、雷が効くことが判明したのはとてもありがたい。

 わたしの手の届かない空高くから一方的に攻撃され続けることもなさそうだし、大ダメージを与える手段があるとわかったことで、わずかながら勝機が見えてきた……!


『ジャア゛ッ!』


「……っ!」


 迫りくるグリムリーパーに対しわたしは剣を前に突き出し――いや違う、後ろだ!


 ガギッ!!


 音もなくいつの間にか後ろに回り込んでいたグリムリーパーの大鎌を間一髪で剣で防ぐことに成功する。まさに首の皮ギリギリ。すぐに首を狙いにくるこいつの行動パターンを覚えていて助かった……! 咄嗟のことでバランスを崩して吹っ飛ばされたけれど、首斬り即死に比べれば安いものだ。

 遠距離攻撃が出来なくともグリムリーパーの大鎌の攻撃力は当然ながら侮れない。細い骨のくせしてどこにそんな力があるのか……ウルも細い腕でめっちゃ攻撃力があったね! などと頭を過るくらいには余裕があるのかもしれない。それとも恐怖が振り切れてハイテンションになっているだけだろうか。

 しかし一撃防いだだけで安心してはいられない。続いてグリムリーパーの全身から漏れ出る闇が伸びてわたしに襲い掛かってくる。転げたままのわたしは身をよじることしか出来ず、まともに浴びるのだった。


「ぐあ……! でも、これくらい、なら……っ!」


 この闇のデバフはわたしの作る万能耐性薬ごときでは太刀打ち出来ない。それでも冥界暮らしをしている間に体が強くなったのか、聖水と各種ポーションで治せるレベルで済んで助かった。

 ……治せるからと言って、毎回喰らってはポーションを使用して、なんて悠長なことをやっているわけにはいかない。なんとか対策を取れないものか。


 よろよろと立ち上がるが一息吐く間もなくグリムリーパーがわたしを追って再度大鎌を振る。同じくカンに従って前のめりに倒れるようにしゃがみこむことで避けることが出来た。

 が、今回は後ろに回り込むのではなく正面から大鎌を繰り出してきたので、わたしの目の前にグリムリーパーがいる。闇の衣に突っ込む形になってしまいダメージを喰らってしまったが、こちらもカウンターとして聖水をゼロ距離で撒いてやる。


『アアアアッ!』


 ジュッと焼ける音がして、グリムリーパーは耳の痛くなるような声を上げながら離れていった。光神アイティの加護のおかげもあるだろうけど、わたしが強くなったことで聖水の効果も上がっているようだ。成長を知ることが出来てこんな状況でありながらも嬉しくなった。


 お互い焼かれながらも、わたしはポーションで、グリムリーパーは自己再生で傷を治しながら睨み合いをすることしばし。

 グリムリーパーは不用意に近付くことも警戒しだしたのか、中距離から闇を伸ばし始めた。


「闇には光、これならどうだ!?」


 わたしは咄嗟にフラッシュボールを投げつける。ライトボールに比べて持続時間を犠牲にしている代わりに光量が高い。


『ガアッ!?』


 強烈な光を浴びたことにより闇はわたしに届くことなく押し戻されていった。よし! グリムリーパーを纏う闇も少しばかり削れて量が減り、ついでに周辺のアンデッドモンスターにもダメージが入ったようだ。

 しかしこれを繰り返してガンガン闇を削って行こう、と言うわけにはいかない。収集した光属性の大半がアイティ産であるのと、トランスポーターの素材として使用したので、光属性アイテムの数はとても少ないのだ。こればかりは節約して、ここぞと言う場面を見計らう必要がある。


『――』

「……随分苛立ってるみたいだねぇ……?」


 グリムリーパーの眼窩の光が、纏う闇の濃度が増した。……さっきはやったと思ったけどタイミングを間違えたかな?

 焦りを隠すために軽口を叩いてみたけどグリムリーパーは取り合わない。さすがにウェルシュみたいな手は早々使えないか。

 闇が濃くなっていく。ジワジワと厚みが増し、範囲が広がる、わたしがアイテム投擲でもしようものなら即座に大鎌で攻撃してやると言う意志を見せながら、わたしを闇で包囲しようとする。

 ただ、ここにおいても彼はわたしをしっかりをフォローしてくれた。


 バヂッ!!


『――ッ!』


 わたしに集中したのが大きな隙。後ろからウェルシュの雷撃が飛び、見事グリムリーパーの頭部にヒットした。

 それだけではなく。


『届け物だ』


 ウェルシュの声と共に風切り音がしたかと思えば、わたしの目の間に一本の剣が落ちてくるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『届け物だ』 >ウェルシュの声と共に風切り音がしたかと思えば、わたしの目の間に一本の剣が落ちてくるのだった。  えっ……?  ウェルシュ(コーギー)はこれを投げて「とってこーい」をして欲…
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