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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間一
31/515

リオン観察記

 リオンの朝は早く、日の出と共に行動を開始する。本人曰く「寝るのが早いだけだよ」とのことだが。

 我としてはもうしばしこのぬくぬく具合を堪能したいものなのだが……世話になってる身としてはそうワガママも言ってられないので、同じタイミングで起きることにしている。


 リオンが真っ先に向かうのは、創造神の石像が設置されている祭壇だ。

 十数秒ほどお祈りしてから、石像の掃除をしたり花壇の様子を見たりする。……色とりどりの花が咲き乱れてるのは綺麗とは思うものの、我にはちょっと匂いが厳しいのである。


 そして、朝の散歩がてら、拠点の見回りを行う。

 柵が破壊されていないか確認して、もちろん壊れていたら直す。リオンが。

 落とし穴の底を確認して、モンスターが生き残っていたらトドメを刺して、魔石やら素材やら落ちていたら回収する。そして罠を修復し、同じように草藁を被せて隠す。

 しかしこやつら、毎日のように落っこちているのぅ……いくら暗闇とは言え、モンスターなら夜目が効くだろうに何故なのだ。ここまで引っ掛かるともはや笑えてくる。

 あと、執拗とも言えるまでに自動聖水散布装置が正常に動くかどうかも確認していく。どうやら以前聖水を撒き忘れて痛い目にあったらしい。その時に我が居れば、怪我させることなく蹴散らしてやったものなのにのぅ……。


 その次は牧場へ向かう。

 牛から乳を、鶏から卵を回収する。こやつらは最初の頃は我を恐れて逃げていたのだが(美味しそうと思っていたのが表に透けていたのだろうか?)、徐々に逃げなくなったので少し愛着が沸いた。……しかし肉は食べたいな。

 終わったら自動餌やり装置と水やり装置に補充をしつつ、壊れていないかの確認をする。リオンは色々と自動化させているな?


「そりゃ全部手作業でやろうとすると時間がいくらあっても足りないし、こういう単純なことを自動化させて、他のことに時間を使うようにしたいからね」

「なるほど」


 リオンはまさに創造神の神子らしく、ヒマがあればとにかく何かを作っているからなぁ。

 しかも単なる使命感とかではなく、趣味も大いに混じっている。すごく楽しそうに作っていることからも断言していいだろう。

 ……はぁ、我も何か作れるようになりたいのぅ……。

 我はリオンとは正反対で、とにかくモノが作れず、作ろうとすると素材も道具も、色々と壊してしまうのでな……。

 もう、破壊神の神子と名乗っても良いのではなかろうか? 名乗らぬが。


 その後は新鮮な乳と卵を使って朝ご飯だ。

 今日はフレンチトーストと言うものらしい。ちょっと物足りなさを感じるが、ほんのりした甘さを感じてとても美味しいのだ。

 しかしリオンはあまり満足してないようで。


「バターは出来るようになったけど……砂糖が欲しい……もしくは蜂蜜……。あとはチーズとかヨーグルトとかも欲しいなぁ、錬金で発酵させられないかな……。お酒とかも試してみたいな……」


 などとブツブツと呟いている所がたまに見られる。何の呪文だ……?

 まぁ他にも美味しい物が食べられるようになるのは大歓迎なので、頑張ってほしいものだ。我も何か素材集めに協力出来れば良いのだが。


 朝食の後は畑いじりをする。

 作物の出来を確認して実っていたら収穫し、空いた場所の土に栄養を与え、また種を蒔く。作物の出来が早い気がするのは……気のせいではないだろう。神子の力なのだろうか。

 これも水やりは自動なのであるが、いずれは収穫と種蒔きまで自動化してしまいたいらしい。そこまで出来るものなのか、すごいな。


「色んなプレ……あー、こういう仕組みを考えるのが大好きな人たちが『これ必要?』ってくらい多種多様に検証・開発してくれたからね。わたしはそれに乗っかってるだけだよ」

「……ふむ?」


 リオンの故郷の人たちはすごいのだな?

 以前ちらっと聞いたことがある。リオンは遠い、遠い所から、創造神の願いを叶えるためにたった一人でここまでやって来たのだと。

 ……それを語った時のリオンの瞳は、少し、寂しそうで。


 ――帰りたいと、思っているのだろうか。



 次は狩りに行く。

 リオン一人の時は毎日は行ってなかったらしいが、我と言う食い扶持が増えたせいだな……手間を掛けさせてすまぬ。何せ我一人で行こうにも、最近は力加減がある程度出来るようになったものの、しょっちゅう失敗して獲物が酷いことになってしまうのでな……悩みの種の一つだ。

 今日も今日とてリオンは「これくらいなら大丈夫だよ」と笑いながら散らかった肉を回収していく。瞬きする間にひと固まりになって消えていく様は何度見ても不思議なものだ。


 一緒に何度か狩りをしてわかったことであるが、リオンは身体能力は並だと自称しているが、体力はかなりある方だし、弓の腕前は目を瞠るものがある。

 よくもまぁ逃げ回る獲物に対してストンと一発で矢を当てられるものだ。木々の間をすり抜けて仕留めた時もあり、思わず拍手をしてしまった。

 これくらいは誰にでも出来ることだと謙遜していたが……そうなのか? それとも故郷の人たちが皆特殊で感覚がマヒしているのか?


 狩りのついでに木の実やら木材やら薬草やらも回収していく。……木材なんかは地下倉庫にたんまりあった気がするのだが、まだ必要なのか……よくここら一帯がハゲないものだな。

 と疑問に思っていたら、リオンは作物の時と同じように苗やら種やら植えていた。……種はともかく、苗はどこから出てきたのだ……?

 一度実演してもらったのだが、どこをどうすれば切り株が苗になるのだ? 我にはサッパリわからん!

 そしてその苗が数日後には木になってるとか、もう何がどうなっているのだ! そして何故リオンはそれをさも当たり前かのように眺めているのだ!!


 これが創造神の神子か……恐るべし……!


 お昼にハンバーガーとやらを食す。

 肉をパンに挟むことで、美味さと食べやすさを両立させるとは、何と素晴らしい食べ物なのだろう。

 そんな風に我が感動していたのにリオンは何やら苦笑していた。……我はおかしなことを言ってしまったのか?

 しかし聞く所によると、ショーユとやらが手に入って、タレが作れるようになればもっと美味いらしい。……喉が鳴ってしまったわ。


 午後は大体モノ作りに励んでおり、内容は多種多様に渡る。

 その一、作業部屋でゴソゴソしている。これが一番多いパターンか。

 目をキラキラさせて(たまにギラギラになっている)作成している所や、完成品に満足気にしている所、失敗して頭を抱えている所など、リオンの様々な表情が見られて楽しい。

 ただ……作業に夢中になって我を放置することも多い。モノ作りで手伝えることはないので、我はヒマを持て余すのである……そういう時は一人で外に体を動かしに行っていることもある。

 その二、拠点のどこかの設備を拡張している、もしくは増やしている。地下倉庫が以前見た時の数倍の広さになっていたり、新しく作業棟を作っていたりした。さすがに中身はまだだったが。

 その三、家のどこかを改良している。木枠にガラスが嵌っていたり、少し広くなって風呂が出来ていたりしたな。キマイラ戦の時に得た大量の魔石で作ったらしい。


 やがて日が暮れて、晩御飯を食す。今日は魚介のスープがメインだ。

 具材の奥までしっかりと味がしみ込んだそれは、とても温かく、優しかった。肉の方が好きだが、これはこれで美味い。

 おかわりを何度も要求してしまったが、リオンは文句を言うでもなく笑ってよそってくれた。


 晩御飯が終わって就寝……かと思えば、灯りを点けて作業をし始めた。何でも、後少しでキリが付きそうなのだとか。

 腹がくちくなったせいか、ぼんやりとする頭で、ぼんやりとその様を眺める。

 そして――


「リオン……だるい……」

「うぇっ? 大丈夫!?」


 邪魔しては悪いと思いつつも、作業をしていたその背中にもたれかかった。

 「先に寝てても良かったんだよ?」と言うが、ぬしの近くが一番安心できるのでな……しかしどうにも体を起こしているのが億劫になってしまって。

 それにしても……このだるさは本当に何なのだろう……今まではこんなことなかった、気がする、のだが。


「んー、まぁ仕方ないね。わたしもそろそろ寝ようかな」

「すまぬ……」

「気にしなくていいんだよ」


 ポンポンとあやすように我の背が叩かれ、ふわりと浮遊感がした。抱き上げてくれたのだろう。

 ユラユラと体が揺れる。その揺れが小さく感じるのは、我の感覚が鈍くなっているからではなく、リオンが気を遣って歩いてくれているからだと思う。

 そっと柔らかな布団に横たえられ、毛布を掛けられた感触と、少しだけ暖かくなる体。

 でもそれはきっと、毛布のせいだけではなく――


「おやすみ、ウル」


 囁き声がわずかに耳に届いたかと思えば、意識がストンと落ちるのであった。

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