少女の正体
オルトロスゾンビの後方にあった小さな空間にダンジョン核はあった。浄化してダンジョンとしての機能を失わせる。
その後、少女にはジュースを渡して休んでてもらい、わたしは残されたモンスターの素材の回収をしながら会話をする。
「先ほどは助かった、感謝する。……それで貴女は……神子、なのか?」
「はい、そうです。創造神の神子リオンと申します。初めまして」
薄々察してはいたけど、ダンジョン核の浄化の辺りでわたしのことを神子だと確信したらしい。
……いや、語尾が上がっているし確信してないね? 色んなヒトに首を傾げられるし、わたしはそんなに神子の威厳とかオーラとかが足りないのだろうか。
「足りないと言うか……何と言ったものか……その、妙なのが混じってないか?」
「妙なの……?」
はて、何のことだろう?
うーん……ひょっとしてアレかな、この前少しとは言えベヒーモスの肉を食べちゃったからかな……?
そんなことをポツリと漏らすと、少女は口の端を引き攣らせた。
「……よく生きていたな?」
「ちょっとだけだったから、でしょうかね……?」
少女はベヒーモスのことを知っており、肉を食べたらどうなるかも知っていた。
と言うことは……やはり確定なのだろうか。素材回収にキリが付いたこともあり、わたしは改めて少女に相対し意を決して尋ねてみる。
「あの……わたし、あなたとは初対面ですよね……? でも、あなたを知っている気がするのですが……」
「……あぁ、そうだろうな」
少女は間を置いてから肯定した。『何言ってんの? 気持ち悪い……』みたいな事態にならなくてちょっとホッとする。
崩していた足を正座に変更し、膝に手を乗せ、少女はジッとわたしを見詰める。その瞳はわたしの知る、朝日のような夕日のような色合いだった。
ピンと伸ばした背を緩やかに曲げ――わたしに向けて頭を下げる。
「私は光神アイティだ。創造神プロメーティアの神子リオンよ、改めて礼を言わせていただこう」
光神アイティ。
封印されているはずの六神の一柱。
何故封印が解けているのか、何故冥界に居るのか。疑問は色々あるけれども。
今、最も気になるのは――
「……失礼な質問かもしれませんが……わたしの記憶違いでなければ……縮んでいませんか?」
そう、わたしが(ゲームで)知る光神アイティはこのような、わたしより下に見えるような少女ではなかった。
二十台前半の、背の高いクールビューティ。キリっとした目つき。キビキビとした動作。良く言えば礼儀を重んじ、悪く言えば礼儀にうるさい真面目系女性。ファンの間からはメガネとパンツスーツの女教師が似合いそうとか言われてたけどそれはさておき。
顔のパーツや装備は同じだけれども、背丈が頭一つ分以上異なるのはどうしたって違和感を覚えても仕方ないだろう。あと背中の白翼も元は体全体が覆えるほどのサイズだったのに、今は上半身すら隠せなさそうなミニサイズになっている。
わたしの問いに光神は気を悪くしたりはしなかったが、大きな溜息と共に答える。
「この姿は言うなれば……節約だな」
「節約」
「そう。……この冥界において、私の力の源となる創造の力はもちろん、光も非常に少ない。今も十全とはほど遠いが、元の姿のままでは満足に動けなくてやむをえず変更したのだ」
なるほど? 確かに冥界では創造なんて望めないし光属性も希少だ。エネルギー補給が出来ないのならば、エネルギー消費を減らそうとするのは合理的だろう。
……姿の変更なんて出来るんだねぇ。などと感心していたけれど、詳しくは教えてもらえなかったものの変更するのはそれはそれでデメリットがあるらしい。あ、身長とか膂力とかが変わっていたからさっきの戦闘時の動きがぎこちなかったのか。思い出してみれば大剣は同じだな。背が縮んだことで相対的に大きく見えるけど……相対的に剣が重く感じるならやり辛くもなるだろう。
「えっと、それで……光神様はなぜこの冥界に……?」
「……説明は出来ない」
これは別に機密云々の話ではなく、単に記憶があやふやだかららしい。
ある日、闇神が封印され、次いで火神と風神も封印された。捜索に奔走していたところで意識が闇に呑まれ、囚われているような感覚が続き、気付いたらこの冥界に居たそうな。
ふむぅ、光神の封神石が事故もしくは故意で冥界に転がり込み、何らかの理由で封印が解けた。とかかなぁ。そして冥界までは神様たちを封印した黒幕の目が届いていなくてそのまんま? ……まぁ判明したところで何がどうなるわけでもないけど。
しかも封印が解けたところで光神にとって冥界は相性が最悪の場所だ。まともな活動も出来ず、自力で戻ることも出来ず。いっそ封印されたままだった方が楽だったかも……ってのは言いすぎか。
それでもとりあえず出来ることとしてモンスターを減らすこと、ダンジョンを潰すことをやっていたそうだ。……火神と光神は武闘派の神様とは言え無茶するなぁ。
……この説明を受けて、わたしとって一つ残念な点があった。
光神もトランスポーターを経由していない。つまり実はどこそこにトランスポーターがあった、と言う淡い期待が打ち砕かれたことになる。
この落胆は光神にとっても同じで。
「……そうか、貴女も転送門を通って冥界に来たわけではないのだな……」
「すみません。でも絶対に作成して帰りますので」
「謝る必要はない。神子である貴女に会えて帰還の可能性が芽生えただけでもありがたいからな。もちろん私も素材探しに協力しよう……いや、協力させてくれ、と頼む立場であるか」
すぐには現世に帰れないのだとしても、神子が居るのであれば可能性はある。少なくともどこにあるともしれないトランスポーターを探し当てるよりはずっと確率が高い。
それだけでも随分と気が楽になったようで、光神はここに来て初めて緊張を解き、小さく笑みを見せるのだった。
わたしとしても光神の協力は非常にありがたい。なにせおかげで一番のネックだった光属性触媒に目途が立つのだ。背に腹は代えられないからとイヤイヤ協力されるよりは積極的に協力してくれた方が助かるしね。ただでさえメンタルがきついのだから、ギスギスなんてしたくないんだよ。
「よろしくお願いします。絶対に光神様を連れて帰りますので」
「……光神様、ではなくアイティと呼べ。リオン」
「はい?」
「このような状況においては、私と貴女は一蓮托生だ。そこに上下関係など余計なものを挟んで意志の疎通を妨げるのは命取りになりうる。思ったことは遠慮なく何でも言ってくれていいし、私が貴女に対しあれこれ言ったところで畏まる必要もない。対等な……そうだな、臨時の相棒とでも思ってくれ」
ふむん? まぁ確かに遠慮をしたせいで齟齬が生じたりしても面倒だし、咄嗟の言動にまで敬意を求められても困る。
光神は真面目系女神様だったけど、随分と柔軟なんだなぁ。もっとキチっとしてるかと思ってたよ。
「私も以前はもっと融通が利かなかったのだが……状況が状況なのもあるし……その、どうやら肉体に精神が引きずられて幼くなっている節があるのだ。併せて神としての自覚も薄くなっているようだ」
これも姿の変更によるデメリットなのかな? わたしからすればメリットにも思えるけれど、本神からすれば違和感でしかないか。
……それにしても、肉体と精神、ねぇ。
「……風神様の言動がアレなのも、見た目が若いせいかな……?」
「――ブフッ」
わたしがポロっと零した呟きが届いたようだ。光神が笑いを堪えるような申し訳ないような曖昧な表情になる。
「いやすまない。メルキュリスが迷惑を掛けたようで…………って、え? メルキュリス?」
当然ながら、ずっと冥界に居た光神に現世のことが伝わることはなく、風神の封印が解けたことも初耳で非常に驚いていた。
かくてわたしは、これまでにどのような活動をしてきたのか説明をする……前に。
「……とりあえず、ここは臭いので外に出てからにしましょうか」
「……あ、あぁ、そうだな」




