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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第〇章:チュートリアル
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新生活の始まり

●ウロボロスリング

 原初の竜ウロボロスドラゴンの力と■が宿るアクセサリ。

 其は終わりにして始まりだったもの。破壊にして創造だったもの。

 欠けたものが取り戻されし時、新たなる■■となる。

 【不壊属性】


 それは、わたしが前作で最後に作成したアイテムだった。


「【不壊属性】以外に特殊効果もないし、記念品としてくれたのかな?」


 なにせ素材がゲーム内最強ボスの魂である。レアどころかもう二度と作れない一品ものユニークであるかもしれない。


「フレーバーテキストの一部が壊れてるのが気になるけど……まぁさすがに前作引き継ぎアイテムが重要アイテムになることもないでしょ」


 昔からのユーザーを大切にしたいという気持ちもわかるけれど、極端な差を付けると問題になってしまう。だから精々が序盤が少し有利になるくらいだし、今回のこれはそういった効果もない記念品程度でしかない。

 とはいえわたしがメイキングマスターへと至ったアイテムなのだ。【不壊属性】だから壊れることはないし、イベント用キーアイテムなら無くすこともないけれど、新作で後者が適用される保証もない。無くさないように気を付けよう。

 わたしはひとしきり眺めた後、そっと服(初期装備の布の服だ)の内側へとしまった。


「あとは実際にプレイして覚えるしかないね。……ヘルプも存在しないことだし、ひとまず前作と同じ要領で進めてみよう」




 この時のわたしは、ヘルプ以外にもう一つ、ある意味ゲームとして最も重要な機能が欠けていることに気付かなかった。




「まずは水の確保をしないと。川か村を探さなきゃ」


 前作は水が非常に重要な要素となっていた。序盤は特にだ。

 設定として『破壊神に支配されてしまった世界』というのがあったので、ゲーム開始地点(特定の範囲内でランダムである)は比較的創造神の力が残っているとはいえ(そうでなければ敵が強くてすぐ死んでしまうからね)近くに村があることは滅多にないのだが、川は近くにあることが多い。

 水はSPがわずかに回復するというのも重要だし、様々なアイテムに使用され、終盤に手に入れるアイテムレシピでも一次素材として要求されることが多い。一次素材とは、例えばAというアイテムを作るのにBというアイテムが必要で、そのBというアイテムを作るのにCというアイテムが……と辿っていった先の始点となる素材のことだ。

 そして、序盤における最重要アイテム作成に必要なので、絶対に真っ先に確保するべき対象なのである。


「あった!」


 草原を適当に東の方角へ向かって歩くこと十五分ほど、無事に小川を見つけることができた。


「透き通っているし変な臭いはない、大丈夫そうだね。魚もちらほらいるから当面の食料は問題なさそうかな」


 これが破壊神の支配力が強い領域になると毒になっていたりするので注意が必要なのだけれど、さすがに序盤でそんなムリゲーは発生しないでしょう。

 しかしこの川の流体処理すごいなぁ。ひんやりと温度も感じられるし、肌を滑る水滴もある。


「アバターはそのままコンバートされてるのか」


 水面に映る自分の顔は前作のプレイキャラクターそのまま……より精密になった感じだ。背景にも言えることだけどポリゴン特有の粗さが全く見られない。

 モデルは中学生時代の自分でショートカットの中肉中背、変更点は少しタレ目にして金髪碧眼にした程度だ。……若作りとかじゃないよ、単にゲームを始めたのが中三だったってだけだよ。

 今更ながら自分の頬をつついてみるけど、ほんとリアルにできてるなぁ。


「さて、最初の拠点作りだ!」


 すぐさま村を探すというのも一つの手ではあるけれども、前述の通り村は少ないのですぐに発見できるとは限らない。

 だからまずは安全に寝泊まり、作業ができる拠点を、簡易でもいいから作る必要がある。もちろんがっつり作ってもいいけれども、序盤は作成できるアイテムも少ないし素材も少ないし、凝るのは後回しにした方が良い。


「木材木材……っと」


 川を越えた向こうに林があったので、そこで伐採するとしよう。


「出番ですよー」


 QAクイックアクセスボックスから神のアックスを装備する。伐採する時は斧系道具を使用するのが一番効率が良い。

 特に何の変哲もない木なので素手でできなくもないけど、LPは減るしSPは減るし時間がめちゃくちゃ掛かるしで苦行でしかない。縛りプレイとして素手であれこれやってる猛者もいたけれど、わたしはそこまではできなかった。


「よいしょー!」


 野球のバットを振るようなフォームで斧を振る。スコーンと小気味の良い音が響いた。

 ……音は良いのだが、見た目は鉄の斧でもしょせんは最弱の初期装備である。序盤の木でも切り倒すには何回も振らなければならないし、硬い木になると歯(刃)が立たなくなって伐採不可能となる。

 スキルレベルが上がればある程度はカバーできるけれど、残念ながら今は一だ。地道に頑張るしかない。

 二十回ほど叩きつけたところで、やっと木は倒れるのであった。


「うん? アイテム化の処理が少し変わったかな?」

 

 前作は木を切り倒すと四角いブロック状の木材アイテムが手に入った。けれど今は木は倒れたままで、ブロック化する兆候がない。

 首をひねりながら木に対してもう一度斧を振ることでやっとブロックへと変化した。あと、木の枝がいくつか手に入った。

 残った切り株に斧を振ったら苗木へと変化した。良かった、これで後になって「木材がない!」とか慌てる必要がなくなる。

 なんで切り株から苗木になるんだって? 創造神パワーですよ!(適当)


 水を飲んでSPを回復させながら伐採を続け、スキルレベルが二に上がったあたりで拠点の建築に必要な量の木材が手に入った。木の実もいくつか手に入ったので明日の朝食にしよう。


「次は地面を均しますかー。いでよ、神のシャベル!」


 効果音がないので自分の口で鳴らしながら、今度は神のシャベルにアクセスして装備を変更する。土いじりならシャベル系だ。ちなみに、シャベルを使っていると農業スキル経験値が微妙にだけどもらえる。

 ざっくざくと草や小石を取り除き、凸した部分を掘り、凹した部分を埋めていく。いくつか土ブロックとしてアイテムボックスに突っ込んでおくことも忘れない。これも地味に色んなアイテムの素材になるのだ。

 掘った土も最初はただの土でしかなかったけど、土を集めるとブロックに変化していったんだよね。なんなんだろう、この仕様の違いは。


「さて、地面も平らになったことだし、家を建て……る前にご飯にしようかな。SPの回復が水じゃ追い付かなくなってきた……というか空腹感がすごい……」


 木の伐採の時についでに作っておいた木桶で川を泳いでいた魚を捕まえる。釣り竿を作ろうにも糸がまだ採取できていないのだ。

 しかし随分アイテムレシピが増えたなぁ。作れるかな?って思ったものがするっと作れちゃうよ。

 釣りスキルも存在するのだけれど、釣り竿を使用しないとスキル経験値がもらえないみたいだ。レベルが上がるとレアな魚が釣れるんだよねー。

 石を積んで風よけを作成、木の枝をそれっぽく並べて拾っておいた火打石で火をおこす。


「神のナイフで魚の処理っと……うえぇ……感触が生々しい……血が出る……こんなとこまでリアルにしなくても……」


 まな板は木で作ったけど、包丁はまだ作成できないからナイフでの代用となる。

 全てのスキルに共通することだけど、作成メイキングスキルだけでパパっと済ませずに手を加えることで取得スキル経験値がほんの少しだけど増え、なおかつMPが節約できる。なので余裕がある時はできるだけそうするようにしている。

 微妙な気持ち悪さに顔をしかめながら、鱗を落として内臓を取り出した。レア魚だとこのあたりが別のアイテムの素材になる。


「よし、木の枝に刺して焼き作業だ。どんな味になるかなー」


 全てにおいてリアルになったこのゲーム、味覚もどれくらい再現されているのか非常に興味がある。それになにより空腹なので焼けるのが楽しみで仕方がない。

 パチパチと弾ける音をBGMに、少しでも細工スキルレベルを上げるために木や土で細々としたものを作りながら出来上がりを待つこと数分。

 焼き目がついて皮がパリパリになったあたりで「もういいよね」と木の枝を手に取る。ごくりと自然と喉が鳴った。


「いっただきまーす」


 やけどをしないようフーフーと息を吹きかけてからパクリと口を付けた。


「…………おいしい……というほどでもない……」


 料理スキルレベルが一だからこんなものなのかもしれないけれど、多分決定的な理由としては調味料がないことだろう。

 醤油どころか塩もない焼いただけの魚は、現代人としては非常に物足りない出来だった。

 期待外れではあったけれども、スキルレベルを上げて調味料も集めれば美味しいものが食べれるかもしれない、と前向きに考えよう……。


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