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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍
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予期せぬ遭遇

 しばらく周辺を探索したけれど、残念ながらトランスポーターは見つからなかった。跡形もなく壊れたにせよこの近辺には作られていなかったにせよ、どうしようもないので諦めて別の場所の探索を開始する。落胆も大きいけれど、素材を手に入れたのだから一歩前進したのだとポジティブに考えよう。


 トランスポーターを作成するのに必要な材料は色々とある。

 一つは前述したディメンションストーン。これが大量に必要だ。しかもこの石は特殊で、どこそこで発見しやすいなどの法則性はなくランダムで生成されるアイテムなので、ある意味厄介なアイテムとなっている。ただ救済措置もあり、鉱石探知機を作成すると周辺にディメンションストーン……に限らず特定の鉱石が存在している時に知らせてくれる。……まぁ今は鉱石探知機がないんだけどね! 地神の加護はあるので素材さえ揃えば……と言うことで、そのための探索をしている状態でもある。

 次にトランスポーターのエネルギー源となる大きな魔石が十個。これは本来なら強力なモンスターやダンジョンを攻略する必要があったのだけれども、今は幸いにして魔石合成が出来るようになったことで小魔石を大量に集めることでも作成可能となっている。と言うか現在確保している魔石でも何とかなりそうなので、ここは考えなくてよい。集めるのは単に集めたいからである。

 そして、各種属性――火水風地光闇の六属性の触媒。これも大量に。火水風地の四属性は現世でたくさん集めているから問題ない。闇属性も冥界アンダーワールドであれば手に入りやすいから問題ない。けれども――


「……光が足りないなぁ……」


 これは冥界と言うロケーションからすると仕方のないことではある。何せ太陽も月も星もないのだ。現世ですら数が少ないのに、こんな状況下では更に少なくもなるだろう。

 冥界とて無明の闇ではなく、明かりとなるモノは存在している。しかし、光属性の素材に成るまでには至らない。溶岩地帯は明るいけれどあの辺りは火属性になってしまうしね。

 このペースだと必要数に至るまでにどれだけかかることやら……。


「……ま、その程度で諦めるわけもないけどね」


 ゲームにおいてもっとレアなアイテムを探し求めたこともあった。だから、これは『その程度』なのだ。

 そう自分を鼓舞するよう拳をギュっと握りしめながら呟き。

 今日も今日とて、わたしはあてもなく冥界を往く。



 冥界においても、やはりダンジョンは素材の宝庫と言える。ダンジョン核とは魔石のことであり、魔石がダンジョン核に成るほどであれば周辺の……魔力濃度とでも称しようか、それが濃いことになる。魔力が豊富な良質……とは限らないけれども、素材採取が出来るので積極的に攻略していきたい場所だ。

 現世でも周辺の安全確保のために出来るだけ攻略していったけれどもね。あと素材……うん、やってることが同じだね……?


 空が存在しない、ある意味地下のような冥界の更に地下に潜る。明かりは点けず、暗視ゴーグル頼りだ。そしてこちらはいつものように分かれ道でブロック状に壁をくり抜いて目印としていく。

 上下左右三メートル程度の洞窟はやや下り坂で先へと続いている。地上に比べて肌寒い。水がどこかで湧いているのか足元はぬかるみ、空気が湿り気を帯びて余計に寒く感じる。毒は混じっていないようだけれども、腐臭が漂ってくるのも嫌なところだ。


 ――っと。前方で蠢く影が見えた。黒と思われる体毛に長い耳と額に角を生やしたウサギ型モンスター、コラプスラビットだ。地面に染み出した水を飲むためにペロペロと舌を動かしている。

 傍から見てると少しばかり可愛いような気がしないでもないけれど、ほんわかと眺めているわけにも、見逃して通り過ぎるわけにもいかない。なにせヤツらの角と牙には腐敗コラプス効果があり、攻撃を受けると耐久値がごっそりと減ってしまうのだ。あとヤツら自身もアンデッド……つまり腐ってて臭い。

 先手必勝、気付かれる前に矢を放ち、叫び声を上げさせる間もなく倒す。


 グルルルルッ


 ……くそ、視界外に他にも居たか。目の前で仲間がやられたことにより逃げるでもなく唸り声を上げ、怒ることでほんのりと光り出す赤い目を一斉にこちらへと向けてくる。暗闇に浮かぶいくつもの目はちょっとホラーだ。

 しかし、光ると言うことは目印になると言うことでもある。わたしは続けて矢を放ち、半数を撃ち抜いた。

 残るは五匹はウサギらしい脚力を活かし、素早く一直線に向かってくる――かと思いきや。ある者は壁を、ある者は天井を蹴りつけ、左右上空様々な方向から飛び掛かってくる。


「けど、そんなもの喰らうか!」


 わたしは安定の石ブロックを取り出し、すり抜ける間もないくらいにみっちりと前方を塞ぐことで即席の盾とした。さしもの機動力も中空では進路変更することは出来ず、唐突に現れた石ブロックに次々にぶつかっていく。そして一部石ブロックを収納し、頭を打って落ちていたり、はたまた角が刺さって抜けなくなっていたりするコラプスラビットたちを順番に倒していくのだった。

 ……角に穿たれた石ブロックが一撃でボロボロになってる。まともに喰らったら危なかったな、これは。



「うぅ……臭い……」


 どうやら腐臭はコラプスラビットのせいではなかったようだ。洞窟を奥に、下に進むにつれて少しずつ臭いがキツくなってきている。

 通路のサイズも少しずつ大きくなってきており、今では上下左右十メートルくらいはある。その分モンスターも増え、天井から雫を装ってコラプススライムが垂れ落ちてきたり、壁に張り付いていたヒュージコックローチ(ごきぶり)が大量に飛んできた時にはもう全て投げ打って帰りたくなったものだ。肉体的な疲労は大丈夫だけど、精神ダメージが半端なく大きい。……うっ、思い出しただけで鳥肌が。

 これだけ空間が広がっているのに臭いが増しているのなら、奥に潜むガーディアンは十中八九アンデッドモンスターだろう。……アイロ村の件を思い出してわたしは鼻だけでなく口元も歪めた。


「……む?」


 足元からゴゴ――と振動が伝わり、わたしは足を止めてしゃがみこみ、地面に手を触れる。また揺れた。この先に大型もしくは大量のモンスターが居るのだろう。場合によっては戦闘中かもしれない。迂闊に踏み込まないよう壁に手を添えてそろりそろりと近付いていく。

 指先に何かヌメっとした感触がして確認すると……スティンクスラグ(なめくじ)が這っていて思わず叫び声をあげるところだった。反射的に聖水をぶっかけてしまい(塩水じゃなくても効くんです)、無駄に聖属性アイテムを使用してしまったことを反省する。


 ……気を取り直して。今度は壁沿いではあるけれど触れないようにしながら歩みを再開する。徐々に音が大きくなってきた。間断なく上がる音と咆哮……これは確実に戦闘中だな。それも獣系のモンスターか。

 そして……徐々に明るくなってきた。暗視ゴーグルが不要になるほどだ。最初はヒカリゴケ系のモノが大量繁茂してるのかと思ったけれど、派手な音がしているしモンスターが火魔法でも使って戦っているのかもしれない。魔法を使われるのは厄介だ。モンスターを強化させることになるかもしれないけれど、しばし待って決着が付いた後に疲労しているところを狙った方がいいかもしれないな。

 などと思っていたのだが。


「――――!!」


「――えっ」


 耳に届いたそれ(・・)にしばし呆然とし。

 ハッと我に返って慌てて、バレないように隠れながらも戦場を覗き込む。


 大きく開けた空間にて。視界に映るのは、片やオルトロスゾンビ。二つの頭を持つ巨大な狼型アンデッドモンスター。

 片や――周囲に光球を乱舞させ。自身も燐光を帯び。身の丈ほどの大剣を振るう――


「はああああああっ!!」


 わたしと同世代くらいに見える、少女ヒトだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >なめくじが這っていて思わず叫び声をあげるところだった。反射的に聖水をぶっかけてしまい(塩水じゃなくても効くんです)  なめくじに塩が効くのは、塩に水分を吸いとられて体内の水分が無くなって…
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