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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠
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疑惑の眼差し再び

「……では、明日になったらまた迎えにクル」


 ヘリオスはすぐにでも解決してほしそうだったけれども、使用したアイテムの補充をしておきたい、と明日にまで延ばしてもらった。

 そして先の言葉を最後に帰って行ったのだけど……迎えに来るって……もしや乗せてくれるのだろうか? だとしたら行程が大幅短縮出来て非常にありがたい。道中で創造神の像が設置出来なかったし、また踏破するのは怠かったから渡りに船だ。……まぁ、緊急避難の切っ掛けを作ったのもヘリオスだけどそれはさておき。


 さて、明日に向けてアイテム作っていくかー、と伸びをしながら振り返ると。

 すっかり存在を忘れかけていたバークベルク村のヒトたちから、様々な色の視線を向けられていることにやっと気付いた。

 どうしたものかまごまごとしているうちに、村のまとめ役の一人である老ドワーフ――髭が真っ白だし顔に皺があるしで年を取っていることはさすがにわかる――から声を掛けられる。


「神子様……あのモンスターの言うことを信じるのですか……?」


 見回してみると、大体みんな同じ意見のようだ。


「危険です、罠に決まっています……!」

「こうやって連れ出す手口……もしやあのモンスターはいつかの偽神子の手下なのでは?」


 それもそうか。基本的にモンスターは倒すべき敵なのだ。敵の持ちかけてきた話なんて、罠だと思われても仕方がないだろう。

 でも……わたしからすれば、ヘリオスは『敵ではない』。そうは思えなかった。

 実は罠なのでは?と心配する気持ちが全くないわけでもないけど、その確率は限りなく低いだろう。

 それくらいわたしには……ヘリオスの瞳は、誠実に見えたのだ。

 ……などと言う感想を馬鹿正直に口に出すことはせず、それ以外のもっともらしいことを述べてみる。


「確かに、あなたたちからすれば彼の偽神子を彷彿とさせて不安になることでしょう。けれど……あの火竜がわたしを罠に嵌めてどうするんです?」

「どう、って……神子様を殺すのでは?」

「だとしたら罠に嵌める必要もなく、真正面から叩き潰す方が早くありません? それくらいの強さは持ち合わせていますよ?」


 ヘリオスのブレスはまともに喰らえばわたしなんぞ一瞬で灰になるだろう。わざわざ罠に嵌めるなんてまどろっこしすぎる。


「キマイラの実験台のために生け捕りにしたい、とか……」

「仮に偽神子が実験台を欲しているとして、こうしてあなたたちに怪しまれるだけのモンスターを使いに出すでしょうか?」


 普通であれば彼らのように罠だと判断するだろう。つまり、余計な疑惑を生んで連れ出せなくなる確率が高くなるだけなのだ。マイナスでしかない要素をわざわざ使用するメリットがない。

 そんなわたしのひねりだした理由に渋々ながらも納得してくれたかと思えば、今度は別方向から疑問――疑惑が投げられる。


「仮に、罠ではないと神子様は判断したとして……モンスターと取引をするなんて一体どういうことなんで?」


 『それが何か?』と答えようとして口を噤む。

 何やら……村人さんたちの雲行きが怪しくなってきたからだ。空気が悪くなった理由に思い至り顔を覆いたくなる。

 これまでは紛れもなく『わたしの心配をして』あれこれと口を挟んできてくれていた。

 けれども、罠ではないかもしれないと思わせてしまったことで『モンスターと取引をした』と言うこと自体に目が向くようになってしまった。

 そしてそれは……彼らに取って歓迎すべきことではない、もっと強く言ってしまえば忌むべきことだった。


「モンスターに利することを、何故やるので?」

「えぇと……そもそもキマイラの発生原因の解決のために動くことは決まっていましたけど?」

「だ、だとしても、突っぱねるべきで、受け入れるべきではありませんでした」

「やるのが決まってることに対して報酬が増えるのだから、お得ですよね……?」


 わたしが困ったように首を傾げると、業を煮やしたある村人が激昂する。


「そんなの! あいつを殺して手に入れりゃいいじゃないですかい!」

「――っ」


 反射的に叫び返しそうになってグッとこらえた。

 モンスターを殺して素材を得る。

 そう、それはアステリアでは当たり前のことなのだ。わたしが、何度も何度も繰り返し、飽きることなくやってきたことなのだ。

 むしろわたしの方が、『意思疎通が出来るから』なんて理由で尻込みする方が、おかしいのだ。

 散々モンスターを手に掛けておいて、今更躊躇うのが、異端なのだ。

 それでも、それでもわたしは……その線を、踏み越えることは出来なかった。

 荒れ狂いそうになる感情をなんとか飲み干し、今にも震えそうになる声を抑えて、何てことないように装って回答する。


「あなたたちは、アレに勝てると思うのですか?」

「……え」

「誰一人死ぬことなく、倒してのけることが出来るのですか? それはすごいですね! 未熟なわたしには全然出来そうにありません!」


 あえて無邪気に、尊敬を籠めて褒めると、『殺せ』と言い出した村人さんは気まずそうに目を逸らしてしまった。

 ……なんだ。本当に倒せるのならその強さに対しては本物の尊敬を向けたけれども、口だけか。まぁそうだとは思ってたけどね。

 それとも何か? わたしに倒させるつもりだったのかな? ……わたしを殺したいのかなウフフ?

 全然出来そうにないと言うのは冗談ではない。ウルが互角?に戦っていたから出来なくはないかもしれないけれど、あのブレスは危険すぎてほんのちょっとのミスが、いやミスらしいミスをしていなかったとしても命取りになりうる。そんな危険な橋を渡る気などさらさらない。


「……と言うことでまぁ、安全に素材を得られるのは貴重ですよね?」

「だ、だったら……あいつが油断しているところを倒しちまえば――」

「モンスターが相手なら協力の約束を破って襲い掛かってもいいと? あなたがやるのは勝手ですが、そんな鬼畜な所業をわたしにやらせようとしないでくださいね?」


 ……おっと。咄嗟の怒りが制御出来ずに食い気味で言ってしまった。だが反省はしない。

 絶句してしまった村人さんに追撃することはせず、内心で深呼吸をして気持ちを鎮める。


「……少なくとも、火竜がわたしを襲わない限りそんなことはする気は一切ありませんので」


 相手が誰であろうと約束は約束だ。わたしから破ることはない。

 のだけれど……どうやら村人さんたちにとっては悪人と交わした約束のようなもので、到底納得いかないもので。誰も彼もがわたしに対して『ありえない』と訴えている。ヘリオスに親しい誰かを殺されたとかなら心情的にわからないでもないけど、そのような気配もなく、ただ『モンスターだから』と言う理由で拒絶をしている。いやまぁ、不特定のモンスターに誰かが殺されたことくらいはありそうだから、拒絶するのも仕方がないのか。

 そこでわたしは彼らを納得させるのを諦めた。その必要もない。今後彼らから協力は得られなくなるのは残念だけど必須でもない。

 言い換えると見切りを付けたとも言う。たとえ自分勝手と言われようと、わたしはわたしを否定してくるヒト相手に優しく出来るような博愛精神の持ち主ではない。生きていけないレベルならともかく、現状でもやっていけているようだしね。彼らの最大の悩み事であるモンスターの大量発生+キマイラを解決するだけで十分でしょう。

 大きく息を吐き、会話を打ち切る。


「……火竜がここに迎えに来るので明日の朝にもう一度訪問します。それだけはご寛恕ください」


 それ以上世話になる気も、それ以降世話をする気もない。

 そう言外に告げて、帰還石を取り出し――使用する直前に、待ったがかかる。

 声の主はウェルグスさんだった。


「おう、神子様よう。あんたに請け負った武器の修理はそんな早く終わらねぇんだわ。後でまた顔を出してくれよ」


 武器の修理? そんなこと頼んでないんだけど――と言おうとして留まる。

 これは彼からの『後で話がしたい』というメッセージなのだ。おそらく、武器に関わることであればバーグベルグ村のヒトたちは無下に出来ないと踏んでのことだろう。

 一応、先ほどのやりとりの間、ウェルグスさんからは否定の言葉はなかった。だから話を聞いてみてもいいかな、って。それでもひょっとしたら恨み言をぶつけられるかもしれないけれど……その時は付き合う義理も義務もないので逃げよう。


 わたしは了承し、今度こそ帰還石を利用して拠点うちへと帰るのだった。

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[一言] >「確かに、あなたたちからすれば彼の偽神子を彷彿とさせて不安になることでしょう。けれど……あの火竜がわたしを罠に嵌めてどうするんです?」 フリッカ「人里に居られないようにして、拠点で私と二…
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