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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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更なる脅威

 火竜ヘリオス。

 文字通り火属性の竜で、バカ高い火力を誇る竜だ。

 トカゲに似た形状をしているので立体的な機動はゼピュロスには劣るが、小さめながらも翼が生えており短時間なら飛翔が可能となっている。そして風竜なら風でスピードを増すのに対し、火竜は爆風でスピードを増すので、短距離なら火竜の方が移動が早いくらいだ。

 近距離においてはその四肢と纏う炎で、中距離においては口から火炎放射のようなブレスを吐いてくるので、倒すにはそのどちらにも対応策を用意しなければならない。水属性に弱く防御力が低めなので、プレイヤーたちは水属性攻撃を用いた短期決戦に臨むことが多かった。わたしもその口だ。


 ヘリオスは位置的には風の四竜と同格で、つまりはボスクラスの強敵と言うことだ。

 わたしたちはすでにゼピュロスを撃破しているので今回も大丈夫だろう、って? そんなわけがない。

 ゼピュロスは瘴気に蝕まれすぎてパワーアップどころか大幅な弱体化をしていたのだ。最大の武器である翼をもがれ、風も視認しやすくなっていて、その体も死の寸前にまで追いやられ、更には弱点に聖属性が増えて。わたしたちが勝てたのは幸運が重なったことが大きい。

 では一方のヘリオスはどうだろうか。ザっと確認したところ、いっそ綺麗とさえ言える炎は纏っていても瘴気の影響を受けているようには到底見えず、非常に元気そうに見える。

 わたしがヘリオスに気付いたように、わたしたちに気付いたヘリオスはその大きな口を開き、喉の奥に炎を浮かべ――ってヤバ!! ブレス攻撃が来る!


「させるわけがなかろう!!」


 グワッ!!?


 防壁用石ブロックを取り出す寸前、横からカッ飛んできたウルがヘリオスの横っ面を殴りつけてブレスをキャンセルさせた。

 わたしはあのヘリオスの巨体が飛んでいったことよりも――ウルの攻撃だとよくあることなので感覚が麻痺しているかもしれない――ウルが姿を現したことに歓喜の声を上げる。


「ウル! 無事で――いや、無事じゃなさそう!?」

「ポーションは使った! 問題ない!」


 ウルの体はいつも通り無事なようには全く見えなかった。

 体の一部を失っている、とかはなく五体満足であるけれど、服は焼け焦げ肌が露出している。白かった肌も今は血と火傷で赤くなっている。声に張りはあるし受け答えを信じるならそこまで問題ではないようだが、ウルが血を流すのはレアなことなのでヘリオスの攻撃力の高さは現実アステリアでも脅威的だと再確認することになった。


「くっ、この! ちょこまかと!」


 ウルはヘリオスに追撃をかけるが、先ほどの不意打ちとは異なりヘリオスは右に左に後ろに跳び、巨体ながらもウルの攻撃を巧みに避ける。攻撃の何発かは当たっているがクリーンヒットがなく、大したダメージを負わせることが出来ないでいる。


 ガアアッ!


「そんな攻撃が当たるか!」


 逆にウルもヘリオスの爪はしっかりと避け、当たる気配はない。ウルが小柄と言うのもあるが、ヘリオスの攻撃はわたしでも何とか見えるレベルでそこまで早くもない。実際に目の前にして避けられるか?と問われれば多分無理だけど。

 このまま一進一退の攻防が繰り広げられるか、と一瞬思ったが、そう上手くはいかない。

 ウルになくてヘリオスにあるもの……そう、炎だ。

 ブレス攻撃は溜めがあるため放てない――ウルがさせないようにしているけれど、そうでなくても常時その体躯から吹き上がる炎がウルを焼いているのだ。わたしだったらとっくに焼け焦げている炎にもウルは耐性があるようで大きなダメージはなさそうだけど、少しずつだろうとダメージは蓄積しているはずだ。付け加えるとヘリオスを殴りつける拳が、ヘリオスの攻撃を受け流す手や足が、ヘリオスの身に触れるたびに炎に触れることになる。武器を持たないウルには相性が悪い相手だ。

 ……わたしが未熟でちゃんとしたアイテムが作ってあげられないせいで……!


 いや、そんな何のプラスにもならない後悔は後だ。それよりもボケっと傍観していないでウルを援護しようと立ち上がったところ――


 ゴゴゴゴゴゴゴ――


「うわっ!?」


 またも地面が揺れて尻もちをついてしまう。

 最初はヘリオスの攻撃のせいかと思ってたけど……今ヘリオスはウルと戦っており、大技は使用していない。この揺れは別の要因なのか……?


「……ぬぅ!?」


 ヘリオスと近接戦闘を行っていたウルが呻き声をあげ大きく後ろに跳んで距離を取る。ブレス攻撃をされてしまうのでヘリオス相手に距離を取るのは愚策のように見えるけれども……想像は外れてヘリオスは攻撃をせず、それどころかウルもヘリオスも頭上に視線を向けた。

 上に何かがある? ……この揺れと何か関係が? 見に行こうにも迂闊に外に出たらヘリオスにターゲッティングされそうで躊躇をする。

 しかし外に出るまでもなく答えを得ることになった。


 ボトボトボト!! と大量に別のモンスターが落ちてきたのだ。


 そのモンスターは、一体何なのかわたしにはよくわからなかった。

 あえて言えば、先日戦ったばかりの肉スライムに近い。それが人型を形作り、肉ゴーレムとでも言えばいいのだろうか。大きさは数十センチから二メートル弱までまちまちであるが、皆一様に顔はなく、体を構成する肉っぽいものもでろでろと滴っている。……それがヘリオスの炎で焼けて気持ち悪い臭いを撒き散らしており吐きそうだ。


「新手か!?」

「くそ、気色悪いのばかりだなここは!」

「ひえぇ……」


 新手のモンスターの出現に、ウルとヘリオスの戦いを呆然と眺めていた三人衆は泡を食って武器を構えて迎撃をする。

 フレイムアントたちはヘリオスの攻撃で全部焼けていたがそれを上回りそうな数であり、あの肉ゴーレムの攻撃手段も弱点も何もかもわからないことで脅威度は更に上がったかもしれない。ヘリオスだけでも厄介だと言うのに……!


「リオン様……何か様子がおかしくありませんか?」

「えっ?」

「あの火竜の動きが……」


 肉ゴーレムは主にヘリオスとウルに向けて襲い掛かっている。あとわたしたちの方にも少し。単純に目の前に存在するモノに優先して襲い掛かる性質でも持っているのだろうか。

 モンスター同士で戦うことはそう珍しいことではないのだが――


「ヘリオスが、積極的に肉ゴーレムを倒している……?」


 そう、ウルそっちのけでとにかく肉ゴーレムを焼き回っているのだ。単なる偶然ではない。ウルが肉ゴーレムとの戦闘の立ち回りでヘリオスのすぐ脇を通ったのだが、ヘリオスはウルに目線をくれただけで無視をした。先ほどまで戦っていた敵同士であったはずなのに、だ。

 おまけにヘリオスは、ウルと戦っていた時よりも……何と言うか、感情が、籠もっているような気がする。


 まるで、憎んでいるかのような――


 ゴゴゴゴッ!


 そのタイミングでまたも地面が揺れ、頭上からまた肉ゴーレムが落ちてきた。ちょっと増えすぎじゃないですかね!?

 ……けれど、それはチャンスでもあるかもしれない。ヘリオスの気が完全にわたしたちから逸れているのだ。ヘリオスがわたしたちにヘイトを向けていたらとてもじゃないけれど余裕がなくて出来なかったことが、今なら出来る。


「ウル! 撤退しよう!」

「……リオンっ?」

「いくら何でも敵が多すぎる! この揺れも気になるし……ここを離れて態勢を立て直そう!」


 ウルは肉ゴーレムを蹴散らしながらヘリオスをチラと見てから、わたしたちの方へ文字通りの肉壁を掻き分けてやって来る。

 よし、と帰還石を取り出したところ、ウルに手を止められてしまった。


「……ウル?」

「帰る前に……あの肉塊どもを減らせぬか?」

「出来るけど……」


 わたしとしては、このままヘリオスと肉ゴーレムたちが相打ちになってほしかったのだが……そんなことをしてしまうと確実にヘリオスが勝つ。まぁわたしが手を出さなくてもヘリオスが勝つだろうけれど、それでも出来るだけ消耗させておきたいと言う思いがあった。

 あった、のだが……ウルの真剣な瞳をしたお願いに、わたしは理由を聞くのを後回しにして頷いた。


「行け! ブラストボール!」


 わたしはフリージングブラストボールの火属性版――と言うより元々こっちが本家――を肉ゴーレムたちの中心に投げ込んだ。火属性ならばヘリオスへの影響は少ないだろうと思っての選択肢だ。


 ドオオオオオン!!


 強力な炎が撒き散らされて肉ゴーレムたちを焼いていく。ヘリオスのブレスには到底及ばないが、肉ゴーレムたち相手ではそれで十分だった。

 わたしはその光景を眺めながら、ウルに状況が呑み込めず目を白黒させている三人衆の服を握ってもらい、フリッカはウルとわたしの服を握り、全員が何かしら繋がっていることを確認してから帰還石を使用した。


 最後に、ヘリオスと目が合った気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言]  完全にクエストが発行されてますね。 調査:ヘリオス(和名:太陽くん)が肉スライムを攻撃する理由を調査せよ!  がはじまって、調査中にクエストが変更。 討伐:肉スライムの発生源を叩け!…
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