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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間四
222/515

三度アイロ村へ

 腕も治っているしのんびりも出来たし、久々にアイロ村の様子でも見に行こうかな。

 などと思い立って、ウルとフリッカを連れて帰還石でアイロ村へと移動する。もうバレてるので自重はしない。この能力を利用してやろう、ってのが透けて見えたら二度と来なければいいだけだし? カミルさんの処分はされないことが決まったから、ぶっちゃけ放っておいても何も問題はないんじゃないかな。

 ……と言うのはまぁ、私欲で言われた時くらいで。


「住人の輸送……ですか?」

「……あぁ、こんなことを頼むのは申し訳ないとは思うんだが……」


 カミルさんに「ランガたちの村に行って、住人の保護とアイロ村への輸送をしてくれないだろうか」とお願いをされたのだ。


 わたしたちが拠点うちに帰っている間に、カミルさんたちアイロ村側の住人と、ランガさんヨークさんを始めとする対アイロ村連合――近くに潜んでいたヒトたちも合流していた――との話し合いが行われた。

 会って早々は一触即発の空気になったが、カミルさんが『とにかく自分が悪い』と非を認めたことでアイロ村の住人たちは強く出ることが出来ず、連合のヒトたちは一気呵成に責め立てる。ヒートアップして多少の流血が発生したところでカミルさんが土下座をし、神子がそこまでしたことで連合のヒトたちも頭が冷えて話を聞く気になった。なんだかんだで創造神への信仰はあるのね。

 そして、ランガさん(貫禄があると思ってたけど、皆のリーダーだったようだ)と牢に捕まっていたリザードさんの事情説明により、同情組とそれでも許せない組に分かれる。しかし後者であっても首謀者たちはほぼ死んでいるので振り上げた拳のやり場に困り、かと言って誰彼構わず復讐をしては矜持が傷付くと葛藤をし。

 色々ありつつ最終的には『出来得る限りの便宜を図る』に話が落ち着いたそうだ。外野のわたしからしてもそれが妥当だと思うよ。


 その一環として、今も過酷な地に住み続けるランガさんたちの同胞をアイロ村に住まわせることにした。しばらくは大小の摩擦が起こるだろうけどそれも覚悟の上だ。

 連れて来るにしてもそこそこの人数が居るのできっちり計画をしなければならない。砂漠の移動になるのでなおさらだ。その話し合いをしている時にちょうどわたしが来たので、白羽の矢が立ったとさ。

 わたしとてヒト助けのために力を使うのはやぶさかではないし、これくらいならお安い御用ですよ。



「ではランガさん、道案内をお願いしますね」

「……神子リオンには何度も世話を掛けてすまない」

「まぁ、主に世話をするのはウルになりますが」

「……?」


 わたしたちはランガさんを連れて移動することになった。連合のヒトたち全員じゃないのは悠長に時間を掛けたくなかったからだ。どうせトンボ返りすることになるから連れて行っても無駄だし。水神の件もあって道中に一度か二度は拠点に帰ることになるので、既に知っている相手の方が都合が良いと思ったのもある。なお、ヨークさんを選ばなかったのは、ランガさんの方が移住の説得をしやすいからである。『憎き人間ヒューマンの村に移住するなんて……』と渋るヒトが出て来そうだからね……。

 あと、フリッカにも一旦帰ってもらっている。少しでも重量を減らしたかったのだ。……彼女が重いとかそう言うわけではないからね? 少しだけ渋っていたけど、移動手段を説明したら顔色を変えて頷いていた。


「それで、神子リオンよ。ラクダを借りなくてよかったのか?」

「ラクダより早い移動手段がありますので」


 首を傾げるランガさんを後目に、わたしはソリを出して乗り込む。ランガさんは「???」って反応をしているけど、すぐにわかりますよフフフ……。


「じゃあウル、お願いね」

「任された。ほら、ランガも早く乗るがよい」

「ちょ、ちょっと待て、まさか――」


 ウルは戸惑うランガさんを無理矢理ソリに押し込んで落下防止バー(追加した)をセット、言い終えるのを待たずにソリを引いて走り出す。

 ちなみに、前述の通り時間を掛けたくなかったので可能な限り早くとオーダーしている。

 つまり。


「ヌオオオオオオオオッ!???」


 わたしは、大の大人リザードの悲鳴を聞かなかったフリをした。



「あ、ランガだ!」

「よく帰ってきてくれた!」

「……随分と疲れているようだが、そんなに厳しい戦いだったのか? ……他のメンバーが居ないのはまさか……」

「……いや、この疲れは別件だ。皆は元気にやっている」


 げっそり、顔色のわかりにくいリザードであってもすぐにわかるくらいに疲労をにじませたランガさんが村人たちに囲まれていた。

 普通に移動をすると大体五・六日くらいかかる距離だろうか。それを二日にまで短縮する速度で爆走してきたのだから、慣れてないヒトは酔っても仕方がない。……その距離を走り続けたウルの体力はマジパネェです。もちろん休憩は挟んでいたけれども、それにしたって底なしだ。羨ましい。


「それで、後ろの二人は? 片方はランガと同じリザードのようだが……新たな同胞か?」

「違う。それも含めて全て説明するので、皆集まって聞いてほしい」


 そうして広場に集められた、残っていた村人は四十人ほどか。戦えない子どもと老人、それから最低限の戦闘要員で構成されていた。

 種族はバラバラで、リザードにマーマン、マーメイドなど鱗人スケイル系だけでなく、エルフや獣人ビーストに、珍しいところでは小人グラスランナーも居てわたしもアステリアでは初めて見た。

 ボロボロで何度も補強した跡が見られる柵。同じくボロボロの石組の建物はちょっと突けば壊れてしまいそう。着ている服は穴が空いていたり擦り切れていたり。そして皆一様に痩せ気味で、大半が目に覇気がない。

 ……よくもまぁこんな状態でアイロ村襲撃人員を捻出したものだなぁ。仲間を大事にすると言えば聞こえはいいけど、残った人員に負担を掛けるのは何とも……いや、部外者が言える立場にないな。彼らには彼らの引けない事情があったのだろう。

 大人の陰に隠れてこちらを覗き込んでいたマーマンの子ども(女の子だったらマーメイドだけど)と目が合った。小さく手を振ったらササっと背に隠れられてしまい、苦笑をしつつやり場のない手を下げる。わたしの見た目が人間ヒューマンだからだろう、訝し気な視線がわたしに向けていくつも注がれている。ここは逆にウルの方が怖がられない、珍しい場所だ。

 少しでもわたしへの警戒心を解いてもらって円滑に進められるよう……と言うのもあるけれど、あまりに空気が重かったのでランガさんに提案をする。


「えぇと、食料を配りましょうか?」

「……ありがたいが、そんなにあるのか?」

「スキルレベル上げやってたら大量に溜まるんですよね……むしろ賞味期限たいきゅうちが切れて腐らせるだけなので食べてほしいくらいです」

「…………そうか」


 あ、これ呆れられてる。そりゃ、食うに困るヒトたちの前で腐らせる発言なんてしたらひどい当て擦りか。気を付けよう。なお、実際に腐ったら肥料に変換するので廃棄物を量産しているわけでもないよ……?

 村人さんたちの前に大量の食料を出していく。しかし、子どもたちはわかりやすく目を輝かせるものの、大人も含めて誰一人手を伸ばそうとしない。

 明らかに警戒されていたが、ランガさんの説明で劇的な変化を見せる。


「まずは紹介しておいた方が良さそうだな。この娘は人間ヒューマンだが神子だ。警戒しなくていい」

「どうも、創造神の神子をやってるリオンです。隣の子はウル。貴方たちに変なことをする気は全くないので、まずは食べてほしいです」


 正確には人間ヒューマンではないけど、どうでもいい突っ込みはしないでおく。

 一度は顔を引っ込めた子が再び出て来て目を丸くしてこちらを見詰めてくる。わたしが笑顔で『どうぞ』と促すと、子どもは恐る恐るパンに手を伸ばし、ゆっくりと口に運んだ。


「……おいしい」


 小さな声だったけれど、シンとしていたため全員の耳に届いたことだろう。

 一人、また一人と手を伸ばし、あっという間に喧噪に包まれたのだった。ふふふ、たくさん食べると良いよ。


「リオンよ、随分と嬉しそうであるな」

「自分の作ったモノで喜んでもらえるのは、わたしも嬉しくなることだからね」


 わたしの回答にウルは「そうであるか」と軽く笑い、ご飯に手を伸ばす。きみもずっと走り続けていたし、ぜひとも英気を養ってほしい。

 ふと視線を感じて振り向くと、ランガさんがぼんやりとわたしを見ていた。


「ランガさん、どうかしましたか?」

「いや……昔、神子カミルが似たようなことを言っていたのを思い出してな……」

「あぁ」


 一致に不思議そうな声色をしているが、別に不思議でもなんでもない話だ。

 何故なら。


「だって、それが神子ですから」


「――…………そうか」


 つい先ほど聞いたセリフと全く同じセリフ。

 しかしそこには呆れでなく、感慨深いものが混じっているように感じた。



 ご飯だけでなく、怪我をしているヒトにはLPポーションを、状態異常に掛かっていたヒトには各種治療薬をあげて。皆に新しい服をあげて。……服なんてそこまで消耗する物じゃないから、裁縫スキルレベルを上げるために作ってたら料理以上に溜まって困ってたのよね、などとは言わない。学習した。

 ヒトが余裕を持つには衣食住が満たされている必要がある。そのうちの衣食と肉体的なモノはこれで何とかなっただろう。残る住はカミルさんに任せて、精神的なモノは時間を掛けてゆっくりと癒してほしい。


「生活に必要な物はアイロ村に着いたらわたしかカミルさんが作成するので全部持って行く必要はないです。どうしても置いて行きたくない物だけこれに詰めていってくださいね」


 わたしは移住準備を始めたヒトたちにインナーボックスを渡した。これはアイテムボックスの中に入れられるアイテム収納箱であり、取り出すのに一手間掛かるようになるけど単純に持てるアイテムの数が増えるので中盤以降では重宝する代物だ。当然ながらインナーボックスの中にインナーボックスは入れることは出来ず、無限収納は不可能だ。


 案の定、アイロ村への移住に難を示すヒトは居たけれども、ランガさんの説得とわたしのフォローで全員移住することが決定した。

 話の途中でわたしに保護してもらうのは無理なのかと話が挙がったけれども……申し訳ないけどやんわりと断っておいた。創造神のために世界を巡らなければいけないと言えば納得はしてくれたけれども、本心ではわたしの居ない間に好き勝手されたくないからと思ってるあたり、この思考回路もそのうち何とかしなきゃいけないんだろうなぁ、と内心で溜息を吐く。

 基本的にこの世界(アステリア)のヒトたちは神様を信仰しており、主神である創造神の直属の神子相手に下手なことをするヒトは早々居ない。……のだけれども、カシム氏とその一派と言う最悪の事態に遭遇したばかりなのでどうしても警戒心が先立ってしまう。神様とドラゴン(ゼファー)が居るし、避難用にグロッソ村の帰還石を持たせているため非常時でも大丈夫な状態ではあるのに、それでも残して行くフィンが心配だし、イージャと言う保護対象こどもが増えたのだからなおさらね。

 他に居場所がないならともかく、神子が居ることでこの世界の中でも有数の安全な村に住めるのだからそこは呑んでほしい。


 待っている間は手持無沙汰であったので、創造神の像を設置した後はウルと雑談をしつつ適当にモノ作りをしていた。「だから物が溜まるのでは?」とウルに言われたけど、スキルレベルは上げるものなので……。

 子どもたちが興味深そうに見てきたので細工スキルで人形やらおもちゃやらを作ってあげたりもした。今後彼らもモノ作りに興味を持ってくれるといいな。

 そうして時間を過ごすこと一時間弱、思ったより早く移動準備が完了した。……単純に持ち物が少ないんだろうね。


「では少しずつ運ぶので適当に十人ずつぐらいでグループ作ってください」


 帰還石の転移可能人数と有効範囲はどのくらいなのだろう? と興味がもたげたけれども、アイロ村側の祭壇周辺のスペースの問題もあって検証は辞めておいた。大規模な輸送なんて今後はない……とか思ってるとフラグが立ちそうだな。ないことを祈ろう。

 念の為わたし一人でアイロ村に移動、転移スペースを空けてもらってすぐ戻り、そこから一グループずつ、五往復するだけで村人全員の移動は終了した。あっという間であった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  グラスランナー?  スカイウォーカーと対になってる?  なんか関係が有りそうと思わせる種族名ですな。 [一言] >生活に必要な物はアイロ村に着いたらわたしかカミルさんが作成するので…
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