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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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許せないモノ

「レグルス、リーゼ。きみたちに言っておかなければならないことがあるのだけれど」


 拠点の食堂にて、諸準備を開始する前にわたしは二人と向き合うべくテーブルへと着席を促した。

 ウルはなにも言われずともわたしの隣に静かに座る。


「お、おう?」

「……なんでしょう?」


 わたしの口調の硬さから深刻なことだと読み取ったのか、背筋を伸ばして聞く姿勢になる。


「レグルス。きみは、お父さんを救ってほしい、そう願ったけれども……ごめんなさい、わたしには無理」

「……っ!」


 わたしの宣告に、レグルスはヒュッと息を立てて飲み込んだ。

 『あの状態』を見て覚悟はしていたのか、想像していたほど取り乱しはしなかった。けれどもやはり、諦めきることまではできていなかったようで。


「……リオンは創造神サマの神子なんだろう……? こう、神サマの力で、なんとかならないのか……?」


 絞り出すように訴えてくるけれど、わたしは首を横に振るしかなかった。

 生き残りの住人が居るかもしれないと思ったのですぐに向かったけれども、彼のお父さんに関しては、キマイラになったという時点で無理だときちんと伝えておくべきだったのかもしれない。


「例えば、小麦粉と牛乳と卵があります」


 更に木のボウルを取り出し、「一体なにを?」と言いたげなレグルスとリーゼの前でかき混ぜ始める。


「あとは焼けばパンケーキになります。作成メイキング


 光のエフェクトとともに、ホカホカのパンケーキが出来上がる。余談であるが、フライパンがないので土鍋で作っているやつだ。

 焼くと言いつつスキルで作ったので焼いたと言っていいのかわからないけれどもそれはさておき。


「わたしはこうやってアイテムを作ります。けれども……混ぜた材料を、元の小麦粉と牛乳と卵に戻すことは不可能です」

「……」


 バラバラになった石や木をブロックにして再利用可能な状態にすることはできるけれども、変化してしまったものは戻すことができない。

 ……ひょっとしたら、くっ付いてしまった体をバラバラにして戻す薬とかあったりするのかもしれないけれども……少なくともわたしには無理だ。


「先に言わず、希望を持たせてしまったのなら……そこはごめんなさい。わたしの手落ちです」


 俯き、体をわずかに震わせるレグルスの表情を窺うことはできない。

 リーゼも沈痛な面持ちでわたしの方を見ようとしない。

 ここからわたしは、この二人を更にドン底に叩き込むようなことを伝えなければならない。

 それは。


「その上で、わたしは創造神の神子として……いや、創造神様の事情を抜きにしても、わたしはわたしの思想を以って、アレ・・の存在を許すことはできない」


 そう、あれは許せない。許してはいけない。

 あんな、『なにも生み出さない創造』を、許容することなど、絶対にできない。


「だから……倒す。きみたちが、なにを言おうとも」


「「――っ!!」」


 ガタッと椅子を蹴立てて立ち上がるレグルスと、バッと顔を上げてこちらを見つめてくるリーゼ。

 リーゼはまだ大丈夫そうだけど、レグルスがダメそうな気配だ。目を見開き、牙を見せるように歯を食いしばり、呼吸も荒くなってきている。

 フーッと聞こえてくる音が威嚇のようにも感じられ、今にも飛びかかってくるのではないかと緊張感が高まってきた。

 しかし爆発するより前に、ウルの言により抑えられることとなる。


「レグルス。ぬしは父親らがこれ以上堕ちることを望むのか?」

「な、に……?」

「当然だろう。あのキマイラは放っておけばどんどん被害者を増やすぞ。更なる被害者を望むのか? 更なる罪業を背負わせるのを望むのか?」


 気付いていなかったわけではないだろう。けれども目を逸らしていた事実を真正面から叩きつけられて、狼狽えを見せた。


「そも、自分が出来ないことを他人リオンに求め断られたことで怒るようなら、その怒りが消えてなくなるまで、泣いてゴメンナサイするまで我が相手してやるぞ?」

「いやいやいや、待って、待ってウル。かばってくれるのは嬉しいけど最後怖いから!」


 言葉でスマートに落ち着かせようという魂胆だと思ったら最後がめっちゃ力技!

 「そうか?」と不思議そうに言ってくるけど、きみの力だと一歩誤るとレグルスが死んでしまいそうですからね!


 うっかりと緊張感のない遣り取りをしたのが良かったのか、レグルスの気勢は削がれていったようだ。

 天を仰いで長く息を吐き、深呼吸を始める。頭を元に戻した時には、彼の目から険悪さは消えていた。

 そしてそのまま、わたしに向かって頭を下げる。


「……すまねぇ」

「うん、いいよ」

「ただ、それでもやっぱり一つ頼みがある」

「……なにかな?」


 なんとなく予測は付いてるけれどもね。


「キマイラ退治に、オレも参加させてくれ。父ちゃんたちの命は救えないかもしれないけれども……せめて魂は解放してやりたいんだ」


 拳を強く握りしめ、そう言い切った彼の瞳に宿るのは、純然たる決意だった。

 そんなレグルスの腕を掴み、リーゼが横から修正を入れる。


「ちょっとレグルスにい、そこはちゃんと『オレたち』って言ってくれないと」

「……わかってるのか? これは……仲間殺しだぞ?」


 レグルスの言葉に、わたしの胸の鼓動が激しく鳴った。

 膝の上でぎゅっと手を握り、沸き上がってきそうになるある感情を抑えている間にも二人の会話は進む。


「わかってるって言うか、レグルス兄が自分で言ったんじゃない。解放してあげたい、って」

「いやでも、アイツ、めっちゃ強そうだし……」

「それこそなにを言ってるの? あたしより弱いくせに」

「ちょ、おま、それはだな……!」


 えっ、そうなん?

 どう見てもレグルスの方が強そうなのに? いやでもウルだってこんな姿ナリしてめちゃくちゃ強いからなぁ……見た目で判断したらダメだね。

 あたふたしているレグルスを見ていたらわたしの肩の力もフッと抜けていき、思わず笑みを零す。


「と言うことで、あたしも一緒に行きます」

「まぁ……そうだね、決して無茶をしない、と約束してくれるならいいよ」

「おう!」「はい!」


 ぶっちゃけ、ひょっとしたらわたしが一番戦闘力低いからね……! アイテムブーストもできないし!


「話が丸く収まったところで、リオンよ」

「ん? なに?」


 声に振り向くと、今度はウルの目がやたらと真剣だ。なにか問題とかあったのだろうか?

 と、固唾を飲んで次の言葉を待っていたら。


「そのパンケーキは食べていいのか?」

「……アッハイ、どうぞ」


 そうですよね、おなかすきましたよね。

 人数分……いやわたし以外みんなよく食べるから、多くのパンケーキを用意して、早めの晩御飯と相成った。




 細かい話は明日することにして、レグルスとリーゼは先に休むと客室へと行った。食堂にはわたしとウルが残される。

 わたしは明日やることを脳内で色々リストアップしながらお茶を飲んでいたのだけれども……どうにも、まだ引っ掛かることがあって。


 ……そう、キマイラは確かにモンスターであるけれど……大部分は獣人ビーストたちが素となっている。

 つまりわたしは……初めて、モンスター(と食料)以外を手に掛けることになる。


 カタ、とカップを持つ手が震えた。


「リオンよ」

「……なに?」


 わたしはカップを見つめたまま、ウルの方に声だけで返す。

 顔を見せていない、わたしの内心も伝えていない。

 だと言うのに。


「我に任せてしまっても良いのだぞ?」


 ……どうして、そんなに、わたしの心を読んだかのように、言葉を掛けてくれるのだろうか。


 正直、「うん」と頷いてしまいたい。甘えてしまいたい。

 でも……それをしたら、ダメだ。

 わたし自身が決めたことを、自分でやらないでどうするのだ。


 体ごとウルの方へと振り向き、しっかりとわたしの意思を乗せて、キッパリと断言する。


「ウル……わたしはね、わたしにできないことをきみにお願いすることはあっても、わたしがやりたくないことをきみに放り投げる気はないよ」


「……そうか、リオンは真面目だな」


 からかうような声音であったけれども、彼女は柔らかい笑みを見せ。

 続けられた言葉で、わたしも同じように笑うのであった。


「では、一緒に、だな」

「……うん。一緒に、だね」

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