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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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醜い欲望と暴走

 もちろん壊滅させる気なんて皆無だ。

 ただ『アイロ村の精鋭たちを余裕で倒す戦力がこちらにはある』と証明しただけなのです。あちらがどうしても信じないようなので、すんごくわかりやすく。

 代償としてアイロ村の人たちにウルが怯えられるだろうけど……後でちゃんとウルのフォローしないとな。


「カシム氏は認めようとしませんが、わたしが襲われたことと牢の人たちの証言により罪があることは確定しています。貴方たちが何を言おうと、この事実が覆ることはありません」


 たとえどれだけ一方的であろうと押し通させてもらう。神子からすれば強権を発動するのも当然な、重大な過ちを犯されたのだ。

 と言うか証拠証拠とうるさいけれど、元の世界のような法治国家でもあるまいに、究極の話『そう疑われた』だけで断罪しようと思えば出来る。必要以上に敵を増やしたくないから付き合っていたけど、もう我慢の限界だ。それでも出来れば状況証拠だけで決定したくはなかったけれど……少なくとも偽証はほぼ確実なのだから、そこから引っ張っていくと考えよう。


「そして共犯者が居ることも明白です。でも素直に罪を認めるのであれば命を奪うまではしませんよ?」


 主犯格は死ぬまで牢屋暮らしでしょうけどね、とは心の中だけで付け足し、未だ水を打ったように静かなままの――雨音は少し大きくなっている――面々に向けて自首を促した。……カシム氏はともかく共犯に関してはわからないからね、自首に頼るしかないんです。

 強固に死を突き付ければ一か八かの特攻をしてきかねないけれども、赦しを見せることで戦意を削ぐことも込みだ。どうしても殺さなければ気が済まないわけでもなかったし、殺したところで過去が変わるわけでもないからね。被害者の一柱ひとりでもある水神の沙汰次第で変わるかもしれないけれど、その時は諦めてくださいとしか。


 只人には抗えない力を見せつけられたことにより、武器が一つ、また一つ地へと落とされていく。「認めるので命ばかりは……」と平伏をする村長派と思われる人も多い。関わってない村人はわたしとウルを怖がるのと、平伏する人に『何てことをしてくれたんだ!』と無言の非難をするの二つに分けられるかな。……うぅん、自分で招いておきながら気分が悪い。

 さて、肝心のカシム氏はどうなっただろう。本人の自白で罪が確定出来れば後腐れないんだけどな、と目を向けてみれば。

 しばらく放心をしていたが……わたしの視線に気付いたのか焦点が戻り、ポツリと、雨音に潰されそうなほどにか細く呟いた。


「……儂と、一体何が違うと言うのだ……」

「……はい?」


 唐突にワケのわからないことを言われ、間抜けな声で聞き返した。

 それでカシム氏の(身勝手な)憎悪に再び火が点いたのか、キッとわたしを睨み付け唾が飛ぶ勢いで怒鳴りつけてくる。


「儂は……そう、モノ作りとやらを研究していただけだ……! その行為が貴様とどう違うと言うのだ!」


 言うにことを欠いてモノ作りですかそうですか。

 『バカじゃないの?』って一蹴してやりたかったけど、自白に繋がりそうだったので我慢して呑み込む。

 誰からも止められないせいで、カシム氏はどんどんと吐き出していった。まるで呪いのように。


「何故だ、何故兄上が神子に選ばれたのだ……! 何故儂ではなかったのだ……!!」


 うん……? この人は神子になりたかったのか……? 実はそんなにモノ作りか創造神が好きだったの……?

 とほんの少しでも感心したわたしがバカだった。続けられる言葉に呆れしか返せない。


「結果、兄上はいつまでも若々しいままで、儂だけがこんなに醜く老いさらばえて!!」

「カ、カシム……?」


 わたしに向けられていた怒りが唐突にカミルさんにまで飛び火して呆然としている。

 ……いや、これは唐突ではないか。ずっと、ずっと溜め込まれていた不満だ。


 寿命。


 それはわたしが思う以上に、神子と、神子の周囲に断絶を生むものなのかもしれない。それが身近な人、家族であれば尚更に。

 まぁ一切擁護することはないけれども。


「確かに兄上はモノ作りを好んでいるが、儂の方が運営の力は優れていたのだ! 儂が神子だったらこの村をもっと富ませられた! 寿命もないので永遠に!」


 あの、そう言うところですよ?

 神子に必要なのは、運営力よりもモノ作りに対する熱意ですよ?

 あまりにも神子と言うものを理解していない言い分に頭痛を感じ、こめかみを揉み解しながら尋ねてみる。


「……で、村のために、高い意識を持っているアナタは、あの場所で一体何を作ろうとしていたのですかねぇ?」

「若さだ!」

「…………ハァ?」


 ワカサ……和歌さ、じゃないですよね……マジもんの若さですか……?

 ドン引きだ。ドン引きである。

 ……まぁ、不老不死を求めるだなんて創作によくある題材ではあるけれど……その過程が、あれ(・・)なの?


 目を瞑ると、今でも瞼の裏に浮かび上がる。

 たくさんの血。たくさんの死体。たくさんの恨み。たくさんの瘴気のろい――

 空気を思い出して震えそうになる。臭いを思い出して吐きそうになる。叫びを思い出して耳を塞ぎたくなる。地獄のような光景を思い出して……怒りが、再びこみ上げてくる。


 ギリ、と奥歯を噛み締め、手に持ったままの槍の柄を握り締め、わたしは、問うた。


「……そんなモノのために、あんなに多くの犠牲者を生み出したの……? 自分の子どもすら、殺したの……!?」

「そんなものとは何だ! 儂の命は重要だろう! 儂の……村のために非協力的な馬鹿者共など、生きていたところで無価値だ! 儂の血を引くならそれこそ儂のために死ぬべきだ! むしろ研究のための礎になったことを光栄に思うべきだろうよ!」


 自白を引き出せた、などと単純に喜ぶことは出来ない。

 どこまでも自分勝手な言い分にプッツンしそうになる寸前、次なる発言で一瞬頭が真っ白になる。


「これが、貴様ら神子のやっていることと何が違うと言うのだ!!」

「……!?」


 神子の、やっていること……だって……?

 わたしは思わずカミルさんを見る。が、カミルさんはカシム氏(おとうと)の暴露に混乱しておりそれどころではない。

 ……多分だけど、カミルさんが他者の命を犠牲にして何かおかしなモノを作っている、と言うわけでもなさそうだ。

 では一体何なのかと思えば……わたしの想像より遥かに、最低で……あまりにも、醜い。


「貴様だって他の生物を殺して素材にするだろう! ならば儂が役立たずの無能を殺して素材にして何が悪い!!」

「――」


 へぇ……ふぅん……そう、そうなんだ……。

 確かにわたしだって植物やら動物やらの命は奪っているよ。そこを美化するつもりはない。

 命を持つ生き物、と言う点ではヒトも動物かもね?

 文明とか、哲学とか、知能とか、そういったモノを考えなければ同じかもね?

 それともひょっとしてわたしが知らないだけで、このアステリアにおいては動物たちはヒトにも劣らない、ものすごいことをしているのかな?

 念の為皆に振り返って問い掛けてみるけど、全員が首を横に大きく振った。どうやらカシム氏が突き抜けてクズ……越えるべきでない一線を越えてしまっているだけで、わたしの考えすぎだったらしい。


「……つまり、アナタにとって、ヒトは、動物と同じだと言いたい、と?」

「あぁそうだ! むしろ神子である貴様こそ違うとは言わせないぞ!」


 すっかり興奮していて、カシム氏はわたしの声のトーンが低くなったことに気付かない。

 そしてなお、愚かな自説を押し付けようとしてくる。


 ――もう、これ以上は、だめだ。



「……アハハ、そうですね」


「「!!?」」



 わたしが肯定をしたことに周囲から驚愕が伝わってくる。

 カシム氏などは何を勘違いしたのか『ほらみろ!』と勝ち誇ったように歪んだ笑みを浮かべるが。

 すぐに、凍り付くことになる。



「だったらわたしが、無能どころか世界の害悪であるオマエを殺して素材にしても、何の問題もないよね?」



 ――カッ


 空にタイミングよく雷光が走る様は、まるでわたしの怒りが天まで届いたかのようだった。

 ゴロゴロと音が鳴り、雨音は激しさを増し。しかし逆に地上は静寂に満ちて。

 騒いでいたのはカシム氏だけなので、こいつがしゃべらなければそうなるのも当たり前だけれども。

 酸素に喘ぐように口をパクパクとさせ、やっと静かになったかと思えば、掠れた声でまた耳障りな雑音を立てて来る。


「なっ……なに、を……?」

「オマエの中ではヒトと動物は同じなんだろう? わたしが動物の命を奪って素材にするように、オマエを殺して素材にしても同じなんだろう?」

「そんな馬鹿な話が――」

「馬鹿な話をしているのはオマエだ! いい加減に黙れ!!」


 またも合わせたかのように雷音が響く。

 わたしが天候操作をしているわけではないし、そんな能力もあるわけがないのだが、他者の目にどう映っているかまでは判断出来ない。

 カシム氏の愚者であるからこその強気な態度が目に見えて鳴りを潜め、また怯えを現わし始めたことからも、わたしが雷を呼んだとでも思われているかもしれない。

 あぁ……そうか、口で言ってもわからない馬鹿は、こうして力で黙らせるしかなかったね。自白欲しさにいつまでも言葉を交わそうとしたわたしも馬鹿だったか。


 でもいいや、もう目的も達成したし。

 もう、要らないよね?


「ヒッ……」


 わたしが一歩足を踏み出すと、馬鹿は座り込んだ姿勢のまま無様に後ろに下がる。周囲に立ち竦んでいた村人たちの輪も一歩分大きくなった。

 もう一歩足を踏み出そうとしたところで。


「リオン、待て」


 ウルに腕を掴まれた。

 わたしは胡乱な目で捕まれた部分を見て、呟く。


「……わたしを、止める気?」

「……リオンが本当にあやつを素材にするとは思ってないぞ?」

「……そりゃまぁ、あんなの要らないからね」


 ウルは先ほどのわたしの言葉を脅しとわかっていたようだけれども、それでも引く気はないようだ。

 わたしの腕を掴む力を強め……けれども、決して痛くはない範囲で。

 その最大限に気を使っている様子に、わたしの頭に上っていた血が少し引いた。同時に、ウルの肩からも力が抜ける。

 それから、言葉を探すように口をもごもごとさせてから出てきた言葉に、わたしは首を傾げることになる。


「何と言うか……今のぬしからは、いつもと違う匂いがする。だから、ちょっと、待つのだ」

「……いつもと違う……?」


 だがしかし、ここでそれが何なのか判明することはなく、事態は転がっていく。

 もちろん、悪い方へと。


「……わ、儂は悪くない――正しいのだ……――られたことを、やっただけ――――ゴブッ!?」



 頭を抱えこみ、うずくまっていたカシム氏の背中が盛り上がった(・・・・・・・・・)



 ギギギギギギギギギッ!



 そして、背中が弾け(・・・・・)――黒い何かが、飛び出してきた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ああ。  このカシムへの怒りは、少し前までずっと引きずってたヒトを素材に~云々で、吹っ切れる……と言うかなんと言うか。  の為の儀式ですな。 >空にタイミングよく雷光が走る様は、まるで…
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