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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り
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小休止

 出来るだけのことはやった。後は時間に任せるしかない。

 経過観察は地神が請け負ってくれるとのことで、わたしも今日はもう休ませてもらうことに。ボス戦込みでずっと動き回っていたせいでさすがに疲れているしね。ポーションを使っても回復しない類のモノはいくらでもある。

 何度もあくびをしながら明かりが点いたままの食堂に訪れると、フリッカが一人、お茶を飲みながら待機していた。わたしに気が付き立ち上がったので手を振る。


「皆さん水神様のことを気にしていましたが、お休みになられました」

「フリッカも休んでて良かったのに」

「私はリオン様も気になりましたので。治療お疲れ様でした」

「……うん、ありがとう」


 フリッカが作ってくれた食事を食べながら、どのようなことをしていたかざっくりと説明をする。

 絶対とは言い切れないけれども、地神の落ち着いた様子からしても水神が死んでしまうことはほぼないだろう、と締めくくるとフリッカも安堵の息を漏らした。


「しかし……驚きですね。まさか神子様のお膝元でそのようなことになっていたとは。……創造神様を責めるわけではありませんが、何度も訪れていたでしょうにお気付きにならなかったのでしょうか……?」

「んー、創造神様って地下には弱いからね。付け加えると地上がカミルさんを始めアイロ村の面々の創造の力で溢れていたからこそ、それがフィルターになって余計に地下のことが見えなくなっていたのだろう、って」


 頭が痛そうに、苦虫を何匹も噛み潰したような顔で地神がそんな見解を述べていた。それはわたしも納得出来る回答だった。

 昼間は創造神の時間と呼ばれるが、正確には日の当たる時間・場所が創造神の力の及ぶ場所なのだ。夜はもちろん、昼間でも日の光の届かない場所には力が及ばず、だからこそ鬱蒼とした深い森や洞窟、地下やらがダンジョンが出来やすい環境となる。

 ……そう考えると、破壊神の方が影響力が強いことになるのかな。まぁ壊すのはすぐでも作り出すのには時間が掛かるし、そう言うものか?

 今回の件はただでさえ封印状態で神の力が察知しにくい上に更なる要因が重なった不幸な事故だろう。創造神どころかすぐ側に居た神子カミルさんにすら気付かれなかった水神にとってはたまったものじゃないだろうけどね。水神が目を覚まして状況を知った時にどう判断するかはわからないけど、わたしから創造神を責める気は毛頭ない。

 創造神を責める気はないけれど……故意だろうが偶然だろうが、明確な悪意を持って事態を悪化させた奴らを野放しには出来ないし、してはいけない。

 犠牲者だらけだった結果で既にすごく気が重いのに、明日のことを考えると輪をかけて億劫になってくる。村長派の対処はもちろん……下手をするとカミルさんどころかアイロ村全体が敵に回るからね。

 溜息を誤魔化すようにお茶を飲み干し、手を合わせた。


「ごちそうさまでした。美味しかったよ」

「お粗末様でした」


 フリッカは謙遜するけれど、初期に比べてお世辞抜きに料理の腕が各段に上がっている。わたしに追い付く日はそう遠くないかもしれない。

 食事の大きなメリットの一つであるバフはなかなか付けられないようだし今回も付いてなかったけど……つい癖で付けるわたしがおかしいだけらしいし、残すは就寝だけの段階でわざわざ魔力を使用して付与することもないか。

 おなかが満たされたことでまたあくびが出た。寝るかなぁ、とぽりぽりと頭を掻き……あ、しまった。


「うぁー……眠いけどお風呂入りたいなぁ……」

「そう仰ると思ってそちらも用意しておきました」

「……さすがフリッカさん」


 わたしの行動が読まれていたようだ。まぁ旅の間はどうしようもないとしても拠点に居る間は毎日入ってるしね。湯を沸かす時間すら怠いと思っていたのでありがたい。

 そこまで怠いなら入らなければいいって? そんなこと出来るわけがないよね。アステリアには毎日の入浴習慣がないようなのだけれども、日本人の魂を持つ身としては譲れない一線だ。戦いの後で薄汚れた後だと尚更気になって仕方がないんですよ。

 衛生的な面でも皆に出来るだけ入るよう推奨した結果、フリッカと地神はハマったようでわたしに言われずともきちんと入るようになっていたりする。

 ……なので、フリッカと一緒にお風呂に入るのはよくあることと言うか、ほぼ毎回となった。その、うん、何も問題はないのだけれども。

 今日は疲労プラス満腹で眠気が押し寄せてきて、されるがままに頭を洗われ、背中を洗われ……前に手が伸びたところで一瞬目が覚めて、湯舟の中でまたうつらうつらとして。

 湯に沈もうとした直前。


「……お風呂で寝るのでしたら悪戯しますよ?」

「ぶぇっふ!? ……かはっ」


 耳元でそのようなことを囁かれて一気に飛び上がった。勢い余って鼻にお湯が……痛い……。

 けほけほ咳をして、涙目で鼻を押さえながら声の主の方をチラりと見ると……大げさな反応をしたわたしに対する苦笑が八割と……勘違いでなければ、残念さが二割混じったような表情だった。


「……一応聞くけど」

「何でしょうか?」

「……イタズラって、何をする気だったのでせうか……?」


 わたしのマヌケな質問にフリッカはただ笑みを浮かべるだけで答えなかった。

 ……その笑みが随分と艶っぽく見えたのは、お風呂の熱気と、お湯が滴っているせいなだけ……ではない、と思う……。

 いやもうそのね、何と言いますかね。ヘタレと言われればそれまでなのですけどね。

 その、恋人期間をスッ飛ばして求婚したので(これは考えなしに突っ走ったわたしが完璧に悪いのだけど)、距離の詰め方がわからないと言いますかね……。

 好意とか、えぇと、愛情とか、そう言うのはあるのだけれども……うううううぅ……!


「……リオン様?」

「は、はい! お風呂出ます! 普通にベッドで寝ます!」


 うだうだごちゃごちゃ考えながら湯に顔を沈めて行ったらまた寝かけていると思われたらしい。アヤシイ声が再度聞こえてきたのでわたしは逃げ――もとい素直に休むことにした。ど、どのみち眠さの限界なのです。

 最後の気力で意識を保ちながらドライヤーで髪を乾かしてもらい、先にウルが寝ていたベッドへと倒れ込む。

 瞼を閉じたら……裏に、いくつもの白い靄が浮かび。


 ――あぁ、これは悪夢を見そうだなぁ。


 予感がするも眠気に抗えず、意識がトプンと暗闇へと落ちていった。

 閉じたはずの視界が、赤く染まったような錯覚を起こしながら。



「――」


 ふと目が覚めた。

 幸いにして悪夢どころか普通の夢すら見ずに深く寝ていたようだけど……今何時だろう。

 真っ暗で何も見えない。カーテンの隙間から日が差してないってことはまだ夜かな?

 ぼんやりとした頭で、何となく確認しようと身を起こそうとして――起こせない。

 な、何で……?


 金縛り? 実はまだ夢の中? それとも……まさか、呪いとか……?


 溢れ出る嫌な想像に心臓が早鐘を打つ。

 焦って何とか体を動かそうと、せめて首だけでも動かないかと試みたら。


「……ん……」


 フリッカの吐息のような寝言が聞こえて、やっと気付いた。

 頭はいつかのようにフリッカの胸元に抱え込まれていて、そりゃ視界は真っ暗なわけである。

 匂いが鼻腔に広がるのを遅れて認識しながらゆっくりと首を巡らせたら、お腹から足にかけていつものようにウルにしがみつかれていて、そりゃ体も動かせないわけである。

 ……大丈夫、ここは平和で安全な日常。

 わたしはちゃんと帰って来ているし、呪われてもいない。

 現状を理解出来たところで心の中で深く安堵し、全身を包む温もりに強張りが溶かされ、二度寝を決め込むことにした。


 ……これなら悪夢を見る隙もないよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >頭はいつかのようにフリッカの胸元に抱え込まれていて >これなら悪夢を見る隙もないよね。 フリッカ「悪夢がおいやでしたら、2度と正気に戻れぬ天国へ連れていって差し上げましょうか?」(ニチャ…
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