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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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「現実」は思った以上に酷いらしい

「は? バケモノ……?」

「そうとしか、言いようがない、状態に……なってた……!」


 その姿は、獅子の体に山羊の頭、蛇の尻尾、と言った体で。

 つまりは……キマイラだ。


「えぇと……そういう種類のモンスターが攻めてきた、とかじゃなくて?」


 キマイラはゲーム時代にも中ボスとして存在していた。なので、単にそいつが現れたのでは、と思ったのだけれども。


「そうであればどれだけ良かったことか!」


 レグルスはガン!!と拳で机を殴りつける。またも音にビックリして肩をはねさせるわたしであるが、今度はウルもからかってこなかった。

 それだけ、レグルスの、リーゼの様子が鬼気迫っていたからだった。


「何度も、何度も確認した! あの鬣は、額にあった傷は、確かに父ちゃんと同じものだった!!」

「……山羊頭の方も、見覚えのあるヒトでした……」

「それだけじゃない、もっと、もっとうじゃっとしてて、変なのがいっぱい付いてて……父ちゃんの体のはずなのに、オレは……オレは……」


 ――気持ち悪ィと、思っちまったんだ……!


 それは、懺悔のような叫びであった。




「……すまねぇ、取り乱した」

「いや、その、気にしなくていいよ」


 しばらくのち、目を真っ赤に腫らしたままのレグルスが謝罪をしてくる。

 掛ける言葉を見つけられなかったわたしは、そう返すしかなかった。

 ……肉親がバケモノにされる経験なんてあるはずがないからね。軽々しく「辛かったんだね」とか言うなんてできるわけがない。

 リーゼも似たような見た目になってるけれど、レグルスほど取り乱しはしなかった。彼女の方がしっかりしているのか、よっぽどレグルスが自分に後悔しているのか。

 鼻をぐずぐずさせるレグルスからリーゼが引き継いで語る。


「バケモノになってしまった伯父さまたちは……モンスターを引き連れてあたしたち村の住人に襲い掛かってきました。

 ……時間が夜だったので、おそらくあれが伯父さまたちであったことは多くの人が気付かなかったでしょう。それだけが唯一の幸いでしょうか」


 ……続きも酷い話であった。

 それが幸いって、そんなわけないじゃないか……。


「それでもなんとか、残っていた大人たちが相手をしている間に、あたしたちを含む子どもと戦えない人が逃がされました。

 本当なら固まって別の村に助けを呼ぶ予定だったのですが、道中別のモンスターに襲われて散り散りになってしまい……あたしたち二人はここに辿り着きました」


 大粒の涙をたたえたリーゼの瞳に、刺されるんじゃないかってくらい強い懇願を向けられて。


「ここで、神子様あなたに会えたのはまさに創造神様より与えていただいた奇跡です。お願いします。どうか、力を貸してください……!」


 わたしに、ノーという選択肢は取れなかった。




 とは言え「じゃあすぐに出発だ!」とはいかない。準備期間に一日もらうことにした。

 二人はすぐにでも行きたそうだったけれど、納得したのかしていないのか、ぐっと飲み込んで了承してくれた。


 ウルに動物たちと畑の世話を頼み――さすがにこれくらいならなにも壊しはしないとすでに判明している――、対キマイラ用のアイテムを作成することにする。

 最も欲しいのは武器だけれども……素材がないんだってば……。とりあえずウルの投擲用に牙を素材とした槍をいくつか作っておいた。

 二人にもなにか必要か尋ねて、レグルスには拳を補強した皮のグローブ、リーゼには槍を用意した。あと、それぞれに皮の胸当てと、気休めだけれども腕に括り付ける用の小さな木のラウンドシールドを。

 大人たちですら敵わなかったキマイラに彼らが相手になるのか?という気持ちはあるけれども、一緒に行動しておかないと勝手に飛び出して返り討ちに遭いかねないからね。

 その後しきりに「なにか仕事は?」と尋ねてくるものだからウルと一緒に狩りを頼んでおいた。……ウル一人だと狩りというか虐殺だから……。


「必要なアイテムは……毒と咆哮対策かな」


 蛇の尾から吐かれるブレスが毒混じりなのだ。毒予防……は今はまだ作れないので、解毒ポーションとLPポーションを大量に作成する。

 咆哮は喰らう人の気合(としか表現しようがない)にもよるけど、まともに喰らうと『恐怖』のバッドステータスが付与され、行動が遅くなってしまう。

 これも予防アイテムはまだムリなので、ハーブで鎮静ポーションを作っておく。全員がバステ付与されたらピンチだけど、ウルならケロっとしてそうな未来が見えたので彼女に多めに持ってもらうことにしよう。


「後は食料を作って、二人のためにテントも作って、道中の聖水も作って……っと」


 食料アイテムにまだバフが付かない……もうちょっとでスキルレベル上がりそうな感触があるんだけどなぁ……。

 さすがに「スキルレベルが上がるまで待ってくれる?」とか今の二人に言う勇気はない。


「これまでのわたしなら万全の準備が整うまで絶対に挑戦しなかっただろうけどね」


 と言うのも、わたしはあの海でウルが銛で巨大シャークを一撃で倒す様を目撃したからだ。

 キマイラは中ボスではあるけれども、前述の毒と咆哮対策を備え、遠距離攻撃ができればそこまで苦戦しない程度の強さなので、ウルなら早々負けるイメージが沸かない。

 人任せかよ!って感じだけど、わたしが強くなるのを待っていられないので仕方ないよね……ウルと戦闘訓練したらわたしが死にそうだしどう強くなったものかな。

 まぁそれは今後の課題として、この世界アステリアでは実際どうなのか不明だから、準備はできる範囲でガッツリと、だね。

 ついでに盗難対策として、地下倉庫に(現時点での)貴重な素材を詰め込んで石ブロックで蓋をしたところで日暮れが近くなってきた。


「あぁ、二人が今夜寝る場所がないな」


 さすがに外で寝させるのも忍びないので、客人用として部屋を増設してベッドも二つ追加しておいた。兄妹のように育ったと言ってたけど、一応衝立も置いておくか。

 ……あれ、そう言えばウルの寝室がまともに使われてないぞ? いやまぁプライベートスペースとして残しておこう……。




 そしてきっかり翌朝の日の出と共に出発をした。

 二人が逸るもので早足で。SPの減りが早くなるけどそこはちょびちょび食事をすることでカバーをする。

 道中の日中には、この地域の現状を二人の知る範囲で色々と聞いてみたり。そう広い範囲はわからないみたいだけど、大河のこちら側はやはり比較的平和らしい。

 ただ鉱石類は、その大河の向こう側の荒野、山から採ってきていたので、こちら側ではあまり見た記憶がないそうだ。ぐぬぬ。

 夜間はモンスターが一切襲ってこない聖水の効果にしきりと感心されたり、寝袋が思ったより寝心地が良いと好評だったり。まぁ地べたに直接寝ることと比べたらそりゃね?

 ウルは相変わらずだるそうに引っ付いて寝てくるんだけども、もはやこの状況に慣れたと言うか、逆に居ないと落ち着かない気分になりそうと言うか。


 急いだおかげか、予定より少し早い三日と四分の一ほどで目的地の手前まで辿り着いた。

 すでにここからでもキマイラの咆哮が聞こえてくるので、すぐそこなのだと否が応でも知らされて緊張で手が震える。移動して何処かに潜んでしまったとかよりはマシなんだけどさ。


「あの丘の向こうにオレたちの村がある」

「偵察するには絶好の遮蔽物かな。んじゃまずは現状確認するよ。そーっと覗くだけだよ? 絶対に飛び出しちゃダメだからね?」


 特に二人に念押しをしてから、ソロリソロリと丘を登って行き頂上へ。

 地に伏せ、視線を村があるという方向へと向けてみたら。




 ――グオオオオオオオオオッ!!




 そこには、確かに『バケモノ』が居た。

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