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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り
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奇跡の生存者

 天人スカイウォーカー。それはゲームにおける特殊種族だった。

 見た目は人間ヒューマンに体のサイズ程ある大きな白い鳥のような翼が生えた種族だ。それゆえ天使と呼ぶプレイヤーも少なからず居た。頭に輪っかはないけど、天使らしく(?)儚いタイプの美形が多かったので人気も高かったりする。


 特殊と言う理由は大きく二つある。

 一つ目。彼らは基本的に空島または浮遊島と呼ばれる場所に住んでおり、数も少なく、地上で姿を見ることはメインストーリー後半に発生するイベントの時を除いて一度もなかった。なお、島は名前の通り空を浮遊しており、ランダムで世界各地あらゆる場所に移動しているため探すのが大変な島だった。そもそも到達するのに空を飛べるアイテムが必須だしね。

 二つ目。彼らは光神と闇神の手が加えられて生まれた種族とされている。その大きな特徴は彼らが持つ翼にある。この純白の翼は飛べるだけでなく瘴気を吸収し、ゆっくりと浄化する仕組みになっていた。ただモノが瘴気ゆえ吸収し過ぎると体調を崩してしまうし、発生イベントも倒れた天人を助けてほしいと言うものであった。


 空色の髪に背から飛び出している翼。なるほど、この子が天人であるのならば何故地上に居るのかはさて置くとして、こんな環境下で生き残っているのもギリ頷けるか。

 本来であれば身が蝕まれるだけの瘴気を翼に溜め込むことで、体への影響を小さくすることが可能なのだから。

 とは言え……。


 この子――幼いせいもあって顔では男の子か女の子かよくわからない――の翼は大部分が黒くなっている。明らかに瘴気の溜め込みすぎだろう。吸収しきれておらず顔や服――ボロ布切れの隙間から覗く華奢な手足はやはり瘴気に蝕まれていた。今すぐ命を落としてもおかしくないくらいだ。

 更に、片翼が半ばから折れて失われてしまっている。ここに連れてこられる前に失ったのか、レア素材として村長派に奪い去られたのか……どんな理由にせよ見るからに痛々しい。

 血の痕はあるけれども塞がっているのか、現在は出血している様子はなく乾いている。まぁ出血し続けていたらさすがに死んでいただろう。

 そしてトドメに、逃げられないように両手足に枷が嵌められ、神殿の床部分と鎖で繋がれてしまっている。


 あぁ、本当にもう……村長派あいつらはロクなことをしない……!


「リオン!!」

「……っ!」


 怒りに我を忘れかけたがウルの警告で慌てて意識を戻すとレイスが迫って来るところだった。聖水を投げ付けて撃退する。

 そうだった、まだ取り巻きもレギオンレイスも残っているのだ。早く解放してあげたいけど掛かり切りになることも出来ない。実体系だったらウルに防御を頼めたのだけれども……本当に悪い部分が重なるばかりでうんざりだ!

 とりあえず応急手当としてLPポーションと聖水……だけだと効果が足りなさそうだ、わたしの血を加工して振り掛けて少しでも瘴気の浸食を抑える。ピクリと身じろぎして目を覚ますかと思えばまだ気を失ったままだ。


「ウル、この子の鎖を壊せる!?」


 フリッカが魔法を撃ち込んでくれてはいるけれども、怯み状態から復活したレギオンレイスはわたしをターゲッティングしたままだ。……ヘイトを稼ぎすぎたかな。いやフリッカの方に向いても困るんだけども。

 レギオンレイスはその顔を弾丸のように射出して執拗にわたしを狙ってくる。霊体で透過出来るものだからいつもの石ブロックガードが効かないし、逆にわたしの視界が遮られて攻撃タイミングがわからなくなるのが辛いから尚更使えない。幸いにして聖水も火の矢も効くけれど、数が多すぎて子どもにまで手が回らない状況となった。

 ウルはウルでわたしの背後でゾンビたちの相手をしているけれど、どちらかと言えばウルの方が余裕があるだろう。


「任せ……ぬ?」


 鎖を破壊しようとウルが拳を叩きつけたが、何と跳ね返されてしまった。う、ウルの攻撃力で壊せないアイテムだとぅ……?!

 もしかしてカミルさんのお手製? 用途をモンスター用とでも伝えていれば作ってくれるだろうし、わたしより神子として遥かにレベルが高いだろうあの人なら作れる可能性はあるか……?


「いや、何と言うか……そもそも鎖に手が触れておらぬ。こう、拒絶されたと言うか……」

「う、うん?」


 アイテムそのものの耐久値ではなく防御の魔法でも掛かっていると言うことか? え、こんな小さな子相手にわざわざそこまで念の入った拘束するぅ? いや単に大人用を流用しているだけか。いやいや大人用だとしても拘束された状態で鎖を破壊って早々出来なくない? そもそもウルなら防御魔法すら破壊しそうなイメージだけど……うぅん、わからん!


「とりあえずわたしがやってみる! ウルは頑張って受け持って!」

「……うむ」


 聖水やら属性矢やら大量のアイテムを床にバラ撒いて、珍しく自信なさげに顔をしかめるウルと交代をする。

 わたしが使用した時に比べて効果がめちゃくちゃ落ちるらしいけれども素手ぶつりよりは通るからね。頑張ってとしか言いようがない。

 カタカタと骨を鳴らして近寄るスケルトンに聖水を撒いて追い払って、こちらは石ブロックで遮ってもいいかな。

 おっと、火は燃やせるんだっけ。聖油を床に撒いて火を付けて……っと。やはり床の汚染で勢いが弱いけど無いよりは全然良い。ウルの方には……浄化の魔法と違って普通に熱いから邪魔になりそうだな。ヘルプが出るまで止めておこう。

 ある程度の安全を確保してから子どもの側にしゃがみ込み、鎖の状態を調べようとそろりと手で触れてみた。


「……あれ?」


 ウルは『拒絶された』と言っていたけれど、そんな感触は全くしなかった。普通に触ることが出来て、金属の冷たさが伝わってくる。ひょっとしてさっきのウルの一撃で防御効果が切れた?

 理由はわからないけど今は細かいことはどうでもいい。わたしはアイテムボックスから手持ちで一番攻撃力の高いスチールアックスを取り出し振りかぶる。


「どっ……せい!!」


 ガキン!と音が響くが傷が付いただけでまだ壊れそうにない。攻撃アップのポーションを使用して何度か叩き付けるとやっと壊れてくれた。後三箇所……!

 他の鎖部分も特に防御は感じられず、繰り返しガンガンと叩き付けることで何とか全部の鎖を壊すことが出来た。

 すぐ側で大きな音を出され続けたせいか、ポーション類の効果が効いてきたのか、その時点で子どもが瞼を震わせ、深い空を彷彿とさせる瑠璃色の瞳が晒される。


「! ねぇきみ、大丈夫!?」

「…………っ」


 子どもは何か喋ろうとしたのか口をわずかに開けたけれども、出て来たのは小さな咳き込む音だった。そうか、水を摂ってないから……!

 わたしは子どもを抱き起こし、ゆっくりと水代わりに聖水を口に当てて流し込む。聖水は飲んだところで味はないけど水は水なので乾きを潤すことが出来るし、体内の浄化の一助にもなるはずだ。

 水は素直に飲んでくれたものの、子どもはどこか虚ろな瞳のままで意識がはっきりしていないような様子だ。


「リオン、済まぬ! 一匹抜けた!」

「くっ……!」


 わたしは子どもを抱えたままの姿勢でレイスに聖水を投げる。どうやら当たってくれたようでホッと一安心。

 かと思いきや、自分の状況を思い出したのか子どもが叫び声を上げたのだった。


「あ……ああああっ!?」

「お、落ち着いて! 大丈夫だから!」


 実際には大丈夫とは言い難い状況ではあるのだけれども、病んだ体で暴れだしそうな気配があったのでとにかく落ち着かせることを念頭に話しかける。

 しかし子どもの嘆きは止まらない。わたしの言動が焦りすぎてて一切安心材料にならなかった……と言うわけでもなく、どうやら混乱しているようだ。次第に目尻に涙を浮かべよくわからないことを言い始めた。


「ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「……はっ?」


 何故謝っているのだろう?

 ……いや待って。この子の視線はわたしからズレているが、焦点はしっかりと合っている、ように見える。

 一体誰へと……謝罪をしている?


 恐る恐る子どもが見ている、わたしの背後へ首を巡らせてみれば……。


 そこには大人のヒトくらいのサイズの、大きなレイスが、居た。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい……!」 >「……はっ?」 >何故謝っているのだろう?  これとほぼ同じ文章で、リオンが振り返ったらフリッカの(恐い)笑顔が~……。  どうやらこのル…
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