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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り
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熱砂の蹂躙された眠り

 何とか全てのモンスターを燃やし終わった。

 少し迷ってから落ちていた魔石を拾っていく。放置していても何にもならないし、供養として埋めるなり有効活用させてもらうなりは後で考えよう。

 出来れば灰も拾ってあげたかったけど、さすがにそこまでは対処していられなかった。


「元が何であれ、魔石は落ちるのだな」

「……そうだね」


 彼らが完全にモンスターに成ってしまったことを突き付けられたようで心苦しい。

 それともわたしが考えすぎなのだろうか。

 魔石を落とした時点でアレはモンスターであり、ヒトではない。

 そうキッパリと割り切……れたらよかったんだけどなぁ。はぁ。


 ――アアアアアアアアアア――


 叫びは止まらない。

 元住人ゾンビを見た後では怒りも萎えた……村長派はんにんの方へと方向が変わったけれども、浄化しなければと言う思いはより強くなった。

 焦燥感も収まるどころか膨れるばかりだし、先を急ごう。


「疲れているかもしれないけれど、奥に行くよ。むしろここからが本番だからね」


 ポーションを使用してケガを治し、おやつを食べてSP回復とバフを付ける。瘴気の中なのでこまめに回復しないと気付いた時にはレッドゾーンだ。

 耐性薬も使用し直して、各種回復系アイテムを各自に配布して。


「ウル、また先導をお願い」

「うむ」


 粘つくような、足を引っ張るような、重苦しい空気の中を駆けて行く。

 程なくして、ずっと腐った肉と血の臭いが漂っていたのだけれども、そこに水気が混じり始めた。……臭いことに変わりはない。


「む……? 灯りらしきものが見えるな……?」


 ウルの呟きの通り、瘴気と暗闇に包まれた通路の先にぼんやりと複数の光が見えてきた。常夜灯的なやつだろうか? だとすると、確実にあそこに何かがある。

 見えてくる光の数が増えていく。どうやら結構な広さのある空間のようだ。

 モンスターを(主にウルが)蹴散らしながら、足を緩めずに突入する。


 飛び込んだその先は、端までは光が届かず暗くてしっかりと判別は出来ないけれどサッカーコートの半分はあるだろう。一応柱がいくつも建っているけれど、経年劣化でヒビが入っている部分もあり大変心許ない。ウルが全力を出したらいとも容易く壊れそうなので生き埋め警戒はここでも必要だ。

 壁の方からチョロチョロと音がして、中央の大きな池へと水が流れ込んでいる。おそらく水源は同じだけれども、水の流れの向きからしてアイロ村に流れ込んでいるやつとは違っていそうだ。もしそうだったらあちらの汚染水がもっと酷いことになっていたはずだ。それくらいにここの水は重度に汚染されていた。何せ色が赤黒いのだ。原因は言わずもがな。

 そして中央の池の更に奥……と言うより池の真ん中かな? 朽ちかけた神殿のような物が建っている。以前廃村で見た建物とほぼ同じだ。何故こんな地下遺跡ダンジョンに建造してあるのかは不明だけれども、そこは大して問題ではない。

 今、一番の問題は、その手前。


 オオオオオオォ……――


 超巨大な、レイスが居た。


 いやもうアレをレイスと言っていいのかわからない。

 レイスは白いシーツを被ったオバケに目鼻口っぽい黒い空洞がぽっかりと空いているような見た目をしているモンスターだ。大きさは三十~五十センチくらいで手足はなく、大体は頭?だけだ。

 しかしアイツは違う。

 頭だけ、と言うのは合っているのだけれども……。


 その頭が、大量に存在していた。


 表面上?にビッチリと、例えるならフジツボのように生えていた。集合体恐怖症を持っていたらそれだけで逃げたくなるような気持ち悪い見た目だ。加えて一つ一つが泡のようにボコボコと大きさを変えながら蠢いている。口からは怨嗟のように瘴気を吐き出していた。

 そして、普通のレイスであればぼんやりとした顔なのだが……アイツは、アイツらは、レイスにしてはやたらはっきりと顔立ちが判別出来た。

 怒った男性の顔、しわがれた老人の顔、……泣いている、子どもの顔。


「……ま、さか……」


 かすれた呟きは誰のものだったのか。

 でも、その『まさか』は全員に共通した感想だっただろう。


「あのレイスも……元は、ヒト……?」


 それも一人や二人じゃない、十人、二十人、もっと居るだろう。普通のレイスっぽい顔も混じっているが、そんなものは気休めにならない。

 死んだヒトがレイスになる。これはまだわかる。

 しかし……レイスが混じりあって巨大なレイスになるなどゲームですら見たことがない。

 いくらゲームではなく現実だからって、これは尋常ではない。

 では、どうしてこのようなことが起こっているのか。


 決まっている。

 尋常でないことを、この場で行っていたからだ。


 この場で、モノ作りと称した犬畜生にも劣る行為を、行っていたからだ。


 ゥアアアアアアアァ……――


 超巨大レイス――レギオンレイスとでも仮称しよう――の叫びが聞こえてくる。

 そうだろう、叫びたくもなるだろう。憎みたくもなるだろう。呪いたくもなるだろう。

 被害者でないわたしですらそうなのだ。吐き気すら忘れるほどの怒りが体の中でグツグツと煮えたぎっているのだ。

 殺すだけでは飽き足らず、殺した後までこのような仕打ち。


 一体、どれだけ。どれだけ――


「死者の眠りを蹂躙すれば……ヒトの尊厳を奪えば気が済むんだあああああっ!!」


 ブォア゛゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアァアアッ!!


 わたしの叫びに呼応したのか、レギオンレイスの叫びに呼応したのか。

 ボコボコと音を立てて大量のアンデッドモンスターが沸きだした。

 地面からはゾンビ、マミー、スケルトンが。池からも水死体のように膨らんだゾンビにスケルトンが。宙からもレイスが。その他にもゾンビ化したゴブリンやネズミも確認出来る。

 この空間は、あっという間に地獄のような光景のモンスターハウスと化した。


「レグルス、リーゼ、ランガさん、ヨークさんはとにかく雑魚の掃討を!」

「「「おう!」」」

「了解!」


 四人はわたしが指示するや否やモンスターの群れへと斬り込んで行った。どうか無茶はしないでほしい。


「フリッカはこの場で固定砲台! レイスなどの霊体系を優先して!」

「わかりました!」


 フリッカには動かれると守りきれないし、彼女の場合は魔法に集中してもらった方が断然良い。

 守るのはわたし……ではない。手が回らない。


「ウルはここでフリッカを守って!」

「任された」


 最大戦力であるウルにはボスの相手をしてほしかったのだが、霊体かつ瘴気を纏っているレギオンレイスでは分が悪すぎる。

 聖水を塗布した武器でも攻撃は効くだろうが効果は落ちる。わたしが相手をするしかなかった。


「聖域化……はやっぱり無理か」


 安全地帯が確保出来ないか一応試してみたけれど、地面に撒いた聖水はあっという間に瘴気と相殺されてしまった。廃棄大陸と同じ現象だ。

 もっと素材と手間を掛ければ出来るかもしれないが、敵がそれを見守っててくれるはずもない。


「シッ!」


 まずは挨拶とばかりにレギオンレイスに聖火の矢を放つ。

 パンッと顔がいくつか消えたように見えるが……内からまた別の顔が浮き出てきたので大きな効果はなさそうだ。根気良く削り続ければ終わるかもしれないけれど、残念ながらいくらわたしでもそこまで聖火の矢の在庫がない。フリッカが居るから追加作成も出来なくはないけど……雑魚掃討が終わったら手伝ってもらうとして、それまでに出来るだけのことはやっておこう。


「長丁場になるか……?」


 乾いた唇を舐めながら小さく呟き、今にも震えそうになる足をしっかりと踏みしめ、わたしは再度矢を放った。

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