またハラペコが釣れたようです
「リオンよ、おかわりなのだ!」
「美味い……美味いよぅ……あ、オレにもおかわりを……」
「……えっと……」
勢いよく。躊躇いつつもスッと。恥ずかしがるように。
三者三様に空になったお椀をわたしに向けて差し出してきた。
これで何度目なのか……わたしは口の端を引きつらせる。
「ぬあぁ、もうやってられん! 作成!」
最初は真面目に手作業で料理していたのだが、大量に作った肉たっぷりシチューがあっという間にスッカラカンになり、作り直すのが面倒になってスキルを使用することにした。
「なっ……!?」
「……っ」
スキルで瞬時にシチューが作成されたことにより、ウルを除く二人が驚きの声をあげる。
でもごめん、そういう反応にだんだん飽きてきたのよ!
「はい、話は後で! 食べるなら食べる!」
「いただきます!」
「は、はい……っ」
ちなみにウルはとっくに驚かなくなっているので真っ先に食べ始めていた。
「ふむ? スキルでも味は変わらぬのだな? 何故いつも手作りしているのだ?」
「料理は愛情……と言いたいところだけど、もらえるスキル経験値が増えるからだね」
身も蓋もない答えである。いやまぁ、最近は料理が趣味になりつつあるんだけどもね。料理素材も増えたし。……調理器具は増えないままだけど。
料理スキルはレベルが上がるとバフが付くようになるのだ。ボス戦前などにSPを回復がてらバフを付けることで有利になるので、そこまでに最低限は身に着けておきたい。
なお、ポーションによるバフと効果が重複するので、そちらも並行して上げたいところだ。
「なるほど?」と納得したのか、ウルは食事を再開した。
さて、なんでこんなことになっているかと言うと。時は少し遡る。
「うわあああああああ!?」
「っ!?」
モンスターではないヒトの悲鳴が響いてきたことで、慌ててウルの後を追い倉庫の中を確認した。
攻撃姿勢のまま固まって困惑するウルの視線の先に居たのは……獣人――なんらかの動物の特徴を持った種族の総称だ――らしき獣耳を生やした少年と少女だった。
少年の方は逆立ったややくすんだ金髪に橙の瞳。頭部に髪と紛れてわかりにくいけれど、丸っこい耳が生えている。
少女の方はセミロングの赤味がかった金髪に同じような橙の瞳と耳。二人は兄妹なのだろうか、全体的な色と雰囲気が似ている。
そして二人とも……ニンジンを手に持っていた。齧った跡がしっかりと付いている。
「あー……もしかしてドロボウさん?」
わたしの推測の言葉に「なぬ?」と息巻いて再び拳を振り上げるウルに、二人が反応、素早く動きだし――
「「すみませんでしたあああああ!!」」
それはそれは見事な土下座をするのであった。
少年はレグルス、少女はリーゼと名乗り、兄妹のように育ったいとこの関係らしい。
あと、獅子型の獣人だった。特徴は耳と尻尾と爪くらいで、かなり人間に近い形態だ。
どうやらこの二人、数日の間きちんと食べれていなかったらしく、空腹で平原を彷徨っていたところにわたしの拠点(というか畑)を発見し、ついつい魔が差して盗ってしまったのだそうな。その後、倉庫に隠れて食べていたところにウルがやってきて……と。ちなみに、落とし穴はバレバレだったようだし、聖域はモンスター以外に効果はない。
畑で感じた違和は、荒れてはいたけど壊れてはいなかったという点だね。モンスターなら作物を食べずになんでも壊していくからさ。
うーん……ゲーム時代に泥棒に遭遇したことなかったから頭からすっぽり抜けてたけど、万が一貯め込んでいる素材を盗られたら困るなぁ……そこらへんも対策しておくべきかな?
ともあれ、ちゃんと謝罪もしてくれたし悪意もないようなので、食事をふるまうことにして今に至る、という感じ。
しかし、またもハラペコ大食いさんたちですか……いやここまで美味しそうに食べてくれるとそれはそれで気持ちが良いんだけどもさ。
小麦といくつかの野菜はそこそこ安定するようになったけど、肉がまだ狩り頼みなんだよね。足りるかしら……。
「ごちそうさまでした」
まずはリーゼの食事が終わったようだ。「お粗末さまでした」と答えると、今更ながらにガッついたことが恥ずかしかったのか、赤面して身を縮こまらせた。
「うむ、リオンよ、今日もうまかったぞ」
「ぷはぁー、食った食った! ごちそうさまでした!」
ウルとレグルスの方はそれから二杯追加されてやっと終わった。
ポンポンとお腹を撫でて満足そうにしてるところ悪いけれど、これから事情聴取の続きですよ、きみ。
香草茶――漁村(クアラ村と言うらしい)で素材をもらった――を淹れてから改めて二人と向き合う。
「さて、質問の続きなんだけど」
「待った、先にオレの話を聞いてくれないか?」
レグルスが手を開いて突き出してくるので「どうぞ」と譲った。
「さっきの技から察するに……アンタ、いや、アナタは創造神の神子サマなの、ですか?」
「そだよ」
嘘を吐いても勿体ぶっても仕方ないので肯定しておいた。
半ば確信を得ていたものの改めて驚いたのか、それともわたしの軽すぎる返答に少しだけ詰まったのか、レグルスは何回か目を瞬く。
リーゼと軽く目配せをし頷き返されてから、レグルスは机にゴン!と音を立てて手と頭を付けた。リーゼも(音はしなかったけど)同じ姿勢を取る。
「お願いします! どうか、父ちゃんを……オレたちの村を救ってください!」
「お願いします……!」
「……頭を上げて、まずは状況を説明してくれる?」
頭を下げててわたしの顔が見えないのをいいことに、音にビックリなんてしていませんよ?風に落ち着きを装いながら先を促した。
ちょっとウルさん、そこでニヤニヤしないでくれる?
「えっと……ここから、川向こうの方に四日ほどの距離にオレたちの村があるんだが……あるんですが」
「……口調は普通でいいから」
いちいち言い直されてつっかえるのも無駄だし、敬意を示されてもムズがゆいだけなんです。
神子としての自覚が足りない、と言うよりは、わたしはまだ神子としてなにも成していないからなぁ。創造神の権威に乗っかってるだけっぽくてうーんってなっちゃうのよね。
おっと、話を聞かないと。
「そこからさらに二日ほど移動すると大河があって、超えた先の荒野から去年辺りからしょっちゅうモンスターがやって来るようになったんだよ。
魚っぽいモンスターの背に乗ってスイーっと、弱いのだとコボルトとかゴブリンとか、強いとこだとガルムとかオーガとか。
しばらくはきちんと防衛してたんだが、終わりの見えない襲撃にだんだんジリ貧になってきて、終止符を打つためにこちらから討って出て元凶を断つべきだ!って話が先々月に出てきてさ。
なんせ相手の規模がわからない、そんな状態では危険だって意見も出たんだけど、だからと言ってこのまま手をこまねいていてもどうしようもなくて。
結局、オレの父ちゃんを始めとする村の戦士たち二十人ほどで挑む話になって……それで……」
そこまで語って、その先を言いづらいのかレグルスはいったん言葉を切った。悔しいのか悲しいのか、手を強く握りしめている。
モンスターたちに負けて戻って来なかったのかな、と予想したのだけれども……苦悶の表情でレグルスから告げられた事態はそれ以上だった。
「……父ちゃんたちが、バケモノになって帰ってきた」
ヒロインその2ではありません。
と言うかその1も特殊なのでタグ詐欺にならないよう気を付けないと…。