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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り
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暴かれつつある闇

 つい悲鳴が出そうになったけど、見っともないところは見せたくないと言う一心で呑み込む。これが三度目じゃなかったら耐えきれなかったかもしれない。

 奇声がした方向へ目を向けてみれば、仰向けで寝そべり、手足をバタバタさせている男性が視界に入った。目を見開き焦点は合っておらず、涎を垂らし、それでも断続的に笑うことをやめない。誰が見ても明らかに異常とわかる様相だ。


「そ、その人は?」

「薬が切れたんだよ……」

「薬?」

「……ロカルの粉末だ」


 葉じゃなく粉末……そう言えば麻薬問題もあったね、この村。くすりと言うよりはヤクの話だ。


「こいつが反抗的だからって何度も摂取させられてて……今ではこんな様になっちまった」


 麻薬は繰り返し摂取すると依存するようになってしまう。麻薬なしでは生きられない体になってしまう。『薬が欲しければ言うことを聞け』とでもやるつもりで無理矢理に摂取させたのだろう。

 そして一度中毒に陥ってしまうとそこから抜け出すのは相当に難しい。たとえ薬を断とうとしても体が求めてしまうのだ。適切に少しずつ抜いていけばいいのだが、麻薬漬けにした連中がそんなことするはずもさせるはずもない。

 治してあげたいけれども、わたしの手持ちアイテムにそこまでランクの高い万能薬はない。せめてもの症状緩和のためのロカルの葉も持っていない。

 とは言えこのまま放置しておくのも忍びなかったので、柵越しに気休め用の低ランク万能薬を差し出した。


「これは何だ?」

「あまり質は良くないですが万能薬です。多少なりとも症状が和らげば……」

「万能薬!? ……すまない、ありがとう」


 男性はお礼を言って受け取り、すぐさま禁断症状で苦しんでいる男性に振りかけた。

 すると「グガッ!?」と大きな声を上げ、ピクピク震え出したと思ったら……糸が切れたようにガクリと動きが止まる。

 ……エッ。


「なっ、死んだ……!?」

「まさかお前、薬と嘘を吐いて毒を……!?」

「ま、待て待て、呼吸はしている! 寝ているだけだ!」


 び、ビックリしたああああ! トドメを刺したかと思ったじゃないか紛らわしい!

 そんな心中での焦りをおくびにも出さず、さも当然ですよ、と言った表情を保ってごまかしておく。冷や汗の一つも垂れていたかもしれないけれど。


「他にもケガをしている人、体調が悪い人は居ますか? 各種ポーションを提供出来ますよ」


 営業スマイル(?)で語りかけると、半数くらいの人からケガをしているだの腹が痛いだの、何らかの症状を訴えてきた。中には瘴気にやられているっぽい人もおり、この牢の状況はあまり良くなさそうだ。ざっと見回すだけでもトレイには半ば腐りかけの食べ物、薄汚れた布団、汚物処理用のただの壺……こんなところに閉じ込めている時点で人道的な対応なんて望めるはずもないのだけれども。


「なぁあんた、食べ物は持ってないか……?」

「あ、それも重要ですね。食べ物と飲み物も差し上げますよ」


 普通のやつと、体力回復増進のバフが付いた飲食物をどっさりと出すと歓声が上がった。……そうだよね、囚人が良いご飯なんて食べさせてもらえるわけないよね……。

 どんよりとした、ただただ悲壮感だけが漂っていた空間であったが、久々の食事に皆明るさを取り戻した。

 食事を急かすのも悪いし、わたしたちもついでに少し食べることにしようか。



 お腹が満たされたことで眠りに落ちてしまう人も居たがそこは仕方ない。まだ起きている人も居るし(最初に話し掛けてきた男性も含まれている)、警戒心も解いてくれたみたいだし、これなら素直に話をしてくれるだろう。

 それにしても……囚人の中にはリザードも居る。しかし彼らの間に敵対関係はなさそうだった。ふむ、そこも含めて色々聞かせてもらおうかな。


「事情を聞かせてほしい、と言う話だったな」

「えぇ。あなたたちは何故ここに? ここで何をさせられているんです?」

「何故ここに、は既に察していると思うが、俺たちは反カシムもしくは村の外から攫われた奴らだ」

「……リザードさんは後者? 抗争の捕虜とかじゃなく?」

「そう、だな……」


 男性は苦々しい顔をしながら説明をしてくれる。

 当初は男性自身も『リザードは悪』と信じていたらしい。

 しかし、友人が急におかしくなったことで色々と疑問を持つようになった。ちなみにその友人は先ほど苦しんでいた男性のことだ。

 何とかして口を割らせた結果、薬を盾にやりたくないことをやらされている、と。

 もちろん男性は抗議した。そして捕まった。口を滑らせた友人と共に。

 連れて来られた牢屋には、襲われて攫われて来たと言うリザードもおり、そこで初めてリザードたちが怒る理由があると知った。

 一部とは言え、アイロ村の人員が非道なことをしていると、知ってしまった。


 別の女性からも声が上がった。彼女の場合、カシム氏の嫁になれと言われ、断ったら腹いせに捕らえられたらしい。

 それだけでも十分に酷い話であるのに、また別の女性の話はもっと酷かった。彼女は納得してカシム氏の嫁になったのだが……ある日、子どもが出来た。子どもは無事に産んだ。

 はず、だった。


「我が子は……生まれて間もなく死んでしまったと言われました」

「そう言えば、死産や流産が多い、と聞いていますが……」

「えぇ、私もそう聞いていました。けれども……二人目を身籠って、産んだ後のことでした」


 彼女は産後の疲労でうつらうつらとしていたが、完全に寝てはいなかった。

 それゆえ、聞こえてしまった。


 ――『材料がまた増えた』と。


 背筋がゾワリとした。


「最初は何のことだかわかりませんでした。けれど……翌朝、また子どもが死んでしまったと言われて……」


 つい、気になって。

 『材料とは何のことですか?』と尋ねてしまった。


「その場では『薬の材料が手に入ったんだ』と説明をされて。お茶を勧められて……目が覚めたら、ここに」


 きっと睡眠薬でも飲まされたのだろう。

 わたしもあの時飲んでいたら捕まるだけじゃなく、こんな場所に閉じ込められたりしていたかもしれない。


 薬の材料。

 単に誤魔化しただけなのか。

 それとも……もしや。


 ヒトを、材料にしているのか。


 嫌な汗が滲み出てきた。指先が冷えてきた。頭が痺れてきた。

 わたしに追い打ちをかけるかのように、次々に声が上がる。


「お、俺のとこなんか、親子共々連れて来られた挙句、息子が、息子が、奥に連れて行かれたまんま帰って来ねぇんだ……!」

「私の母も帰って来ていません!」

「戻って来た手下の奴に聞いても何も答えやがらねぇ! 絶対に、奥で殺してるんだ!!」

「それだけじゃない、もうずっと前から、奥の方から呻き声が、絶叫が……あれはきっと死んだ仲間たちの怨嗟だ!」


 溜まりに溜まった猜疑と恐怖で、囚人たちはパニックに陥ってしまった。

 落ち着いてください、なんて言えるわけがない。むしろわたし自身も一体どう言うことなんだと問い詰めたいくらいだ。この様子では彼らが何をさせられているのか改めて聞いてもわからないだろう。

 ただ、これは決して発掘作業か何かではない。ひょっとしたら人命が失われるような危険な発掘作業の可能性も無きにしも非ずだけど……多分違う。

 くそ、閉じ込めたヤツらに今からでも聞いてくるべきか……?

 苛立ちに爪を噛み、どうするか悩んでいたが、それどころではなくなった。

 何故ならば。


 ――ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアッ!


 先刻の男性の叫びとは根本から異なる……この世の生き物のモノとは思えない、心胆を寒からしめる悍ましい絶叫が響き渡ったからだ。

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