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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り
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裏切り行為

 白刃が眼前に迫り、咄嗟に避けることも出来ず『あ、これはダメだ』と脳裏を過る。

 しかし、その刃がわたしの肉を斬り割くことはなかった。


 ガキンッ


「なっ……!」


 横から突き出されたリーゼの槍の柄により軌道が逸らされたからだ。

 お供の人は意外だったのか目を見開いて、体勢を立て直せずバランスを崩したところをリーゼに蹴られて大きく吹き飛ぶ。


「リオンさん、奥に避難して! レグルス兄はあたしと一緒に!」

「お、おう!」

「……っ、了解っ」


 リーゼの声にやっと体が動くようになり、わたしは奥――隠されていた通路の先へと進み、距離を取る。

 レグルスも慌ててお供の人たちと相対するように向きを変えて応戦の構えを取った。


「ちっ、たかが獣人ビーストごときが俺たちの相手になると思うなよ!」


 蹴られた人とは別の人たちが怒りに顔を赤くし、レグルスとリーゼへと襲い掛かる。

 彼らは道中のモンスター戦で手を抜いていたのか――ひょっとしたらわたしたちに実力を誤認させる目的もあったのかもしれない、それまでとは打って変わって機敏な動きで攻撃を繰り出してくる。

 さりとてこちらもその程度では負けはしない。わたしだったら危なかったかもしれないけれど。

 リーゼは冷静に『どうして天井や壁に引っ掛からないんだろう?』と疑問に思うほど器用な槍捌きを披露しており、相手が焦って大振りした隙に鎧に覆われていない肘関節に槍を突き刺して一人を戦闘不能に追いやった。

 レグルスなどはもっと単純だ。相手の懐に潜り込み剣を上手く振るえない状態にさせて、手甲で鎧だろうが何だろうがとにかく構わず殴り付け、仰け反った瞬間に足払いを掛けて転ばせる。そして関節を極め――即座にバキッと腕の骨を折った。

 相手の方が数が多いのだが、数に差があったところで通路は狭く二人が並んで戦うのが精一杯であり、取り囲むことが出来ず正面から相対しなければいけない時点で意味を成していない。そのままの勢いで二人で四人を倒し、あっと言う間に残り一人になる。


「ひ、ひいっ……!?」


 自信があった上に不意打ちまでしたのにこの体たらく、劣勢を悟った最後の一人は倒れている仲間を見捨てて逃走を計った。


「逃がすか……!」

「ぐあっ!?」


 二人のおかげですっかり落ち着きを取り戻したわたしはスッと弓を構えて撃つ。想定通りにふくらはぎに刺さり足止めに成功したので、面目躍如と言ったところかな。



「くそっ……!」


 お供の人――もはや暴漢でいいだろう。男たちの武器と鎧を取り上げ、アイテムボックスから取り出した縄できつく縛り付けていく。これでまだ男たちのアイテムボックスに武器が残っていたとしても何も出来ないだろう。死なれても困るので初級LPポーションを使用してはおいた。

 男たちは悔しさに睨み付けてくる者と、顔面蒼白にさせて怯える者とに反応が分かれていた。後者はともかく、前者は未だに罵倒を投げ掛けてくるのだけれども、状況が読めてないのだろうか?


「貴様ら、俺たちにこんな真似をしてタダで済むと思うなよ!?」


 あっはい、読めてませんね。

 大きく溜息を吐きながら口を開こうとしたら、先にリーゼの槍が男の喉元へと向けられた。あ、ギリギリすぎて一ミリくらい刺さったかもしれない。


「……っ!?」

「タダで済むと思うな、はこちらのセリフだけれども?」


 リーゼの声が今までになく冷たい。怒りを向けられてないわたしが思わず背筋を伸ばしてしまうくらいに。レグルスもピっとなっていたので同士なのだろう……。

 いやいや、わたしが引いている場合ではない。リーゼを抑えるために肩をポンポンと叩き、槍を退かせた。槍と同時に威圧も解かれたのか、男が酸素を貪るように大きく喘ぐ。


「タダで済むと思うな、ってどう言うことかな?」

「……お、俺たちはカシム様とカミル様の直属だぞ」

「で?」

「俺たちが『突然後ろから襲い掛かられました』って証言したらどうなると思う?」


 冷や汗を流してはいるが幾分か持ち直したのか、口元をニヤリと歪めてそのようなことを言った。

 あんまりな言い分に開いた口が塞がらない。わたしがボケっとしていたのを慄きと捉えたのか、更に言葉を重ねてくる。


「いくら貴様が神子であろうと、会ったばかりの小娘と長年仕えて来た俺と、どちらの言葉を信じるかは明白だろう?」


 この男はどうやら相当な信頼を置かれているようだ。そうだとしたらこちらが不利になるかもしれないなぁ。

 頭をガリガリと掻いてから、あえて困ったような表情をしてわたしはそもそもの疑問をぶつけた。


「えぇと、何でわたしは襲われたんですかねぇ?」

「貴様を監視して、村にとって害となるようなら始末してもいいと言われている」


 ……監視と来たか。それも殺しの権限まで得ていると?

 なるほど、リーゼがダンジョンに入ってからずっとピリピリしていたのはこのせいか。

 わたしが暢気に行動している間ずっと警戒してくれていたんだね。後でお礼を言っておかないとな。

 それにしても『害』ってなんだ。隠し通路を開けることの何が害なのか。……これを考えるのは後回しにしよう。どうせ行けばわかる。


「……それは、神子の……カミルさんの指示?」

「……そうだ。この地に余計な神子は要らないと仰せだ」


 うん、わかった。


「それは嘘だ」

「は? ……何を根拠に……!」


 こいつは、『神子』をわかっていない。


「この世界……特に現状において、神子の重要性は神子自身が誰よりもよくわかっている。『神子が不要』と言うのであればそれはカミルさんの言葉じゃない。あるわけがない」


 大小の感情の差はあれど、神子は創造神のために創造の力を振り撒く者だ。

 神子がたくさん居た時代ならともかくその数も劇的に減り、創造神が大変なことになっている現在、貴重な神子の数を減らすようなことをよりにもよって神子がするなんてありえない。

 そしてわたしは、とある一点において、非常に怒りを抱いている。


「おまえたちは……カミルさんの信頼を裏切ったんだ……!」


 カミルさんは彼らに対して「お前たちなら大丈夫」「リオンを守ってくれ」と言っていた。

 それが実際はどうだ。守るどころか逆に殺しにくる始末。

 これは……酷い裏切り行為だ。

 言い訳でしかないが、わたしが彼らに然程警戒を抱いてなかったのもカミルさんの信頼があったからだ。あの村の村長さんからカミルさんには監視が付いてるって聞いてたのになぁ、村長派の手勢について頭に入れておくべきだった。大失態である。

 ギリ、と奥歯を噛み締め、わたしは自分の間抜けさと、彼らと、それ以上に主犯への怒りを籠める。


「どうせ村長の命令だよね。それも『村にとって』じゃなく『自分たちにとって』害となるかどうか、が判断基準でしょうよ」

「だ、だからどうした。カシム様の号令でアイロ村が敵に回るんだぞ?」


 否定はしない、と。

 カシム氏が敵だと言う理由がまた増えた。

 苛立ちもあって、皮肉の一つも言わずにはいられない。


「いや、さっきからずっと不思議に思ってたんだけどさぁ……」


 わたしは呆れを前面に滲ませて、現実を見ようとしない彼にハッキリと教えて差し上げる。


「なんで自分が生きて帰れると思ってるの?」

「……は……?」


 わたしの言ったことに本当に思い至らなかったのか、男は目を見開いた。

 いや、どれだけ都合の良いことを想定しているんだろうね?


わたしを殺そうとしたんだよ? 事情を聞くために生かしていたけど、この後殺さないなんて一言も言ってないよ?」

「俺たちを生かして返さなければカシム様に――」

「『モンスターに殺されました』とでも言っておけば問題にならないよね」


 名目だけとは言え神子わたしの護衛として付いて来たんだから、わたしを守って死んだ(と見せかけた)ところでわたしが糾弾される謂われもなくなる。

 ここまで言われてやっと状況を理解したのか、目に見えて狼狽し始めた。黙って交渉?を任せていた他の男たちも「嫌だ、死にたくない」などとわめき出す。

 ……殺そうとしておいて殺される覚悟もないなんて、本当に勝手すぎる。


「リオン、どうするんだ? ホントに殺して行くのか……?」


 レグルスとてモンスターを何十匹と屠ったことはあっても人殺しはしたことがないのだろう。少しばかり怖じ気付いた声で尋ねてくる。

 わたしも殺したことはないし、出来れば今後一生経験したいとも思わないけど。


「殺さないよ。村長はどうでもいいけど、カミルさんとは敵対したくないから」


 わたしの宣言にレグルスはホッと安堵する。リーゼも顔では不満そうにしつつも肩の力が抜けているので、やらなくていいならばやりたくなかったのだろう。

 たとえ必要になったとしても、きみたちにやらせる気はないから安心してほしい。


「じゃあ縛ったまま連れて帰るのか?」

「いや……」


 わたしはチラと隠し通路の先に視線をやる。

 ……バタバタしていて気付かなかったけれど……ヤバい気配が漂ってきているのだ。


「早めにこの先に行っておかないとマズいかもしれない。だからここに閉じ込めて行く」

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― 新着の感想 ―
[一言] 隠し通路の先。 …………ヤバい気配ってなんだろ? 強者? もしかしたら黒いリザード(笑)さんとかがやって来たら、そりゃあもう驚くよね(口笛ピーピー)
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