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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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廃棄大陸

 瘴気。

 それは破壊の力が可視できるまでに凝縮されたもの。浴びるとダメージを受けるので、対策をしてから進まなければいけない。

 そして瘴気はダンジョン内にも稀に発生していたけれども……あの規模となるとゲームのストーリーにおいての最終目的地『廃棄大陸』とその周辺だけだった。

 つまり、あの向こうは……破壊神の領域の中でも、特に力が強い場所ということだ。


「は? え? こんなところに!? 大丈夫なの!?」


 待って、ここが始まりの地にして最後の創造神の領域なんだよね?

 もうこんなすぐ側に瘴気が大量に溜まるような領域があるって、つまり。


 ……マジで、この世界やばくない?


「幸い、と言っていいのかわかんねぇけど……拡張はしてねぇみたいでな。近付かなければ問題はないさ。今のところは、だけどもな」


 募る危機感に恐怖心がもぞりとうごめいたが、続けられた説明でまだ猶予がありそうだと判断する。……もちろん油断はできないし無駄にダラダラもできないことには変わらない。

 わたしの焦燥に気付いているのかいないのか、ウルが静かに問いかけてきた。


「リオンよ。あそこに行くのか?」

「……いや、今は無理だよ」


 なにもかもが足りなさすぎる。

 船がない。瘴気対策アイテムがない。装備もない。聖属性付与エンチャントもできないし各神様の加護もない。

 ないない尽くしで、今行ったところで海域に突入した途端に瘴気に蝕まれ死ぬだけだろう。どこをどう取っても無駄死にでしかない。


 そしてなにより――覚悟が足りない。

 あそこに行くのか、そう考えただけで震えそうになってくる。

 いつかは絶対に行かなければならないので、それまでにスキルレベルと、それ以上に……精神の強さをわたしは身に着けなければならないだろう。


 わたしの答えになにを思ったのかはわからないけれど、ウルは「そうか」とだけ返し、他にはなにも言ってこなかった。


 そういえば……ウルはこの近くの砂浜に流れ着いていたけど……ひょっとして廃棄大陸の方から来た……?

 ……いやいや、いくら頑強なリザードであっても瘴気はまた別だ。あの中ではモンスターしか生きることができないし、そのモンスターですら弱い者は死に絶える。

 きっと海流の関係で他の場所から流されてきたのだろう。


 あー、モンスターといえば、足の生えてるシャーク。

 そんなのはゲーム時代ですら見たことがないけれども……瘴気の中でなにか異変が起こっているのだろうか……。

 物資どころか情報すら少なすぎる。あそこに行くのは当分先になりそうだ。


 それから言葉少なに黙々と作業を続けていたのだけれども、銛を手にしたところであることに気付いた。


「この銛……先端が鉄だ……」


 金属、それは今のわたしが求めて止まない素材である。

 それがあるだけで実に様々な物がグレードアップできるので、早急な入手が必要とされている。

 今までずっと見つからなくてヤキモキしていたのだけれども、やっとヒントが入手できそう?


「この近辺で鉄が採れるところを知ってますか?」

「それは俺たちが採ってるやつじゃないから知らねぇなぁ」


 漁師さんに聞いてみたものの、期待外れの回答に肩を落とす。

 けれど、光明はまだあったようで。


「他の村との交易で手に入れたモンなんだが……そういえばあいつらもうずっと見てねぇな……」

「他の村? どこです?」

「詳しくは知らねぇけど、あっちの方だな。確か……川を越えて、内陸の方に一日二日とか言ってた記憶がある」


 漁師さんが指し示したのは、わたしたちが歩いてこの村に来た方向だった。

 んん? ひょっとして壊れた橋があったところの先かな……? 壊れたことでただ単に諦めたのか、直せない理由があるのか……後者の気がする。

 何にせよ、次の目的地は決まったようだ。




「神子様……」


 一通りの作業が終わって、次に向けての準備をするためひとまず拠点に帰ることになった日。

 村長さんを始めとして多くの住人が縋るような目を向けてくるけれど、わたしは首を左右に振った。


「すみません。わたしは創造神様の要請により世界中を巡らなければいけません。一つ所に長居はできないのです」

「そう……ですよね……」

「たまに様子を見に来ますので。その間はみなさんもいっぱいモノを作って、創造神様が少しでも回復できるように努めてほしいです」


 帰還石は作っておいたのでいつでも来ることはできるけれど、わたしが居ることで住人が甘えてしまってモノ作りの手を緩めてしまうかもしれない。それじゃダメなのだ。

 神子わたしが作るのが一番重要であるけれど、モノ作りをする住人が増えれば創造の力は増えていく。一つ一つの力が小さくても母数が増えれば決して馬鹿にはできない。数は力なり、だ。

 なお、以前ウルに試してもらったところ、帰還石が使用できるのは神子のみと判明した。連れて行くと決めた人は一緒に移動できるのだけれど……わたしは今のところこの村の人たちをわたしの拠点に住まわせる気はない。いくらか手伝いは欲しいと思ってるんだけど、どうにもピンと来なかったんだよねぇ。

 聖水は水に神の力を篭めているだけなので誰でも使用できるんだけども、それぞれのアイテムでわたしとそれ以外の人の使用でどう違いがあるのか要検証かも。


「じゃあ、帰ろうか」

「うむ」


 頭を下げてくる人、手を振ってくる人。それらを視界に収めながら、わたしはウルと手を繋ぎ帰還石を使用した。




「んんー……六日ぶりの我が拠点!」


 転移の光が収まり、見慣れた創造神像と祭壇を目にしたことで思わず安堵の息が漏れた。

 体に不調はないのだけれども、なんだかんだで心が強張っていたのだろうか。ぐっと両腕を上げて伸びをする。


「とりあえず、家に入って休憩しようか」


 傍らに立つウルにそう声を掛けるのだが……どことなくウルの視線が鋭い。鼻を鳴らし、あちらこちら周囲を見回している。


「ウル、どうしたの?」

「……わずかにだが、知らぬ臭いが混じっている。ひょっとしたら侵入者が居るかもしれぬ」

「えええぇ!?」


 そんなバカな!

 自動聖水散布システムが壊れた? それとも創造神の領域で創造神の時間ひるまに出歩くモンスターが出現し始めた?

 前者ならまだしも、後者だとしたら相当強いモンスターということになる。そしてそれは同時に、破壊の力の侵食度が増えたということで――

 わたしの背に寒気が走った。


「大丈夫、ぬしのことは我が守る。まぁ装備くらいは身に着けておくとよい」

「う、うん。ありがとう」


 頼もしいウルのセリフに冷えて固まりそうだった体がほぐされる。平常心に戻ったところでわたしは装備を引っ張り出した。

 昼間はモンスターが居ない、夜は聖域内に引っ込んでるから外してることが多いんですよ。モノ作りにはジャマだし。

 不意にモンスターが現れることだって今後あるだろうし、パっと切り替えられるようにしておかないとな。


「我が前に出る。決して先に行くな。あと、念のため後方の警戒は続けてくれ」

「わかった」


 スン、と鼻を再度鳴らし、侵入者が居るであろう方向へウルが足音を立てずに歩いていく。……わたしがダメダメで音をわずかに出してるから効果があるのかわかんないんだけどもね……へっぽこでごめんよぅ。

 それでも極力静かに、キョロキョロとなにか不審な物がないか調べながらおっかなびっくりウルの後をついて行った。


「畑が荒れてるね……あの辺りから侵入してきたのかな」

「かもしれぬ。足跡は……あっちに向かってるな」


 畑は確かに荒れている。荒れているのだけれども……どうにも違和感がある。

 その違和感に答えを出す前に、ウルがまた進み始めた。標的が近いのか、殊更慎重になっているようだ。


「……あそこだ」


 ささやき声で、ウルがくいっと顎を向けて示したのは……倉庫だ。扉が、わずかに開いている。


「あの中になにかが居る」

「……っ!」


 言われて耳を澄ましてみれば、微かにだけど音がする。なにかを、壊しているのだろうか。

 いや……なにか、ってそれは素材に決まっているだろう。神子わたしに、モノ作りをさせないために――


「我が突入する。主は少し後から来い」

「……っ、……任せたよ」


 「任せるがよい」とでも言いたげなニヤリとした笑みを見せてから、ウルは駆け出した。


 バッキャアアン!!


 一呼吸もかからぬ間に倉庫前へと到達。扉を蹴破り、中に居るモンスターを倒そうと腕を振り上げ――




「うわあああああああ!?」




 ――悲鳴が聞こえてきた。


 ヒトの。

 もちろんウルのではない。


「……えっ?」

スタート地点の近くにストーリーが進行しないと侵入できない地域があるパターンは好きです。


たいして重要な村でもないのでサクっといきました。

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