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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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リザードたちの現状

 ランガの語りをまとめるとこうなる。


 リザードたちがアイロ村と神子の存在を知ったのは十年程前のことだ。神が封印されたせいで年々過酷さを増す環境でも生き延びる力はあったものの、どうしたって神子が居るのと居ないのとでは大きく状況が変わってくる。それゆえ、神子の協力が得られないかとまずは代表者数名を引き連れて――この中にランガも入っておった――交渉に出向いた。

 神子は受け入れてくれたが、いきなり移住ではなくまずは交流を深めようと言う話になった。リザードに対する不安を住民が訴えたからだ。ランガたちとて己の種族がどのような印象を持たれているか弁えている。わざわざ敵視される中で一緒に住みたいとは思わないとの意見もあったが、結局は神子と友好的であった方がメリットは大きく、こちらから誠意を見せることで融和を図ろうと言う結論に至る。


 始めは上手く行っていた。リザードの頑強な体で砂漠を探索することで素材を得て、アイロ村と交易をするようになった。村のため遠出が出来ない神子には喜ばれ、リザードたちも安定して食料などを得ることが出来た。極一部、陰で石を投げてきたりする住民も居たがリザードたちは耐え忍んだ。神子に訴えたところで現行犯でなければ裁きは期待出来ず悪印象を持たれるだけであるし、理性的であればあるほどそれ以外の住民からは安心を買うことが出来ると思ったからだ。


 しかし、少しずつ歯車が狂い始める。なお、いくつかはランガが参加していなかった交易時の話なので伝え聞いたものだと注釈を付けておこう。

 リザードたちが交易時に捕えられるようになった。「何故?」と問い詰めても、「彼らが暴れたからだ」以上の答えは返ってこず、逆に「何故暴れた?」と問い詰められる。ランガとて訳がわからない。くれぐれも慎んだ行動をするように言い含めてあったし、そもそも敵意に対して敵意を返す者、アイロ村に行きたくない者は交易隊に入れてなかったからだ。

 ランガが犯罪者として捕えられた者たちと面会をすると、揃って「俺たちはやってない!」と訴えた。しかし、住民たちの多くの目撃証言があり訴えは棄却された。むしろ「罪を認めないのか」と批判が増えていくこととなった。何かの間違いではないかと何度も疑問に思ったが、暴れたこと自体は事実らしくランガにはどうしようも出来なかった。


 やがて、穏健派であり、何度も交易の実績を積み、住民の友人すら出来たと喜んでいたリザードすら捕まったことで、『これは何かの陰謀ではないか?』と強く疑いを持ち始める。

 さらにその頃には……強制労働の刑期を終えて解放されたはずのリザードたちが帰って来なくなった。

 「解放すると言う約束はどうなった!」と詰め寄っても「確かに解放している。それ以上の責任を問われても困る」と返された。「もしや裸一貫で砂漠に放り出しているのではないだろうな?」と邪推したが「元々持っていた荷物を取り上げるようなことはしていないし、たとえ帰路で力尽きたとしてそれを僕たちのせいだとするのは筋違いだ」と取り付く島もない。これもしっかりと村から追い出される様が目撃されており、事実であるらしい。


 ――もしや神子を含め、住民全員がグルなのでは? こちらに不利になるよう口裏を合わせて、実は同胞たちは閉じ込められたままなのでは?


 膨れ上がった疑念はもう収まらない。

 リザードたちは再度話し合い、交易を取りやめ、二度とアイロ村と関わらないことに決めた。

 攻め入って取り返そうと言う過激な意見もあったが、人数差が大きすぎたし、捕まったままと言う確たる証拠もなしに本格的に神子を敵に回すことは出来なかった。


 ここで話は終わるかと思いきや、まだ続きがあった。

 今度は交易ではなく、ただ狩りに行った者たちも帰って来なくなった。

 強力なモンスターが沸いているのだろうか、始めはそう思っていたのだが……一人だけ、たまたま隊を離れていた青年が帰って来た時に何が起こっていたか判明した。


 曰く、「人間ヒューマンに襲い掛かられ、皆連れて行かれた」と。


 別行動をしていた青年は合流をしようとしたが果たせず、すぐに周辺を捜索した。合流地点に争った跡はあるものの死体がない。であれば、何らかの理由で移動をしたのだろう、と。

 時はそう経っていなかったのですぐに見つかった。人間の隊列と……その者たちに縄を打たれ、引きずられるように歩く姿として。

 青年は頭に血が昇ったが、それでも冷静であった。多勢に無勢であったのでその場で解放するべく動くのではなく、尾行して本拠地を突き止め、後で皆で取り返しに行こうと考えてのことだ。連行されたのならすぐに殺す気ではないはずだと一抹の安心があったからだ。


 そして……人間たちの目指した先が、アイロ村だった。


「もう怒りを止められる者は誰一人居なくなった。同じように近隣で被害を受けていたスネイク、マーマンたちと連合を組み、アイロ村と戦いが始まった」

「……」


 なんともはや、掛ける言葉がない。

 アイロ村の連中はリザードたちを敵視していたが……引き金を引いたのは自分たちではないか。

 どうしたものかと隣のフリッカに目をやるが、何事かを思案している顔であるな。ふむ?

 とは言えまだランガとの話の途中だ、尋ねるのは後にしよう。


「この場所を見つけたのは少し前だ。ここを拠点に偵察をし、またダンジョンを経由して侵入出来ないか探索を続けている途中にお前たちが来た」

「ダンジョンを経由とな?」

「あぁ。このダンジョンはアイロ村の方に向かって伸びている。中まで続いてるならよし、続いていなくても近付けるだけ近付こうと崩れた石やら砂やらを掘り返しているところだ」

「……今更であるが、ここまで我らに話してもよかったのか?」


 我らはただの通りすがりだ。スルーするだけならまだしも、向こうに告げ口をするとは思わなかったのだろうか? 同胞として協力してもらえるものと思ったのだろうか?


「お前のところの神子に協力してもらえないかと思ってな」

「今ここでこうして話を聞いておれば協力したかもしれぬが……アイロ村に取り込まれるとは思わなかったのか?」

「……取り込まれたとしても、敵にはならないだろう」


 いや確かに、我はそのようなことは言ったけれども……よく信じたな?

 と疑問を感じたが、根拠はあってのことらしい。


「お前が神子と抱擁した際、神子は穏やかなものであった。大事にされているのだろう? リザードに隔意を持たぬ者である何よりの証拠だ」

「……間違ってはおらんな」


 しっかりと見られていたらしい。少々むず痒いものがあるな……。

 もぞりと身を動かしている間にランガは宙を見つめ、どこか懐かしむような、苦しむような顔をした。


「神子カミルも、あのように穏やかで……信じられる男だと、思っていたのだがな……」


 ……ランガは交易隊の一員だったのであの神子とも当然交流があったのだろう。この口ぶりでは友人かそれに近い間柄であったのかもしれない。

 友情を抱いていた相手に裏切られたとあれば、その絶望は如何なるものであろうか。

 しかし……我には、その糸は細いながらもまだ途切れていないように感じられる。


「……あの神子であるが、性根は至極真っ当であると思うぞ」

「……何故そう思う」

「リオンほどではないが、創造神の気配においがした。あれは、正しく神子である」


 リオンもあの男を一目で神子だと察知したようだった。それほどまでに、神子であった。

 我らの前に姿を表すプロメーティアの印象がどうあれ、外道な者を神子として任命し続けるはずもない。

 もう一つ加えると……リザードを追い返すのに苦しみを感じているようでもあった。ひょっとしたらランガのことでも思い出していたのかも、なんて。


「では……俺たちが間違っているのだと?」

「さて、それはどうであろうな」


 ギリ、と歯噛みをするランガに我は曖昧に返す。神子が正しいのであれば、正しくないのは自分たちなのか、そう繋げてしまうのは自然だ。

 けれども……きっと、そうではないのだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん。 この話を信じるなら、悪いのは村の神子じゃない(神子の側にいる特定個人を見ながら) になるけど、フリッカの故郷であるエルフ村で存在した神子の件があるしなぁ~。
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