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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り
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神子の伴侶に求めるモノ

 トラブルはありつつも、表面上は平穏に晩餐会が終了した。

 もう精神的にメチャクチャ疲れた。早く部屋に戻って寝たい……と思いながらの帰り際。


「リオン、これから少し二人で話せないかな?」


 カミルさんからそのように誘われて身構えてしまった。

 何せ抵抗レジストしたとは言え睡眠薬入りのお酒を飲まされたのだ。寝落ちたところを拉致監禁でもする気なのでは?と想像してしまうのも仕方ないだろう。

 けれどわたしは少し考えてから結局誘いに乗ることにした。ここで何かアクションがあれば、主犯が兄弟のどちらかなのかわかるからね。もしもの時は帰還石もあるし。

 レグルスとリーゼに「もしわたしが居ない間に危険なことがあったらすぐに帰還石で逃げるように」と耳打ちをしてから、カミルさんの背に付いて行った。


 向かった先は小さめの客間だった。ただ部屋が狭いだけで窓もあり、寛げるように絨毯が敷かれ、装飾品もキッチリと置かれているので、ここに閉じ込めるとかではなさそうだ。

 まずカミルさんが中に入り、わたしが入り……護衛の人が入ろうとして止められる。


「ここから先は神子同士の話だ。外に出ていてくれ」

「しかし、貴方に何かあっては……」

「……何だい? ひょっとして僕がこんな孫ほどに年の離れた若い神子にやられるとでも思っているのかい?」

「い、いえっ」


 護衛の人は職務熱心なのか、わたしを警戒しているのか、渋ってはいたけれども最終的にはカミルさんに追い出される。すぐに突入出来るように控えてはいるだろうけど。


「すまないね。君を軽く見ているわけではないんだけど、あぁでも言わないと出て行ってくれないから」

「いえ、気にしてませんので」


 「全く、過保護で困るよ」と肩を竦めてから絨毯に座る。わたしにも座るように促し、アイテムボックスからグラスと瓶をいくつか取り出す。

 ジュースと水、どちらが良いか聞かれたので、せっかくだからジュースを飲ませてもらうことにした。

 カミルさん自らの手で注いでもらい、念の為に確認をしてから一口含む。


「……美味しい」

「そうだろうそうだろう。でも大人は皆お酒の方が好きで付き合ってくれないんだよね」


 わたしの賛辞に嬉しそうに破顔して、手酌でわたしと同じ物を飲み始めた。

 ……うちでお酒を飲むのは地神だけだけど、逆にわたし以外全員お酒飲みで、わたし一人でジュースを飲むとしたら確かに寂しくなるな。少しくらいはお酒に付き合ってあげた方がいいのかしらん?

 グラスの半分を飲んだところで、わたしは話を切り出す。


「えぇと、神子同士の話とのことですが、何についてでしょう?」

「興味本位で君の話を聞いてみたかっただけだよ。あの場では聞き辛かったからね」

「聞き辛い、ですか」

「うん、君の夫についてちょっとね」


 え、また蒸し返すの?とわたしが身を固くしたのが伝わったのだろう。

 申し訳なさそうにカミルさんは謝ってくる。


「カシムが強引ですまなかったね。君が独り身だったら僕も求婚くらいはしてみたかもしれないけれど、さすがに既に相手が居る身で引き裂く気はないさ」


 その発言にわたしはグラスを取り落とすところだった。

 求婚って……カミルさんがわたしに? て言うかこの人独身だったの? あぁいや、重婚の可能性もあるか。


「……それは、わたしが神子だからですか?」

「うん? そこは関係……あるけれども、主目的としては君が不老だからかな」

「……はい?」


 神子としての力が第一の目的ではないのは、この人自身が神子だからだろう。そこは理解できる。

 でも『不老だから』と言うのは……初めて言われた気がする。

 わたしの疑問が顔に出ていたのだろう、カシムさんは苦笑しながら説明してくれる。


「自分で言うのも何だけど、僕は結構モテるんだよね」

「……それは、そうでしょうね」


 この村唯一の神子で、顔も整っており、性格も穏やかだ。これでモテないわけがない。アルネス村だったら引っ張りダコなはず。


「だから僕の妻になりたいと言ってくれる人は居るのだけれども……実は離婚も二回していて」

「えっ」

「理由が『貴方は若いままなのに、自分だけ老いていくのが耐えられません』ってさ。相手も君みたいに不老ならそんなフラれ方しなくなるかな、と思ってね」

「――」


 ヒュっと、息を吞んだ。


 ……そう、そうなんだ。

 神子は……不老だ。


 つまりそれは……神子は、独り、取り残されると言うことだ。


 不老になったと喜んだ神子も中には居るかもしれない。

 けれども、愛する人と同じ時を歩めないのは、きっと辛いことなのだろう。

 恋多く、言い方は悪いけれども次から次へと乗り換えられるなら平気だろう。


 逆に……たった一人を、深く愛すれば愛するほど……絶望に変わるのではないだろうか。


 震えそうになる手を押さえながら、わたしはふと気になったことを聞いてみた。


「……神子を辞めようと考えたことはないのですか?」


 神子は不老である。

 けれども、それは神子である間だけであり、神子の力を創造神に返せば元通り年を重ねることになる。その選択を取らなかったのだろうか?


「ただでさえ創造神様が大変な時に、そんなことは出来ないよ」


 返答に、わたしは自分が少し恥ずかしくなった。


 カミルさんは、自分の望みより、創造神を……世界を取ったのだ。


 それはきっと、生半可な覚悟で出来ることではない。

 この人は……自分のことばかり考えているわたしなんかより、ずっと立派な神子だ。

 創造神が神子の力を授けた理由がわかった。


 フッと力が抜ける。

 カミルさんのことはもう疑わなくていいだろう。

 ……てことは、睡眠薬はカシム氏の独断か?


「で、話を戻すけど。リオンの夫の種族は何かな?と気になってね」

「え? あ、あぁ、はい。その、伴侶の種族は……エルフです」


 考え込んでいる間に質問をされ、慌てて言葉を選んで返す。

 ……しかし、うん、やはり『夫じゃないです』とは言い辛いし……騙してるみたいで気が引けるけど、事実を教えなくても問題ないよね……?


「エルフ……そう言えば君のお供にエルフの娘さんが居たね。彼女の兄弟かな?」


 ……ごめんなさい、本人です。


「エルフなら長命だから二百年は一緒に居てくれそうだよね……いいなぁ。ねぇ、あのエルフの娘さんを僕に紹介してくれる気はない?」

「……すみません、彼女も既に……」

「そっか、残念」


 ……わたしと、とは言えない。胸が痛くなってきた……!

 代わりにアルネス村のエルフを紹介しようかな……? あそこなら希望者は絶対居るだろうし。でも、森から砂漠への環境の変化が大きすぎて厳しいか……?


「しかし、人間ヒューマンとエルフだと子どもが出来にくいから、そこはちょっと難点かもね」

「こ、子どもですか……」


 はい、一生出来ませんね! 種族以前に同性ですからね!!

 わたしの段々引きつる頬に気付いてないのか、カミルさんは溜息を吐きながら、愚痴を零すように続ける。

 と言うかこの話題、あまり異性間でするものじゃないのでは……アステリアにセクハラなんて概念はないか。


「うん、僕は子どもが出来る前に別れちゃったし、カシムも子どもが出来にくいみたいで、いっぱい妻が居るにも関わらず子宝に恵まれず、やっと妊娠したかと思えば流産と死産ばかりでね……」

「それは……その、ご愁傷様です」


 カシム氏の印象は最悪で既に嫌いであるが、この点に関してだけは同情してしまう。

 発言を許すことは出来ないけれど、『何人でも』と言ったのは、自分に子が出来なかったせいもあるのだろうか。


「おかげで僕と血が繋がった家族は未だにカシム一人だけでねぇ……おっと、君たちがそうなると脅すつもりはないんだよ。ただ、そうなる可能性がある、って話さ」


 ……カミルさんがカシム氏の行動についてあまりとやかく言わないのは、彼がたった一人の肉親おとうとだから、と言うのもあるのかもしれない。

 わたしだって、同じ状況になったら贔屓してしまうかもしれない。止められないかもしれない。


 独りになるのが、怖いから。


 ……今後カシム氏が何を言おうと、カミルさんに止めてもらうことを期待しないでおこう。


 はぁ、何だか無性にウルとフリッカに会いたくなってきたなぁ……。

 まだ別れて一日も経ってないのに、大丈夫かわたし。

 二人は今頃何をしているのかな?

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