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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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初めての村改革

 翌朝、ひとまずわたしたちは村長さん宅へと赴くことにした。

 村長と言っても他の家より少し大きいだけで華美なものは何一つなく、借りた空き家ほどではないけど似たり寄ったりのボロ……ごほん、寂れ具合だ。


「村長さん、おはようございます」

「おはようございますリオンさん。ウルさんも元気になられたようですね」


 ウルの方を見て好々爺然の笑みを向けてくる村長さん。うん、やっぱりこの村は大丈夫そうだね。

 モンスターに襲われることで、それに近い種族にも敵意を持つようになってしまう住人は結構居たからねぇ……。

 安心だとわかったところで、先日より気になっていたことを尋ねることにしよう。


「ところで村長さん、あなたは司祭ですか?」

「えぇ。……とはいえ、今となっては名ばかりの司祭ですが……」

「? 何故です?」

「二年ほど前に、創造神様の像があのシャークのようなモンスターに破壊されてしまい、直せる者もおらず……」


 あちゃー、とわたしは額に手を置く。

 創造神像がないということは聖水を始めとする聖域展開アイテムが作れないということだ。これでこの村がややボロだったのも頷ける。

 平和そうに見えても少しずつ侵食されているんだな。急ぎ過ぎても失敗するだけだけど、あんまりゆっくりもしていられないね。


「祭壇まで案内してもらえますか?」

「わかりました。貴女方にお祈りしていただければ、創造神様も喜ばれるでしょう」


 村長さんに祭壇までの道のりを先導されて歩く。

 途中すれ違う子どもたちに手を振られ、振り返しながら、ウルに聞きたいことがあったのを唐突に思い出した。


「そういえば昨日聞きそびれたんだけど……あのシャークが『紛うことなくモンスターだ』ってなんでわかったの?」

「ん? んむ……」


 ウルはなにやら子ども相手に少しばかりキョドっていた。昨夜の宴会でもそうだったけど、小さい子が苦手なのかな?


「言葉にし辛い感覚であるのだが、『我らとは違う』というのが一番近いだろうか」

「なる、ほど?」


 モンスター扱いされてしまう種族とも違う。だからモンスターだ。ということなのだろうか。

 わたしはいわゆる人間ヒューマンだからそういう感覚はよくわからないなぁ。

 ……あれ? わたし、ヒューマンだよね?


「着きましたよ」


 いくばくか自分のことについて悩んでいる間に着いていたらしい。

 顔を上げてみるとなるほど、確かに創造神の像は壊されていた。残っているのは足元だけで、大小の破片があちらこちらに散らばっていた。持ち去られたのか海に流されたのか、足元のサイズに比べて明らかに足りない。

 素材は……大理石かな、これは。


「うーん、今は素材がないので修理できないですね。いくらかグレードが落ちますけどしばらくはただの石で我慢してください。素材を手に入れたらアップグレードしますんで」

「……はい?」


 呆けている村長さんに気付かず、わたしたちは作業を開始する。


「ウル、ちょっと足元それを片してくれるかな?」

「うむ、任せるがよい」


 壊れた大理石像をそのまま収納するよりは、大理石ブロックに戻した方が他に流用できてお得なのだ。

 自分のピッケルでもできるけど、ウルにやってもらう方が早いし、普段から頼られるのが嬉しそうなのでこういうことは任せることにしている。


「そらっ」


 ガゴッ


 大して力も入れてないように見えるのに、ウルの拳によってあっという間にバラバラになる。


「なっ……一体なにをして……!?」

「あー、ごめんなさいね。すぐにやりますんで」


 顔を青ざめさせる村長さんを軽く宥め、大理石の破片をブロックにしてアイテムボックスに突っ込む。横領? これは掃除っていうんですよ。ハハハ。

 代わりに石ブロックを3つほどドドンと取り出した。


「!?」

作成メイキング、【創造神の石像】」


 石ブロックに手をかざしてスキルを発動。石が光りながらぐねぐねして形作る光景にもそろそろ見慣れてきた。

 今回も十秒ほどで作成が終了し、一二〇センチほど――おや、スキルレベルが上がったかな? 前回の作成より少し大きい創造神の像が出来上がっていた。

 わたしの作成シーンを見ていた村長さんは目も口も丸くしている。


「ふぅ。これで像に祈っていただければ、聖水の作成ができ――」

「まさか……創造神様の神子……!?」


 あ、これまた言ってなかったパターンですね……すいません。

 基本的に住人はみんな創造神信仰だ。地域によっては、例えば火山近辺だと火神の信仰の方が強かったりすることもあるけれども。

 そして、創造神の神子といえば創造神直々に力を与えられ、天より地に遣わされた者のことで、神様たちの次に偉いヒトということになる。

 なのでまぁ……しきりに恐縮し、気安くして大変申し訳ないと平身低頭する村長さんを落ち着かせるという一手間が発生することとなった。


 ……ところで、わたし以外の神子って存在するのかな?

 創造神の望むアイテムを作ったのはわたしだけらしいので転移組は他に居ないとして(ひょっとしたら今後増える可能性もある?)現地神子とか居たりするのかしらん?




 とにもかくにも、数日かけてこの村の改革を行うことにした。

 住人は神子のようにスキルでパパッと作ることができず全部手作業となる、かつわたしに細かく教える技術はなく(スキル頼りでごめんなさい!)道具を修理・作成するだけの応急手当という感じで、これからじわじわと育っていくことになるのだけれども。

 ゲーム時代の村発展システムは、住居と食料を与えることで人数が増えて、各道具を設置することで住人が勝手に少しずつ技術を身に付けて時が経てばアイテム取引ができるように……くらいの内容だったんだけれどもねぇ。

 ちなみに、貨幣は存在しないので取引する時は物々交換が基本だ。特定のアイテムを渡すことでレアアイテムをくれたり、イベントキーアイテムをくれたり、なんてこともあったな。


 まずは自動聖水散布システム。幸い魔石は余っているらしい……というか扱える人が居なかった。ひとまずわたしが作成するけど、住人に超特急で魔石の使い方を仕込んで、今後はその人に頑張ってもらうしかない。色々応用すれば便利になるからね!

 防護柵も重要だけど、これは陸からもモンスターの襲撃がたびたびあったことが原因らしいので、聖水が撒けるようになったら補修も間に合うようになるだろう。

 拠点とは違い海の方も問題なので、こちらはブイを利用して撒くようにした。時化の時以外は漁に出ているようなので、こまめに補充してもらうようにする。


 そして家屋。……これは手を加えるべきか微妙なところだ。なにしろ『ブロックが勝手にくっ付く』なんて神子だけの技能だ。住人はきちんと基礎を作り柱を立て……とやっていかねばならない。これもわたしは技術を教えられないし、下手に手を出して村人間の技術継承がおざなりになっても困るので、石材と木材の提供に留めるにした。

 なお、最初に借りた空き家はそのまま自由に使ってよいと言われたので、わたしの技術でリフォーム……というか建て替えレベル。拠点というほどではないけれども、今後この村の様子を見に来た時はここに泊まることになる。


 技術云々があまり関係しないところはわたしがさくさくと進めていった。農地に井戸に地ならしに。あ、ウルが壊した桟橋も直しておいたよ。

 舟は……残念ながらまだちょっとスキルレベルが足りない。ぐぬぬ。


「そういえば、ここからどこかに渡る船は出てるんですか? 別の大陸とか」


 釣り竿を直しながら、側に居た猟師の人(この村に来て一番最初に会話した人だ)に聞いてみる。


「おや? 嬢ちゃ……じゃない、神子様は知らねぇ……知らないのですか?」

「あはは……口調は改めなくていいですよ」

「そ、そうかい?」


 わたしが神子だと知れ渡ってからは会う人会う人に畏まられてどうにもやりづらい。

 ここに来た――もちろん別の世界から、とは言わない。与太話と一蹴されるのではなく「神の世界から来たんですね!」とか勘違いされるだけな気はするけど――のは最近で、と言葉を濁し……いや事実なんだけども、なにかあるのか素直に拝聴する。


「向こうの方、なにか見えないか?」

「んん……黒っぽい?」


 漁師さんが視線を向けた先、海のずっと沖の方に目をこらしてみると……海の上に黒い靄のようなものがかかっているように見えた。視認できる範囲の端から端までありかなり広域だ。

 霧かな? 天候が荒れてるのかな? と思ったのだけれども、絶句するような答えが返ってきた。


「いやそうじゃない。あれ、瘴気なんだわ」

「……はい?」

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