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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り
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またもやトラブル

「こいつで最後だ! やるぞリーゼ!」

「うん! やああああっ!」


 レグルスがキャプテンサンドゴブリンの足を槍で突き刺して機動力を奪い、リーゼが素早く頭と心臓部分を穿ちトドメを刺す。

 こうして襲い掛かってきたサンドゴブリンたちの最後の一匹が討伐された。



「ふむ、確かに二人とも以前より動きが良くなっているのぅ」

「うへへ、ウルの姐さんにそう言ってもらえると実感がわいてくるな」

「うんうん。頑張った甲斐があったよ」


 アイロ村へと向かう道中、サンドゴブリンの一群が襲い掛かってきた。

 ゴブリン種と侮るなかれ。創造神の時間ひるまに出現した上に、僅かではあったけど瘴気を帯びていたのだ。確実に強化はされていた。

 しかし数がそこまで多くなかったこともあり、「レグルスとリーゼの修業の成果を見せてもらおうか」とウルが言い出したので、ウルは観戦、わたしとフリッカは控え目の参戦となった。

 そして見事に倒してのけたのである。

 二人とも特段力が強くなったとか、攻撃の早さが上がったとかではない。パラメータがあれば少しは数値が上がってるんだろうけど、残念ながらそこは見えないしね。

 ただ何と言うか……判断が早くなった、気がする。どう動くべきか、一つの動きを終えた後に次をどうするか、その辺りがシームレスになって相対的に早くなっている印象だ。わたしは武闘派じゃないから上手く言えないけれど。ゲーム時代は基本的に装備とアイテムでゴリ押ししていたので、技術的なものは見習わないとなぁ。

 まぁレグルスは砂に足を取られることもあったのでまだまだかもだけどね。いやそこはわたしが偉そうに言える立場でもないか。単にわたしの場合は弓が主体で大きく動き回らないから目立たないだけなのであるウフフ……。


「それにしても……ここは過酷な地なのですね。日が出ていると言うのに、こんなにモンスターが現れて」

「……そうだね」


 わたしの手伝いで素材を回収しているフリッカが呟いた内容に頷きを返す。

 モンスターは基本的に日に弱く、夜に活動する。昼は創造神の時間、夜は破壊神の時間と呼ばれる所以だ。

 それが、この砂漠の地では違う。昼間でもモンスターが散見されるのだ。瘴気を帯びている者も見受けられる。いかにこの地がピンチなのかを物語っているだろう。

 さりとて、違和感を覚えないでもない。

 モンスターが瘴気を帯びていると言うことは、近くに瘴気が発生している地があると言うことだ。しかし近辺に瘴気は見当たらない。

 であれば……このモンスターたちは、どこで沸いたのだろう?

 見逃していたり地中に埋まっていたりで、単純に見つけられないだけかもしれない。千里眼やらレーダーやらの持ち主でないので当然その可能性もあるだろう。

 けれども。


「……」


 わたしはモンスターたちがやって来た方向を眺める。何もない。

 しかし……この先には、アイロ村がある。

 そしてわたしの気のせいでなければ、この数日の間に襲ってきたモンスターは、どれもがアイロ村がある方角からやってきた。実のところアンフィスバエナの時も同じ方角だ。

 これはただの偶然なのだろうか。それともアイロ村の神子から逃げてきているとかなのだろうか。


「リオン様、回収終わりました」

「あ、うん。ありがとう」


 フリッカの声に嫌な想像を頭から振り払う。

 警戒はするけれども、現時点で答えの出ないことをうだうだ考えていても仕方がない。


「じゃあ、先に進もうか」




 そうして更に二日。とうとうアイロ村が視界に入った。

 あそこに、神子が居る。

 初めて会う、わたし以外の神子が。

 近付くにつれ高まる緊張を抑え込みながら、一歩一歩進んで行く。


 進むにつれて、アイロ村の様子が少しずつ鮮明になっていく。

 とは言っても周囲は壁でしっかりと守られているので村の様子そのものは見ることが出来ない。

 しかし、その壁がものすごく長いのだ。それだけでもこの村の大きさが窺い知れる。

 石ブロックでも積んで中が見れないか試そうかと思ったけど、これだけ近いと向こうからわたしが見えるだろう。不審者扱いならまだしもモンスターと勘違いされて攻撃魔法が撃ち込まれたりしても困るのでやめておいた。


「はー……デカくて長ぇ壁だなぁ」

「そだね。でも入り口はさすがにあるはずだから探そう」


 壁沿いに歩くこと十数分程でやっと壁の切れ目が見えてきた。見張りらしき人が数人、武器を持って立っているので入り口だろう。

 おっと、あちらもわたしたちに気付いたようだ。こちらに視線を向け話し合っている。わたしは怪しまれないよう、歩調を変えずに近付いて行く。


「そこで止まれ! 何者だ!」


 残り数メートルくらいの位置で誰何の声が上げられた。わたしたちが明らかにヒトであるので武器は構えていないが、いつでも攻撃に移れるよう警戒しているのが見てとれる。

 わたしは友好的に思ってもらえるよう、笑顔を浮かべながら被っていたフードを脱いだ。


「初めまして。わたしは旅の――」


 神子です。と言い切る前に。


「貴様!? リザードがよくもおめおめと顔を出せたものだな!」

「えっ」


 怒声が響き、あっという間に武器を突き付けられた。

 え? リザード? わたしは違うし……と思ったけど、あれか、ウルの話か。

 ちらりと横目で確認すると、わたし同様にフードを脱いだウルが目を丸くしていた。なるほど、フードで最初は種族がわからなかったんだね。

 などと分析している場合ではない。


「しかし正面から来るとはマヌケなものだな! お望み通り取っ捕まえてやる!」

「ま、まってまって、待ってください!」


 殺気立ち、槍の穂先や剣先を向けてくる見張りの人たちからウルを隠すように手を広げて立ち塞がる。

 わたしを見てほんの少し気勢が削がれたようだが、武器を収めるまでには至らなかった。


「む……人間ヒューマンのようだがリザードの仲間であれば容赦はしないぞ!」

「落ち着いてください! 一体何の話なのか全くわかりません!!」

「しらばっくれるな! 何度も何度もこの村に攻めてきておりながら戯言を……!」

「わたしたちがここに来るのは初めてですってば!」


 ぶっちゃけ段々面倒になってきたけれども、神子が居るとなれば素通りも出来ない。

 察するにこの村は現在進行形でリザードと敵対しているのだろう。でもわたしたちは無関係なのだと、怒りを露わにする見張りの人たち相手に根気強く会話を重ねていく。

 それでも猜疑の目は変わらず埒があかない。ここは一発、わたしが神子だと証明すれば引いてくれるだろうか。

 作成メイキングスキルを目の前で実行し、ピタリと動きが止まった見張りの人たちにここぞとばかりにアピールをしよう。


「ほ、ほら、わたしは神子ですから――」

「何てことだ! 神子様が敵方に付くとは!!」


 ……余計に混乱を招いてしまったようだ。

 頭を抱えたり、顔を青ざめさせたりと実に様々な反応をくれる。


「早急に対策会議をせねば!」

「いやその前にここで捕らえてしまえば……!」

「馬鹿、神子様だぞ! 敵とは言え恐れ多い!」


 捕らえる、の言葉が出た時にわたしも武器を構えそうになってしまったけど、そんなことをしたら一層こじれるだけだろうと思って我慢した。皆もピクリと反応していたけれども、わたしが動かないのに倣って我慢してくれているので助かる。とりあえず、いつでも逃げられる心構えだけはしておく。


「とにかく、カシム様にお知らせするのだ! 誰か伝令を!」

「お、おまえたち、いや、おまえさまたち! そこでじっとしているんだぞ!」


 随分慌てているせいかわたしに対して変な呼び方をしているけど、まぁそこはどうでもいいや。

 カシムと言うのがこの村の神子、もしくは村長などの偉い人なのだろう。誤解は全然解ける気配がないけど、話が進むならそれはそれでいい。神子ならきっと冷静に対応してくれるでしょう。……してくれるよね?

 騒ぎを聞きつけたのか、入り口には他にも村人たちが集まり始めていた。物珍しそうに眺めているだけの人も居れば、わたし……ではなくすぐ後ろに居るウルを指差しては嫌悪に顔をしかめる人も居る。


 しっかし、アルネス村と言い、リザードの人たちは何でこんなに敵対ばかりしているんだろう……?

 モンスターと見なされることもある種族だけど、彼ら自身、特に破壊を好んでいるわけでもないのだ。

 それとも先に敵対行動を取られたから、敵対せざるを得ないのだろうか。うーん……。

 眉根を寄せながら考えていると、ウルがポツリと零した。


「……すまぬリオン、また我のせいで余計な手間をかけさせているようだ……」

「いやいやいや、きみのせいじゃないからね」


 本当にもう、(手を出さなければ)無害なウルに濡れ衣トラブルを押し付けるのはやめてほしいなリザード族!



 三十分はしただろうか。いい加減待ちくたびれた頃。


「神子様方がいらっしゃったぞ! 皆、道を空けるのだ!」


 どうやらやっと神子と会えるようだ。

 わたしは深呼吸をし、改めて気を引き締めた。

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