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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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歓迎されました

「す、すまぬ……」

「いやいやいや、十分以上に仕事してくれたからね」


 着衣水泳とか初めてだったけどなんとか無事砂浜まで泳ぎ着き、服の裾をギュギュッと絞っていたら、絞られたようにしなびたウルが謝罪をしてきた。

 あれはさすがに不可抗力だし、あのまま巨大シャークが上陸していた時の被害を思えば全然安いものだから、謝る必要は全然ないのに。


「そうだぜお嬢ちゃん!」

「よくやってくれた! ありがとよ!」

「すげぇもんだなぁ!」


 同じく砂浜まで泳いできた村人たちが、びしょ濡れなのを全く気にせずウルに向けて感謝の声を雨あられと投げかけてくる。


「もうダメかと思ってたぜ……助けてくれてありがとよ! いい弓の腕をしてるな!」


 うんうんとウルへの賛辞で腕を組んで頷いていたら、わたしの方へも声が掛けられた。

 顔をよく見ると、さっき舟でシャークに襲われていた村人のようだった。特に怪我もなかったようでなによりです。

 しかし、褒められると嬉しいもんですな。うへへ。

 テレテレとするわたしの傍ら、ウルは目をぱちくりとしているけれども……褒められるのに慣れてないのかな?


「みなさん、大丈夫ですか!」


 大した被害もなく危機を乗り切れた喜びで話が弾んでいると、村の方から一人の初老の男性が転げそうな勢いで走り寄ってきた。


「よう村長。このお嬢ちゃんたちのおかげで全員無事だぜ」


 ほうほう、周囲の村人たちよりちょっと豪華な服を着ているなぁと思えば村長だったか。

 いや、豪華というかこの服装は……。


「えぇ、村の方からもご活躍が見えておりました。私共のために尽力していただき、誠にありがとうございました。このタイミングで貴女がたが来てくださったのは創造神様の思し召しでしょうか。

 今湯を用意させますのでどうぞお清めください。その後はささやかながらも夕食をご馳走させていただければ……」

「あー、はい、お世話になります」


 海水を放っておくとベトベトになるので流せるのはとてもありがたい。わたしはその提案に甘えさせてもらうことにした。

 あ、でもその前に。


「これ、この村の周囲と、浅瀬でいいので海の方にも撒いておいてもらえますか?」

「これは……聖水ですか? 貴重な物なのに良いのでしょうか……?」


 アイテムボックスをごそごそとして聖水を複数個取り出し、村長さんへと渡すといたく驚かれ、またも感謝された。

 うーん、聖水が貴重なものかぁ……まぁこの村にあれこれするのは明日にしよう。




 さて、この村の公衆浴場である。村の規模が規模なのでそんなに大きくないのだけれど、今はわたしとウルの貸し切りなので十分なスペースだ。


「うひゃああぁ目に入った!」

「ちょ、ウル、暴れないで! きちんと落とさないと後でジャリジャリするよ!」


 背後からウルの頭に木桶で何度もお湯を掛けて海水を流す。残念ながら石鹸などはない(ちょっと粗めの布でこするだけらしい)のでしっかり洗うことはできない。

 髪を櫛削るように指を入れると、大きな引っ掛かりもなくスッっと下まで降りていった。この世界だとろくな手入れもできないだろうに、随分と綺麗な髪をしてるもんだね。

 それはそれとしてシャワーとかシャンプーとか欲しいなぁ。でもシャワーはともかくシャンプーはなぁ……。

 石鹸くらいは制限が緩くなった今なら作れると思うんだけど、残念ながら素材の入手がわからないんだよね……苛性ソーダってお店以外でどうやって手に入れるのやら。あー、石灰からも作れるんだっけ? あと、植物オイルでそれっぽいリンスが作れるとか作れないとか……うーん。


「うぬぅ……リオン、まだかー?」

「まだまだー。次は背中いくよー」


 ついさっき手に入れた海綿で作成したスポンジでこする。


「ひぅっ!? な、なにをしているのだ!?」

「洗ってるだけですぅ!」

「く、くすぐった……ひゃあああっ」


 変な声を出して身を捩るウルの背に、極力余計なことを考えないようにしながらスポンジを走らせる。

 この施設は防音設備とかなさそうだし、あんまりアレな声出されるとあらぬ誤解を受けそうで怖いんですけどねぇ!


「はい、前は自分で洗ってね!」

「……ぜぇはぁ……なんだ、これ?」


 わたしがずいっと差し出したスポンジは初めて目にするものなのだろう、珍妙なものを見る視線をしながら手上で弄んでいる。

 それで体をこするだけだから、と言いおいて隣の腰掛けに座り、自分の体を洗おうとした。

 のだが。


「ぶふっ!?」


 頭上からお湯が降ってきた。


「今度は我がぬしにやってやるのだ!」

「い、いや、自分で――」


 やれる、と続けることはできずに。


「やかましい、これはフクシュウなのだ!」

「ちょっとおおおおお!?」


 その後何があったかはあえて語らないけれども、体を休めるどころか疲労困憊で公衆浴場から出た時に男性陣からは微妙に目を逸らされ、女性陣にやんわりと「お静かに」と怒られたとだけ言っておこう。

 ……ぐぬぅ。




 夕刻になり、普段ならみんな家で大人しくしているものなのだが……聖水のおかげでモンスターの侵入を心配する必要はなく、村の中央で大きな焚火――キャンプファイアをして、村人総出の宴会の様相となった。

 お酒の味はわからなかったけれど、漁村だけあって魚介類が新鮮で美味しかった。塩味だけかと思いきや、酒蒸しとか香草焼きとか、昆布や魚のアラで取った出汁とか、色んな味が楽しめたのも嬉しいポイント。

 魚だけじゃなく貝にカニにエビと種類が豊富なのもなお良い。タコがないのは捕れないのかデビルフィッシュ扱いなのかどっちだろ?


 酔っぱらった村人に武勇伝を聞かされたり、子どもたちにわたしたちの方はどんなことをしていたのか聞かれたり。……わたしはほぼ平原で引きこもってただけなので、当たり障りのない会話に持っていくのが難しかったよ……。

 子どもに絡むなと酔っぱらい連中が隔離され、おばちゃんたちに愚痴混じりの苦労話を聞かされた後に料理談義で盛り上がり、後でレシピを教えてもらえることにもなって。


 やがて、コテンと、肩に小さな重みがかかった。

 あ、やば、料理モノづくり話が楽しくて、ウルのこと放置してた……?

 目を輝かせる子どもたちにしどろもどろと応答してるところまでは見てたのだけれども、それ以降はすっかり頭から抜けてしまっていた。


「ご、ごめん、ウル。ひょっとして眠い?」


 慌てて横を確認すると、ズル、とわたしの膝の上に倒れてきた。


「ウル!?」

「……だる、い……」


 そういえばいつもならもうそろそろ寝る時間だ。そしてウルは毎晩だるそうにしていた。

 昼間に力を使ったことで更に疲れが溜まっているかもしれない。もっときちんと目を配って、早めに休ませておくべきだった……!


「すみません、この子が疲れてしまったようなので今日のところは休ませていただきたいのですが、宿屋か空き家はありませんか?」


 ウルを抱き上げて、別種のざわめきに包まれ始めた周囲を見回す。

 村長さんと目が合ったが、済まなそうに頭を下げられた。


「申し訳ありません、こちらの手配が抜け落ちておりました。空き家はあるのですが、掃除が……」

「わたしがなんとかするので大丈夫です。そこを貸してください!」


 そうして案内された空き家で、ウルに「ちょっとだけ待っててね」と外にもたせかけてから。

 掃除をする方が面倒だったのと結構ボロかったので床板を引っぺがしてアイテムボックスから出した木板と入れ替える。壁はとりあえず内側から一枚貼り付けていく。

 木窓には布でカーテンを作り、上から落ちてきそうな砂埃を防ぐために同様に布で天蓋のようなものを作る。

 最後に、余計に作っておいたベッドをデンと置く。さすがにテントではスペースがないのだけれども、ここなら十分だ。


 そうしてやっとウルを寝かせて、最後に村人たちに軽く挨拶をしてこようとしたのだけれども。


「……いくな……」


 ……などとか細い声で懇願されては側を離れることもできず。


「……わかった。ごめんね、ちゃんとここに居るよ」


 わたしもそのまま寝ることを選択し、そっとウルの頭を撫でた。




 ……まぁまた翌朝にはケロっとしてたんですけどね? 本当になんなんだろうネ。

こんなサービスシーン(?)はプロットには全くなかったんですけどねぇ…。

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