制限と耐性
「アクセサリ……?」
「たとえ一つでは無理でも、ひょっとしたら大量に身に着ければ効果が出るやもしれぬ」
なるほど?
確かにアクセサリなら大量に身に着けることが出来る。
ゲーム時代なら装備数に制限があったけれども、この世界なら身に着けるスペースさえあればいくらでも着けられるだろう。
……まぁそこまで大量に身に着けてみたことがないので、ひょっとしたら干渉しあって効果が思ったより出なかったり、想定外の変な効果が出たりすることもあるかもしれない。これもそのうち検証した方がいいかな。
「デバフアクセサリは作ったことないなぁ。多分作れるだろうけれども」
モンスター相手に装備させることなんて無理だからね。そんなことするよりポーション使って倒した方が早いし。
しかし……ウル相手にあげるアクセサリがデバフ効果って……何だか切ない気持ちになってきたよ……。普段から何かしらアクセサリをあげてなかったのが悪いのかもだけれども、ウルは食べ物の方が好きだからね……。
複雑な気持ちを抱えながら作業棟に移動して作成してみたら、思った通りに作ることは出来た。
出来た、のだけれども――。
「あっ」
「……そうきたかー……」
ウルが身に着けたブレスレットは、嵌めて間もなくパキリと割れて落ちた。
……かなーり抵抗力があるみたいですね……?
わたしとしては、身に着けても効果が出ないどころか、常時デバフ状態に慣れることで外した時にパワーアップ!なんてことを想像していたりした。重りを付けて修業すると、外した時にすごい力が出るみたいなやつ。
まぁ結果としては、ブレスレットの方が耐えられなかったんだけど……いや、装備の耐久力を削るって一体どう抵抗力が働いているんだ……? オート反撃みたいに削っているのか?
「そう言えばウル、身代わり腕輪は壊れてないよね?」
「……うむ、それは大丈夫だな」
壊れたブレスレットの破片を見つめながら気落ちしたように答えてくる。
もしやそれも壊れてしまうのでは、と慌てて尋ねてみるけどそうではなかったらしくてホッとする。致死ダメージを防ぐアイテムすら駄目だとしたら大事だった。
つまり身に着けること自体がアウトではない、と。
ウルの行動を阻害するモノに対して抵抗力が働く感じかしら……どうすればいいのか思いつかないなぁ……。
「あー……ウルごめん、現時点ではきみの力になれそうにはないよ……」
「……いや、謝る必要はない。本来なら我が自分で何とかしなければいけない話であるしな……」
遠い目をしながら、フフフと乾いた笑いを零すウルであった。
本当にどうしたものかねぇ……?
それはそれとして、素の抵抗力を高める訓練なり何なりした方がいいかな? モンスターがデバフを使ってこないとも限らないし、常に事前に耐性アイテムとか、デバフにかかった時にサッと解除アイテムを使うことが出来るとも限らないだろう。ほんの僅かな間が命取りになる可能性だってあるかもしれない。
でもどうすれば抵抗力は高くなるんだろ?
少しずつ毒を摂取して毒耐性を……みたいな話を読んだことあるし、効果を低めたポーションから徐々に慣らす? それとも食事に抵抗力を高められる素材を混ぜてみる?
いや、地神からもらった知識だと抵抗力を高めるイコール毒を混ぜるだなこりゃ……薬も一歩間違えれば毒になるんだし、こんなものなのだろうか。
んー……こう言う時はウルに試してもらうのが一番安全なんだけど、そのウルが一番抵抗力が高いだろうからなぁ。ウル基準で判断するのは危険だろう。
じゃあやっぱり自分の体でこっそり――
「リオン様」
「は、はい。何でしょう?」
「よからぬことを考えている顔です。やめてくださいね?」
フリッカに咎められた。くっ、何でバレたし……!
「え、えっとその、今後のために必要になりそうなことで……」
「であるのならば、きちんと説明をしてください」
「……ハイ」
正論ですね……。
そして何をしようとしてたか洗いざらい吐かされ、大いに眉を顰められる。
い、いや、あの、怒られるのを避けたかったわけじゃないんだよ……?
余計な心配をかけるだけだし、それならばいっそこっそり試してしまった方が……って。
「リオン、主は馬鹿だろう」
「馬鹿ですね」
「……ダメかも」
ウルにもフリッカにも、フィンにまでダメ出しされてしまった……。
「リオンは、我が無策で瘴気に突っ込もうとしたら諫めるであろう?」
「……そうだね」
「リオン様は、私が危険な調合をしようとしたら止めますでしょう?」
「…………そうだね」
「リオンさま、ワタシには過保護なのに、なんで自分は大事にしないの?」
「……うぐっ、そう言うわけでは……」
口々に言われ、いかにわたしがバカなことをやらかそうとしていたか思い知らされてしまう。
ガクリと肩を落とし俯いたところで、フリッカに両頬に手を添えられてやや強引に目を合わせられる。
「リオン様。確かに私たちではモノ作りの手助けにはなれないかもしれませんが……心配くらいはさせてください」
静かではあったけれども、真正面からぶつけられたその言葉はより深くわたしの胸に刺さった。
ゲームと違って、わたしは独りではない。
そう頭ではわかっているのだけれども……一人であれこれと進めようとしてしまう癖が抜けないようだ。
特に、効率のために『自分の体を使う』ことへの忌避感がめちゃくちゃ薄いように思える。自分の血を素材にした時にウルに怒られたっけ。痛いのはイヤなくせに、モノ作りが絡むとどうしてこうなるんだろう。
周囲に心配をかけて。それでも。
……やめられないんだろうなぁ、なんて頭の隅を過った。
我ながら業が深いとつくづく思うよ。
わたしと至近距離で目を合わせていたフリッカは、またもわたしの思考を読んだのか何事か察したようだけれども……特に何も言ってくることはなかった。
代わりに、目を伏せて小さく溜息を吐く。
……ごめんね。
「リオン様、私はこれで諦めず、貴女に迷惑がられようと何度でも言いますよ?」
「えっ……ハイ」
以前のフリッカならここで飲み込んで引いていた気がするのだけれども、踏み込んで来た。
わたしに対する遠慮がなくなったと言う意味でしたら、良いことですね……?
これが嫁パワーなのかしら。それらしいことまだ何にも出来てないけれども。
「……とりあえず、何か仕出かした時は埋め合わせをしていただくことにしましょう」
「え、えぇー……?」
いやまぁうん、それでフリッカの鬱憤が晴らせるなら付き合うけどもさ。わたしのせいなんだし。
「ふむ? 我も何か要求することにするかの」
「……これ、ワタシも乗った方がいいの?」
「うむ、フィンもそうするが良い。ペナルティが大きければリオンも多少は踏みとどまるだろうて」
……可能であれば、わたしに出来る範囲でお願いしたい所存である。
イヤなことをやらされたくなければ、自分も相手がイヤがることを止めろって? アハハー……。
「今回の件に関しては、地神様の加護で得られた知識であるのなら、地神様の判断を仰ぐようにしてください」
「そうするよ……」
わたしがひとまずは反省したと見たのか(ただし二度としないとは言えない。最低である)、そこで説教は終了したのだった。
地神には「何を言っているんだアンタは……」とものすごく呆れられたけど、有用性があることまでは否定出来なかったのか、最終的には地神監修の下でのみ行う許可が出ましたとさ。




