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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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初めての村で

 そこは、わたしの予想した通りに漁村であった。

 砂浜の方には木で組み立てられた桟橋と小さな舟が何艘か。周辺に仕事道具であろう網や銛が置いてあったり、魚が天日干しされていたりする。

 内陸の方に向かって行くと、波に備えたのか高床式で作られている木造の住宅がまばらに建てられていた。ざっと見た感じで家屋が三十棟くらいなので、人口は百人前後くらいだろうか。ゲーム時代に比べれば増えてるなぁ。

 破壊神のせいで大きな発展ができず、都市と言えるほど大きなものは全く存在していなかったし、町と言えるレベルの大きさも少ししかなく、ほとんどが村レベルの大きさ、それも家屋が十棟あれば十分大きいという規模だったからね。

 んー、しかし、村の周囲に柵はあるけどちょっとボロいなぁ。あれでモンスターの侵入が防げているのかな?


 キョロキョロ辺りを観察しながら歩いていると、漁師っぽい、縄を肩に掛けたおじさんと目が合った。


「おんやぁ? 外から人が来るとは珍しいな。どうしたんだいお嬢ちゃんたち?」

「こんにちは。えぇと、ちょっと旅をしていまして」


 嘘を吐いても仕方ないので、当たり障りのなさそうな回答をしたつもりなんだけども。


「旅だぁ? 悪いことはいわねぇ、危険だからおウチに帰ったほうがいいぞ!」


 なにを馬鹿なことを言っているんだ?という感じの反応が返ってきた。

 まぁ、そうですよねぇ。比較的平和なこの地域ですら夜になればモンスターが結構出現しますからねぇ。

 ろくに戦え無さそうなわたしたちのような小娘二人だけだと「正気か?」って思われるのも無理はないか。

 ……そういえばこの人、ウルのことも目に入ってるはずなのに特に言及してこないな。リザードに対する偏見がないのか、単にリザード自体が少なくて偏見の持ちようがないのかどっちだろう。


「心配ありがとうございます。でも対策はしているので大丈夫ですよ」

「しかしなぁ……」


 おじさんは胡散臭そうな目で見てくる。今後足掛かりにさせてもらうかもしれない村であまり邪険にされても困るので、わかりやすく好感度を稼ぐとしよう。


「ところでおじさん。なにかモノが壊れて困ってるとかあります? これでも直すのは得意なんですよ」

「壊れてる物ならいくらでもあるが……」


 桟橋の方に目を向ける。よく見ると桟橋自体がつぎはぎだらけで下手するとバラバラに壊れてしまいそうな感じだ。

 周辺にちらばっている木の棒とかも何かのパーツだったりするのだろうか。


「……直せる人、居ないんですか?」

「それがなぁ、直しても直しても壊され――」


「シャークのやつらが来たぞおおおおお!!!」


 溜息を吐きながらおじさんが説明しようとしてくれたその時、大きな声が響き渡って遮られた。

 おじさんも弾かれるように海を見て、苦渋に顔を歪めて駆け出す。


「お嬢ちゃんたち、陸のずっと奥の方へ避難しろ!」

「え? シャークですよね? 砂浜に居れば大丈夫なのでは?」


 シャーク。それは海を代表するモンスターだ。海を往こうとする時は必ず出会うと言っても過言ではない。

 海を移動するには二つの方法がある。一つは舟を用意すること、もう一つは水中呼吸アイテムを用意して泳ぐか海中を進むかすること。

 後者だとプレイヤーの動きが制限され、水棲モンスターに有利な条件で戦うことになるのでできるだけ避けたいが、海底ダンジョンに行く場合はそれも覚悟しなければならない。

 前者は前者で、トビウオのように海面を飛んでくることもあるので、油断をしていると船上でガブりである。

 とはいえ、シャークだけあってその行動範囲は海だけだ。陸まで逃げれば諦めて帰っていくのだが――


「あいつら足が生えてんだよ! 気持ち悪いったらありゃしねぇ!」

「あ、足? え? ひょっとして魚人の類?」


 シャークであれば完全にモンスターであるが、魚人だと話は別。リザードと並ぶモンスター扱いされがちな種族である。

 魚人であればできれば友好的にしておきたいところであるのだけれど……今はどう考えても無理だ。

 漁をしていたのか、舟で出ていた村人が襲われているのだ。

 それに恐らくだけど、先程おじさんが言おうとしていたこと――「直しても直しても壊される」。これはあいつらがやっているのだろう。

 すでに被害が出ている状況で友好を叫んだところで、村人の反感を買うだけだ。


「……ウル、行くよ」

「うむ」

「こ、こら!?」


 陸の方でなく、海の方へと。止めようとするおじさんを無視して。


「なにをしにきたんだ、邪魔だ!」「帰れ!」

 シャークに立ち向かうべく残っていた村人の脇をさっとすり抜けて、標的に一番近い場所、桟橋の先頭に立つ。

 わたしは弓をQAボックスから取り出して素早く矢をつがえ、風向きを確認しつつ舟の上の村人に当たらないよう慎重に狙いをつけ……放つ!


 ギィエエエエ!


 よし、当たった!

 武器はよわよわだけど、弓の腕はゲーム時代に鍛えられたからね!


 背後でどよめく村人たちの声を背に次々と矢を放ち、なんとか村人に当てることなくシャークたちを倒すことに成功した。

 外れてこっちまでシャークが来そうになった時のためにウルに待機してもらっていたけど、出番がなく終わりそうだ。

 と、思ったのだけれども。


「ま、まだなにか居るぞ!」


 わたしがシャークを倒したことで歓声を上げていた村人たちが一転して驚愕の色へと変わる。


「うえっ……!?」


 視線を上げて沖の方を確認すると、この位置からでもわかるくらいに巨大なシャークの姿が見えた。

 いやちょっと待って、なにあれ!? 海のボスであるクラーケン級ほどではないけれど、シャークにしては大きすぎるんですけど!?

 今現在の装備ではさすがにあのサイズを相手にするのは厳しい。どうしたものかな……と内心で歯噛みをしていたら。


「リオンよ。アレも殺してしまって良いのだろう?」


 カツンと、そこらに転がっていた銛を拾ったのか、お尻の部分を打ち付けながらウルが問いかけてきた。

 思わず届くの?と問い返そうとしたけれど、それは愚問なのだろう。ウルの声には気負いの欠片もなかったのだから。


『殺してしまって良いのだろう?』


 わたしはわずかに返答に詰まってしまった。

 だって、あれは魚人かもしれないのだ。……言葉が、交わせるかもしれないのだ。

 ……でも、もう、わたしは、既に決めたはずなのだ。

 意志を乗せて、ゆっくりとウルに頷きを返す。


 その先になにがあっても、わたしが責任を取る――


「なに、主にだけ背負わせる気などさらさらないわ。それに案ずるな。アレは紛うことなく『モンスター』だろうよ」

「……へ?」


 まるでわたしの胸中の葛藤を読んだかのようなウルの言葉。

 なにを言っているのかすぐには飲み込めずにいるわたしを置き去りに、ウルは静かに投擲の構えを取った。


 その姿は、獣のように荒々しくも、どこか優雅さも垣間見える矛盾をはらんでおり。

 銛も持つ手から腕へ、胴を通り足へ、大地へ。一本の通り道が見えた気がした。


「シッ!」


 ウルの鋭い呼気と共に放たれた銛は。


 シュバババババババッ!


 ドッパアアアン!!


 海面を切り裂きながら狙い能わず巨大シャークへとぶち当たり、その巨体を肉の花火へと変じさせた。


「……わぁお」


 想像を遥かに超える結果にわたしは呆然とマヌケな顔と声をさらすことになった。同じく目撃した村人たちも全員声がない。

 この状況を作り出した当のウルは腰に手をあててフフンと満足気にしていた。


 そして、一つ忘れていることがあった。


 この桟橋は、ボロボロであるということを。


 ――バキッ


「あっ」


 満足気だった顔がポカンとなり。

 ウルの踏み込みに耐えきれなかった桟橋は耐久値を失い、上に居たわたしたちはみんな仲良く海に落ちることになったのだった。

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