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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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遥かな空と遥かな目標

大変申し訳ありません、142話「ダンジョンの主」がまるっと抜けてたようなので割り込み投稿しています。

「うおおおおお、空だあああああっ!?」


 レグルスの叫びが蒼穹へと吸い込まれていった。


 わたしたちはジズーの風に乗って、空洞の上方にポッカリと開いていた穴から外に出た。しかしそれだけにとどまらず、ぐんぐんと上に飛ばされて行く。

 『まさかこのまま延々と飛ばされ続けるのでは?』なんて不安が一瞬過ったけれども、さすがにそんなことはなかったようで、緩やかに上昇スピードが落ちていった。まぁこの時点で十分に高いのだが。

 素材を得た時とはまた別種の興奮に包まれたまま下の方へ目を向けると、(一部山頂は今現在のわたしたちの位置より高いが)足元に山脈が広がり、視線をずらすと遥か先まで続く大地が見えた。


「はああぁ……すっごいなぁ……」


 今はどう足掻いても自力で得られないまさに鳥の視点に、思わず感嘆の声が漏れ出た。レグルスもリーゼも気付けばめっちゃはしゃいで、あちらこちらに何かを見つけては指差している。

 フリッカは……逆にものすごく静かだ。すぐ近くに飛ばされていたウルがその腕を掴まえて何事か話しかけているようだけど、小さくて聞こえないや。


 おっと、ぼーっと見てるだけじゃもったいない。せっかくなので情報収集をせねば。

 西側は大半が荒野だけれども、ポツポツと草原やら湿地やらも存在しているようだ。残念なことに、遺跡やらダンジョンっぽい大穴やら、特に目ぼしいモノは見当たらないな。

 あ、でも、通らなかった場所に瘴気が沸いてるところがある……。行かなきゃいけないんだけども……バートル村の人たちに頼んでみるか? 浄化系アイテムをちゃんと渡しておけば、レグルスみたいに修業と称して行ってくれるかもしれない。ゼピュロスみたいな強いモンスターは早々居ないと思いたい。

 そして東側はと言えば。


「あー……」


 一言で言えば、風神の領域以上に荒れている。

 元からこうだったのか、地神が管理出来てないからなのかはわからないけど、とにかく岩場と砂漠で構成されていた。オアシスでもあるのか緑も点在しているけど……本当に少しだけだ。

 そして緑以上に瘴気スポットがあるのが問題だ。地神があまり良くないことになっていると言ってたけどこのことか……。

 何もなさそうな砂上、遺跡だか廃村だかのボロボロの建物群の近く、その他遠くてよく確認出来ない数か所。一つ一つの距離が離れているのが面倒だけど、一筆書きで移動出来るよう今のうちにルートを覚えておかなきゃ。

 あと、村も探しておきたいんだけれども……何処にあるんだろうなぁ……。

 と、じーっと目をこらしていたところに、ウルからポツリと疑問が零れてきた。


「……ところでこれ、どうやって降りるのだ?」


 ――あっ。


 まるでそれが合図だったかのように、滞空していたわたしたちの体が落下し始めた。



 今わたしたちは山の上を飛んでいる。高さは軽くキロは超えているだろう。

 そこから落ちたらどうなるか――火を見るより明らかだ。

 い、いや、わたしたちは身代わり系アクセサリを持っている。ウルにあげたやつほど凝ってはいないけど、レグルスとリーゼにもすでに渡してあるから死にはしない。

 だから、大丈夫。……大丈夫、なのだけれども。


 こんな高さから落とされるなんて、怖いものは怖い!!


 ヒモなしバンジーをやらされてる気分で、迫りくる地面に怯えてギュッと目をつむったその時。


「……あ、あれ?」


 落下スピードが少しずつ落ちていき、しまいには羽のようにフワっとした感触とともに着地をする。

 ……さ、さすが、アフターケアは万全ですね……? 事前説明は足りなさすぎですけどねぇ!


 地に足が付いたのを自覚した途端、ウルを除く皆がへたりこみ、言葉もなく大きく大きく安堵の息を吐くのだった。



 フリッカの「……腰が抜けました……」と蚊の鳴くような声での申告により休憩となった。まぁそうじゃなくても休むべきだろう。ダンジョンに入ってから戦いそのものはなかったとは言えずっと歩いていたし、ジズーとの遭遇から強制空の旅とか怒涛の展開だったのでわたしも精神的に疲れている。

 風除けに山をくり抜いて、テーブルセットとティーセットを出して、温かいお茶を飲んでやっと人心地が付いたようだ。テーブルでぐったりとしていた皆が動き始めた。

 空を飛んだ一生もののビックリ体験と、一転して恐怖を味わった落下体験と、ひとしきり言い合ったところでジズーの話題へと移った。


「つーか、何でリオンは平気なんだ? オレ、一目あいつを見た時に『あ、死んだわ……』って思ったぜ……」

「あたしも、怖くて逃げようと思うことすら出来なかったよ……」


 おや。あの時静かだったと思えば、ジズーの気に呑まれていたらしい。

 まぁわたしも一番最初はそうだったけれども、ジズーが気を抜いてからはそうでもなくなかった? と聞き返せば、ウル以外の三人は首を横に振った。

 うーん……? 位階レベルの違いとかあるのかな? これでも神子だからねぇ。


ぬしらは修練が足りんな」


 などとウルは腕を組んでふんぞり返っているが、ハイパーウルさんと比べるのは酷だろう。比較したらわたしもミジンコレベルになるし。

 でも、皆には乗り越えてほしいところではある。

 幸いにもジズーとの戦闘は回避出来たけれども、同格のベヒーモスやレヴァイアサンも見逃してくれるとは限らない。更にその上にはウロボロスドラゴンが居るし、最終目標の破壊神だって雲の上のような強さだろう。

 戦えるようになれ、とまで言うのは厳しいけど、不意の遭遇で逃げることすら出来ず怯えているだけでは困ってしまう。


「出来れば遭遇したくねぇなぁ……」


 レグルスが突っ伏していた。修業大好きな彼ですらそうなるなんて、珍しいものだ。ショックが大きすぎたかな。

 ……まぁ、そこまで彼らがついて来てくれるとも限らないか。あまり求めすぎるのもよくないだろう。

 そんな考えが透けて見えていたのか、横に座っていたフリッカが震える腕をゆっくりと持ち上げて、わたしの手の上にそっと置いた。


「……が、頑張り、ます」


 触れてきた手はお茶を飲んだはずなのに未だ冷たく。今日の件が相当に堪えたのだとわかる。

 それでも、青い顔をしながらも意志表明をしてくれたことに、体調を心配する気持ちももちろんあるけれど……それ以上に嬉しい気持ちが沸いてきた。

 ウルも反対隣からわたしの背を叩いてくる。


「我にももっと頼るとよいぞ」


 今まで散々頼っているのに、まだ頼られるのがお好みらしい。頼もしいにもほどがある。

 二人のおかげで、お茶を飲んだ以上に心が温かくなった気がするよ。

 そんな感じでほっこりとしていたら。


「……ちょっとレグルス兄、ここで引いたら負けじゃないかな?」

「ぐぬぬ……そうだな、オレたちも頑張るか……!」


 リーゼの発破でレグルスが奮起していた。

 何に負けるのかはわからないが、いかにもな言動にくすりと笑いが込み上げてくるのだった。

 うん、わたしも、もっともっと頑張ろう。



「うーん、少し東に流されたけれども、まだ麓からは距離があるね。どうせならそこまで飛ばしてくれれば良かったのに」


 下山に向け、先を眺めながらぼやいてしまう。……贅沢だってわかってるんだけどもね?

 よく、登るより降りる方が楽だと思われがちであるが、実はそうでもない。いや、楽と言えば楽なのかもしれないけれど、足腰に掛かる負担は下りの方が多いのだ。調子に乗って駆けおりて転げるとか危険も増えそうだし、ショートカット出来るものならしたかったんだよ。


「愚痴ったところでどうしようもないか。……さて、出発しよう」

「うむ」


 わたしたちは、下山するべく動き出した。

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