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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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再び探索へ

 それから二日ほど、主にウルの生活環境を整えることに費やした。


 まずは服。微妙にサイズの違うわたしの服をいつまでも着せておくわけにはいかない。

 なお、わたしはリアル裁縫スキルは皆無なので、服に関しては『大体こんな感じ』というデザインを考えるだけで、あとは裁縫スキルに任せきりである。

 ゲーム時代と違って出来上がるものが固定されておらず、ある程度自由にデザイン変更できるのはいいんだけど……服飾センスが欲しくなってくる……。

 スカートとか履かせてみたかったけど、活発に動く子のようなのでやめておいた。丈が長いのもお気に召さなかったようで、基本はハーフパンツかショートパンツとなった。上はわたしと似たデザインの長袖インナー+袖なしチュニックだ。


 次は防具を用意……しようとしたのだけれども、「我のウロコの方が硬い」といって拒否してきた。

 鱗が生えてない部分は?と思ったのだけれども、鱗系種族スキルの『ハードスキン』を使用することで全身硬くなった。そういえばそんなスキルもあったね。神子プレイヤーには攻撃系どころか防御系スキルもないから意識から外れていたよ。

 かといって裸足で歩かせるわけにもいかなかったので、皮のブーツだけ用意した。


 武器や制作メイキング道具は相変わらず壊しに壊すので、もっと耐久のある素材が入手できるまで保留にすることにした。

 いやもう最後は泣きそうになってたからね……レベルの低い神子でごめんよー。

 まぁ武器に関しては素手で充分強いのでしばらくは大丈夫だろう。ナイフを持ったわたしよりよっぽど攻撃力があるというか、完全にオーバーキルだから壊れるのかなぁ。


 入手したガラスでランタンとかポーション瓶とか作ったりもした。どちらも重要だ。

 ゲーム通りならこの世界アステリアに電気などないはずなので、夜間やダンジョンの光源は火に頼ることになる。しばらくすれば魔石で代用できるようになるものの、魔石は使い道が多すぎて他の優先事項に使用してしまうのだ。

 木の棒と木炭もしくは油で松明を作成できるけれど、片手がふさがるし下手なとこに設置すると燃え移るから、ガラスで覆ってあるランタンは必須なのである。

 松明は松明で作成コストが低いからダンジョンの道しるべに置くとか使い捨てがしやすいんだけどもね。


 ポーション瓶はまんまポーション用の瓶だ。

 錬金スキルが低いので初級LPポーションしか作れないけれども、ないよりは全然マシだろう、とスキルレベル上げをかねて大量に作っておいた。

 他には風邪薬のようなものが作れないか試してみたけど……作れたことは作れたけどあまり質が良くない。これもないよりはましと思って少量ストック。ついでに胃薬も作っておいた。

 なお、万能薬は存在するのだけれども、文字通り全てに効く――毒やら痺れやら呪いやら全てだ――ので作成難度は地味に高いのである。


 夜になるとやっぱりウルが「寒い」といってわたしの布団に潜り込んでくる。昼間は元気なんだけどなぁ。

 夜に弱い……のだとしても弱すぎる感じがする。たしかに夜にパワーダウンする種族はいるけれどリザードは当てはまらないはず。むしろ少しだけだけどパワーアップするほうだ。

 なお、夜にパワーアップするのはほぼモンスターであり、これもリザードがモンスター扱いされる一因だったりする。

 単に甘えたなだけかと思ったりもしたけど、本当に体が冷えているからなぁ。原因を調べようにもこれも手掛かりがないし、本人に聞いても「……わからぬ」って返って来るだけだったし困ったものだ……。




「あー……そろそろ次の行動をしなきゃな……」


 くっ付いて眠るウルにちらと視線を投げかけながら、どうしたものかとひとりごちる。


 わたしはこの拠点に根を下ろしてはいけないのである。

 もちろん準備のためにあれこれするために留まることはままあるけれども、絶対に旅はしなければいけない。


 海を越え、山を越え、世界の果てまで、余すことなく。


 創造の力を、振り撒くために。


 この始まりの地以外は破壊神の領域だ。危険であることは間違いないだろう。

 そんな危険な道程に、神子である自分以外を道連れにするのは憚られる。

 だから。


『留守番して、この家を守ってほしい』


 そういおうと思っていた。

 それなのに。

 翌朝になって実際に口をついた言葉は。


「ねぇ、ウル。……一緒に行く?」


「うむ。行くぞ」


 どこに、とは言わなかったけれども、ウルはわたしから問いかけられることを察していたのか、特に悩む素振りもなく答えた。




「おぉ、本当に一瞬なのだな!」


 帰還石を使用し、拠点のあった平原から創造神の像を設置した砂浜へと瞬く間に移動してきたことに、ウルが驚きの声をあげた。

 はしゃいで走り回るウルを横目に、わたしは創造神の像を軽く掃除しゅうふくしてからアイテムボックスに収納する。

 このまま置いておくか悩んだけれどここに特別なものがあるわけでもないので、次に適当なポイントを見つけたら設置し直すことにして移動を開始した。


「ここにウルは倒れてたんだよ。なにか思い出すことはある?」

「うーん…………なにも……」


 食材を確保しつつ数日前と同じように砂浜を歩くと、ウルを発見した場所へと到達する。

 念のために周辺を軽く探してみたけれど、所有物らしきものは落ちていなかった。


「……我はものすごく運が良かったのだな」


 広い、広い海を眺めながら、ウルがポツリと呟く。

 ……まぁ、そうかもしれない。

 どこで船が壊れたのかはわからないけれど、板切れに掴まってここまで来れたこともだし、わたしがここに来るのが一日早くても一日遅くてもウルは助からなかっただろう。


「改めて礼を言おう。……助けてくれて、ありがとう」

「……うん、どういたしまして」


 わたしとしても助けられて良かった。

 なにせ『人恋しい』という理由で住人を探しに行ったのだ。それが、こんな形で旅の仲間……友人ができるなんてね。

 遭難したあげく記憶まで失ったウルからすれば災難だろうけど、この偶然に感謝したいくらいだ。

 いやもうほんと、最初の一か月は孤独との戦いでもあったからね……神子としての力はあっても孤独耐性はなかったのさ……フフフ……。


「リオン? ど、どうしたのだ?」


 おっと、目が少々虚ろになっていたようだ。現実に戻ろう。


「それじゃ、このまま砂浜に沿って移動するよー」

「うむ。……しかし、思ったほどモンスターが出ないのだな?」

「この地域は創造神の力が残ってる方だからねぇ。夜になるかダンジョンに入るかしないと出てこないと思うよ」


 というかモンスターが出ないように時間を選んで移動しているのですよ。

 素材は欲しいけど戦うのが好きというわけではないし、痛いのはイヤなんです! イヤなんですよ!!


 雑談をしながら、やっぱりあれこれ素材を回収しながら、お昼休憩をして、また歩き始めて、しばらく後。


「む、リオンよ。あっちのほうになにか……煙が見えるぞ」


 ウルに指差された方を目をこらして見てみるものの……それらしきものは見えない。視力まで違うのか。

 しかし煙か……え、煙?


「それって黒い!? 白い!?」

「う? 白っぽい、かな」


 黒い煙だったら火事もしくは火山による噴煙の場合が多いのだけれども、白っぽい煙であれば……炊事の煙であることが多い。

 つまり!


「村が! 近くにある! ……かもしれない!」

「お、おぉ?」


 興奮して思わずバンザイと手を上げた。

 わたしのテンションについていけないのかウルが戸惑っているけれど。変な人でごめんね!


「こうしちゃいられない! 行こう!」

「ぬわっ!?」


 その勢いのままウルの手を取ってわたしは駆け出す。




 そして、アステリアに来てから初めての村に辿り着くのであった。

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