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終末世界の開拓記  作者: なづきち
休暇中
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絆を結ぶ

「……き、緊張するよぅ……」


 覚悟を決めたとは言え、サラっと実行に移せるかどうかはまた別の問題で。……ヘタレですみませんねぇ!

 しかしすでにアイテムは用意してあるし、当人たちを除いて拠点うちに住む全員が知っていることである。後戻りは出来ない。……出来ないようにして、土壇場でヘタレて逃げないようにしたとも言う。


 あれからフィンにも話をしておいた。

 話を終えた後、フィンはプルプルと全身を震わせてから何故かわたしの両頬を引っ張って来たのが地味に痛かった。

 そして「泣かせたらゆるさないから」と小声で言ってくるのであった。頬を引っ張ったのは反論を許さないと言う意図もあったのかもしれない。反論するつもりなんてなかったけど。

 ……ダメとかヤダとか言われなかったので、反対されてるわけではない、と思いたい。あんまりないがしろにしないよう気を付けないと。



「……さて、きみたち二人にお話があります」


 わたしは自室にウルとフリッカを呼び出し、二人はソファに座らせて、わたしはその前に立って、ゆっくりと切り出す。ウルは特に変わりはなさそうだけど、フリッカにはわたしの緊張が伝わったのか、やや身構えているように見える。

 こういうのは一人ずつ言うものかと考えもしたけど、この二人何か結託してるフシがあるのよね……お互いに忌避感もないと言うか推奨してそうと言うか。それとも現代日本の感覚をわたしが引きずりすぎなだけかな。

 だから多分、わたしがどういう行動を取ったのか知っておいた方がいいかなぁ、とか。……これはこれで恥ずかしいので勘弁してほしい。


 フゥ、と息を一つ吐いて。

 さぁ……始めよう。


 契約を。


 何の拘束力もない口約束でしかないけれども……それでも、切れない絆を、結びたいと願ったから。


「まずはウルから。……きみはこの前言ってくれたよね。わたしとずっと一緒に居てくれる、って」

「そうだな」

「改めて言うよ。どうか、死ぬまでわたしと一緒に居てください」


 少しだけ言葉を変えた。

 ウルが望むから一緒に居るのではなく、わたしが望むから一緒に居て、と。


 ニュアンスの違いに気付いてくれただろうか。ウルの心中はよくわからないけれども。


「うむ」


 いつも通り、気負いもなくあっさりとウルは頷いてくれた。

 拒否されないと頭ではわかっていたけれども、意識せず握りしめていた手を緩め、QAボックスからアイテムを取り出して渡す。


「む、これは何だ?」

身代わり腕輪(スケープブレスレット)。一回だけ致死ダメージを無効化してくれるアクセサリだよ」


 身代わり人形(スケープドール)の腕輪版だ。ウルの髪とウロコの色に合わせて黒水晶を加工して作成してある。

 なお、セイブフラワーリングとの違いは、LPが一で残るか攻撃そのものを防いでくれるかだ。地神からもらった鉱物知識のおかげでその性能のアイテムが作れるようになった。植物でも作れないこともないけど、鉱物の方が似合う気がしたんだよね。

 ウルに贈るアイテムはどれにするか迷った。ただのアクセサリには興味を示さないし、補助装備品として渡そうにもウルの元々の能力が高いのでどれも雀の涙程度であるし、場合によっては邪魔になってしまう。

 だったら……と思いついたのがこれ。『死ぬまで』なのだから、死を防ごう、と言う意味合いをこめて。腕輪なら激しい動きをしても支障は出ないでしょう。

 下手に装飾するとやはり邪魔になりそうだったので、彫りを入れただけのシンプルな見た目になってしまったけれども……。


「……そうか、ありがたくもらっておこう」


 ウルは笑顔で受け取ってくれた。そこに迷惑そうな色は全くなくてホッと一安心である。

 ……お互いあっさりだなぁと思わないでもないけど、わたしとウルの距離感がそんなものなんだよね。

 何と言えばいいか……居ることが自然、みたいな。だからと言っておざなりにするわけでも当然ないけど。

 今後関係性が変わる可能性はないとは言えないけれど、今後のことは今後でね。


 アクセサリを手にしたウルをフリッカが微笑ましそうに、それでいて羨ましそうに見てるけど。

 ……他人事じゃないですよ?


「フリッカ」

「……っ、はい」


 油断?していたのか、わたしの声かけでビクっとしていた。そそくさと姿勢を正してわたしの方を窺う。


「先に言っておくけど、以前きみにあげたブレスレットが同じ効果を持ってるので、今日あげるのは違う物です」

「……? はい」


 デザインは違うけど機能としては同じ物をすでに渡してあるのよね。

 ……フリッカ相手の場合は、ブレスレットよりももっと渡すべき物がある、と言う話でもあるのだけども。

 わたしはそれを取り出して手の平の上に載せて、フリッカに見せる。


「……ゆび、わ?」

「機能は何もなくて、ただ耐久値だけがガッチガチに高めてあるだけの物だけどね」


 フリッカの髪色に合わせて翡翠をベースに作成したものだ。

 本当なら不壊属性を付けたかったけどさすがにそれは無理だった。だからせめて、耐久値をひたすら高くしたのだ。

 そう……何百年経っても、自然には壊れないくらいには。

 そのせいで他の機能が一切乗せられなかったのだけど、それは別のアイテムでフォローすればいいからね。


「フリッカにも、わたしと一緒に居て……いや、きみには別の言い方をした方がいいね」


 わたしはそこで一度切り、次に発する言葉を変更した。

 腹に力をこめて、目を逸らさずじっと見つめて。


「どうかわたしの、お嫁さんになってください」

「――」


 フリッカは絶句し、目を見開いた。


 そのまま五秒、十秒……わたしはただ返事を待つ。

 ……待てるのは相手の答えを知ってるからだなんて、ちょっと卑怯と思わなくもないけれど。

 しばらくして固まったフリッカが動きだしたと思えば、わたしが手に載せたままの指輪とウルを何度も見比べる。


「え、で、でも……ウルさんは……」

「む?」

「わた、私が、先に、もらうわけ、には……っ」

「我は別に嫁になりたいとか、指輪が欲しいとか、そう言うのはないぞ?」

「えっ……」


 ウルの答えにフリッカはポカンとしてたけど、わたしからすれば『ですよねー』感がある。

 でもその後に「くれるならもらうが」と続けていたのが意外ではあった。……考えておこう。


「ついこの前言ったばかりだと思うが、我には愛だの何だのはわからぬ。そも、嫁とやらになると何が変わるのだ?」


 アステリアにはきっちりとしたルールがないからねぇ。財産が共有されるとか、子が嫡子として認められるとか……村の掟レベルでは存在するかもしれないけど、今回そんなのがあっても全く関係ないからね。


「関係は何も変わらぬだろう?」

「え? 変わりますよ?」

「……ぬ?」


 今度はウルが目を丸くしていた。

 そしてわたしもびっくりである。同じく何も変わらないと思ってたけど、一体何が――


「具体的には、肉体的な――」

「わあああああああああっ!?」


 フリッカが言おうとしてたことを察し、わたしは咄嗟に叫んで止めてしまった。

 きみと初めて会った時にそんな話もしましたねぇ! エルフ式はそうでしたねぇ!

 唐突な大声にウルはギョっとしていたが、フリッカは涼しい顔で……おのれ、恥ずかしいのはわたしだけか!!

 でもそれは、それは言わせてはいけないのだ……!


「ご、ごごごごごごめん、そこまでは、か、考えて、なかった……!」

「……だと思ってました」


 どもりまくりの超挙動不審になるわたしに、どこか生暖かい視線を向けてくる。

 いやもうほんと! まじで! 頭になかった! 顔がめっちゃ赤くなってるのがありありと自覚出来るくらいに頬が熱い……まさか求婚より恥ずかしい思いをさせられるなんて!! ウルはそんな奇妙なモノを見るような目をしないでくれるとありがたいなぁ!


「ま、まぁ今日決めたことが全てではないし、もしもウルに心境の変化があれば、その時にまた考えればいいと思うよ」

「……それもそうだの」


 何が何やら?と言う顔をしていたウルであったが、わたしの言葉に納得を見せてくれた。……突っ込まないでくれて助かった。

 傍らでは安心しつつも、未だ早い鼓動を深呼吸で宥めながら、ちょっとだけ、ちょっとだけ気になってフリッカに聞いてみる。


「えっと……その、そ、そういうこと(・・・・・・)に、興味あったり……する、の?」


 わたしの遠回しな質問に、フリッカは目を伏せてしばし沈黙する。

 ……あ、あれ? 聞かない方が良かった……? と頭をよぎったところでポツリと零される。


「正直な話……あの義父のせいで、嫌悪感はありました」

「……あぁ」


 ほんのちょっとしか接点がなかったわたしでも『うわぁ』って思ったからね……対象・・にされてた本人からすると、その苦痛は跳ね上がるでしょうよ。

 嫌なことを思い出させてしまったな、と反省していたのも束の間。


「ですが、リオン様が相手でしたら興味はありますね」

「ブフッ!?」


 思わぬ答えに吹き出してしまった。

 あわ、あわわわわ……。

 まともな思考が出来ずに、間抜け面をさらしているだけのわたしにフリッカはにっこりと笑って。


「それはいずれ(・・・)と言うことで。……それはそうとリオン様」

「…………ア、ハイ、なんでしょう……?」


 壊れかけたわたしに、更なる追い打ちをかけてくる。


「是非、私を貴女のお嫁さんにしてください。……愛しています」

「――っ」


 一筋の涙を流しながら受け入れるフリッカは、今までで一番キレイに見えて。


 ……以前もだけど、あまりにも真っ直ぐに、強烈な好意をぶつけられて。


 わたしは……かなり前から、彼女のことが好きだったんだな、と今更になって思い起こすのだった。




 ぐだぐだが挟まって締まらない部分もあったけど、まぁ大体わたしのせいと言うことで……ともかく、無事に終わった。

 ウルは上機嫌そうに部屋を出て行き、わたしも後を続こうとしたのだけれども。


「リオン様」

「ん? なに――」


 呼び止められ、振り向いたところで。


 ――唇に、感触が。


「……これくらいは、良いですよね?」

「…………だ、ダメじゃ、ない、デス……」


 ……変化した関係性から考えると『この程度』でこうなるなんて、わたしはこの先生きていけるのだろうか……?

もうちょっと生々しい話があったのですがカットしました_(:3」∠)_

フリッカが作ったブレスレットは身代わりではなく少しだけダメージカットしてくれる効果があります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] それをカットするなんてとんでもない! でも、おめでとうございます。
[良い点] フリッカとリオンがやっと恋人関係に!!!!最高です!! [気になる点] 積極的なフリッカがリオンをドキドキさせるシーンが増えるでしょうか? [一言] やはりリオンとウルは家族みたいな関係が…
[一言] 気になりますね続きが!そしてカットされた部分も笑
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