壊す。作る。
ウルの居候が決定したようなので、わたしはざっくりと拠点を説明することにした。
祭壇から整備された(といっても土を均して雑草を刈っただけだけど)道を辿ると農場区画へと辿り着く。
「え、これが全部食べ物なのか?」
「そうだよ」
眼前に広がる畑にウルは驚いているが、作物の種類が少ないのと管理問題もあってこの農場はわたし基準ではまだまだ小さい。収穫できる状態のまま放っておくと萎びることがあるんだよね……。
きちんと管理するには住人(NPC)を連れてくるか――その時は彼らの住居を用意する必要がある――ゴーレムを作るかしなければならないのだ。
それからさらに先に進むと牧場区画だ。
区画自体は大きく作ってあるものの、現在は雌牛が二頭(うち子牛が一頭)と鶏が三羽しかいない。こちらも同様に管理問題でね……あと牡牛が見つからなくて繁殖できないというのもある。
そういえば……ゲーム時代の繁殖は雄雌が近くに居る状態でエサをあげるだけでよかったけど………………ひょっとしてこれもリアルになってたりする?
「おおお、肉か!」
「ひぅっ!?」
アレな想像を頭に巡らせ停止してしまったわたしを強制再起動させるかのようにウルの嬉しそうな声がした。
「どうしたのだ?」
く、いかにも純真無垢なウルに見られるとなんだか汚い大人になったみたいでダメージがくる! ただの被害妄想だけど!
しかもウルの方が背が低いせいでどうしても見上げてくる形になり何故だか倍率ドン! って、変態かわたしは!
「え、あ、いや、あれはミルクと卵をゲットするためのものだから、食べちゃダメだからね!」
「むぅ、そうなのか……」
落ち着けと念仏のように唱えながら誤魔化すように場所を変えるようにする。
来た道を少し戻り、別の道を行くと倉庫になる。農具やらエサやらを収納しておく場所だ。
その隣は空き地。ここに本格的な作業場を作る予定なのだけれども、まだ必要になってないので後回しにしている。……というか作る素材がない段階。
あ、そういえばガラスが作れるようになったんだっけ。ぼちぼちガワだけでも準備しておくかな。
「ぬ? この地面に付いてる扉はなんなのだ?」
「あぁ、それは地下室の入り口だよ。まだ小さいけれども」
扉をあけて地下へと入っていくとそこには八畳間ほどの空間があり、ぎっしりと収納箱が詰まっていた。中身は入っていたりいなかったりだけど。
食材はキッチンに収納しているけど、木材、石材、土など時間経過で腐らないものは大体ここだ。
いずれはこの地下倉庫も拡張する予定である。地震で崩れるとかないし、地下って響きがなんだかかっこいいよね……。
しかしウルにはそのロマンが伝わらなかった――いやまだ収納箱しかないからね、仕方ないよね――ので早々に地上に上がることにした。
「あとは注意点として、柵の外には落とし穴が掘ってあるから気を付けてね、ってところかなぁ」
拠点をぐるっと囲む、夜間に聖水が流れる堀を越え、柵を越え、藁で覆われている地面一帯を指差す。
「一か所だけならともかく、枠になっているなどなにかがあるのが見え見えではないか。いくらなんでも我はこれには引っ掛からないぞ!」
「ですよねー。まぁ夜とかは見えにくくなるから、ってことで一応」
知能の低いゴブリン、コボルト用だからね……。もちろんカモフラージュしようと思えばできるけど、する必要性を感じないのだ。
「あー……家を拡張しておかないとな」
視線の先にある植林場を見てふと思い出した。部屋を拡張してベッドを設置しないと、今夜もわたしは床で寝るハメになるということに。
あれ、結構痛いんだよね……LPが減るわけじゃないんだけどもさ。
どうせそんなに時間も掛からないのでさっさと済ませることにしよう。なお、木ブロックは倉庫に大量に保管しているのだけれども、時間があれば貯めたくなるのが性なのよね……。
「さて、やりますかー。危ないからウルは下がっててね」
QAボックスから斧を取り出す。神のアックスではなくコボルトのボーンアックスだ。耐久値は低いけど、ちょっとだけ威力が高いんだよね。
こういう作業風景が珍しいのか、ウルがどこかワクワクとした様子で見ていた。
……あれ? そういえばわたしが神子だって言ったっけ? 創造神の子と認識してるから、そういうものだとわかってくれてるかな?
まぁいいか、と思いながら大きく斧を振りかぶる。
コーン。コーン。コーン。バキッ。ポンッ。 (最後のポンッはブロック化の音だ)
「おおおお、リオン、すごいのだな!」
またたく間に木が切り倒されて木片と木ブロックへと変化したことに、ウルが興奮したのか拍手を送ってきた。
住人からすれば切り倒すだけならともかく、即時のブロック化はそれこそ神の御業のようなものだけれども、神子からすればごくごく簡単なことだから褒められるとなんだか照れるやら困惑するやら。
「なぁなぁ、我にもやらせてくれ!」
「んー……気を付けてね」
同じようなことはできないとわかってはいるけど、やる前から否定するのも悪いと思ってウルに斧を渡す。尻尾が犬のようにパタパタと動き微笑ましい。
ウルは一本の木の前に立ち、わたしと同じようなポーズで大きく斧を振りかぶり、わたしと同じように……ではなく遥かに速く斧を振り下ろし――
バッキャアアアアアアン!!
「……あれ?」
「……はい?」
爆音のような音と共に四散した。
木と、斧が。
「って、えええええええ!? 確かに耐久値が低い斧だけど、まだ全然残ってたんですけどおおおお!?」
どういうことだと頭を抱えていたら、ウルから非常に申し訳なさそうに謝罪がされた。
「す、すまぬ、斧も木もダメにしてしまって……ちょっとでもリオンの手伝いになれればと思ったのに、こんなつもりでは……」
「あああ、いや、大丈夫だよ。斧はすぐに作り直せるし、木だってほら」
そこそこの大きさを保った木片を集めて木ブロックを生成する。スキルを使えば再利用もこれこの通り!
「だから気にしないで、ね?」
「――」
まるで狐か狸にでも化かされたように――ゲームでは普通に化かしてきた――ウルは何度も目を瞬いていた。
「それにわたしが伐採するよりもずっと早いしね! だから十分助かってるよ!」
代わりにMPを消費するという無粋なことはもちろん口にしない。わたしが切るより早いのは事実だし。
慰めるように頭をぐりぐり撫でてあげると、やっとウルは飲み込んでくれたのか、笑顔を取り戻してくれた。
「次はご飯でも狩りに行こうか」
「うむ!」
力加減はおいおい覚えてもらうとして、斧が壊れてしまったこともあって(神シリーズは貸与できない)今日のところはわたし一人で必要分の伐採を完了させた。
日がもうちょっとで一番高い位置になりそうなところでお昼ご飯をどうするか考え、これなら失敗しないだろう、ということで提案したのだが……それは間違いだったようだ。
「…………すまぬ」
「あはははは……大丈夫、ちゃんと食べられるよ」
今度は鹿が見事に四散していた。ゴブリントゥースナイフと一緒に。
ここに来たばかりのわたしならグロさに気持ち悪くなっていたかもしれない。慣れておいてよかった。
実際、見た目がアレなだけで問題はなにもないのである。なにせ手に取るだけで【鹿の肉】とアイテムボックスに収納されるのだから。掻き集める必要もなく便利なものだ。
ミンチになった肉を回収しながら「お昼はハンバーグにでもしようかな」と思えるようになったあたりわたしも随分強くなったものだ。
ちなみに、二度の失敗で大きく落ち込んだかに思われたウルはハンバーグで機嫌を直した。ちょろい。
先日の活動報告にキャラデザを載せてみました。興味のある方は見てみてください。