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終末世界の開拓記  作者: なづきち
休暇中
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スライム素材には夢が詰まっている?

「あれ? ここにも出るのか。知らなかったな」

「? 何がでしょうか?」


 わたしが現在居るのは拠点すぐ近くの川である。そう言えば全然釣りをしてないな……と思い出し、丁度天気も良かったからピクニック気分で早朝からみんなでやって来たのだ。

 途中ウルから「手で捕まえれば早くないか……?」などと言われてしまったし事実その通りなのだけど、わたしはスキルレベルを上げたいんですよ。さすがにこの近辺でレアアイテムが釣れることはないだろうけど、いつか何処かで役に立つかもしれないからね。

 釣果は可もなく不可もなくと言った状態で、スキル経験値は少ししか上がっていない。一人なら効率を求めるところだけど、今日は半分遊びだからね、気にしない気にしない。でもそのうちクアラ村から舟を出して沖釣りでも……いや、廃棄大陸があるし危険かな?

 フリッカは根気良く釣りに付き合ってくれているけど、ウルとフィンは早々に投げ出してゼファーと水遊びしており、レグルスとリーゼは何故か蹴りで魚を川の外に飛ばして何匹もピチピチさせている。きみら器用ですね? 少し離れた下流でやっている辺り、一応わたしの釣りに影響しないように考慮してくれているようだ。


 さて、そんなほのぼのした中で出て来たものと言えば。


 ベシャ……ベシャ……


「……っ」


 フリッカが釣り竿を投げ出し、慌ててわたしの後ろへと隠れる。おや、随分と警戒しているな。


「ただのグリーンスライムだよ?」

「……えぇ、そうですね、スライムですね……」


 そう、ファンタジー系ゲームのモンスターでゴブリンと並び定番とも言えるスライムである。

 スライムにも様々な種類がおり、今回出現したのはスライムの中でも最弱のグリーンスライムだ。名前の通りに緑色で不定形をしており、丸くしたら直径は五十センチくらいかな。さほど大きくない部類だ。半透明なのでうっすらと弱点である核もしっかりと見えている。

 創造神の時間(ひるま)にも出現するけれども特に強いわけではない。こいつの出現条件が水辺であれば何処でも、と言うものだからだ。むしろ昼間に出てくれれば弱体化して狩りやすいまである。何しに出て来るんオマエ……と聞きたくなるくらい。

 グリーンスライムは雑魚だけど警戒するスライムとして他に、水中に出現するアクアスライム(見えにくいので要注意)、火山帯に出現するフレイムスライム(火傷に要注意)、特に厄介なのになると影に潜み不意打ちをしてくるシャドウスライム(瘴気帯び要注意)などが居る。

 スライム系に共通するのがその体が不定形ゆえ物理攻撃に強く、魔法攻撃に弱い(一部例外あり)。ただし核を正確に一突き出来れば物理も効く。核を突くと魔石が採れない代わりにスライムゼリー(スライムの種類により効果が違うこともある)と言う素材を入手することが出来る、と言ったところかな。特別なスライムの魔石とかないから、わたしは大体スライムゼリー目的で狩っていた。


「よいせ、っと」


 パチュンッ


 わたしは釣り竿を置いてQAクイックアクセスボックスから弓矢を取り出し一射する。狙い違わず核に命中、即死させることに成功した。もちろん素材回収も忘れない。

 よく見れば奥にもまだ数匹居るな。全部狩っておこう、と同様に矢を放つと、同様に即死していった。雑魚ですなぁ。


「うへぇ、リアルだとこんな感触なんだ」


 スライムゼリーはゲーム時代ではちょっと柔らかいだけの素材で、防具の衝撃吸収材もしくは錬金素材として使われていた。しかし今手に取ったソレはモッチモチとしており、それでいて時にはデロンとして、何とも言えない感触になっている。ちょっと気持ちいいかも?

 わたしが興味深くにぎにぎしていると、フリッカが困ったような顔をして話しかけてくる。


「……リオン様、よくそのような物を触れますね……?」

「意外と気持ちいいよ。触ってみる?」

「お断りします」


 おっと? 珍しく強い口調だね。


「……何かトラウマでもあるの?」

「……えぇ、まぁ……」


 苦虫を噛み潰したような表情でそっと視線を逸らす。うーん……ほじくり返すのは止めておいた方が無難かな。

 そんなやりとりをしている間にウルたちもこちらへとやって来た。何が起こったのか説明し、わたしが戦利品を見せると揃って気持ち悪そうな顔をしてくる。

 ……気持ちいいんだけどなぁ?



 昼近くなり日差しが暑くなってきたので撤退することにした。日本ほど湿気がないおかげで体感温度はそこまで高くないけれどもね。

 釣った魚でお昼ご飯を作り、午後はせっかくスライムゼリーを手に入れたのだから、何か有効活用出来ないか考えてみることにした。

 防具の内側に貼り付けたり隙間部分に配置することで衝撃吸収材になるし、乾燥させて粉にすれば薬の材料にもなる。なお後者の話をしたらフリッカが「絶対に飲みたくないですね……」と呟いた。

 ……一体何事が……いや、もしかして……アレ(・・)に遭遇したかな……?

 ある可能性が頭を過ったけれどもひとまず隅に追いやり、使い道を考えることに思考を戻す。薬は代替品があるので必要としないし、衝撃吸収材にしてもいいのだけれども……。


 そんな使い方(・・・・・・)じゃつまらない(・・・・・・・)と思っているわたしが居るのだ。


 せっかくレシピにない物を作ることが出来る――自由にモノ作りが出来るのだ。色々試したいワクワク感が止まらない。


「さーて、何が出来るようになってるかなー」




「フリッカ、リーゼ。スライムの群生地知らない?」

「……リ、リオン様……?」

「群生地?」


 夕方前、晩御飯の準備のために食堂に居た二人に尋ねた。余談だけど、リーゼの料理スキルレベルはそんなに高くはない。低いと言うわけでもないから『何故か謎物体が出来た……』とかも発生しないけどね。ウルはホント何であんなことになるんだろう……って遠い目をしている場合ではない。

 リーゼはただ首を傾げるだけだが、フリッカは非常に困惑している。でもわたしは聞くのをやめない。ゴメンネ。


「んー……あたしは数体ならともかく、群れとなると見たことないかな」

「そっか、残念。フリッカは?」

「えぇと……」


 目を泳がせている。……これは、知っているな? フリッカの性格なら知らないものは素直に知らないと答えるから。

 わたしは念押しとばかりに「知らない?」ともう一度聞くと、フリッカは大きく溜息を吐いてから小さく問い返してきた。


「……どうしても必要ですか?」

「うん」


 だって、スライムゼリーが戦闘はともかく生活面において有用な素材になるとわかったのだから。

 わたしとみんなが快適になるならそれを使わない手はない。まぁただ作りたいだけと言う欲求ももちろんあるけれどもね。


「……貴女のお願いを私が断るのは無理な話でしたね」

「えっと……スライム素材はめちゃくちゃ欲しいからこうして強引に聞いてるけど、他の『嫌だな』と思ったことは普通に断ってくれていいからね?」

「大丈夫ですよ、今のところそのようなことはありませんから」


 わたしの付け足しに少し気分がほぐれたのか、フリッカは苦笑に近いニュアンスではあったのだけれども笑みを零した。

 ……節操なくお願いしないように気を付けるようにしないと。


 あとリーゼ、生暖かい目で見てくるのやめてもらっていいかな……? この会話にそんな要素ある……?


「スライムの群生地は、アルネス村より東に徒歩で一時間程の湖沼地帯にあります。手軽に魔石が欲しい時に行くことが多かったです」


 フリッカが口にしたその場所は、思ったよりもかなり近い位置にあった。

 地神の要請もあって遠出が出来ないのだけれども、それくらいなら日帰りでも十分に行ける範囲だね。




 善は急げとばかりに、わたしたちはその翌朝に出発した。

 メンバーはわたし、ウル、フリッカ(ムリしなくてもいいとは言ったのだけど、付いて行きますと返された)、フィン、リーゼ、ゼファーである。レグルスは今回遠慮してもらった。


「……何でオレだけダメなんだ?」

「……きみは見ちゃいけない事態になるかもしれないからね……」

「??」


 説明になってない説明にレグルスは納得をしていなさそうだったけれども、わたしが目を逸らしながらさも深刻そうに言ったからか渋々ながらも残ってくれた。

 何が起こるかだって? 説明するわけないじゃないか。


 道中の素材を根こそぎ採取して行きたいと言う気持ちと戦いながら、久々のアルネス村の森を東へ向かって歩いて行く。

 当初は体力のないフィンに合わせてゆっくり進む予定だったのだけれども、ゼファーの背に乗せることでその問題は解決した。体格的にまだ他のメンバーは乗れないのだけれども、小さいフィンなら唯一可能だったのだ。まさかの最初のドラゴンライダーはフィンであった。ちょっと羨ましい。

 ……なお、運動神経的にはフリッカを真っ先に乗せるべきだと思ったのは本人には言わないでおく。言ったところでどのみち乗れないし。


 昼食のために遭遇した獣は狩りつつ、その間は採取させてもらいつつ、森の中を往くこと一時間弱。少しずつ足場が悪くなってきた。水気により泥状態になっているのだ。

 森の中だからいくらか涼しいのだけれども、湿気が多くなり不快指数が増していく。小さな羽虫も併せて倍率ドンである。虫除けポーションを使ったから刺されはしないと思うけれども、そこらを飛び回っているだけで顔を顰めてしまう。

 背の高い木が密度を減らし、丈の低い草葉が足元を覆い始めたその先で、大きな湖が視界一杯に広がった。

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